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12.厄介な幼馴染と、最高の幼馴染。そして、トーク・バイ・H

「胴ォォォォッ!!」


 日々華の放った横薙ぎの一閃が、ラセツを両断した!

 嘘ぉっ!

 勇者の力を思い出さないままで、本当にラセツを倒したの!?


「やった……!」


 喜ぶ日々華。

 可愛い。

 まあ……本当に、これでこのクソマジメ魔族を倒せたら苦労しないんだけどねー。


「ふむ。手間が省けて助かった。依り代を傷つけずに身体から離れるのは、少し手間だったからな」

「なっ……!」


 驚く日々華。

 可愛い。

 両断されたように見えたのは、ラセツの霊体だった。もちろんラセツ本人にいささかの痛痒もない。

 そして、こちらも無傷で倒れたのはアルレシア王、ターニャのお父さんの身体だ。


「なるほど、王の身体には傷一つついていない。ヒビカ、お前も宝剣レーヴァテインを少しは使いこなしている証拠か」

「えっ……え?」


 動揺している日々華。

 可愛い。

 身体は本物のターニャのお父さんで、ラセツに操られていただけ、という可能性を考えてなかったみたいだ。

 まあ、あんな瘴気を浴びせられたら、相手が生身の人間だなんて思えなくても仕方がないよね。


「ということは、そうか」


 ラセツの霊体は、再び視線をアタシに向けた。


「勇者の魂が二つに割れた……それが真実ということか。だったら」


 ラセツの殺気が、急激に膨れ上がる。


「ひっ!」

「ううっ!」


 その余波を浴びたターニャとロウナーが、後ろで気絶して崩れ落ちた。

 ごめん、今は助けに行く余裕がない。


「勇者サリア。我が主にして盟友、魔王バルマリアを誑かした憎むべき存在。まだ本来の力を取り戻していない今の内に、始末すべきだな」


 どうする。

 霊体となっているとはいえ、相手は副王ラセツ。

 魔剣シュバルツェンレイカーもなく、覚醒して間もない今のアタシで勝てるのか?

 そうだ、またレーヴァテインの力を借りれば!

 何故かあの宝剣、今は日々華よりアタシの方が使いこなせる。だから……


「させぬよ」


 くそっ。

 思考を読まれて、ラセツの霊体に日々華との直線上に入られた。

 日々華もアタシの考えを汲んで横に動いてくれるけど、ラセツは絶妙に邪魔する位置取り。

 いやらしいヤツだ!


「チッ……そっちだって、今は肉体から離れてユーレイの身なんでしょ」


 だったら駆け引きだ。


「アンタ、今日のところは大人しく引いた方がいいんじゃない?」


 アタシの言葉に、ラセツは表情を変えない。


「それならお前たちこそ、今が俺を倒すチャンスだろう。それをせず見逃すというなら、実力で霊体の俺を越える自信がない証明だな」


 いやらしいヤツだ!

 アタシが野郎の物言いに内心で憤慨したところで、急に霊体ラセツはフッと笑った。


「何がおかしいのよ?」

「いや。今のような駆け引き。まだ幼い頃にバルマリアが強敵と会った頃によくやっていたと思ってな」


 霊体の気配が、揺らぐ。

 なんだかんだ言って、まだ疑ってるんだ。

 あー、幼馴染ってほんと厄介!

 これ直接バトったら、一発でやっぱり魔王アタシだってバレんじゃない?

 いや……


(バルマリアの力はともかく、黒崎香苗いまのアタシには剣道があるんだ。さっきの決闘だって剣道の技で戦っていたから、ラセツはアタシの正体を確信できなかった)


 だったら、また剣道で戦えば!

 ああでも霊体斬れる剣なんて、人族の国にそうないよねー!

 ちっくしょー!

 日々華! ギブミー、レーヴァテイン!

 無理? ラセツに隙が無い? そーだよねぇぇぇ!


「……では、そろそろいくぞ。お前たちが死ねば勇者。もし本当はバルマリア陛下であれば、俺ごときに殺されることはないだろう」


 自分を過小評価しないで! ラセツちゃん!

