第69話「久しぶりのやり取り」
アキバを堪能した後、俺達はそのままお店で晩御飯を食べて家に帰ってきた。
アキバでメイド喫茶というお店に初めて入ったのだが――俺達が入ったメイド喫茶は、一般的に知られる『萌え萌えキュン』というサービスをするところじゃなく、ただ店員さんがメイドの恰好をして接客をしてくれるだけのお店だった。
でも、ワッフルがクローバー型にカットされてクリームで綺麗に盛り付けられていたり、カプチーノに猫の絵をかいてもらったりなど、可愛いサービスを一杯してもらえて桜ちゃんは凄く楽しんでいた。
メイドさんのメイド服に凄く注目して目を輝かせていた事から、前の様なレンタルではなく、桜ちゃんお手製のメイドコスプレが見られるかもしれない。
それに本格的なメイド喫茶だと桜ちゃんと一緒に行くのは気まずい気もするから、今日行った店で良かったと思う。
あぁ――でも、今日のコスプレ桜ちゃんも、ゴスロリ服桜ちゃんも凄く可愛かったなぁ……。
「えへへ――」
「ん、どうかした?」
「ううん、何でもないよ」
俺が今日の桜ちゃんを思い返してホッコリしていると、俺の隣に座ってテレビを見てた桜ちゃんがなんだか楽しそうに笑っていた。
今付けてる番組がお笑いの番組だから、芸人さんのギャグが面白くて笑ったんだろう。
俺もテレビを一応見てはいるが、そこまでしっかりとは見ていない。
なぜなら――今日は久しぶりに、花姫ちゃんと話がはずんでいるからだ。
それも今日の彼女はここ最近ほぼ音信不通だったのが嘘かの様に、返信が早い。
というか、早すぎる。
俺が送ってから二分もたたないうちに返信が来ていて、かれこれ一時間くらいはこのやり取りを続けていた。
「――お兄ちゃん、今誰とずっとやり取りをしてるの? 雲母先輩?」
さっきから通知音がうるさいせいか、桜ちゃんが俺の顔を見上げながらそう聞いてきた。
「ううん、違うよ。今連絡を取ってる子は、中学時代からの友達なんだ」
実際花姫ちゃんとの付き合いは中学時代からなので、嘘はついていない。
決して、見栄を張ったわけではない。
「そうなんだ……」
俺の言葉を聞いた桜ちゃんは、そう呟くとテレビに視線を戻した。
そして――何故だか、俺の腕に頭をコツンっと当ててもたれかかってきた。
「桜ちゃん?」
「ちょっとだけ、こうしてても良い……?」
急にもたれかかってきた桜ちゃんの方を見ると、桜ちゃんが上目遣いで俺の方を見ていた。
か、可愛すぎる……!
「うん、好きなだけしてて良いよ」
急に甘えだした桜ちゃんに俺は笑顔でそう答える。
咲姫が居ない分寂しくて、俺に甘えてきているのだろう。
もしかしたら俺の肩に頭を乗せたかったのかもしれないけど、身長差から出来なかったんじゃないかという気がする。
咲姫に同じ事をされれば胸がドキドキしすぎてヤバいけど、桜ちゃんにされると凄く和む。
今日は花姫ちゃんからも返信が一杯来るし、桜ちゃんは凄く可愛いしで、本当に良い日だなぁ……。
そうこうしているうちも、俺と花姫ちゃんのやり取りは続く。
『そうそう、それで最近は姉妹とどうなのかな?(*´▽`*)』
ラノベの最新作についての話が一区切りついた頃、花姫ちゃんが咲姫達について聞いてきた。
彼女は結構気遣う事が出来る子だし、俺の環境を気にかけてくれているのだろう。
『最近は、姉とも妹とも仲良くできてるよ』
『おぉ! 流石、海君だね!(^^♪ ちなみに、どっちの方が仲が良いの?(/・ω・)/』
どっちと仲が良いかかぁ……。
どうなんだろ?
家に帰ってからはずっと咲姫と一緒にいるけど、夏休みに入るまでの登下校は桜ちゃんと一緒にして、昼休みも桜ちゃんと居るしな――。
それに、やっぱり桜ちゃんと居るのが一番落ち着くし……。
咲姫と居る場合は、寧ろ胸がドキドキしすぎてしんどい。
『妹の方だね』
俺は桜ちゃんの方が仲が良いなと思い、そう返信した。
すると――十五分くらいたっても、花姫ちゃんから返信が来ない。
……どうしたんだろ?
まぁ向こうも暇じゃないだろうし、何か用事でもしてるのだろう。
俺がそう結論付けてすぐ、花姫ちゃんから返信が来た。
『じゃ、じゃあ、やっぱり可愛いのも妹の方?(^^)/』
ん?
なんか動揺したような書き方になってるな?
でも、顔文字は笑顔だし、そもそもさっきのやり取りで花姫ちゃんが動揺するような事はないだろうから、ただの打ち間違えに気付いてないのだろう。
『うん、そうだね。妹って天使みたいに可愛いんだよ』
流石に『天使』って書くと頭がおかしいシスコンに思われるかと思ったが――本当に天使みたいに可愛いので、相手が花姫ちゃんだからって事もあって本心を書いた。
すると――一時間たっても、返事が来なくなった。
まだ時刻は20時だけど、もう寝落ちしたか、お風呂とかに行ってるのかもしれない。
ピンポーン――!
俺が花姫ちゃんから返信が来ないからテレビに集中しようとすると、家のインターフォンが鳴った。
「え、こんな時間にお客さん?」
桜ちゃんは不思議そうにしながら、立ち上がろうとする。
そんな桜ちゃんを俺は手で制した。
こんな時間に来る人間は、怪しい人間じゃないとは限らない。
万が一の為にも、俺が出た方が良いだろう。
とは言え、うちのにはモニターが付いてるから、変な人間だった場合すぐわかるのだが――。
そう思って俺がモニターを見ると――そこに映ったのは、雲母の姿だった――。