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第82話「年の功」

かい君のばかぁ……」

 私はお布団ふとんの上でゴロゴロと転がりながら、そう呟いた。

 お昼のこんな時間まで私がお布団に転がってるのは、人生で初めてな気がする。

 まだ幼かった時でも、朝7時にはお布団から出てたもん。


 ……あ、違う。

 前に私の誕生日の少し前に海君と揉めた時、もっと遅くまでゴロゴロして泣いてた。

 でも、それ以外は記憶にない。


 そんな私がお布団の上でゴロゴロしている理由は、一つしかない。


 それは――朝から花姫のアカウントを使って海君にメッセージを送ってるのに、海君が一向に返信をしてくれないからなの。

 前までは少し遅くなってもメッセージを返してくれてたし、私達が家族になるまでは休日はずっとメッセージでやり取りをしてた。

 それが当時の私にとって至福の一時だって、大切な時間だった。


 うみ君とのやり取りは、花姫としての私にとってそれだけ大切な事なの。

 それに昔、うみ君も『花姫ちゃんだけが、俺の友達だよ』って言ってくれてたから、少なからずも大切に思ってくれてたと思うの。

 だから、休日は一日中メッセージでやり取りをするって事が成り立ってたわけだし。


 でも……今は、そんなメッセージでのやり取りが全然出来てない。

 いくらなんでも酷くない?

 そりゃあ桜達と遊んでるからってのはあるだろうけど、少しくらいはスマホを気にしてくれてもいいのに……。


 だって、友達の花姫からメッセージが来てるかもしれないんだよ?

 少しは気にしてくれても良くない?


「……って、それもこれも私のせいだ~」

 私はそう独り言を呟くと、また布団の上をゴロゴロと転がる。


 最近――って言っても、もう結構経ってるけど、花姫たる私がおはようメッセージとおやすみメッセージしか返さないから、彼の中で花姫は、朝と晩しかメッセージを送ってこないという認識になってしまったのかもしれない。

 それだったら、彼がスマホを気にしていない理由もわかる。


 でもね、一つだけ言い訳をさせて欲しいの。

 だって私、家ではずっとかい君の傍に居るんだよ?

 メッセージを態々(わざわざ)飛ばす必要ないよね?

 それに海君の声だって聴きたいから、メッセージより会話を選んでしまうのは仕方のない事なの。


 後ね、ちゃんと一緒に居ない時はメッセージを送ってるんだよ?


 ――だって、私が海君とやり取りしたいんだもん!


 …………はい、ごめんさない。

 海君の事を思ってメッセージを送ってるんじゃなく、完全に私の欲に従って送ってます……。

 

 だけどこれは、恋する乙女にとっては普通の事なんだよ?

 というか、乙女じゃなくてもそうでしょ?

 好きな人とはずっと繋がっていたい物なんだよ。


 それなのに――意地悪な神様のせいで、最近ずっと海君を他の子にとられてる。

 昔はずっと私が一人でうみ君を独り占め出来てたのに……。


 どうして神様はこんな事をするのかなぁ?

 前にも言ったけど、女の子にとって好きな人が別の女の子と一緒に居るのは辛いんだよ?

 そんな事ばかりしてると、後ろから刺されてもしらないよ?


 ――――かい君が。


 ううん、やっぱりそれは困るから、これ以上海君に別の女の子が近寄る前に、早く行動に起こさないと……。

 でも、それは明後日に迫った海君の誕生日で決行するつもりだから、大丈夫!


 ……他の子が邪魔に入らなければ!

 けど、多分それも大丈夫!


 だって、西条さんや金髪の女の子は岡山県に来てないし、あの海君にまとわりつく従妹は、海君が出し抜こうとしてくれてるもん!

 だから、邪魔者はいない!


 ……私って、ひょっとして周りから見たら最低な子?


 でも、いいもん。

 例え他の人から最低って思われても、海君の中で一番にさえなれればそれでいい。


 そしたら私は学校では完璧美少女を演じて、彼氏の海君にだけ甘えまくるだけだもん。

 それで全て上手く行くの。


「――咲姫ちゃんや、ちょっとこっちにこんかね?」

 私が一人考え事をしていると、優しい声でお祖母ちゃんが声を掛けてきた。

 お祖母ちゃんって呼ぶのはまだ照れ臭いけど、向こうもそう呼ぶと喜んでくれてるから良いんだと思う。


「どうしました、お祖母ちゃん?」

「おやおや、まだ敬語かい。普通に話してくれていいんだよ?」

 つい癖みたいなもので私がお祖母ちゃんに敬語で話すと、お祖母ちゃんは優しく諭してくれた。

 こんなに優しいからこそ、お父さんもあんなに優しい人になったんだと思う。

 お祖父ちゃんも凄く優しいしね。


 ……それなのになんで海君って、あんなひねくれ者になっちゃったんだろ?

