破壊神の名の下に
この物語は、宮座頭数騎さんの『勇者パーティー討伐物語』企画にこっそり乗っかった企画小説です。
「なぁ、知ってるか? グレイス、エクサドラ」
切り出したのは、ワータイガーのガトだった。
ガトは、生まれながらにモンスターだったわけではない。元は人間の戦士だった。それが獣化という病気のせいで、人間の世界からはじき出された者。
彼は人間だった頃、仲間達と共に人間の敵と戦っていた。それがこの病気に感染し、獣化すると解った途端に、彼の仲間は彼を狩る事に決めたのだ。獣化すると性格が凶暴になり、目の前にいる者を見境なく惨殺するだけなのに。
そんな不幸な若者は、破壊神を信仰するダークプリーストと出会い、今では共に冒険をするようになっていた。
「魔王が、勇者に賞金をかけたって。勇者一行を倒すと魔王から褒美がもらえるんだと」
「勇者って何よ?」
答えたのは、ダークプリーストのグレイス。黒い髪に浅黒い肌、先の尖った耳は、黒妖精の証だ。
黒妖精とは、邪神に魅せられたエルフの事。
邪神の力を受け入れた時、黄金色の髪や白い肌は黒く染まるのだと、グレイスは語った。
永遠に近い生命を持つ妖精族の女は、その時間をただひたすら、信仰にのみ費やしている。
つまり、世界を破壊神に捧げる努力をする為に。
「勇者といえば、世のため人の為に悪い怪物を退治する、勧善懲悪人間の典型ですね」
答えたのは、死霊術師のエクサドラ。少年の姿をしているが、彼もまた百年以上もの間、研究を続けている死霊術師だ。
研究を重ねるうちに、彼は永遠の命を手に入れた。つまり、肉体を捨てて幽体のみの存在になること。研究を続ける分には何の問題もなかったのだが、研究にも飽きた頃にグレイスに出会った。
彼女の野望に手を貸すのも面白いと思い、行動を共にしている。
幽体だけの存在だと、魔力が尽きた時に死に至る事になる為、今は少年に取り憑く事で急場をしのいでいる。いずれはドラゴンに取り憑いて、不死の肉体を手に入れる予定だ。
「しかし、その勇者に賞金とは。魔王もなかなか洒落たことをなさる」
そんなエクサドラの言葉に、グレイスはふんと鼻を鳴らした。
「勇者も魔王も、私には関係ないね。私が仕えるのは、偉大なる破壊神様だけだ」
彼女がこの国に留まり、戦い続ける理由は、いずれはこの国を丸ごと死霊の国にして破壊神の糧とするため。勇者も魔王も関係ない。
「でも、あんたのその偉大な目的の為には、勇者は邪魔だろ? グレイス」
ガトが、挑むような視線をグレイスに送る。
「勇者って、なんでも出来るらしいぞ。あんたらの魔法を破ることだって出来るんじゃないのか?」
「それは、困る」
グレイスが率直に答えた。
まだ、街を五個ほど潰した程度だ。彼女の目標達成にはほど遠い。
「ガトは、魔王に従いたいのか?」
此処にいる三人はいずれも、生まれながらのモンスターとは違う。
人間の世界から、あるいは妖精の世界からはみ出した者達だ。魔王とは縁がないと思っていたが――ガトが魔王に従いたいのなら、別にそれを咎める理由はない。
「いや、勇者という存在そのものに、虫酸が走るんだよ俺は。なぁ、俺たちが本気を出したら、倒せると思わないか?」
言われてグレイスは、少し考えた。
ダークプリーストで、初歩的な精霊魔法も使えるグレイス。死霊術師のエクサドラ。変身しなくともガトは屈強な戦士だ。
確かに可能かも知れない。もしも勇者が自分達の邪魔をするつもりでいるならば、先に狩っておくに限る。
「だが、勇者は何処にいるんだ?」
「人間の街で情報収集すればいいじゃないか」
と、ガト。
「私が、か?」
慌ててグレイスが聞き返す。
なぜならこの国ではそろそろ、破壊神に仕えるダークエルフは有名になりつつある。下手をすれば勇者を狩る前に、自分が狩られる。
「だからアンタはその耳と破壊神の聖印を隠して、人間のふりをするんだよ。エクサドラだって、今はちゃんと肉体があるから人間に見えるし」
「私が人間のふりをするのか?」
苦笑しながらも、グレイスは考える。
最近、ダークプリースト討伐の命が国王によって出されたと聞いた。だったら人間の振りをした方が、仕事もやりやすいかも知れない。
こうして三人は、勇者討伐の為に旅に出た。
情報を集める為に人間の街に出入りするようになって、数日後。三人は、魔物に襲われる旅人と出くわした。
人間側は倒れている者も含めて五人。魔物の方は地面に数十匹倒れていて、立っているのは六匹ほど。
