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星に、願いを。  作者: 桜花陽介
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3

そのうちに国語の授業が始まった。スマートフォンでツイッターを開くと、カナンのアカウントからダイレクトメールが飛んできていた。


「ねぇ、大丈夫?結城恋織って結構なヤンキーらしいよ」


「そうだな。だけど、普通に話せるタイプだと思う」


「そうだけど、でも気をつけた方がいいよ!」


「わかってるって」


「わかってない!」


その後に怒った顔文字が送られてきて、カナンを振り返ると舌を出して目をつぶっていた。ため息をついてスマートフォンをしまった。カナンは時々よくわからない行動をする。かわいいから、皆喜ぶだけだけど。


今度は横から視線を感じた。結城が俺をじっと見つめていたのだ。そして、俺に顔を近づけて、ささやいた。


「柊とあんたって、仲いいの?」


「まぁね」


「ふーん。ねぇ、あたし教科書忘れちゃったんだけど、見せてくんない?」、小さなささやき声でずっと喋っている。授業とか他人に配慮するタイプなんだ、とまさかの感心をしてしまった。


「え、えっと。どんな教科書ですか?」


「どんな教科書って、あんた面白いね。教科書は教科書でしょ。国語の教科書」


「わかりました」


「あたしのこと、レオって呼んでいいよ。あんたのこと結構気に入ったから、許してあげる。それと敬語は禁止。むずがゆいよ」


「レオ?凄い読み方だ」


「父親がつけたんだ。もうあんなクズはいないけどね」


結城が目を細めて、自嘲するように笑った。それが俺の気がかりだった。たぶん、母子家庭なのだろう。

知り合いの母子家庭の子供は、皆大変そうだった。だから、結城も荒れているのかもしれない。


やめよう。人の知らない部分の推測なんて無粋だ。勝手に決めつけても、いいことはない。

授業をしていくうちに、昼休みになった。


「ヒロ、ちょっと呼び出したい場所があるのじゃが」


「決闘?それとも果たし状?」、俺はふざけて答えた。


「そう、決闘じゃ。早くきたまえ、矢神君!」


カナンは俺の肩を叩いた。俺は席から立ち上がろうとした。そうすると、結城が俺に手招きをしてきた。

俺が結城に近づくと、結城が耳元にささやいた。背筋がぞくっとして、結城から離れて、耳を押さえた。


結城は怪訝そうな顔をした後、はっとしたように顔を少し紅くして、咳払いをした。


「なんなのじゃ、レオちゃん」、カナンがふくれっ面になった。


「なんでもない!」、結城は俺をどついた。


カナンは俺を掴むと、すぐに立たせて、ある場所へ向かった。沢山の階段を上ったり下ったりして棟を変えたりして、ある部屋の前に立った。


「どうぞこちらへ、お嬢様」、カナンは扉を開け、執事のようなポーズをした。


俺が教室に入ると、茶髪で肩より髪が短くて、おどおどした感じの女の子がいた。前にどこかで見たことがある。かわいらしいなとは思って目を惹かれたけど、名前は覚えていない。身長は普通ぐらい、体型も普通ぐらい。声は小さかったような気がする。たぶん人見知りするタイプだと思う。でも、カナンとか、結城ぐらいには顔立ちが整ってる気がする。あまり男子での話は聞かないけど。


カナンがその女の子の肩をつかんで、笑った。


「この子は月波早百合で、わらわの友達じゃ!」


月波さんはふふっと笑った後、向き直った。


「どうも。矢神君、突然の話なんだけど、天文学部に入りませんか?」


月波さんは消え入りそうな声で言って、俺を見上げては、視線を外したりした。


「天文学部?何をするんですか?」


「それはわらわが説明しよう。簡単に言うとほとんど活動がない、よくアニメである謎部活みたいなものじゃ!部室という遊び場がもらえるからもっと楽しめるぞよ!それに、屋上も好きに使うことが出来る。どうじゃ?乗らない手はなかろう」


「活動もしてるよ。長期休みの時に学校に泊まって星を見ることが出来るんだ。別に、自由にいつでも見ていいんだけどね。泊まることは休みの時じゃないとダメだね。先生も大変だし。どちらにせよ、その日はほとんど晴れたことはないんだけど。それで、上級生が卒業しちゃって、廃部になりそうなの。わたしの他は二階堂さん一人しかいなくて、あと三人必要なんだけど・・・・・・」


