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硝煙の匂いが漂っていた。ばらまかれたのは鉛玉じゃなくて紙の糸だったが。
「今日はみんなのおかげで天文部の廃部が決まらずに済んだので、パーティをしたいと思います。レクリエーションとして、王様ゲームを考えていますよ!」
クリスマス用の紙帽子をかぶった月波がホワイトボードを叩いた。
隣では顔を赤くしてうつむいた二階堂が、赤い紙帽子とぐるぐる眼鏡のおもちゃをつけさせられて立っている。ちなみに全く抵抗しなかった。幼なじみだけあって、月波にかかると、飼い猫を扱うように弄ばれてしまうみたいだ。
カナンはいつのまにか『バイオレンス☆マジカルウィッチカレン』というアニメのカレンというキャラのコスプレをして、エアガンを振り回している。魔法使いなのに銃ばかり使って、暴力で全ての問題を解決するギャグアニメだ。
「エアガンはどっから?」
「知り合いに借りたのじゃ」
結城は足を組んでいる。思い切りパンツが見えてるけど、全く気づいてないみたいだ。黒って格好いいですね結城さん。すぐに目をそらした。
いきなりカナンがエアガンを発砲して、俺の顔に当たった。
「いってぇ!なにするんだよ、カナン」
「あ、あ、ゴメン、大丈夫?弾が入ってるとは思わなくて・・・・・・」、カナンが近づいてきてる。
「もうちょっとで目に当たってたし、当たってたら失明してたぞ」、俺はカナンに言った。
「目・・・・・・」
カナンが落ち込んでいたので、俺は気にしないと伝えた。
「銃なんてしまいなさい」、二階堂が言った。
「で、では気を取り直して、王様ゲームを始めたいと思います」
全員初対面なのに王様ゲームをいきなりやるのか?トランプが配られた。A、2、3,4、Kの五枚で、Kが王様だ。
「王様だ~れだ!」、月波とカナンが大声で叫んだ。
俺は3番だった。月波がカードをひっくり返して、にやついた。
「わたしが王様だよ。じゃあ、二番が、四番にひざまずいて靴に口づけしなさい」
月波は黒く残忍な笑顔を浮かべている。え?こんな人だっけ?ちょっといきなり変わりすぎだよね?最後の方もはや声変わってたよ?
「に、二番なんだけど・・・・・」、結城が震えた声で言った。
「私が四番みたい・・・・・・」、二階堂がこめかみに指を当てた。
「ねぇ、本当にあたしやらなきゃダメ?」
「本当だよ。早く、ね」
「くっ、うう。なんでこんな奴に」、結城がうめいた。
「私も同じ事を考えていたわ」
二階堂は足を上げて、顔を背けた。長いためらいの後に、結城が二階堂の靴に額を当てた。
「ん、まあいいかな」、月波が顔を傾けた。
またカードが戻された。
「王様だ~れだ!」
高い声が響く。
「あたし」、結城が感情のこもっていない声で言った。カナンが結城に近づいて、なにやら耳打ちをした。結城はうなずいて、笑った。
「三番が一番に抱きつく」
「わらわが一番じゃ」、カナンが言った。
自分の手札を見てみると、俺が三番だった。
「俺が三番なんだけど」
「さぁヒロ。わらわの胸に飛び込むといい!やわっこいぞ」
カナンが両手を広げた。されるのはいいけど、するのは恥ずかしいんだよ。俺は出来るだけゆっくりと近づいて、カナンに空で抱きついた。腕とか体とかはカナンから離してる。
「お?恥ずかしいのか?うりうり」
カナンが俺をぎゅっと引き寄せた。
「ほら見てみい。いいおもちゃじゃ。あっはっは」
「顔あっか!」、結城が笑った。
「レオも顔真っ赤になってたじゃろ」
「うっさい!」、結城が叫んだ。
カナンが俺のほおをつついてきた。
「ヒロはほんとにかわいい奴じゃ」
うりうり~と言いながら、カナンは俺の頭を抱きしめて、胸に押しつけた。柔らかい感触が顔の全部に広がっていて、息が出来ないし、顔が凄く熱くなってる。
「さぁ、次に行こう?」、月波が言った。カナンは俺を離した。
「王様だ~れだ」
「わらわじゃ」
カナンが赤いKを持っていた。
「四番がわらわのコスプレをするのじゃ」
「よ、四番よ・・・・・・」
二階堂が深くため息をついて、4を掲げた。
「早く着替えるの!そして男はここから出て行くんじゃ」
俺は言われたとおりに外に出た。そのうちに、なにやら声が聞こえて、中から呼ばれた。
教室の扉を開けると、魔女の格好をした黒の長い髪をした美少女が立っていた。黒い三角みたいな帽子が頭に乗っていて、両手で顔を覆って、うつむき気味に立って、ステッキを持っている。ずいぶんとミニなスカートで、黒髪に赤いリボンが映えていた。
「手から顔をどけるのじゃ」
「やだ!なんで私がこんな格好しなきゃいけないの!?」
「嫌じゃないのー!」
カナンと月波が手を引っ張って、両手をどかした。二階堂の真っ白な顔が赤くなり、瞳がうるうるとしていた。
「に、似合ってる?」、二階堂が聞いた。
「あ、ああ。凄く似合ってるよ」、俺はしどろもどろになりながらそういった。
「よ、よかった・・・・・・」
二階堂は胸をなで下ろした。やめて!勘違いしちゃいそうになるからやめて!そんな俺なんかに似合ってる?なんて聞いてよかったなんて言わないで!
「よかったって、あんた結構人のこと気にするんだね。もし似合ってないって言われたらどうしてたの?」、結城が適当に言った。
「似合ってない?」、もう一度二階堂は俺に聞いた。
ちょっと意地悪したくなって、面白いことを言ってみようかと思った。
「似合ってないって言ったら?」
「変・・・・・・?」
「かもよ?」
ちょっと面白かったけど、まずい。二階堂がみるみる内に涙目になってきた。
「嘘だって、変じゃないし似合ってるよ!」、俺は慌てて言った。
「うん、似合ってるって!冗談だよね!」
慌てたカナンがカバーを入れてくれた。
「ほんとに?」
「本当だって」
「ほんとのほんとなのじゃ」
二階堂が少し落ち着いた。ちょっと見た目と態度の割にやわらかメンタルすぎないですか?
「やっぱりおぬしのが似合うのぉ。おぬしとカレンってキャラは似てるし」
「よくわからないけど、ありがとう」
女子達が皆でわいわいしてるなかで、俺の方に月波が来た。
「ねぇ、とうかちゃんって友達が少ないんだ。ほんとはかわいくてかっこいいんだけど、気に入らない人や初対面の人に冷たく当たっちゃうんだ。だからヒロ君も友達になってくれると嬉しいんだけどな」、月波が小声で耳にささやいてきた。
「なに言ってるんだ?もう友達だよ」
俺はにこりとして答えた。月波も笑った。




