むりですやん
―みました。みましたよ。放送していた異世界アニメ
テレビの前で彼女は無表情だった。
「むりですやん」
思わず方言がでてしまうほどに彼女は混乱していた
「いやほんと、異世界いけないですやん、トラックにひかれるとかむり。ほんとむり。絶対痛い。」
「え?え?ほんとに?トラック?トラックなん。はあ、トラック。」
異世界アニメが終わり、10分。彼女はそんなことをずっとつぶやいていた。
異世界行くためにはしなないとだめなの?」
改めて事の重大さを理解し、彼女はつぶやいた。
異世界に行く方法なんて召喚とかおまじないとかそんなスピリチュアルなものだと思っていたのである。それが、どうだ。今見たアニメでは主人公はトラックに轢かれていた。
「死ぬのは無理じゃん。痛いじゃん、絶対。」
痛いのは嫌だから失踪。失踪してもこの世の中ではズグに見つかって晒されそうだから、異世界にいこうと思ったのに。これではあんまりだ。
何より彼女がアニメを見ていて気になったのは異世界に行ったあとのこの世界での肉体だ。死ぬのか、魂だけが異世界にいって肉体は生き続けるのか。
「肉体が死ぬなら痛みなんて一瞬だからいいとして。意識不明の場合よ。え、めっちゃしんどいやつやん」
嫌なことから逃げるためにを異世界にいこうと思ったのは、痛いのが嫌だっただけが理由ではない。他に迷惑をかけたくなかったからである。死ねば葬式やらなんやらで金がかかるし、突然死は色々と手続きが大変そうだと思ったのである。
失踪も同じく。色々と調べ、失踪届なるものを書いておけば警察には探されないとネットで確認はしたが、家族は探すだろう。ニュースにでもなったらそれこそ迷惑をかけてしまう。何より住所不特定になった場合の生活のしかたとかが面倒くさそうだった。
―それなのに
「もお、なんでえ~」
死なないと異世界に行けないなんて!!
「むりですやん!!!」