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昼休みがやってきて、カナンがクラスの何人かに取り囲まれていた。
「おい、柊。お前ビリヤード場で叫んでたんだって?厨二もいい加減にしといた方がいいだろ」
サッカー部のエース、花田が半笑いでカナンに聞いた。今更ビリヤード場での情報が皆に回ったらしい。意外と噂っていうのも、伝わる速度が遅いみたいだ。今度はこっちかよ。もう勘弁してくれ。
カナンは無理をした笑いで、「ごめん」、と言った。
「いくらキャラ作りだとしてもちょっとキツい所あるぜ。封印されたなんとかって、痛すぎだろ」
心ない言葉だ。あれは全て自分の傷を、他人に見せないための仮面に過ぎないのに。
カナンは黙って、うつむいた。自分の視界が急に明るくなったり、暗くなったりした。怒りだ。誰の?俺の怒りだ。
「なにがいい加減にしろだ!痛すぎるってなんだよ!」
俺は立ち上がって、花田に向かって叫んだ。
「え?いや、なんだよ急に」、花田は困惑した顔をしている。自分がおかしいのもわかってる。だけどもう、限界だ。
「お前は、怖かったら黙ってるのかよ!」
「は?」
「ヒロ!」、カナンが叫んだ。
「その話はなしだよ」
怒りに我を忘れて、広まって欲しくないってことを忘れていた。ヒステリックな怒り。自分を時々制御できなくなってしまう。最近、疲れるようなことが多かったからか?くそ、また迷惑を掛けてしまった。
「どういうことだ?あ、まさか目隠しされるのがそんなに怖いのか?」
花田が勝手に頷いた。そしてカナンの目に両手を当てた。
カナンが金切り声で叫んで、花田を押し飛ばした。花田は倒れて机の角で後頭部を打った。花田は動かなくなった。そして、頭から血を流している。皮膚を切ってしまったらしい。カナンは唖然として、自分の手を見つめている。
周りが古びた池みたいに静まりかえった後、ゲームセンターみたいにざわつき始めた。
「おいおい、頭おかしいんじゃねえの。くそ、花田動かないな。保健室連れてくよ」、花田の友達数人が花田を連れていった。
「ちょっと、これは酷いよ」、誰かが言った。
「っていうか柊さんおかしいんじゃねー?近寄らない方がよさそ」、林の嬉しそうな声が聞こえた。まるで、待ってましたと言わんばかりに。
女子達の心ない言葉が聞こえた後、カナンはどこかへ走り出した。また俺は、余計なことをやってしまっていたようだ。
「あんた、なにやってんの・・・・・・」、結城が俺に向けてあきれた声を出した。
笑い声が聞こえて、後ろを振り返ると川中が笑っていた。取り巻きに指をさしながら笑っていたが、取り巻きは笑うどころでは無かったようだ。俺が川中をにらむと、川中は両手を広げた。人の不幸で笑うこいつに苛ついたが、今は気にすることじゃなかった。こういう奴は世の中にいくらでもいる。
「やっぱ前から思ってたけど、柊さんってちょっとやばいよね。いつもあんな感じだし、痛いっていうより頭の病気じゃない?」、クラスメイトの女が言った。
結城が机を蹴っ飛ばすと、女が結城の方を見た。
「あのね、あんたらいい加減にした方がいいよ。あたしのダチをそんな風に笑ったら、許さないから」
結城はクラスをじろりとにらんだ。女は驚いて、黙った。
「あんたも!」、結城は川中に向かっていった。川中はにやつきながら、両手を挙げた。カナンがどこに行ったか全くわからなかったけど、追いかけようとしたら、結城が俺の肩を掴んだ。
「あんたじゃカナンに追いつけない」
すぐに予鈴が鳴って、教師がやってきた。さっきの顛末を教師に伝えて、授業が始まった。カナンは戻ってくる気配が無かった。そして一日が終わった。
それから数日、カナンは学校を休んだままだった。