 そりゃあ、私が甘えたら困りながらも優しく受け止めてくれるし、困った時は凄く頼りになってカッコよくなる人だけど、普段は結構(ずる)かったり、意地悪な人なの。


 それに人をらして喜ぶ性癖を持ったドSだし……。


「どうしたんかねぇ?」

「あ、いえ、なんでもないです――じゃなくて、なんでもないよお祖母ちゃん」

 私が誤魔化すようにそう言うと、『そうかい』とお祖母ちゃんが呟いて、結構大きな四角い何かを渡してくれた。


「これは……アルバムですか?」

「そうじゃよ。海斗の幼い時の写真を撮った物じゃ」

「海君の!?」

 海君の幼い時の写真だと聞いた私は、すぐにアルバムを開いて中身を見る。


 海君の写真は家にあるらしいけど、海君は見せてくれないし、お父さんに頼んでも海君に怒られるからと言って出してくれなかった。

 なんでも、前に勝手に持ち出したら海君に凄く怒られたらしいの。


 別にいいよね、幼い時の写真くらい?

 まぁ私は恥ずかしいから、絶対に見せないけど。


「わぁ――可愛い!」

 海君の幼い時の写真を見た私は、開口かいこう一番にそう言った。


 だって、凄く可愛いんだもん!

 幼い時は短い髪をしてたんだね!

 後、可愛いって言っても、少しキリっとした目をしてて、髪を整えた時の海君の面影がある!


 あ、でも……。

「海君にベッタリ……」

 どの写真でも海君の腕にくっついて一緒に写真に写ってる凛ちゃんの事を見て、私は複雑な気分になる。


 彼女が写ってないのは、海君が赤ちゃんの時と、それよりほんの少し大きくなった姿の写真だけ。

 後は全て凛ちゃんが写ってる。

 それに悔しい事に凄く可愛い。


「あぁ……凛は幼い頃から海斗にベッタリだったからね~。それに海斗も凛の事を凄く可愛がってたしのぉ……」

「そうなんだ」


 海君、凛ちゃんの事可愛がってたんだ……。

 ずるいなぁ……。

 私だって海君と幼い時から一緒に居たかった。

 そしたら、私もその時から甘やかしてもらえただろうし、中学で男の子達に言い寄られた時も、海君が守ってくれたかもしれないのに。

 そうだとしたら、私だってこんなめんどくさい性格にならなくても済んだのに……。


 それに従妹だったら、結婚だって出来る。

 もしかしたら義姉の立場より、従妹の方が結婚はしやすいのかもしれない。


 そう考えると、私って海君と一緒に暮らして他の女の子達よりも有利に見えてたのが、むしろとてつもないハンデを背負わされてる気がしてきた。


 …………でも、愛があれば関係ないよね?

 だって、義姉弟自体は結婚する事が出来るんだもん。


 私はそう自分の事を鼓舞こぶすると、絶対に他の女の子達に負けないと心に誓う。

 心で一歩引いてしまったら、絶対に海君には届かないから。

 

 そして海君の幼い時の写真を全て見終わった私は、お祖母ちゃんにアルバムを返そうとして――思いとどまった。

「あ、あの……一枚だけでいいから、写真もらってもいいかな?」

 私がお祖母ちゃんに恐る恐る尋ねると、お祖母ちゃんは笑顔で頷いてくれた。


「そう思ってもってきたんじゃから、ええよ」

「あ、ありがとう!」

 私はお祖母ちゃんにお礼を言うと、凛ちゃんが写ってない海君だけの写真をもらった。

 

 これは私にとって、海君や桜からもらった誕生日プレゼントの次に宝物だね!

 というか、その為に持って来てくれたって、もしかして私の気持ちってお祖母ちゃんにバレてる……?


 私がそう思ってお祖母ちゃんを見ると、お祖母ちゃんはニコッと笑顔を返してきた。

 その笑顔が『わかってるよ』とでも言いたそうで、私は年の功って凄いなぁっと思うのだった――。

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