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次に起きたとき、皆が俺の顔をのぞき込んでいた。
「いてて、なんで俺が殴られるんだよ」
「だ、大丈夫かの?」、カナンが俺に手をさしのべてくれた。 彼女の手を取って、起き上がった。カナンの力は強かったけど、手はすごく柔らかかった。
「ありがと、カナン」
「どういたしましてなのじゃ」
カナンは帰宅部なのに結構力が強い。運動部に入ったことがないと言っているのに、女子運動部のたいていより運動が得意だ。というより、もはやほとんどの部活の奴よりほとんどのスポーツでうまくて無双しているから、他の奴らのメンツが丸つぶれだ。
「ごめん、急に立ちくらみがして・・・・・・」、結城が申し訳なさそうに俺に謝った。
「いいよ、そんなの」
「しかし、意外にウブなんじゃな。あやつ。おぬしを殴ったわけじゃなくて押しただけじゃ。それからしばらく真っ赤になって両手でうなりながら顔を隠しておったわ」、カナンが俺の肩を叩いて、笑っていった。
結城がうつむいたあと顔を上げて、笑いながら威圧感を出していた。
「あんた、今余計なこと言ったね」
「ち、違うんじゃ。これはほんの冗談なんじゃ」
「うるさいっ」
「ぎにゃー!はなせーっ」
結城がカナンに後ろから抱きついて、羽交い締めにした。じゃれあうみたいな、のほほんとしたキャットファイトが行われている内に昼休みが終わり、そして全ての授業が終わった。
俺たちは天文部の部室の前にやってきて、ノックをした。
「どうぞ、入ってください」
部室の扉を開けると、風が吹いていた。カーテンがはためいていて、陽が差し込んでいる。その陽に照らされていた窓のそばにたたずんでいたのは、長い黒髪の女の子だった。黒くて腰まで伸びる艶やかな長い髪をして、朝の雪原のように冷たく美しい顔立ち。細くてスレンダーな体格。手足がすらりと長い。身長は少し高めぐらいだろうか。窓から校庭を眺めていたが、なにを考えているのかわからないようにも見える、ミステリアスな雰囲気を持っていた。
彼女は着けていたイヤホンを外して、こちらを見た。
「さゆり。見つかったの?」
「カナンちゃんに頼んだら、三人も入ってくれることになったよ」
二階堂は優しい微笑みを見せた。
「ありがとう。私じゃ集められないから。天文部へようこそ。私が部長の二階堂冬歌よ。これからよろしくね」
二階堂は俺たちを席に座らせて、それぞれに名前とクラスを聞いた。結城の時は少し嫌そうな顔をしていた。結城も同じような顔をしていた。二人とも、仲が悪いのだろうか。
部室には天文部らしく、望遠鏡、双眼鏡、プラネタリウムの機械、それになぜか岩や砂のサンプルみたいな物が置いてあった。
「あなたは?」、二階堂が俺に聞いた。
「俺は二年C組の矢神弘人。カナンに誘われて入ったんだ。これからよろしく、二階堂さん」
「敬語はいらないわ。全員カナンの友達?」
「あー、たぶん結城を除いてそうだと思う」
「ではなぜ?」
「俺が誘ったんだ」
「そう。学校でも一番二番の不良がなぜこの部活に入ることになったかは置いておきましょう。結城さん」
「あたしが不良なのと、この部活に入るのとどんな関係があるわけ?」
「この部活でもそういう素行をされると困るということなの」
「あたしがここで暴れるってこと?そんなことしないよ。あんたみたいな人にはわかんないかもしんないけど」
二階堂は深いため息をついた。
「あなた、学校でも問題児じゃない。いい?きっちりと勉強をして、いい成績を取って、いい大学に入ることがきっちりとした社会人への近道なのよ」
「あたしは馬鹿だったけど、ちゃんと勉強して港区からこっちまで来てるんだ。成績は、あんたほどじゃないだろうけど結構上の方だし」
「やめてくれよ。なんでいきなり顔合わせたすぐ喧嘩を始めるんだよ」
二階堂は表情を戻して、結城は不満げな顔をしたままだった。カナンと月波が顔を合わせて、どうしよう、とささやいていた。
「まぁいいわ。おとなしくしていてもらえるのなら」
確かに、キツい性格をしているかもしれない。真面目なんだろうなとは思えるけど、いきなりその発言はちょっとどうかと思いますよ!
二階堂は一人だけ立ちあがって、説明を始めた。
「ようこそ、天文部へ。私は、天文部部長の二階堂冬花。冬に花と書いて、とうかです。普段は活動があ
りませんが、部室は好きに使えます。すべき活動は、文化祭の展示と長期休みの際の天体観測、地学部の活動だった地層採取、そして部の旅行などです。この部活は天文部と地学部などが統合されて、本来ならその複数の部活がすべきことをしますが、それでもほとんど活動はありません。自由です。それ以上に言うことはありません。ですが私が部長なので、私に従って貰います。以上」
二階堂は席に座った。月波が代わりに立ち上がって、話し始めた。
「ちょっと、とうかちゃん。もうちょっと話してよ。ということで、今日はレクリエーションをして、その後遊びに行きましょう!」
「さんせーい!」、片腕を上げて、カナンが元気に叫んだ。
「で、この後どうする?」
「ボ、ボウリングに行くのはどう?」
「私はビリヤードがいいわ」、二階堂が言った。
「その前に~、歓迎会だよ!」
月波が赤の帽子をかぶった。
季節外れの、クリスマス帽だ。




