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第89話「捕まった天使」

 凛が海斗に連絡する数時間前――


「すみません……ちょっと、お花を摘みに行かせて頂きます」

「あ、うん。じゃあ、この辺で待ってるね」

 恥ずかしそうにしながらお花を摘みに行きたいって言ってきた凛ちゃんに、桜は笑顔で頷いた。


 滅多に見る事が出来ない凛ちゃんの可愛い照れ顔を、桜は可愛いなぁって思うの。


 凛ちゃんの姿が見えなくなると、桜はスマートフォンを取り出して、お兄ちゃん達の居場所を見てみる。

 すると、お兄ちゃん達は映画館に入ったみたい。


 お兄ちゃんあの映画、別の人と見たいって思ってたみたいだけど、やっぱりお姉ちゃんと見たかったんだね。

 

 昔はあんなに喧嘩してたのに、お兄ちゃんとお姉ちゃんは凄く仲良くなってる。

 その事が桜はとても嬉しかった。


 だけど――前以上に、お兄ちゃんがお姉ちゃんにとられるようになっちゃった。

 夏休みに入る前は学園に行く途中やお昼ご飯の時間などで、桜はお兄ちゃんと一緒に居られたの。


 でも今は学園が無いから、家の中でもお姉ちゃんに一人占めされちゃってる。

 そしてお祖母ちゃん達のとこに来ても、凛ちゃんやお姉ちゃんがお兄ちゃんの事をとっちゃってたから、桜は全然甘えられてないの。 


 それが――凄く寂しい……。


 何より、お兄ちゃんの気持ちが段々桜から離れていってるようで、辛くて嫌だった。

 少し前まではここまで思ってなかったのに、どうして今はこんな嫌な感情を抱えてるんだろう。


 これが嫉妬……?

 桜は、お姉ちゃんや凛ちゃんに嫉妬してるの……?


 桜、嫌な子になってきちゃってる……。


 本来お姉ちゃん達にもってはいけない気持ちをもってしまった桜は、自分の事が嫌になった。

 これだと、周りの人達と変わらないから……。


「にゃ~」

 桜が考え事をしてると、何処からか猫さんの鳴き声が聞こえた。

 ううん、何処からじゃなく、桜の足元からみたい。


「あ――子猫ちゃん!」

 桜が足元を見ると、ちっさくて凄く可愛い子猫ちゃんが、桜の足に頬すりをしてたの。

 桜はかがんで子猫ちゃんの事を見ると、子猫ちゃんは桜の手にもスリスリしてきてくれた。


 凄く人なつっこい子みたいだけど、飼い猫なのかな?

 でも、ちょっと汚れちゃってるから、飼い猫じゃないのかな?


「よしよし――どうしたのかにゃ?」

 子猫ちゃんが凄く可愛いから、桜は子猫ちゃんの頭をなでなでするの。


「にゃ~にゃ~」

 すると子猫ちゃんは少しだけ桜に頭を撫でられてくれて、その後桜から離れちゃった。

 でも、チラッチラッと桜の事を見てきていた。


「もしかして、ついてきてって言ってるのかな?」

「にゃ~」

 子猫ちゃんの言葉は人間の桜にはわからないし、表情の色も相手が動物だからわからないけど、何となく子猫ちゃんは桜についてくるように言ってる気がした。


 でも桜は、ここで凛ちゃんを待ってなくちゃいけない。

 だから、子猫ちゃんについて行く事は出来なかった。


「にゃ~にゃ~」

「うぅ……」

 でも、子猫ちゃんはどうしても桜について来てほしいみたいで、また近寄ってきて頬すりをしてきた。


 ……すぐに戻ったら大丈夫だよね?


 子猫ちゃんの事が放っておけなかった桜は、すぐに戻れば問題ないと思って、子猫ちゃんの後についていく事にしたの。


 すると――そこには誰かに仕掛けられた罠みたいな物に挟まれて、足を怪我しちゃってる猫さんが居た。

 多分、子猫ちゃんはこの猫さんを助けてほしくて、桜を呼んだんだと思う。


「ひどい……大丈夫?」

 桜は目の前に居る痛々しい猫さんを、どうにか助けてあげた。


 罠みたいなものはそれほどしっかり作られている物じゃなくて、すぐに猫さんの足から外す事が出来たの。

 だけど――猫さんは片足を引きずちゃってた。


「にゃ、にゃにゃ」


 猫さんはお礼を言ってくれてるのかな?

 何を言ってるのか全然わからないけど、なんだかそんな気がするの。


 猫さんの怪我をしてる足をどうにかしてあげたかったけど、今の桜の手元にある物じゃあ、どうしてあげる事も出来ない。

 そうしてると、猫さんと子猫ちゃんが走って居なくなっちゃった。


「バイバ~イ」

 桜は猫さん達に手を振った。

 走れたって事は、とりあえず大丈夫なのかな?