 ああもう、剣! 剣~!


「カナエッ!」


 ドォン!


 なんだ!?

 何かが後ろからアタシを飛び越えて、ラセツとの間に降り立った!

 深紅の鎧……大きさは元々の人間サイズだけど、これディザスター・アーマー!?


「カナエ! また助けてくれてありがとう、今度は僕が守る番だよ!」

「その声、デュラ坊!?」


 魂だけになって、またあの魔鎧に入ったのか!

 でも呪紋はレーヴァテインの力で消えてるし、魔鎧も浄化されてるから、まったく問題はない。

 むしろ……前の鎧よりパワーアップしてる?


「それから、これっ!」


 後ろ手にデュラ坊が投げ渡してきたものは。

 

災厄の魔剣(ディザスター)!」


 そうだ、これがあったじゃんか!

 メタボ騎士ガルパが使うならいざ知らず。

 シュバルツェンレイカーに遥か及ばずとも、このアタシが使うんだったら!


「む……!」


 ラセツの顔色が変わった。

 霊体に顔色があるかは微妙だけど、なんかそんな気がした。


(日々華ッ)


 その霊体ラセツの向こう、レーヴァテインを構えている日々華とアタシはアイコンタクトする。

 キタコレ、勇者と共闘! 燃える展開!


「いくよカナエッ! 僕が隙を作るから!」


 プラスワンのデュラ坊、君のことも忘れてないよ。

 ああでもその突撃は、ラセツ相手にちょっと無謀っ!


「邪魔だ鉄クズ」


 飛びかかったデュラ坊に、間髪いれずラセツは圧縮された瘴気弾を叩き込む!


「うおおおっ!」


 デュラ坊耐えてる!?

 なんか鎧に聖属性のバリアが……

 きっとレーヴァテインの光を浴びたからだ。どんだけ有能だ、勇者の宝剣!


「くらえっ、アーマーナックル!」


 ダサい技名を叫ぶデュラ坊、ガルパと一時的でも融合しちゃったから中二病が移ったか?


「下らん」

「あれぇっ!?」


 ラセツは霊体の位相を変化させて、デュラ坊のアーマーナックル(ただのパンチ)をすり抜けさせた。

 聖なるバリアも、直接霊体にダメージを与えるレベルじゃなかった。

 でも、その選択は悪手だよ。ラセツ。


「いまぁっ!!」

「おおおっ!!」


 アタシは飛び出し、日々華も同時に間合いに飛び込んだ!


「チィッ!」


 ラセツは焦る。

 霊体の位相を変えて物理攻撃を無効化したという事は、逆を言えばラセツも物理攻撃ができなくなったということ。

 もちろん即座に位相を戻して迎撃体勢を取ろうとしているけど、タイムラグは刹那であろうと確実に発生する。

 アタシと日々華は、現代日本においてもコンマ一秒以下の世界で戦ってきた剣士、その刹那の隙を逃しはしない!


(くらえ!)


 レーヴァテインとディザスターには、それぞれ聖と魔の力が満ち満ちている。

 物理透過の霊体であっても、こっちはダメージを与えられるんだ!


「胴ォォォォッ!!」

「胴ォォォォォォーーッ!!」



 日々華とアタシ、二人の逆胴が霊体ラセツにクロスする。

 そして異なる属性のエネルギーは相乗効果を起こして、莫大なダメージを与えたっ!!


「ぐあああああっ!!」


 エックス形の閃光が炸裂して。

 絶叫を上げ、ラセツの霊体は霧散した。


「やった……!」

「やったっ! ……香苗!」


 日々華が右手の平をあげる。

 えっ、手?


 パチィン!


「勝ったね、香苗!」


 ハイタッチだ!

 これだよこれ! アタシはこれがやりたかったんだ!

 ビバ異世界転生!

 いや転移か。

 どっちでもいいや、サイコー!!


「うん! アタシらは最高のコンビだ!」

「だねっ!」


 同じ幼馴染でもラセツと全然違う、やっぱり日々華は最高だ!


