プロローグ
「好きです――付き合ってください!」
「キモい、無理」
――朝登校すると、校門の前で告白が行われていた。
そして男の方は見事に撃沈してしまい、膝から崩れ落ちた。
振った女の方は、長くて綺麗な黒髪をソッと手で掻き上げながら、何事もなかったかの様に校舎に入っていく。
「これで撃沈男、通算百五十人……」
近くにいた誰かが、そう呟いた。
百五十人と聞けば大袈裟かと思うかもしれないが、この数字は決して誇張された数字ではない。
先ほど告白を受けた女子――桃井咲姫は、才色兼備と言う言葉が良く似合う女だった。
誰もが振り返るほどの綺麗に整った顔立ちを持つだけじゃなく、学力面では他の追随を許さず、首席で入学して以来、トップの座から落ちたことがない。
もちろん、生徒会にも所属している。
さらに運動能力においても、男子に引けを取らないらしい。
まぁそんな漫画にでも出てきそうなキャラと、生徒数県内一を誇るマンモス校と言うのが合わさり、こんな記録を叩きだしていた。
『天は二物を与えず』といったことわざがあるのだが、あれは嘘だろう。
なんせすぐ傍に、神様から二物どころか、三物も与えられている人間が居るのだから。
神様はなんで、こんなに美男美女ばかり贔屓するのだろうか。
俺なんて大した物をもらってないのに……。
しかし――。
俺は、先程桃井に告白して玉砕した男を見る。
彼は今もなお、屍の様に地面に倒れこんでいた。
こいつは何で朝っぱらから、校門の前で告白をしたのだろうか?
普通告白と言えば、放課後の校舎裏など、人目がつかない所でする物だろ?
大衆の面前で告白をして振られれば、ただの恥さらしでしかない。
挙句の果てに、屍の様な彼を突いて遊んでいる生徒が居る。
おそらくは彼の友達なのだろうが、何を思ったのか指で突くんじゃなく、木の枝で突いている。
そして、木の枝で突かれても彼はビクともしないのだが、逆に凄いと思った。
まぁそれはさておき、告白した相手はあの桃井なのだ。
これだけ告白をした人間が居るにもかかわらず、未だに告白成功者が居ない事から、どれだけ無謀な事をしているのかを、この男もわかっていただろうに。
だからきっと、この男は頭が悪いのだろう。
ただ……俺はその勇気を羨ましいとも思った。
なぜならもう俺に、そんな勇気はないからだ……。
校舎に入ろうとすると、上着のポケットが震えた。
俺はポケットからスマホを取り出す。
『おはよー、今日も一日頑張ろうねー(*´▽`*)』という、メッセージが届いていた。
俺はそのメッセージに、すぐに返信をする。
『うん、今日は待ちに待った最新巻が出る日だから、学校が終わったらすぐ本屋に駆け込む予定だよ』と送り、スマホをポケットにしまった。
先ほどメッセージをくれたのは、俺の唯一の友達だ。
俺はリアルに友達がいない。
それは、俺が人と関わるのが苦手だからだ。
そんな俺の趣味は、ライトノベルを読む事と特殊なゲームをする事、後はアニメを見る事だった。
……所謂オタクという奴だ。
彼女とは同じ作品を好きだったことから、ネットの中で仲良くなった。
出会って以来、ずっと連絡をとり続けている。
顔は知らない。
年齢は俺と同じと聞いていたが、それが本当かはわからないし、何より本当に女の子なのかさえ、わからなかった。
だけど、たとえ男だったとしても関係ない。
俺にとって彼女は、唯一無二の大切な友達なのだから。
桃井と真逆の存在――それが、俺だった。
そんな俺が、桃井と関わる事は無いだろう。
彼女とは住む世界が違うのだから。
と、その時は思っていた。
それがまさかあんな事になるとは――。