第85話「類は友を呼ぶ」
「行こっか」
「うん」
小さい声で私に話しかけてきた海君に対して、私はコクンっと頷く。
私達は今から、二人だけでデートに行くの。
その為に私達は今、私が海君に近寄ると凄く五月蠅い凛ちゃんが居るせいで、朝早くに二人でコソコソと家を出ようとしてた。
でも、こういうのって楽しいよね。
何だか今から二人でバレない様に駆け落ちしようとしているみたいで、私はこんな未来も悪くないと思った。
……そうだよ!
もし海君が『姉弟だから』って私の思いを断ったとしたら、駆け落ちすればいいんだよ!
それなら、姉弟とか関係ないもん!
海君って前から何かと私に対して、『家族だから』って花姫に言い訳をしてたけど、これで海君の主張は覆せる!
他の人間からみれば『馬鹿でしょ』って思う事かもしれないけど、藁にでも縋りたい私は、こうして自分の事を無理矢理勇気づける。
だって――今日はいよいよ、私が告白する日だもん!
今は、少しでも成功する可能性が欲しいの!
「なぁ、本当にいいのか?」
私が一人今日の告白について考えていると、海君が私の方を振り返って、尋ねてきた。
多分、これから自転車に二人乗りする事についてだと思う。
お祖母ちゃん達の家は山の中に有るせいで、バスの本数も少ないらしいの。
だからバスに乗ろうと思ったら、朝の少し遅いバスの時間に合わせないといけないんだけど、そんな事してたら凛ちゃんが起きてきちゃう。
それで海君は『朝早くに自転車で遊びに出て、周りを色々と探検しながら岡山駅を目指していかないか?』って提案してきて、私も了承したの。
ただその時に、二つの自転車で行くんじゃなく、一つの自転車に二人乗りで海君に連れて行ってもらいたいってお願いしてみた。
そしたら海君は凄く迷ってたんだけど、一昨日一人だけ置いて行かれた事を口にしたら、頷いてくれたんだ。
本当、海君って優しいよね~。
「うん、もちろん!」
だから私は、海君に笑顔で頷いた。
「はぁ……わかったよ」
海君は少し困ったような表情をしながらも、自転車のサドルに跨った。
私はその後に続いて、キャリア――自転車の荷台に横向きで座って、海君にギュっと抱き着く。
「あ、おい! しっかり掴まってないと危ないのはわかるけど、いくらなんでもくっつきすぎじゃないか!?」
思いっきり海君に体を押し付けると、海君は驚いたような声を出した。
「ううん、これくらいくっついてないと危ないんだよ?」
実際には二人乗りをした事がないからわからないけど、私は適当に言い繕う。
「いや、お前、恥ずかしくないの?」
「全然? それより、落ちる方が怖いよ?」
「確かにそうかもしれないが――はぁ、もういいよ。じゃあ、いくぞ」
「うん!」
海君がゆっくりと自転車をこぎ始めたので、私はウキウキ気分で海君の背中に頬をくっつけた。
やったぁ!
合意の上でくっつけた!
しかも、岡山駅に自転車で行こうと思ったら数時間かかるらしいし、寄り道もいっぱいするから、これから長時間海君にくっついていられる!
私は今日一日、凄く楽しい日になる気しかしないのだった――。
2
「さて……いこう……」
朝早くにアリスに起こされて準備をした私達に対して、アリスが出掛ける事を告げた。
「お姉さまぁ……まだ眠たいですぅ……」
「あ、カミラちゃん、寝ぼけたまま歩いたら危ないよ!」
眠たそうにトボトボ歩きながらアリスに声を掛けるカミラと、そのカミラを支えながら歩く白兎が居た。
この二人は、昨日からお風呂と寝る時以外はずっと一緒に居る。
まぁ眼を離せばカミラが何かをやらかすから、白兎が眼を離せないで居るだけだろうけど。
今はまだカミラが、白兎が男だという事に気が付いてないからいいけど、この子がその事に気付いたら一体どうなる事やら……。
アリスが狙ってる事は何となくわかるけど、そんなにうまくいく物なのかな?