『なるほど……確かに見事なコンビネーションだった』

「えええっ!?」


 どこからともなく響いてきた、もう一人の幼馴染の陰気な声に、日々華は動揺する。

 アタシは、まあ……あの程度で消滅するヤツじゃないって知ってたからね。


『今回は敗北を認めよう、勇者サリア。……そして、バルマリア陛下かもしれない者よ』

「まだ言うか。アタシは勇者の片割れ、魔王なんかじゃない」

『ふっ……もし陛下なら、俺の性格を知ってるだろう?』

「しつこい陰険な男だってのは、今日だけでも充分わかったよ」

『ふふっ……次にお前達と会う時を、楽しみにしている』


 空間に漂っていた、ラセツの気配が薄くなっていく。

 よかった、なんとかごまかせ——


『愛する者であっても、愛する者の仇であっても。誰もこの世界に居ないよりは、マシだからな』

「あ、愛っ!?」


 意味の分からん厄介極まりない捨て台詞を残して、この世界テスラ・クラクトでの幼馴染ラセツの気配は、完全に消えた。


「な、なにアホなこと言ってんだアイツ……あー、焦った……」


 この時、横から見つめていた日々華の視線の意味に気づいていたら、と。

 アタシは後に後悔する事になる。

 何を見ていたのか、と。


 ***


 ターニャのお父さん、つまりアルレシア王は目を覚まし、正気を取り戻した。

 ラセツに操られていた間の記憶は残っていたようで、王様にあるまじき腰の低さで、アタシと日々華に謝罪と感謝の言葉を繰り返した。


「ヒビカ殿にカナエ殿! そなた達は余の、いやこの国の恩人、救世主でございます! ああ勇者サリア様、よくぞ異世界よりご帰還されたっ!」


 手のひらを返す勢いでトルネードが発生するわ。

 そう思うくらい、アルレシア王国のアタシ達に対する態度は変わった。

 もともと、ラセツが操っていた王に媚売るしか能がなかった大臣ズ、およびディードリヒとその息子以外の城の関係者達は、国民から人気のあったターニャ姫を守って戦ったアタシ達に好意を持っていたらしい。


「だからって、ねえ……」


 魔族と取り引きし、私利私欲に走ったディードリヒとその息子。

 その手引きで王自身が魔族に支配され、王国は弱体化の一途を辿った。

 それを救ったのが、転生した異世界から帰還した勇者の生まれ変わりだったというのだから。

 これはもう、新たな英雄譚の誕生だった。


「ものには限度があるでしょう」


 日々華とアタシへの歓待の宴は、それはもう城を挙げての規模となった。


「あなた方は、間違っています!」


 そしてついに、日々華がキレた。


「国のトップが外敵に支配されて、軍も民の生活も、メチャクチャになったのでしょう? なら貴重な時間と労力、資金をこんな意味のない宴に使っている場合ではありません!」


 ザッツ、正論。

 王は再び詫び、日々華の気高さに胸を打たれつつ宴を終わらせ、国の再建へとさっそく動き始めたのだった……


「もったいないなー、せっかくの宴、酒池肉林! 冒険の後の宴会はワン◯ースでも定番じゃん! もう少し楽しんでも良かったんじゃない?」

「香苗、意味が分かって言ってる?」


 時刻はもう真夜中。

 与えられた王城内の豪華な客室で、日々華とアタシはようやく二人きり、寛いでいた。

 もともと外国からの使者や要人を泊める為の部屋で、応接セットや天蓋付きベッドなど、一通りの物が揃っている。

 ベッドは二つだ……ちっ。



「肉は香苗、たくさん食べてたけど。お酒なんて飲んでなかったでしょう?」


 そう笑う日々華だったけど、酒池肉林の言葉の意味、正確じゃないのは日々華の方だよね。

 本当に肉欲に溺れてやろうか、ククク……



「あー、サッパリした。お風呂がこの世界にもあって、本当に良かったねえ」


 宴の前にも入ったけど、日々華は寝る前にまた、お風呂に入ってきた。

 うん。剣道着の日々華が世界で一番凛々しくて美しいと思ってるけど、この世界の貴族用の就寝着もよく似合ってる。

 何せ、薄手で身体のラインもばっちり。胸元も大きく開いて露出は多めだ。


(ぐふふ……)


