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15/37

15.民は正しき姫を選び、王国は生まれ変わる。

「そこの衛兵さん」

「は、はいっ!」


 会議場の入り口に立っていた、アタシにビビってた衛兵に声をかける。


「すみませんが、そこの大きな窓を開けてもらえますか?」

「はい! かしこまりました!」


 ビシっと敬礼して、さっそく窓に走る衛兵くん。

 あれ? あんましビビってない……

 何故そんな張り切ってるんだろう。別にいいけど。

 アタシの指示通り、大きく開かれる大会議場の窓。

 そして、そこに飛び込んできたものは。


「うわあっ!」

「ひぃぃっ!」

「に、逃げろぉぉっ! 魔物だぁぁ!」


 三つ首の魔獣、ケルベロス・ハウンドのケルちー。

 外から王城を一気に駆け上がってきたのだ。


「皆様、ご心配なく。ターニャとロウナーはもうご存知ですね? この子たちはアタシの味方です」

「バウウッ」


 アタシに喉元を撫でられて、甘えた声を出すケルちー。可愛いヤツめ。

 パニックに陥りかけた会議室の面々は、なんとか踏みとどまった。

 そして。


「ちょ、ちょっと待て人族の幼子よッ! 今、拙者が下ろすからっ」

「お姉たんっ、お姉たんっ!!」


 ケルちーの背中から、ボーンナイトのボン吉が飛び降りた。

 幼女を一人、腕に抱えて。


「リリムッ!?」

「お姉たんッ!!」


 幼女はボン吉の腕から飛び降り、ロウナーの元へと駆け寄り、抱き着いた。


「お姉た~ん!!」

「リリム、お前、走って……! どうして!? 呪いは!?」

「んーとね、昨日の夜に具合悪くなったんだけどね、急に治ったの!」

「治ったって、全部?」


 訳が分からないと、混乱しているロウナー。

 確かに、リリムは1年近く呪いに苦しんでいるという話だった。


「うん! 全部、急に! だけどね、そこのお姉さんが、ちょっとお姉たんにも内緒にしておいてって」


 そう言って、幼女は無邪気にアタシを指さした。

 わ~、アタシがお願いしたことも内緒って言ったよね? リリムちゃん!


「……香苗」


 ゲフンゲフン。アタシは日々華の視線に気づかないフリをして続ける。


「えっと、リリムの容態が悪くなったって伝えに来た、文官さ~ん?」

「は、……は、はい」


 アタシの視線を受けて、青ざめる文官A。


「今朝にはリリムが治ってたの、見ていたら分かったと思いますけど。どうしてこんなタイミングで、お伝えしに来てくれたんですかぁ?」

「そ、それは」


 男はアタシの圧に負けて、大臣ズの一人に視線を向けてしまう。


「な、なんだっ? なぜワシを見るっ!?」


 泡を喰うヅラ大臣。

 お前もう詰んでるよ。


「はい、正直なお答えありがとう~。次、ケルちー」

「バウッ!」


 アタシに応えて、ケルちーが口からベッと吐き出したのは、気絶した二体の魔物。

 オークと、ワーウルフだ。


「ロウナー」

「え? あ、はい」

「わっ、なあにお姉たん?」


 ロウナーは察して、リリムの目を塞いだ。

 アタシは腰の剣ディザスターを抜いて、一振りする。

 オークとワーウルフは首を斬られ、絶命した。


「うわっ!」

「ゆ、勇者様、何を急に……」

「騒がないで」


 アタシは魔王の記憶の一部を思い出し、二体の魔物から浮かび上がってきた魂に細工をした。

 魔力の可視化だ。


「はい皆さん、見えますね。これが勇者の片割れであるアタシが、転生先の現代日本ゲンダイニホンで手に入れた技術。〈モンスター・テイム〉です。倒した魔物の魂を浄化して、従わせることができます」


 すげえなアタシのでまかせ現代日本。

 まあドラ〇エとかで倒した敵を仲間にできるし、その延長線上ということで。

 日々華の視線は今は気にしないっ!