私はこれから先のカミラと白兎について心配になるけど、今はそれよりも気になる事がある。
だから、その事についてアリスに尋ねる事にした。
「ねぇ、どうしてこんな朝早くから行動するわけ?」
「ん? だって……気になるでしょ?」
アリスは相変わらずの無表情のまま、言葉少なくそう言った。
でも、今回はアリスが何を言いたいのかこれだけでもわかった。
『海斗が桃井と一緒に遊ぶのが気になるでしょ?』って事だと思う。
正直言えば、気にならない訳が無い。
だけど……これから桃井の友達になる事を目指すのに、こんな事をしていいのかな?
ううん、そうじゃなくても、こんな覗き見する事が許されるわけがない。
「気になるけどさ、やっぱ人としてどうかと思うよ?」
だから私は、アリスの行動について咎める事にした。
「別に来ないなら……いいけど……。アリスは一人でも……行くし……」
「なんで、こんな事するわけ?」
「あの桃井の子が……どういう子か……最後に自分の目で……確かめる為……。今の情報だけなら……悪いけど……」
アリスはそれだけ言うと、黙り込んで歩き始めた。
「え、いや、ちょっと!? そんな気になるとこで話を切るの!?」
私はそんなアリスに突っ込むけど、アリスは反応せずに足を進める。
「無駄ですぅ。お姉さまはぁ、黙り込んじゃうとぉ、何聞いてもぉ、教えてくれないですぅ」
まだ半分寝ぼけた状態で居るカミラが、そんな事を教えてくれる。
うん、そんなのカミラに言われなくても、昔からの付き合いで知ってる。
カミラはまだ私が西条雲母だという事に気が付いてないみたい。
私は敢えて名乗ってないんだけど、それも気づかれるとめんどくさそうなんだよね……。
「あぁ、もう! わかったわよ、行くわ! でも、海斗の位置なんてわかるの?」
このままアリス一人で行かせるよりは、私も行った方が良いと思い、アリスについて行く事にした。
でも、岡山県って結構広いから、肝心な海斗の位置がわからないんじゃないかとも思った。
「大丈夫……これがあるから……」
アリスはそう言いながらスマホを私に見せてきた。
そして、人差し指で一つのアプリを指さしていた。
「これは……お互いの位置が……わかるアプリ……」
「な、なんであんたがそんなのを持ってるのよ!?」
何よ海斗!
あんた、アリスとお互いの位置がわかるアプリまで入れてたの!?
「前に……カイがこのアプリを作って……妹に入れてもいいのか……相談してきたから……その時に……アリスも貰った……」
「な、海斗の奴、いくらシスコンでも、それはどうなの!?」
桜がいくら可愛いとはいえ、まさか居場所まで把握しようなんて……。
シスコンにもほどがあるでしょ……。
正直、私はこの時少しだけ引きました。
「妹が……極度の方向音痴で……迷子になったら困るから……って理由……」
「……あんた、今わざと理由を後回しにしたでしょ……?」
私がジト目でアリスを見ると、アリスはニコッと笑った。
うん、わざとだ。
海斗の事を少しだけ引いてしまった事を、悪いと思った。
海斗は良いお兄ちゃんだね。
「後……このアプリは……このアプリで許可したアプリ以外は……位置情報を取得……出来ない様にするように言って……作らせた……」
「それって、あんたが他の人間に居場所を知られたくないから、カモフラージュされた居場所特定用のアプリを入れられても大丈夫な様にって事?」
「違う……。カイには……危険な従妹がいるから……その対策……。このアプリは……位置情報を微妙にずらしてるだけだから……向こうもすぐには気付かない……」
「……ねぇ、なんで海斗の周りって、そんな子ばかりなの?」
「類は……友を呼ぶ……?」
私の問いかけにアリスは首を傾げながらも、私の事をジーっと見つめたままそう言ってきた。
まるで、私もその従妹と同じような人間だという様に。
でも、私は言いたい。
『絶対、アリスの方がそっち系の人間だ』と――。
その後にも、過去にアリスは、他人のスマホのロックを解除するアプリも海斗に作らせた事があると教えてくれた。
一体何のためにそんな物を作らせたのかわからないけど……今一つ言えるのは、アリアよりもアリスの方が凄いという事だけはわかったという事だった――。
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