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第67話「妹と趣味が合う男の娘」

「――あれ? 神崎君じゃないか」

 桜ちゃんに抱き着かれたまま駅を目指していると、すれ違いそうになったポニーテールの女の子――いや、男の娘が声を掛けてきた。

 その直後に桜ちゃんは俺の背中へ隠れ、顔を少しだけ覗きだすようにその男の娘を見始めた。


 やば、可愛すぎるんだけど……。


 警戒する様に伺い立てている桜ちゃんの姿が、まるで小動物の様に見えて凄く可愛いと思った。


 ただ、桜ちゃんにそんな態度をとられた男の娘の方は、戸惑ったような表情で苦笑いを浮かべている。

「噂には聞いてたけど……実際に避けられると、くるものがあるね……」

 その男の娘は頬を指で掻きながら、ショックを受けた様に呟いた。


 まぁこいつは、人に避けられる事なんてなかっただろうからなぁ……。

 なんせ容姿が良いだけでなく、人懐っこい性格をしている為、皆から好かれているのだから。


「この前は有難う、白兎」

 桜ちゃんが居る為明確に言う訳にはいかないが、前に世話になっている分俺はお礼を言っておいた。


「あぁ、それは別にいいよ。それに僕も利用させてもらったしね」

 白兎はニコッと笑いながら、スマホを取り出した。

 一瞬どういう意味かわからなかったが、わざわざ白兎がスマホを取り出した事からその真意が伝わってきた。


「やっぱり買ってたのか」

「まぁね。内容は教えてもらえなかったけど、神崎君が自信有り気だったから買っといた方が良いと思ったんだよ。あ、金額は内緒だけどね?」

 白兎は人差し指を立てて自分の鼻の前へと持って行くと、片目を瞑ってウィンクをした。


 意外とそういうとこで抜け目が無いんだな。

 まぁ理解が早いし、やっぱり賢いのだろう。


 桜ちゃんは俺達がやり取りをしている間、ずっと白兎の顔をジーっと見つめていた。

 なんだかこの子は初対面の相手となると、その顔をジーっと見つめる癖があるけど、それは失礼な事だと教えて止めさせた方が良いだろうか?


「――桃井桜です。宜しくお願いします」

 俺が桜ちゃんを傷つけない様にどう注意しようか頭を悩ませていると、桜ちゃんが俺の背中の後ろから出て来て、礼儀正しく挨拶をした。


「わ、桃井さんの妹さんに話しかけられちゃった! これって僕は良い人認定されたって事かな!?」

 桜ちゃんに挨拶をされた白兎は嬉しそうに目を輝かせながら、俺に尋ねてきた。

 俺達の学園では桜ちゃんと話す事に成功した人間は、良い人だと認定されるという噂が立っており、その事を白兎は言っているのだろう。

 まぁ白兎は女装趣味があるだけで、実際良い奴だしな。


「そうみたいだな」

 俺がそう言うと、白兎は嬉しそうに頷き、桜ちゃんに挨拶を返す。

白兎凪紗しろうさぎなぎさです。神崎君とは一年生の時同じクラスだって、最近縁があって交流を深める様になった感じかな」

「そうなんですか。お兄ちゃんがいつもお世話になっています」

 桜ちゃんはニコニコ笑顔でそう言うと、再び礼儀正しく頭を下げた。


 さ、桜ちゃん……?

 確かに家族の知り合いに挨拶をする仕方としては正しいけど、ここでその言い方は不味いんじゃないだろうか……?


 案のじょう白兎は手を顎に当て、考え込んでいた。

 そして苦笑いしながら、ゆっくりと口を開く。

「神崎君……まさか噂通り、妹プレイをしていただなんて……。僕が人の性癖をとやかく言える事じゃないけど、家族でも無い子にお兄ちゃん呼びをさせるのはどうなんだろうね……?」

「ちょ、ちょっとまて! これにはわけが――というか、噂になってるって何!?」

 桜ちゃんが俺の恋人みたいな噂は聞いたことあるけど、妹プレイをさせているって噂初耳なんだけど!?