「香苗大丈夫? 目が血走ってるけど。まだ戦いのダメージが残ってるのかな」

「だっ、大丈夫です!」

「なんで敬語?」


 いかんいかん、挙動不審になってるアタシ。

 何か違う話題を……


「そうだ。戦いのダメージっていえば、ターニャとロウナー。あの男のユーレイにやられて倒れちゃったけど、無事に目を覚まして後遺症もないみたいで、良かったねえ!」

「うん。そうだね」


 日々華はニッコリ笑うと、自分の方のベッドに座って、流れるような長髪を梳かし始めた。

 ふう! ごまかせた!


「ねえ香苗。これからどうする?」


 視線は外したまま、ポツリと日々華は尋ねる。うん、異世界ノベルとか読んだことがなきゃ、こんな状況は不安だよね。


「そうだね。アタシ達をこの世界に召喚したのはターニャだったけど、裏で手を引いてたのはディードリヒ、つまりは王様まで操っていたあの陰気な幽霊なのは、間違いなさそうだから」


 アタシはラセツの名前は出さないように気をつけながら、日々華が風呂に入ってる間に考えていた筋書きを話す。


「なんかアイツ、アタシ達に執着してるみたいだから、またちょっかい出してくると思う。だから、迎え撃つ体制を整えよう」

「あの幽霊が執着してるのは、アタシ達というより香苗にみたいだけど」

「そ、そうかな」

「香苗のこと、確か、バリマリア? って呼んで」


 ゲフンゲフン!

 日々華の口からその名前が出ると、ドキドキ感がハンパないな。

 これ、いつまでも魔王の記憶を表に出しとくと、アタシは絶対ボロを出す。

 また封印しとこう。


「……ねえ」


 やっべ、風呂上がりの日々華、色っぽい。


「日本に帰ることはできないの? あっちまでは追いかけて来ないんじゃない?」


 思い詰めた表情で尋ねてくる日々華。

 アタシは腕を組んで答える。


「うーん……ターニャに聞いたんだけど、〈召喚の儀〉はあの神殿に十年単位で溜め込んだ特別な魔力がないと、発動できないんだって」


 ターニャ自身の魔力は、召喚を行うスターターでしかなかった。

 つまりは。


「じゃあ、私たちが日本に戻る魔法も」

「うん。少なくとも十年は使えないみたい。ターニャとロウナーに謝られたよ」


 アタシの答えに、日々華は顔を翳らせた。

 あら……。

 アタシ、エンジョイ勢として日々華とこの世界での冒険を楽しむ事で、頭がいっぱいだったけど。

 日々華だけでも、先に日本に返さないとかな……


「ねえ、香苗」


 深刻な表情の日々華。

 次に彼女が言う言葉次第で、方針転換も考えないといけない。


「お姫様をターニャって呼び捨てにするの、やめない?」

「にゃ!?」


 変な声が出た。


「にゃ、にゃんで……?」

「だって彼女は、偉いお姫様でしょう? 私たち日本にすぐ帰れないってなったら、しばらくこの国にお世話にならないといけないんだから……」

「だから?」

「……礼儀は、できたら、気をつけた方がいいと思うの……」


 彼女らしくない、歯切れの悪い物言い。

 違和感を感じたけど、剣道は礼に始まり礼に終わる。日々華がそこに拘る気持ちは分からなくもなかった。


「うん。わかったよー」

「ありがとう!」


 パッと笑う日々華。

 ありがとう? なんで彼女が礼を言うのか分からないけど、まあ日々華が嬉しそうならいいか。

 アタシは日々華が一番大事だから。


「それとね香苗、できたら、ロウナーさんの事も呼び捨てじゃなくて」

「ああああ!! そうだっ!!!」


 いっけねえ! 忘れるとこだった!

 アタシは慌てて、日々華の寝間着の裾を捲る。


「きゃあっ!? な、な、何」

「あああ! やっぱり、傷跡が残ってる!!」


 日々華の絹のように美しい肌に、雷の跡みたいな傷が薄く残っていた。

 この世界に来て、最初に操られたケルベロスのケルちー達と戦った時。

 日々華が白魔術師達の張った攻性防壁に突っ込んで、負った傷だ。

 すぐに治癒魔法を受けて治ったけど、完全には傷跡は消えていない!


