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BB弾だらけの居間に、全員座った。月波がBB弾で滑って、頭を打ったのは痛そうだった。カナンはライフルをソファーに立てかけて、ため息をついている。テレビの画面には銃を持ったキャラが映っている。
「私が学校休んじゃいけないわけ?」
「ずっと、休もうと思ってたんじゃないのか」
カナンは口を結んで、顔を上げた。
「やっぱり、そういうつもりだったんだろ」
またうつむいて、長い沈黙が訪れた。そしてカナンが口を開いた。
「私、もうあんな目で見られたくない。私が花田を突き飛ばしたとき、皆の目が凍ってた。気が狂った人を見るみたいな目で、私を見てた。あれじゃ、昔とおんなじだよ。あの中学の時の、真っ暗闇みたいな気分だった」
「だからって、不登校になることないだろ」
「ヒロにはわからないよ」
「本当に、学校に来ないつもりだったのか?」
「違う!違うよ・・・・・・」
カナンは叫ぶように声を張り上げて、また声をしぼませた。
「でも、もう疲れたんだ。私、精一杯頑張ったよ。夜になると、それを思い出す。それで寝れなくて、毎日毎日、ずっと繰り返し。ちょっと気持ちが救われても、また元に戻る。戻る、戻る・・・・・・」
焦点が合わないような視線で、小声で同じ単語をずっと繰り返し始めて、そのうちやめた。だいぶ追い詰められていて、見ていてかわいそうだ。どうやったら少しでもマシにしてあげられるんだ?夜になるたびにそうなっていたら、どうしようもない。毎日毎日苦しんでいたら、生きることすらつらくなってしまう。
「ずっと元気なふりしてきたけど、やっぱりもう限界。皆にばれちゃったし。今じゃ、学校に近づくたびに手が震えてくるんだ。転校するよ」
皆が固まった。そこまで思い詰めていたなんて思ってもみなかった。確かにそうだ。昔、苦しい思いをしていたもんな。俺は甘かったみたいだ。
「あたしは、あんたがどれだけ苦しんでるかなんてわかんない。でも、あんたがいなくなったら、あたしは悲しい。だから、やめないでほしい」、結城はそう呟いた。
「残酷だよ、それって。無理をするのは、私なんだから」
「そうだね。あたしは、ただ言うだけだもんね。わかってる。あたしはきっと、自分勝手なんだ。でも、あたしはそんな風に言って、中学を中退しちゃった友達がいるんだ。クソみたいな男に遊ばれて、孕まされて、捨てられた子なんだ。クソみたいな先公が中退させてさ。周りは皆ビッチ呼ばわりして。で、男の方は無事卒業して、高校行ってる。確かその高校でもまた、女の子と遊んでは捨ててるみたいだ。で、その子は、風俗で働いてる。あたしはそのとき、なんにもしてやれなかった。だから、悔しいんだ。なんとかしてやりたいのに、いつもどうしていいかなんにもわからない」
結城は目を伏せて、唇をかみしめた。
「ねぇ、カナンちゃん。カナンちゃんは、本当に高校を変わりたいの?」、月波の声は落ち着くような、優しい色だった。
「変わりたくないよ」
「じゃあ、私達になにか出来ることってある?」
「わからない」
「どこか、行こうか。気分を変えよう」、俺はそんなことを言った。
「昔、いつも家族がいないとき、行ってた場所があるんだ」、カナンが笑った。
無理をしたような、そんな笑顔だった。