「いやね、桃井さんの妹さんが神崎君の事をお兄ちゃん呼びしている事から、学園の生徒は皆神崎君にそういう嗜好しこうがあると思ってるよ?」

 な、なんて事だ……。

 俺の知らない間にそんな噂が立っていたとは……。


 でも確かに普通に考えれば、苗字が違う女の子にお兄ちゃん呼びさせていればそうなるよな……?

 しかもずっと妹が欲しかった俺は、そういう嗜好があるというのも否定しきれないし……。


 どうする?

 正直に桜ちゃんは俺の妹だという事を教えるのが良いとは思うが――そんな事をすれば、間接的に咲姫との約束を破ってしまう事になる。

 咲姫って最近甘えん坊になってる癖に、怒ると凄く怖いんだよな……。

 昨日も凄く怒られたばかりだし……。

 長時間正座させられていたせいで、今もまだ足が少し痛い。

 出来れば家族だって言う事を避けたい……だけどこのままだと、白兎に変な勘違い(?)をされてしまうし……。


 ジー……。


 俺がどうするか考えていると、桜ちゃんが俺の顔を見つめていた。

 ん?

 なんだろ?


 桜ちゃんが俺に何か言いたい事があるのかと思って、俺が声を出そうとすると、桜ちゃんの方が早く声を出した。

 ただそれは、俺にじゃなく白兎に――だ。


「桜は、お母さんの再婚でお兄ちゃんの義妹になったんです。だから桜はお兄ちゃんの事を、お兄ちゃんって呼んでるんです」

「さ、桜ちゃん!?」

 予想もしていない発言をいきなり桜ちゃんがしたため、俺は驚いて桜ちゃんの名前を呼んでしまう。


 すると桜ちゃんは俺の顔を見上げてニコッと笑った。


「大丈夫だよお兄ちゃん。お姉ちゃんはお兄ちゃんと姉弟だって事が皆に知られても、もう怒らないと思うよ? それに白兎先輩は、内緒にしてってお願いしたら誰にも話したりしない人だと思うし」

「いや、あいつ怒るんじゃないか……? まぁ、白兎は言い触らしたりしないとは思うが……」

 確かに咲姫と姉弟の事を言わない約束は、俺達が仲が悪かった時にしたものだけど――今は仲が良いと言っても、あいつの体面というのがあるしな……。


 それに俺の記憶でも白兎は人の事を言い触らしたりしない奴だと認識しているが、何でこの子は初対面の白兎をそこまで信用してるの?

 本当に、一度心を許せば絶大な信頼を置きすぎてないか?

 お兄ちゃんちょっと、桜ちゃんが将来変な男に連れ去られないか心配なんだけど……?


 まぁそもそも、変な男が相手なら桜ちゃんは逃げるだろうが……。


「そっか、そういう理由があったのかぁ……。だから桃井さんの妹さんはそんなに神崎君に懐いてるんだね。今も腕にくっついちゃってるし」

 俺達のやり取りを見ていた白兎が、納得いったという感じで声を出した。


「まぁ、そういうわけだな。ただ――」

「うん、わかってるよ。話は僕にも聞こえてたし、そもそも神崎君が言いたがらなかったって事は、家族だって事を知られたくないんだよね?」

 俺が口止めをしようとすると、白兎の方が先に笑顔でそう言ってきてくれた。

 本当に話が早くて助かる。


「悪いな……」

「いや、いいよ。うん――あの桃井さんが相手となると、知られたくないってのも納得できるし」

 白兎はそう言うと、苦笑いして同情したような目を向けてくる。

 咲姫と家族になったと聞いて、羨ましがらない男子は白兎位なものだろう。

 恐らく白兎は、咲姫の事を怖いと思っているから俺に同情している目を向けてきているのだ。

 それと、他の男子に知られれば、嫉妬されて冗談抜きで命の危険が有るかもしれないしな……。


「それにしても――いいな、桃井さんの妹さん」

 突然白兎はそう呟くと、羨ましそうに桜ちゃんの事を見る。


 桜ちゃんが羨ましい?