雑魚とは言え、かなり善戦をしたようだ。だが、人間に勝機はなさそうだ。
グレイスがそう思っている間に、剣を支えに立っていた人間側の最後のひとりがくずおれた。
「グレイス、助けてやれよ」
人間のふりをしている限りは、人間に加勢するべきだろう。剣を抜きながら、ガトが言う。
「本当は、殺戮が好きなだけでしょう?」
エクサドラの言葉を背に、ガドは笑いながら一撃で魔物を屠っていた。
その間に、グレイスは瀕死の若者に駆け寄り、治癒の魔法を詠唱する。
「偉大なる我が神よ、その力を汝が僕に与えたまえ」
経験を積んだグレイスの魔法は、瞬時に男の傷を癒した。
「俺より、みんなを……」
若者が掠れた声で囁くのに、グレイスは小さく首を振る。
「悪いが、手遅れだ」
さすがのグレイスも、死んだ者を生き返らせる事は出来ない。死者をゾンビに変えることなら楽勝だが。
グレイスが若者を立ち上がらせれう間に、エクサドラが魔法で雑魚を倒し、ガトがボスらしい魔物を倒す。
「あんた達、強いな」
そりゃあそうだろう。このあたりの人間を、恐怖に陥れている三人だ。
とは、口には出せないが。
「俺は戦士のガト。そのプリーストがグレイスで、ソーサラーがエクサドラだ」
獣化さえしなければ人間らしいガトが、気さくに話しかけた。
本当はプリーストではなくダークプリーストで、ソーサラーではなくネクロマンサーなのだが。
「俺は、ライズ」
若者は周囲を見回し、仲間の遺体に黙祷する。
やがて、顔を上げた若者は、真摯な顔で三人を見た。
「君達に、頼みがある。俺の仲間になってくれないか?」
「仲間?」
訝しげに首をひねるグレイスに、ライズと名乗った若者は神妙に頷く。
「俺と仲間たちは、この国に死霊に滅ぼされた街があると聞き、そこに行く途中だったんだ」
「なんでそんな、余計な事を?」
真顔になる、グレイス。
「余計な事? その街を死霊から取り戻のが余計な事なのか?」
鼻白む、ライズ。
それが、余計な事以外の何だと言うのだ。
そう言いかけたグレイスを、慌ててガトが制した。
ひとり、またひとりと魔法をかけて死霊にした。
後は、死霊に喰われた者が死霊になる。
小さな村を死霊の村に変えるのに、最初は三ヶ月もかかったのだ。しかも、邪魔をする冒険者が後を絶たない。
エクサドラが仲間に加わり、やっとスムーズに計画が進むようになったというのに。
「戻す方法があるのですか?」
と、聞いたのはエクサドラ。
「プリーストなら、死者返しが出来るんじゃないのか?」
ライズが質問で返す。それに対するグレイスの返答は、なかった。
もちろん出来る。もっと高度な呪文だって使える。だが、グレイスにその街を死霊から救う理由など、ある筈がない。
「まぁ、俺もそれが出来るアイテム持っているし。何とかなると思う。だから、頼む」
グレイスはエクサドラ、ガトと顔を見合わせる。
街についたらこの若者の行動を見届け、事と場合によっては殺す。
三人の出した結論は、それだった。
しかし。
街に着く前に悲劇は起こった。
魔物の襲撃を受けたのは、その夜の事。
ガトとライズが武器を手に立ち上がり、グレイスとエクサドラがいつでも魔法を使えるように呼吸を整えた、その時だ。
「覚悟しろ、勇者ライズ」
魔物の言葉に、三人は一瞬戦いを忘れた。
「ライズって、勇者だったの?」
グレイスの言葉に答えたのは、魔物と剣を交わすライズではなく、別の魔物だった。
「あのホーリーソードこそ、勇者の証。間違いない、勇者ライズだ」
立ちつくす、三人。
最悪だ。
勇者を倒す筈なのに、知らないうちに勇者の仲間になっていたのだ。
魔物の目的は「勇者一行の討伐」。つまり、自分達も標的と言うことだ。
いや、待て。この魔物達を全部倒して、その後勇者を倒す。
それしかない。
襲いかかって来た魔物に、とっさに「負傷」の呪文を唱える、グレイス。慌てて、エクサドラが先に火球の魔法で敵を倒す。
「グレイス、暗黒魔法はまずいですよ」
そうだった。ここでダークプリーストだとばれれば、人間に狩られる。
さらに最悪な事に、グレイスは気づいた。
ガトは獣化が出来ない。エクサドラは死霊術系魔法が使えない。
勇者の仲間である限り、自分達は本当の力を出せないではないか!
友人と、昔はまっていたRPGの話をしていたら、なんだかこんな話が思いついてしまいましたので、こっそりと企画に参加してみました。
ナチュラルに邪悪なキャラを書きたかっただけかも。(^_^;)