 じゃあ、桜も凛ちゃんの所に戻ろっと――。


「やぁ、お嬢ちゃん。久しぶりだな」

「え……?」

 桜が凛ちゃんの所に戻ろうとすると、この前お兄ちゃんに絡んでた人達が現れた。


「キリちゃんの言う通り、待ってたら本当に一人になったな」

「な? わざわざ二人居る所で手を出さなくて良かっただろ?」

 その人達は桜の事を見ながら、凄くニヤニヤして話をしていた。


 そして桜はこの人達の表情に凄く気分が悪くなる。

 桜の体に良くない事をしようとしてるのが、表情から読み取れたからなの。


 何より――三人とも、まとうモヤモヤが黒かった。


「――っ!」

「あ、待てこら!」

 身の危険を感じた桜は、すぐに走って逃げる。

 そして悪い人達は、桜の事を追ってきた。


 でも、桜はいつも走って逃げてたから、いつの間にか足だけは速くなってて、相手が男の人でも追いつかれなかった。


「な、なんであのチビ、あんなに速いんだよ!?」

「と、というより、普段からタバコ吸ってるから、俺達体力がねぇ……」

「ちっ――! 一人になったから油断しちまったな。すぐに拘束するべきだった」

 桜の足が遅いと思っていたみたいで、逃げる桜を捕まえることが出来ない悪い人達の声が聞こえた。

 

 早く凛ちゃんと合流を――あ、駄目!

 このまま凛ちゃんの所に戻っちゃうと、凛ちゃんまで狙われちゃう!


 凛ちゃんの事を巻き込みたくなかった桜は、途中で道を変えた。

 そして逃げ続けるんだけど――悪い人達は全然諦めてくれなかった。

 ずっと、桜の後を追ってきてるの。


 く、苦しいよぉ……。


 あの人達から逃げる為にずっと本気で走ってる桜は、体力の限界が近づいてた。

 よく走って逃げるけど、それは短距離なの。


 だから、短距離選手が長距離を苦手とするように、桜も長距離を走る事は苦手だった。

 だって、体力がないんだもん。


 だ、誰か助けて……!


 このままだと捕まっちゃうと思った桜は、周りの人達に助けを求めようとする。


 だけど――助けを求めようとして見た人達は、みんな黒い。

 つまり、悪い人達だった。


 駄目……悪い人には助けを求められない……。


 逃げる先に居る人達は、みんな黒い。

 桜は追いかけられてるせいで段々と心が追い込まれていったのと、助けを求めようとした人達が皆悪い人で、泣きそうになっちゃう。


 お兄ちゃん……お姉ちゃん……助けて……!


 誰にも助けを求める事が出来ない桜は、ここに居ないという事はわかっていても、お兄ちゃん達に助けを求めた。

 お兄ちゃん達以外、頼れる人が居ないから。





「――や、やっと捕まえた!」

「やだやだ、離して!」

 数時間もの逃走劇――それは、桜が山に逃げ込んで終わりを告げたの。


 追いかけてくる悪い人達だけでなく、そこら辺にいた悪い人達も避けて逃げているうちに、桜は山の中に入っていちゃってた。


 山に続く道を走ってると気づいた時にはもう、後ろから追ってくる悪い人達に道を塞がれていて、山の中に入るしかなかったの。


 でも、それが失敗だった。

 山の中だと地面がいびつだったり、ぬかるんでいたりするせいで、桜は思う様に走れなかったの。

 そのせいで、悪い人達に捕まっちゃった……。


「へへへ、自分からこんなとこに逃げ込んでくれるなんて、好都合だ。ここなら誰も来ないから好き放題出来るしな」

 そう言って、お兄ちゃんと知り合いだった悪い人が桜の体を舐め回すように見てくる。


「い、いやっ!」

 桜は掴まれている左手じゃなく、手が空いてる右手で自分の胸を隠して暴れる。


「おっと、おとなしくしようか」

 そうすると、空いていた右手まで桜の左手を掴んでる男の人に掴まれちゃった。


「そう怖がらなくて大丈夫だぜ? すぐにお前も楽しめるさ」

「な、何をする気なんですか……?」

「さぁな?」

 お兄ちゃんの知り合いの悪い人は、桜の質問に首を傾げながら、刃物を取り出した。


 そして――桜の服を切り始めた。


「や、やめてください!」

「おっと、暴れると体が切れるぜ?」

 桜が刃物から逃げようとすると、体をおさえつけられちゃった。

 そして、少しずつ桜の服が切られていく。


「いやぁあああああ! やめてぇええええええ!」

「ハハハ、良い泣き声するじゃねぇか! そうそう、そういう泣き声がいいんだよ! この姿を神崎に見せれば、あいつに絶望を与えられるからな!」

 気付くと、三人組の一人が桜達のこの光景をスマホで録画してた。

 桜の事を滅茶苦茶にして、お兄ちゃんに見せるみたい。


「やだやだやだ! お兄ちゃん助けて――!!」

 桜は泣きながら、お兄ちゃんに助けを求めた。

 

 すると――

「何してんの、お前ら?」

 桜に酷い事をする悪い人達とは違う、別の男性が現れた。

 その人は、桜の服を切る悪い人の腕を掴んでる。


 そしてその男性は――今ではもう見慣れた、目を前髪で隠している男性だった。


「お兄ちゃん!」

 その男性が誰なのかすぐに気づいた桜は、安堵あんどの声を出す。

 だって、お兄ちゃんが助けに来てくれたから。


 だけど――桜は、自分の目を疑った。

「え……? お兄ちゃんのモヤモヤが……黒い……?」

 

 どうしてかわからないけど、桜を助けに来てくれたお兄ちゃんの事を、桜の目は『悪い人』と判定したのでした――。

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