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星に、願いを。  作者: 桜花陽介
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 家を出てしばらく立つと、カナンはだいぶ落ち着いた。街灯や、他の家の光がありがたかった。近所のファミレスを探して、そこへ向かった。月波と二階堂がやってきてくれるらしい。二人とも千種区だから、西区まではそれなりの時間がかかる。月波は二階堂の家で遊んでいたようで、二人とも、二つ返事でここまで向かってくれるみたいだ。もうすぐ、着くだとか。


 港区にいる結城については、電話番号やSNSを知らなかった。今度聞いておかなきゃな。


 ファミレスで長いこと、ドリンクバーの雑な組み合わせで作ったジュースを飲んでいた。コーヒーはまだ子供舌だから、ブラックは苦くて飲めないし。


 苦いものより、甘い物が飲みたい。人生だって、好きこのんで嫌なことばっかりやる必要なんてない。苦さなんていらないよ。


 俺とカナンの会話はその間ほとんどなかった。なにも話さない。ただ静かな時間。時々目が合って、そらすぐらいだ。周りの女子高生の会話だけが耳に飛び込んでくる。


  そうしていると、二階堂と月波が店の中に入ってくるのが見えた。俺は手を上げて、二人にアピールした。二人ははっとした顔を見せた後、こちらへ向かってくる。


「あーあ、チャンスだったのにな」、頬杖をついて、カナンが呟いた。カナンはストローで、アイスコーヒーをすすっている。苦くて真っ黒な、ブラック。


「チャンスって?」


「なんでもないのじゃ」、カナンはいつもの口調に戻った。また、取り繕うみたいだ。たぶん、二人はそんなこと望んでいないだろうけど。


 そして、月波はカナンの隣に、二階堂は俺の隣に座った。


「こんばんは」、二階堂が言った。


「カナンちゃん、大丈夫だった?」、月波が言った。


「本当に申し訳ない。こんな時間に呼び出すことになって、迷惑きわまりなかろう」


「いいよ、別に。部活のことだってお世話になったしね」、月波はにこやかに明るく言った。


 全員で、食事の注文を頼んだ。俺は和風チキンとご飯、二階堂は和風のパスタ、月波はそびえ立つみたいに大きなパフェ、カナンは国旗つきのお子様ハンバーグセットだ。


「ねぇ。もしあなたさえよければ、そんな風になってしまう理由を教えてくれないかしら。本当のことを聞かせて。嘘はいらないから」、二階堂が真剣な顔で、カナンを見つめた。


「嫌だと言ったら、どうするの?」、カナンは仮面を捨て、窓の外を見た。もう仮面なんて被っても、意味なんてない。


 雨が降り続けている。二階堂は長い黒髪をかきあげた。耳にかけたわけじゃなくて、ただ搔いただけみたいな、そんな仕草だ。


「あなたの知り合いから、昔の話を聞いたわ。野球のエースピッチャーだったって。凄いわね。スポーツが得意だったのは、そういう理由だったみたいね。でも今は野球が嫌い。そして、昔は今のあなたのようではなかった。今のあなたは、ムードメーカーの人気者だけど、昔はそういう性格じゃなかったんでしょう。小さい頃、野球クラブにいたときは」


 ほとんど声を出しているみたいな大きさのため息をした後、カナンは顔を上げた。


「はぁ。あいつも口軽いなぁ。信じられない、ほんっっと信じらんない」


「昔は暗いところも、怖くなかったし、カラコンも入れてなかったみたいだな」


「まぁね。でも今は違う。昔の話なんかしてもどうにもならないよ」


「あの人の話を聞いてる限り、小学校ではなんにもなかったんだよね?じゃあ中学の時になにかあったの?」


「ったく、余分なことばっかり言いやがって。あの野郎、今度会ったらただじゃすまさない」


 カナンが足を組んで、急にテーブルに肘をついた。ヤンキーみたいな口調だ。そして、急に笑った。だけどそれは、磨りガラスみたいに曇った笑顔だった。


「これが小さい頃の時の私。こういう感じで川中とか補欠の奴とかをこづき回してたんだ。あいつ、昔は小さくて坊ちゃんみたいな感じで補欠だったんだ。今じゃ逆の性格みたいになってるけどね。まぁ、あいつは殴られなきゃ殴らないし、私の方が普段から人にちょっかいかけたり、怒鳴ったり、手を出したりしてたから最悪だけどね」、そして、また元通りに座った。


「雨の中こんな所まで来てくれて、ありがとう。でも中学でなにがあったかは、話したくない」


「でも、私たちはそのために来た」


「ごめん、皆まで呼ぶ気はなかったんだ。悪いことをしたと思ってるし、迷惑かけてごめん。だけど、言いたくないよ」


「もし、あなたが言わないのなら、川中から聞き出すわ。たぶんお金を払えば教えてくれるでしょう」


「やめて」、カナンはその後悔しそうに口をつぐんで、じっと二階堂を見つめた。


「ねぇ、カナンちゃん。わたしはいつもカナンちゃんの味方だから。もし話したくないなら、話さなくていいけど。困ったことがあったらいつでも呼んでね。絶対、助けるから」、月波はそう言ってカナンの手を軟らかく握った。


 そしてまた外が光って、酷い雷が鳴った。空が叫んだみたいな音だ。カナンが隣の月波に抱きついた。俺の隣の二階堂は、震えながら両手で頭を抱えた。


「ふふっ、あはは」、月波が笑った。


「なにがおかしいの」、二階堂は顔を赤らめた。


「どうしてわたしがとうかちゃんの家に泊まってたか知ってる?」


「まさか、二階堂は雷が怖いとか?」


「うん、かわいいでしょ」


 二階堂の顔が赤くなっていって、すぐにそっぽを向いた。だけど、肌が白いせいでほほの紅が目立ってしまっている。


「誰でも怖いことはあるんだよ。たまたま、カナンちゃんは暗いところが怖いっていうだけなんだよ」


「うん、ありがとう!」


 カナンと月波は笑いあった。


「じゃあ、今日はわらわの家に泊まっていくのじゃ」


 そして、夜ご飯が運ばれてきた。



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