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二階堂の家の、さっきのメイドさんが車を運転してくれた。
「ここでいいわ。風間」
風間と呼ばれた、黒髪のメイドさんは無言で頷いて車を止めた。一番近くの駅で、そこから全員で歩いていると、カナンの家の前についた。いきなり家から怒ったような声が聞こえてくる。
「死ね、死ね、死ね、死んじゃえ!また戦車かよ!アホ!ちゃんと狩っとけバカ!」
カナンの声だけど、いつもと全然違う。ストレスたまってるんだろうかと思って、チャイムを押すのをためらった。
「あれ、カナンの声だよね?」、結城が呆れたような声を出した。
俺はカメラを指でふさいでチャイムを鳴らした。急に声が止まって、長い沈黙が流れた。
顔を見たら、きっと出てこない。
時が止まったみたいに、静かだった。
「居留守か?」
もう一度チャイムを鳴らした。だがなにも起こらなかった。いきなり扉が開いて、表情の無い、ぞっとするほど冷たい顔をしたカナンが出てきた。そしてその目はすぐに見開かれた。カナンは、扉の外に出て、背中で扉にもたれかかった。
「・・・・・・なんで来てるの?」、道路みたいに抑揚がない、平坦な声だ。
「皆、カナンを心配してきたんだ」
「心配しなくていいよ、もう。私は疲れた。帰って」、家の中に入っていった。
また長い沈黙が流れた。
「ねえ、そんな気ないみたいだけど」
結城は煙草の箱を出そうとしたが、二階堂にそのまま箱をポケットに戻された。
「解錠の業者呼びましょうか?」、二階堂が言った。
ちょっと解決法が力業過ぎるよね?そういうのはちょっと困る。怒ったらどうするんだ?いや、もう怒ってるか。余分なことを言ってしまった俺に。
またチャイムを鳴らした。
「ごめん。カナン、入れてくれ。話をさせてほしい」
二階の窓が開いた。ベランダから、カナンは俺たちを見下ろしている。
「話すことなんてないよ。放っておいて」
「そういうわけにはいかないんだ。このまま、学校ずっと来ない気なんじゃ無いかって皆心配してる!だから開けてくれ!」
いきなりベランダから銃がにゅっと伸びてきて、足下にものすごい勢いでばちばちと当たった。エアガンを連射で撃ってきたみたいだ。そうとう怒ってる。
「かえって!次は当てるよ!これは18禁だから、大怪我するからね!」
カナンが身を乗り出して、こっちに狙いをつけている。ライフルみたいな形をしていて沢山ばらまけるみたいだ。さらに形が映画の特殊部隊の銃みたいにごてごてとしていて、改造されてるのがわかる。またばらばらと撃ってきて、俺たちは物陰に隠れた。
「ねぇ、あたし達なにやってんの?」、結城が呆れて呟いた。
「うう、肌が痛いよ~」、月波が腕を押さえている。
「凄いの持ってるわね」、二階堂が言った。
皆思い思いの感想を口にしていたが、こんなサバゲーごっこをやっている場合ではない。
身を乗り出そうとすると、またものすごい量が飛んできた。
「なぁ、俺たちは話したいだけなんだ」
「元はと言えば皆が原因じゃん!私にいきなり後ろからちょっかいかけてきたり、広めたのも皆だし、栄につれてったからこんな風になったし、クラスでばれたのも皆のせいだよ!」
それを言われるとどうしようもなかった。ほとんどは俺たちのせいだ。
「ごめん!でもそんなつもりじゃなかったんだ」
「つもりで済んだら警察いらないよ!」
またBB弾が撃たれた。いきなり月波が飛び出していって、両手を広げた。
「ねぇ、カナンちゃん!一緒に話し合おうよ!武器を捨てて」
カナンはBB弾を月波の靴にぴしぴしと当て続けた。
「やめて、やめて、やめて、うぅ~」、月波はたまらずこっちに走って戻ってきた。
「実銃だったら死んでたわよ」
辺りを見回すと、隣の家の近くに傘が落ちていた。傘を取って、服をかぶせた。
「これで行けるんじゃないか?」
「いいじゃん。それで突っ込むわけ?」
「でも全員はカバーできないわ。上から撃っているもの」
「じゃあ、俺が最初に行くよ」
他の三人は頷いた。
俺は服をかぶせた傘をカナンに向けながら、玄関まで走り込んだ。
傘をたたんで、三人の方に投げた。それを皆が繰り返して、全員玄関についた。
鍵が空いている場所を探すと、一番広いガラス扉のところが開いていた。開けて、靴を脱いで、家に上がった。居間だった。階段を下りてくる音が聞こえた。傘の盾をセットして、俺を先頭にして皆が続く。扉が開いてカナンがライフルを乱射してきた。
足を狙ってきたみたいで、脛が痛い。冗談抜きで痛い。もう涙目になってきてしまってるぐらい本当に痛い。
「往生際が悪いよ、あきらめなよ」、結城が言った。
「うるさい!ストレスたまってるときに、こんなことして!もう皆死んじゃえ」
もう足が耐えきれなくなってきてる。マジで痛いんですけど。容赦ないよ!いきなり二階堂がソファーに向かって飛び込んだ。
二階堂は手にクッションを持っている。二階堂が結城と月波に手招きした。二人ともソファーに隠れた。二階堂がこっちに目配せしてきて、カナンとクッションを指さしたのを見て、頷く。投げるから、突っ込めっていうことらしい。
二階堂がクッションを投げた。俺はカナンに突っ込んだ。カナンがライフルを撃つ握りのまま、水平に振って、肩に当てるところで殴ってきた。まともに顔に当たってひっくり返った。代わりに二階堂がライフルを抑えた。
「もう諦めてくれよ」、俺はひっくり返ったまま言った。
カナンはライフルを放して、ため息をついた。