「あれれ~、変だぞぉ。この魔物の魂に、変な呪紋が……これは、ディードリヒが魔物を操っていた魔法だぁ」

「な、なんだとっ?」


 アタシの名演技に王が驚愕して、目を見開く。


「何故だ、ディードリヒは拘束して、牢に……」

「誰かまだ、魔物を操っているヤツがいるということだね。そいつがオークとワーウルフの群れに、村と街道を襲わせた」


 本当にバカなヤツらだ。

 自分達の無能を認めて、おとなしくしていたら。罪を全部ディードリヒに押し付けてしまえたものを。


「……なぜそこで我らを見るのか。理解に苦しますな、勇者様」

「そろそろ黙ろうか。この状況で、お前らをシロと思うヤツは誰もいないよ」


 アルレシア王ダーマ、ターニャにロウナー、会議の議事録をつけていた書記官たち、そして、会議室に入室していた幾人かの衛兵たちが皆、大臣ズを見ていた。

 その目はいずれも、完全にヤツらの罪を確信している。


「ふっ……ふはははははっ……!」


 ヅラ大臣が一人、笑う。

 おいもうそのズレたヅラ外してくれ。気になって仕方ないんだけど。


「王! ダーマ陛下よ! よもやと思いますが、このような茶番を信じておられるのではないでしょうな?」

「……茶番だと、申すか」


 王が反問する。

 この期に及んで、まだ奴らの弁明を聞くつもりなのか。


「ええ、茶番ですとも! これはターニャ姫が、ダーマ陛下を排斥する為に仕組んだ茶番です! 勇者様方を巻き込むとは、本当にあきれ果てました」

「なっ……! 貴様ら!」


 ロウナーが怒鳴り声を上げようとしたけど、ターニャが制した。

 そんな彼女たちの様子を見て、またヅラ大臣は調子に乗る。


「そもそも我らにどんな利があって、こんな真似をすると言うのでしょうか!」

「ワタクシを孤立させる為でしょう。カナエ様とヒビカ様、それにロウナーを会議から追い出そうとしたのです」


 ターニャは毅然と言い放った。

 ヅラは一瞬怯むけど、また下卑た笑みを浮かべる。


「心外ですぞ、ターニャ殿下。姫を孤立させて、我らに何の得があるのです?」

「よくもぬけぬけと、そんなことを……!」


 ターニャはグッと拳を握りしめ、怒りに震える。


「あなた達は、ディードリヒの支配を許した責任から逃れる為に! ワタクシを陥れる為に、領民たちを危険な目に合わせて! ロウナーの妹を、ワタクシの大切な方々を傷つけたのです!」

「なんの証拠があって、殿下はそんなことをおっしゃるのか」

「証拠!? それは今、カナエ様が証明して下さいました! あなた達は魔物たちを操って! ロウナーの妹の呪いまで——」

「カナエ殿が証明したのは、村や街道を襲った魔物が何者かに操られていたという事実だけです。それを我らが行ったとは、証明しておりません」

「そんなっ……そんな言い逃れが!」 


 実は、その通りだ。

 呪紋を使った実行犯を特定することはできない。

 この術は明らかにラセツの呪術なんだけど、それを一時的に人族に貸しているだけの状態だ。

 ラセツがディードリヒ以外の誰に術を貸したのか?

 それをこの場で証明することは、できない。


「くっ……くははははは! 惜しかったですなあ! 殿下!」

「ふっ……ふはは」

「あははははっ!」


 大臣ズが笑う。


「しょせんは女どもの浅知恵! この程度が限界なのだ! ……王よ!」


 そしてヅラは、またダーマ王に呼びかけた。


「ターニャ姫は確たる証拠もなく、あろうことか勇者様たちを利用して、この王前会議を侮辱しました! それもこれも、我ら国の大臣を排斥し、ひいては味方のいなくなった王自身をも排斥して、自分自身が女王の座につく為の陰謀なのです!」


 それこそ証拠も何もないことを、つらつらと言い募るヅラ大臣。

 それに追随して、ウンウン頷く他の大臣ズ。


「そ、そうなのか。余を排斥しようとしておったのか、ターニャよ」


 ヅラとその一党の勢いに押される、ダーマ王。

 駄目だコイツ。

 魔族に憑かれてようが憑かれていまいが、やっぱりこの国の害悪でしかない。

 ターニャはお母さんの血を色濃く継いだみたいで、本当に良かった。


「陛下。……いえお父様。貴方は本当に」


 ターニャは静かに、まっすぐに父を見つめて問いかける。


「大臣たちの言葉が真実であると、ワタクシは女王の座が欲しくて嘘を言っているのだと。本心から、そう思うのですか?」


 それは、ターニャの最後の優しさだった。

 そこで、「いいや、やはりお前を信じる」と。

 自分の娘を信じると答えていれば、良かったのに。


「……余は騙されぬ。お前の母親も、余を見下していた愚かな女だった」

「賢明です! 王よ !」


 ヅラの言葉を合図に、大臣ズは拍手した。


「幾万もの領民が住まうこの国の、たかが一地方が危険だった程度で! 何の役にも立たない女魔法士官の妹一匹の命が危うかった程度で! 取り乱してしまうような小娘に、この国の支配者は務まらんのですよ!」


