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第十話 遭遇戦/太宰府天満宮参道前


<峰上総理によると、侵略者は自らを”魔族”と名乗っているとのことですが、その正体は不明です。もう一度、総理による記者会見の一部を流します>

<――我が国は……異世界から来訪した魔族を名乗る勢力により、侵略されました。やれる限りの手は尽くしましたが、すでに都民の人口の八割は彼らの捕虜となっている状況です。同様に、他の地域も次々と襲撃されています。交渉の余地はなく……私は……こく、国民の安全のため、これ以上の犠牲者を出さないため……彼らに降伏し、その要求に従うことに――>


 聞きながら、ヨシノと顔を見合わせた。


「ウォークマンの充電、残っていたのでラジオを聞いてみようと……思ったのですが……」


 昨日から言われていたことではあるが、こんなに早く――。

 信じられない。まるで海外の映画みたいだ。


<峰上総理は昨夜、魔人を名乗る男性との会談後、この記者会見を最後に消息を絶ちました。また本日、我々の方でも関東のメディアや関係各所と連絡を取ろうとしましたが、残念ながら――>


 ニュースを読み上げるキャスターの声がふいに詰まった。

 もう頭がおかしくなりそうだ。昨日の朝はいつも通りだったのに、どうしてこんな。


<しかし、希望はあります。昨日の午後に投稿されたある動画を皆さんご存知でしょうか。そこには魔物と戦う手段が解説されており、実際に自衛隊はこの方法で現在までに千体以上の魔物を駆除したとのことです。総理が降伏を宣言した後も、地方では一部有志が同様の方法で襲撃してきた魔物に対抗している様子の動画がSNS上に多数投稿されています>


 リンユオの提示した方法を試した人間は、思ったよりいるらしい。

 教室で実際に魔法を見せられたハルカたちはともかく、普通はそんなファンタジーなことを言われて、命がかかっているときに信じるのは難しいだろうと思っていた。

 ハルカは少しだけ安心するのを感じた。

 ”戦える人間”は、自分たち以外にもたくさんいるのだ。


<到着しました。探されている公衆電話とは、もしやあれですか?>


 と、フウに言われて窓の外を見やると、たしかにそこには赤い公衆電話ボックスがあった。


「あれですわ……! では藤白さん、わたくしは電話をかけてきます」

「小銭ある?」

「テレホンカードがありますわ。祖父がもしものためにと持たせてくれたんですの」


 ヨシノは昨日ハルカが一度試したきりの方法を覚えていたらしく、なんの迷いもなく部屋の中央にある赤い石に触れて外に出た。


「わたしもちょっと出ようかな。フウはどうする?」

<私はこの杖から出られません>

「わかった」


 同じく石に触れて、今度は驚かずに外に出る。

 そこは神社のすぐ手前、参道の終わりにある鳥居の前だった。

 ヨシノは鳥居の横にある入母屋屋根風のレトロな電話ボックスの中にいた。すでに電話が繋がっている様子だ。

 左手には長く続く参道に土産屋が立ち並んでいるが、人の姿はない。

 ……とりあえず、歩いてみるか。

 ヨウフォンは神社が安全だと言っていたが、今のところ魔物の影はない。散策するくらい大丈夫だろう。

 一度ヨシノに手を振ってから、杖を持ってハルカはぶらりと歩き出した。ヨウフォンは軽々と片手で操っていたが、思いの外重量がある。


「誰かいませんかー……」


 とくに期待はせず声をかけてみるが、立ち並ぶ店は軒並み戸が閉まっている。

 昔来たときはもっと観光客にあふれて賑やかな印象だった。たしか、兄の高校受験のお守りを買いに家族で来たのだったか。


 そんなことを考えながら、ガラス戸の向こうの木刀などを物色していたとき――


「ひぃいいいいいっ!!!!」


 悲鳴が、参道の先から聞こえてきた。たしか、駅がある方だ。

 思わず身構えると、参道の起点となる鳥居の向こうを人影が走っている。ここからではよく見えないが、魔物に追われているらしい。

 ハルカはさっと杖にまたがった。


「フウ、飛んで!」


 昨日ハルカのお願いを無視したときとは違い、杖はすんなりと浮き上がって参道の先まで真っ直ぐ低空飛行した。

 すぐに、追われている男性と四足歩行の獣が見えた。三体いる。


「上昇お願い!」


 くんっと杖は上を向き、ハルカを上空に連れていく。

 耳が詰まるような感覚が気持ち悪かったが、あとだ。


「止まって、ここでいい」


 正面からでは魔物だけを狙えない。

 ハルカは男と魔物の斜め上に陣取って、真っ直ぐ腕を構えた。


「悠の名のもとに、力に名を、名に形を与える。――ロウジエン!」


 虚をついた一射は魔物の巨体に命中し、腹を射抜かれた一体はつんざくような悲鳴を上げてのたうち回った。

 ハルカの存在を視認した残る二体は低い雄叫びを上げ、ぐぐっと腰を下げた。


「え、ちょ、まさか――横に避けて!!」


 予感的中。

 後ろ足をバネに跳躍した魔物は、ハルカがいる地上二十メートルの高さまで軽々と飛び上がってみせた。

 その鋭い爪をギリギリで躱し、落下していく魔物に指先を向けた「――ロウ!」

 ヨシノの言う通り小ぶりな光の矢――おそらくは通常の和弓と同程度――が魔物の腿に突き刺さる。だが致命傷ではなかったらしく、そいつは地面に体を打ちつけながらも、起き上がろとしては矢が刺さった足から崩れ落ちていた。最初の一匹は血を撒き散らしながらのたうち回っているが、もう絶命する寸前に見えた。

 残り一匹は身をひるがえし、逃げ出そうとしていた。


「――着地して!」


 ここまで追い詰めて逃したくはない。ハルカは三匹をまとめて狙える位置に立って、照準を定めた。

 地面に立てた杖を握り込むことでブレを最小まで抑え、再び唱える。


「――ロウジエン!!」


 目を焼くほどの光を放つ大きな矢が指先から放たれ、手前の二匹を貫いてもなお失速せず、走って逃げていた三体目を射止めた。

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