 桜ちゃんを妹にしてる俺が羨ましいんじゃなく?


 俺は白兎の言葉に引っかかりを覚えて、白兎の事を見る。

 すると、白兎の視線が桜ちゃんの服に注がれている事に気がついた。 

 そして桜ちゃんはその白兎の視線に、目をキラキラとさせて嬉しそうな笑みを浮かべる。


「もしかして、この服が良いなって事ですか?」

「あ、うん、それもそうなんだけど、ゴスロリ服が似合う君が羨ましいなって。可愛いから僕も着てみたいんだけど、流石に僕が着ると――ね?」

 諦めた様な表情をしながら、白兎が首を横に振った。

 

 あぁ――そういうことなのか。

 確かに可愛い服が好きな白兎にとって、ゴスロリ服は着てみたいものだろう。

 ただ、いくらそこら辺の女子より可愛い顔付きをしている白兎でも、流石にゴスロリ服を着たら似合わないだろうな……。


 てか、やっぱり桜ちゃんって凄くないか?

 俺の感情の変化にもすぐ気づくし、白兎が何となく呟いた言葉から、白兎が何を考えているのかほぼ正確に読み取るなんて。

 家事も得意で、勉強もマンモス校であるうちの学園で学年三位に入ってる。

 その上人の気持ちをすぐ察せられるなんて、この子って凄くスペック高いんじゃね?


 ありえないくらい方向音痴だけど、桜ちゃんに迷子属性がついてるって考えると、それはそれで可愛く思える。

 運動は得意じゃなさそうだけど、正直運動神経なんてプロスポーツ選手になる人以外は、そこまで必要でも無いし。

 あ、いや、逃げ足は速いみたいだけど……。


 でもどうしよう、思わぬ原石を見つけた気分なんだけど……。


 ただ、そんな事を考えている俺を横目に、桜ちゃんと白兎が可愛い服の話題で盛り上がってる。

 それがとてつもない疎外感を感じるんだが……?


 もしこれで今日は白兎と二人で遊ぶとか言い出したら、お兄ちゃん落ち込んじゃうよ?


 俺がそんな気持ちで二人のやり取りを見ていると、急に桜ちゃんが俺の顔を見上げた。

 そして――

「今日はお兄ちゃんとこれから遊びに行きますので、今日のところはこの辺で」

 ――と、話が盛り上がっていたはずなのに、桜ちゃんは話を打ち切った。


「あ――うん、そうだね。じゃあまたね、桃井さんの妹さんに神崎君」

 桜ちゃんの急な話の打ちきりに白兎は一瞬戸惑ったような表情をしたが、すぐに笑顔で別れを告げた。


「あ、あぁ、バイバイ」 

「失礼します」

 俺はいきなりの流れに戸惑いを隠せない状態で――桜ちゃんはいつものニコニコの笑顔で、白兎に別れの挨拶を返した。


 そして白兎が立ち去ると、桜ちゃんはまた俺の顔を見上げてきた。

「お兄ちゃん」

「ん? どうかした?」

「ううん、何でもない!」

 桜ちゃんに名前を呼ばれたから何か話があるのかと思って尋ねてみると、満面の笑みを浮かべた桜ちゃんに首を横にふられた。

 

 そして、桜ちゃんは何故かニコニコ笑顔で、俺の腕に抱きついてる自分の腕に、ギュッと力を込めてきた。

 そんな桜ちゃんの一連の行動に、俺の頭の中は『?マーク』で一杯になるのだった――。


 その桜ちゃんが白兎の事を男だという事に気付いているのか気になった俺は、桜ちゃんにその事を問いかけてみた。

 するとやっぱり女子だと思っていたみたいで、男だと教えたら凄くビックリしていたのだった――。

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