 ヅラ大臣は勝利宣言する。

 その他の衛兵たち、書記官たちがあきれ果てた目で見ていることにも、気づかないで。


「……残念です。お父様」

「なに?」


 ターニャ姫がスッと手を上げた。

日々華がスラリ、とレーヴァテインを引き抜く。


「な……な、待たれよ、勇者様!」

「落ち着かれよ、あなた方は、ターニャ殿下に騙され……」


 慌てる大臣ズ。

 そんな老害どもを日々華は無視して。


「はああっ!!」


 日々華は斬り飛ばした。

 会議場、その大扉の蝶番を。

 予定通り大きな扉は倒れ、入り口は大きく開け放たれる。

 そして。


「なっ!?」

「お、お前ら!」

「なんだっ、無礼だぞっ!」


 会議室に雪崩れ込んできたのは、城の衛兵、そして騎士団、兵士たち。

 その数は三十人を超えている。


「総員、構え!!」


 騎士団長? 兵士長? ちょっとアタシは分かんないけど、指揮官ぽい人が大声で指示を出した。

 その無数の槍が、剣が、向いたその先は。


「どういう事だ! これは!」

「貴様ら! 自分が何をしているのか、分かっているのか!?」


 想定外の事態に怯える大臣ズ。

 そして、王は。


「……誰に剣を向けているか、分かっておるのか? 副騎士団長」

「はい。我ら騎士団は、王国の敵を討つ存在であります」

「余が、王国の敵と申すか」

「はい。そしてこの国を導いて下さる真の王……女王は、ターニャ・エル・アルレシア様であると確信致しました」

「そうか」


 王は抵抗せず、そしてそれ以上、言葉も発しはしなかった。


「キサマらぁ~~ッ!!」


 見苦しかったのは大臣ズ。特にヅラだ。


「ふざけるなぁっ! これはクーデターだぞ! 大罪だぁ!!」

「いいや、これは王国の意志だよ」


 アタシはニッコリ、いやニヤ~と笑って、ヅラの前に立った。


「会議の様子は全部、部屋の外でアルレシア兵の皆が聞いていたんだ」

「なっ……最初から、グルだったというのか!」

「違う違う。ターニャは皆に、こう言っただけ。『この王国で共に歩んで行きたいのは誰か。それは直接、皆さんが判断してください』ってね」


 あんな醜態を見せられて、大臣ズに国を導いてもらおうという変態はいないだろう。


「この国は、ターニャを選んだ。新しい女王の誕生だよ」

「ふざっ……けるなああ!」


 ヅラが自分の頭の上、不自然なカツラの中に手を突っ込んだ!

 えええ???


「愚民どもめ……滅びるがいい!!」


 取り出したのは巻物スクロール

 アタシの中の魔王アタシが警告する!


(マズい! アレはラセツ最強の部下にして、魔王軍四天王の一人〈アシュラ〉を召喚する巻物スクロールだ!!)


 説明ゼリフありがとう魔王アタシ

ってなんですとー!?

 ヅラが解いた巻物から、暗黒が噴き出す!


「ケルちー!」

「バォオオオオオォオオン!!」


 ケルベロス・ハウンドの咆哮魔法〈ハウリング・キャンセラー〉だ!

 この咆哮による振動は、一定レベル以下の魔法効果を無効化する!

 これで召喚魔法を吹き飛ばせば……!


『……お初にお目にかかるかな? 矮小なる人族どもよ』


 ダメだったー!

 暗黒は吹き飛ばしたけれど、そこに立っていたのは一人の魔族。

 一つの頭に顔は三つ、腕が左右合わせて六本の、筋骨隆々な魔界の闘神。


「し、師匠……」


 カクカクと骸骨の顎を震わせながら、ボン吉が呟いた。


『おお、ボン吉か。こんなところで何をしている?』

「せ、せせ、拙者は……」

『まあいい。手伝え、この国の人族ども全て、なます切りにするぞ』


 やっっっかい!!

 アシュラは、クソマジメ魔族ラセツの忠実な部下だ。

 アタシの正体バレたら絶対にラセツに告げ口する!

 実力は四天王で折り紙付きだし、ちゃんと実体だから、霊体だったラセツよりも格段に強い!

 魔王の実力隠して戦うにはちょっぴしキツい相手……


「ちょうどいい。ムシャクシャしてたんだ」


 アタシのすぐ横で、レーヴァテインの切っ先がヒュンっと走った。

 えっ?


『む? その剣に太刀筋。キサマ、人族にしてはやるな。何者だ』

「渡瀬日々華」


 流れるような黒髪をたなびかせて、日々華はアタシの前に立つ。


「香苗は手を出さないでね」

「ちょっ、それは」

「ねえ貴方。どう思う?」


 反論しようとしたアタシを無視して、日々華はアシュラに問いかける。


『何がだ』

「親友がね。昨日の夜、私一人を寝かせておいて、自分は徹夜で働いてたみたいなんだ。それって、すごーく腹が立つ事じゃない?」

『……知らん』

「知らなくていいよ。それで、貴方には申し訳ないんだけど」


 ひいいいいいいい!

 アタシへの怒りを力に変えて、日々華は宝剣を構える!


「八つ当たりに、付き合ってもらうね」

『面白い娘だ。よかろう、相手をしてやる』


 アタシが手を出せない、剣神と闘神の戦いが始まろうとしていた。

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