「き、傷跡? あ、あのね香苗、恥ずかしいから、服を……」

「日々華!」

「はい!」


 アタシは日々華の両肩に手をおいて、目を見て言う。


「寝よう!」

「!!??」


 何故だか分からないけど、アタシには白魔術師達なんて比較にならないくらい、生き物を治癒させる力がある。ことを、知っている。

 でも、それを日々華に知られるワケにはいかないから、彼女には早く寝んねしてもらうんだ!

 それから、じっくりねっとり、完璧に治してあげるんだ!


「……はい」


 何か決意したように、頷く日々華。

 ? なんでそんな頬を赤らめてるのか分からないけど、とりあえずオーケー!

 急いで燭台の火を消すアタシ。


「じゃ、おやすみ日々華〜」


 アタシは自分の方のベッドに飛び込んだ。


「えっ……?」


 えっ? ってなんだろ。

 でも話をしてたら日々華はいつまでも寝ないだろうから、アタシは早々に狸寝入りを決め込んだ。

 ふふふ、早く寝ないかなー。日々華。


 ***


 無自覚な人たらしが、一番タチが悪いんだよ。


 ねえ、知ってる?

 高校に貴女のファンクラブがあること。

 女子校なのにね。


 ねえ、知ってる?

 剣道部員の大半は、貴女が目当てで入部していること。


 なんにも、知らないよね。


 貴女は、みんなに優しくて。

 みんなを、愛していて。

 まるで戦場で育った戦士が、小さな子ども達だけの村にやって来たみたいに。

 すべてを、守ろうとする。

 助けようとする。


 そして。

 貴女はとても綺麗で、美しい。


 貴女のファンクラブ。

 ウチの高校だけじゃないんだよ、他校にも広がってるんだ。

 剣道のインターハイ、決勝の前までの試合でだって。

 貴女が一本取るたびに。

 貴女が勝つたびに。

 大勢の女の子達が黄色い歓声を上げてた事。

 中には、貴女のあまりの格好良さと美しさに、泣き出しちゃう子までいた事。

 貴女は知らないでしょう。


 私との試合に向けて、集中してたからね。


 だから、私は負けるわけにいかなかった。

 親友で幼馴染である、貴女に。

 私は絶対に、負けるわけにはいかなかった。

 怖かった。

 貴女が、私に興味を失ってしまうことが。


 ねえ、隠してるつもり?

 貴女は、私よりも強い。

 どうして私と稽古する時や、試合をする時には、他の人が相手の時みたいに冷静に、圧倒的な力で私と戦ってくれないの?


 知ってる。

 私は、貴女の気持ちを知ってるんだよ。

 だから、怖い。

 それが失われてしまうことが、何よりも怖い。


『いや。そこのカナエと比べて、随分と力に差があると思ってな』

 あの男……!

 絶対に許さない。あの男だけは、必ず私が!


「メンヘラ」

 前に、香苗がカバンに忍ばせていた文庫本の裏表紙に、そんな言葉を見つけたことがある。

 妙にひっかかって調べたら、ネット発のスラングみたいだった。

 ああ、私、これだ。

 ヤダな。

 こんな女、重いし迷惑だし、嫌われて当然じゃないか。

 私はメンヘラにはならない。

 自由な貴女を縛ったりはしない。

 そんな女は、貴女にふさわしくないから。

 ねえ。だから。


『日々華!』


 私の素敵な笑顔を向けてくれる、いつだって貴女は最高の存在だ。

 その隣にいつも立てる存在に、私もきっとなるから。

 だから。


『バルマリア』


 もう少しだけ。

 忘れたままで、いさせてね。

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― 新着の感想 ―
[一言] Oh…これはなんと素晴らしいものか…いいぞもっとやれ (ちなみにですが、メンヘラは自己中心的なものなので、どちらかというとヤンデレのほうが近いと思います…)
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