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星に、願いを。  作者: 桜花陽介
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土曜日がやってきた。結局金曜日は二階堂の習い事と結城のバイトでなにも進まなかった。だが天気だけは変わっていた。酷い悪天候で、雷雨がやってくるとのことだ。


土曜日の昼は布団に大の字になって寝転んで、カナンのことを考えていた。高校生活で、何か刺激的なことを求めていた。俺はカナンの不幸に対して、自分の刺激のためだけに解決しようとしていたのかもしれない。カナンのことなどかけらも考えず。


 ずっと昔は、あの空の向こうに、宇宙人がいて地球に来ているかもなんて考えていた。だけど、そんなことがないことはもうわかってしまっている。幽霊も妖怪も超能力者も魔法使いもいない。なんて刺激の無い世界なんだろう。それで代わりに、どこかに刺激を求める。それを日常に求めると、人間関係にそれを求めるようになる。それで、俺はこんなことをしたのか?つまらない奴だ。


酷い雨が降り始めて、空が曇りだした。俺の心みたいに、真っ黒で、湿気っている。


雷が落ちた。ツイッターを見た。カナンは呟いている。そういえば、カナンは雷も苦手だったはずだ。


俺はスマートフォンをベッドに投げ込み、ゲームをし始めた。


夜がやってきた。


どんどん雷が酷くなって、酷くなって。俺はそこら中のコンセントを引っこ抜いた。宿題なんてやる気はなかった。スマートフォンを取り出して、延々とソシャゲをやっている。


またこうだ。ガチャを回して、延々とキャラを集めて、ストーリーを進めて。川中の言葉を思い出した。ピエロみたいだ。ソーシャルゲームに金をつぎ込み、頼まれてもいないことに勝手に熱くなって口を出して。考えると苛ついてきた。


もうあたりは真っ暗になっている。スマートフォンに電話がかかってきた。カナンからだ。


「暗い、暗いよ!」、カナンが叫んでる。


「どうした!?なにがあった」


「早く、私の家に来て!」


「家って、どこにあるんだよ」


「西区、西区の、上小田井駅の近く!早く!」


「わかった、今すぐ行くから!でも、数十分はかかるかもしれない!」


「いいから早く!」


 俺はすぐに服を着て、傘を持っていった。自転車を走らせて、駅まで行った。電車を乗り継いで、最寄り駅までついた。


 階段を上っているときに、雨の音が聞こえた。夏の雨みたいに激しく、むせかえるほど空気がつまっている。まだ建物の中なのに、泥沼の中で溺れているみたいだ。


 階段を上って、建物を出た。


 空を見上げた。子供がクレヨンで塗りつぶしたみたいに、真っ黒だ。


 あたりを探すと、カナンが外にいた。びしょ濡れのまま、赤い傘を差して立ち尽くしていた。全身ピンク色の寝間着で、そのまま飛び出してきたみたいだ。


 ブラジャーが透けて見えていたが、それは見ないようにつとめた。普通に話すのが難しくなってしまうから。


「心配したよ」


「ごめん」


「ゆっくりでいいから、話してくれよ」


 強い雨がずっと降っていた。雨の中を歩き出した。街灯の光さえ、色褪せてくすんでしまうほどの激しい雨だ。


 カナンはまだ口を開かない。うつむいて、街の湖を眺めている。湖は荒れ狂う。反射した光は波打っている。輪郭がぼやけた光る看板が、水たまりに映りこむ。嵐の夜みたいに木がざわめく。息が詰まる。アスファルトに跳ね返った雨が足首を濡らしている。


 濡れた茶髪。自分の濡れた髪。さっきよりさらに服の色が薄くなって、下着が見えるほどだ。足音は雨の音で聞こえない。ラジオのノイズみたいな音だけが聞こえていた。


「あんなこと言って、来てもらおうだなんて、虫のいいことだってわかってる」


 俺はなぜかその言葉に安心した。なんだ、俺も人のことを言えないぐらい、性格が悪いじゃないか。


「いいよ。俺も勝手にやって悪かったし」


 嘘だ。心が痛んだ。完全に自分が悪いなんて思ってない。いつも誰かのせいにして、そして嘘をつく。


「あのね、雷が今日酷かったでしょ。それで、家の電気が切れちゃって、パニックになったんだ。今日は両親もいなくて、お母さんにも頼れなくて」


「大変だったな。これからどうする?」


「ごめん、服を着替えさせて。家は近いから。一緒に来て」


 カナンの家は駅の近くにあった。大通りから離れた静かな場所に、茶色で二階建ての一軒家。一階は窓硝子ばかり、白いコンクリートの駐車場に雨ざらしの車が一つ。家は真っ暗だ。


「入って。部屋の前で待ってて。部屋の扉は閉めないでね」


 女の子の家に入るのは初めてで、少し緊張した。傘立てに傘を放り込んだが、野球のバットが入っていた。


「俺も、昔野球部にいたんだ」


 カナンはなにも答えなかった。


 階段を上ると、カナンの部屋があるみたいだ。スマホのライトをつけながら、ゆっくりと、ゆっくりと慎重に上っていった。


 カナンが部屋に入った。俺は部屋の外で待っていた。衣がすれる音。服が脱がれて落とされる音が聞こえる。唾を飲み込んだ。これは別にそういう意味とかじゃないからな。


 条件反射だから、だとか考えていた。


 急に、窓が光った。カナンの体のシルエットが一瞬見えて、その後酷い音が鳴った。足音が聞こえて、急になにか柔らかい物が当たってる。


「か、カナン?」、俺は慌てて、カナンの肩を掴んだ。


「ごめん、もう少しこのままでいさせて」


 肩が酷く震えている。恥ずかしかったけど、振り払う気なんてとても起こらないほど、いつもと違う弱々しさを見せていた。しばらくたって、カナンは離れた。また布がすれる音が聞こえてきた。


 なにかにぶつかる音がして、なにかがこちらまで転がってきた。


 拾い上げて触ると、大きなメダルみたいなものに、帯みたいなものがついている。スマートフォンで照らすと、金色のメダルだった。


 メダルの刻印をよく見ようとしたら、カナンにメダルをひったくられた。


 また暇になったから、俺は待っている間にスマートフォンで二階堂と、月波にメッセージを飛ばした。


「皆を呼んだけど」


「えっ。あっ、うん。いいけど」


「言っちゃダメだったか?」


「はぁ、そんなことはないけど・・・・・・」


 カナンのため息が聞こえた。


「そういうとこだよ」


 肩をこづかれた。


「そういうとこだぞーーーーーー」


 また何度も頬を指でさされた。


「どういうとこだよ。でも、元気が出たみたいでよかったよ」


 また、ため息が一つ。

 


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