「二階堂って、あのお嬢様の」、俺は答えた。


結城と二階堂とカナンはこの学校のこの学年で最も有名な三人の女子だ。

二階堂は名古屋の東の方の生まれで、凄く家が広い金持ちらしい。親が資産家だったか、企業家だかは知らないけど。


家の広さに反比例する心の狭さだとか、性格がきついとか言われている。代わりにルックスと知力は家の広さと同じだとか噂の美人らしい。実際に見たことはないけど。たぶん、入学式の総代で、後ろ姿だけを見たことがある。


「二階堂さんはいい人だよ。わたしは二階堂さんと幼なじみだけど、言われてるほどきつい人じゃないよ。おうちにも遊びに行かせてもらってるし、ちょっと堅くなっちゃうのは人見知りしてるだけだよ!」、月波が熱を込めたしゃべり方で、叫んだ。


「あ、うるさかったですね。ごめんなさい」、そして、ぺこりと謝った。


「さゆさゆのいいところはそういう所じゃ。人のために本気になれるのはかっこいいことじゃ。それに比べてこいつは」


カナンは俺をじーっと、じと目で見つめてきた。ちょっと?心あたりが0なんですけど?カナンさん?


「俺だって本気になれるよ」、俺は言った。


「あの、お願いします」、月波が頭を下げて、俺に頼んだ。


「わかった。俺も入るよ。じゃあ、後一人はどうするの?」


俺は少し考えた後、思い当たる一人を考えた。


「うん。一応一人誘えるかもしれない」、俺は言った。


その後、全員でその場所まで行った。教室の近くの階段に座り込んでいる、たった一人で音楽を聴いている金髪の女子。一年の時も、彼女はそこが定位置だった。その時も、一人だった気がする。誰も寄せ付けようとしていないのかもしれない。歩く棘みたいだ。


俺は近づいた。


「結城、ちょっといいか?」


結城はけだるげにイヤホンを片方だけ外した。


「なに?」


「実は天文部っていう部活に結城を誘いたいんだけど、入るか?」


「天文部?あたし、バイト忙しいんだけど」


「バイトは大丈夫だよ。この部活、活動に参加しなきゃいけないときは年に数回しかないし。あとは自由みたいだ。でも部室はあるから、自由にくつろげる」


「ふーん。悪くはなさそうだけど。で、なんであたしが入らなきゃいけないの?」


「あと一人入部して貰わないと、廃部になるから」


「わかった。いいよ、別に。入ってあげる。でも一つ条件があるからね」


「条件?どんな?」


結城が立ち上がって、俺にウィンクをした。


「いつかスイーツを、あんたのおごりでね」


「そんなことでいいなら、いつでも」


「へー、そんなこと言っちゃうんだ。超高いの頼んじゃうかもしれないけど?」


「たぶん、ソシャゲに課金するよりは安いし」


こういうタイプでも、やっぱり甘いものとか好きなんだな。やっぱり女子ということか。

大きなため息が急に聞こえた。川中が俺の後ろにいた。筋肉質、脂でべたついた長髪、長身で、曇り硝子みたいに汚れた眼鏡をかけている。


「おい、どけよ」、機嫌の悪い声だ。


結城が軽く眉をしかめて、口を開いた。


「どけってなに?言い方ってもんがあるんじゃないの?」


「は?どっちでもいいだろそんなの」


結城が怒って、立ち上がろうとした。立ちくらみでもしたのか、急に結城はバランスを崩して、結城が俺に向かって飛んできた。結城にぶつかった。目をつぶって、俺と結城が倒れた。


手に柔らかい感触があって、目を開けた。それは二つの柔らかな胸だった。結構大きいな。場違いなことばかり頭に浮かんでくる。結城の顔が上に見えた。結城の顔がどんどん真っ赤になっていった。川中が鼻で笑って、階段を上がっていった。


「騎乗位じゃな・・・・・・」


カナンの声が聞こえた。


「触んな、死ねぇ!」、結城が叫んで、俺の意識が消えた。


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