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二時間ほどたった後、カナンの家に戻った。電気はちゃんと復旧したみたいだ。
居間のソファーに全員が座った。カナンが四つのコップに、熱い紅茶を注いで持ってきた。外はまだ強い雨が降っている。雷は少し収まったみたいだ。二人の震えはもう無くなった。申し訳ないことだけど結構二人とも可愛かったから、雷が収まったことをちょっと残念に思ってしまった。
「今日は本当に天気が悪いね」
「うん。来てくれて本当に助かったよ」
「誰かから聞いたけど、川中って西区に住んでるんだろ。遠くにいる俺じゃなくて、あいつを呼べばよかったじゃないか」
「あんないつキレるかわからない奴呼びたくもないし、来るわけもないよ。私はあいつのこと好きじゃないし、あっちもそうだろうね」
冬の空みたいにシニカルな表情で、吐き捨てるような言葉を投げた。
「け、結構ネット上だと親しそうに見えたけどな」
「その場だけの友達っていうのがあるんだよ、女の子と世の中には。あっちもそう思ってるよ。それが楽ってこともあるんだ」
俺は川中のことをフォローしてなかったけど、Twitterではそれなりに会話をしていたみたいだし、そんな風だとは思わなかった。第一、二人ともネットだと実際よりももっと朗らかな感じだ。女の子ってこわい。でも、この場合、両方か?
二階堂と月波は引きつったような顔をしていた。ネットに疎そうな彼女たちとは無縁の世界だったらしい。
「ね、ねぇ。わたしとカナンちゃんって、ほんとに友達だよね?」、月波がおそるおそる聞いた。両手をにぎにぎして、ちょっとキョドっている。
「本当だよ」
「ほんとに?」
「本当だよっ」、カナンはにこりとした。今度は、屈託のない笑顔をした。
カナンはテレビをつけて、ゲームを起動した。FPSで、飛び跳ねたり光線銃を撃ったりしない正当派だ。俺もそれを持っているし、時々一緒にやっていた。
「人を撃つゲームって楽しいのかしら?」、少しだけ毒気が含まれた言い方だ。二階堂はそういうものが好きじゃないのかもしれない。たぶん、道徳心が高いんだろうな。
「うん。楽しいよ。特に、敵を嫌いな相手と重ね合わせるときが」
カナンは、感情のない顔で呟いたし、それで二階堂は乾いた愛想笑いをした。
「結構、毒気があるのね」
「もちろん。薔薇には毒があるからね」、にこりと笑った。
しばらくすると、キャラクターがやられて、カナンはコントローラーを放り投げた。
「あーあ、やられちゃった」
「人を撃つっていうのは、そういうことよ」、二階堂が言った。
カナンは鼻で笑った。鼻で笑われると、凄く馬鹿にされてる気分だ。
「そうかもね。傷つけたら傷つけられる。私に返ってきてるだけかもね。昔は嫌な奴だったと思うよ、ほんと」
そして、ゲームを終えて、ソファーに横たわったみたいだ。
「自業自得とか思ってるのか?」、俺は聞いた。
自業自得という言葉は、理不尽だ。だいたい、いつもやったことと全然関係ないことで本人は苦しんでる。それに対して、全く関係の無い、なにも知らない他人が、知った顔でそうやってその言葉を言ってくる。そいつらにはなにも関係ない。本人がそんな言葉で勝手に納得して、苦しさを受け入れる必要もない。
「カルマだと思ってるよ。巡り巡って還ってくるって」
「神を信じてるんだな」
「うん。そっちのが納得できるよ。運命なら、なにも気にする必要はないんだから。なすがまま、あるがまま。全てを受け入れられる。そうやって、昔の人は死や苦しみや悲しみを受け入れてきた」
「自分が苦しんでることに、理由をつけて納得したいだけじゃないのかよ」
カナンはソファーから腰を起こして、こちらを見た。目を見開いて、眉を上げている。
「どういう意味?」
「今カナンが苦しんでることに、そんな理由なんてない。受け入れる必要もないよ。昔カナンがなにをしたのか知らないし、別に教えてくれなくてもいい。でも、今そういう風になるのとは、昔のこととは関係ないよ」
「じゃあ、なんでこんな風になっちゃったんだと思う?そっちのが、残酷だよ」、カナンは呟いた。
「治そう。また、こういうことが起きるかもしれないんだ。俺たちが行けない日もあるかもしれないんだ」
「前もそういう日はあったよ。ママやパパは協力してくれてるけど、それでもこういう日はあった」
「そういうときはどうしてたんだ?」
「懐中電灯をつけて、震えてた」
「これからの人生、ずっとそうするつもりかよ」
「それは嫌だけど・・・・・」
「じゃあ、やろうぜ。なんとかしてみよう。今まで暗いところはあんまり行ってないだろ?」
「うん」
「明日、夜の街を歩いてみよう。夜景とか見たりさ、みんなで遊んだりすればきっと暗闇が怖くなくなるはずだ」
身勝手な推測で、勝手に紡いだ希望的観測だった。証拠もなにもないし、そんなことしたところでそうなるかなんてわからない。治せるかなんて言われたら、わからない。だけど、やらないよりはいいはずだ。
その後しばらくの間、学校のこととか、勉強のこととか、いろんな事をソファーの上で談笑していた。
夜のことを提案したのは俺だったけど、場所のことはよく知らなかった。俺の知り合いの中で、一番詳しそうなのは川中だろう。たぶんあいつなら、夜の街を練り歩いているはずだ。これも勝手な推測だけど。
川中にTwitterのダイレクトメールで聞いた。
「夜景が綺麗な場所を知らないか?」
すぐに返信が帰ってきた。あいつはTwitter廃人だし、不思議じゃない。
「知ってるが、場所の指定はあるか」
「名古屋市内で、できれば中心部がいいな」
「数個ある。タダなのはオアシス21だな。久屋大通から栄のラインで遊んでりゃいいだろうな。近くには錦があるが、治安が悪いからあまり寄らない方がいい。錦三丁目は酷いからな」
「ありがとう」
「まさかまた柊となにかするつもりか?」
「皆で遊びに行くだけだ」
「面倒なことするなよ。おれに降りかかってくるのが見え見えだ」
Twitterを終えた。そして、皆でTwitterのアカウントを教えあった。
「じゃあ、みんなで朝まで遊ぶわよ!」、二階堂が笑いながら手を上げた。




