桜影に嵐
今日はなんだかいつもより暗い。どんよりとしてじめじめとしている。
だからなのか、池に映る桜の影が寂しげだ。
「やっと見つけた」
「おはよう。どうかした?」
「今日はあまりカヨと離れないでほしい。できればいつもの部屋から出ないでほしい」
本当は傍にいたいけど、どうしても今日はどうしても行かなければならない用事があると、謝られたけど、よくわからない。
わたしはただの居候なのに。
♢♢♢
「桜子様は若旦那様のことはどう思っていらっしゃるのですか?」
突然カヨさんにそんなことを聞かれて吃驚する。どう思うって異性として?人間として?
そう考えていると、少し考えてからまた質問してきた。
「率直に申し上げて、異性としてどうお思いですか?」
今までそんなことを考えたことがなかった。いや、考えないふりをしていたのかもしれない。
カヨさんの質問の答えを考えれば考えるほど迷子になった気分になった。
「もし、少しでも喜子様が若旦那様のことをお考えでしたら、他の人が言うことには耳を傾けないでください。本当は私のような人がこのように申してはいけないのですが。どうか若旦那様の言葉のみに耳を傾け、彼の言葉を信じてください」
カヨさんがそういうや否や私たちがいた部屋の扉が開かれる。
「カヨがいないから探していたら、あなたこんなところにいたのね。どころでその変な髪の色をした方はどなた?なんとも形容しがたい方ね」
「せっかくわたくしたちが愚息に相応しくないほど素敵なお嬢様を見繕ているというのに、あの子がお見合いに来ないからわざわざ見に来たら何と言うこと。呆れて何も言えないわ」
「お母様、このようなことはあってはなりませんわ。良子様に対しても失礼ですもの」
「本当にそのとおりね、喜美子。桜様、良かれと思ってあなたを連れてきてしまったのに、不愉快な思いをさせてしまってごめんなさいね」
「いえ、全く気にしておりません。きっと旦那様も私との婚約を前にして不安になってしまったのでしょう。殿方にもそのような時期がありますもの」
「さすが良子様は言うことが違いますわ。こんなところに長居は無用です。もう帰りましょう」
そう一人の人が言うと3人は出て行った。
「お気を悪くされないでください」
「まるで嵐のような人たちだったわ。あの方たちはどちら様?」
「一番豪奢なドレスをお召しになっていたのが若旦那様のお母様、その次に豪奢なドレスをお召しになっていたのが若旦那のお姉様、そして可愛らしい色の着物をお召しになっていたのが若旦那様の奥方候補である良子様です」
なんとなくわかっていたけど、わたしと彼では身分が違うのだということにようやく気付いた。
だって普通、婚約者なんていないもん。
ふと外を見たらしとしとと雨が降り始めていた。
まるで私の気持ちを表しているみたい。