第66話「やはり妹は天使だ!」
現在俺は、桜ちゃんをリビングで待っていた。
一緒にお出かけをするからという事で、桜ちゃんが着替えに行ったのだ。
俺も出かける用の服に着替えたのだが、女の子の桜ちゃんよりは早く準備が終わったというわけだ。
桜ちゃんと出かけるという事で、前みたいに如月先生に髪型をセットしてもらおうかと思ったのだが、桜ちゃんが『お兄ちゃんがカッコイイ事は桜が知ってるから、わざわざ髪型をセットして貰いに行かなくていいよ』って言ってくれたのだ。
その言葉をニッコリとした笑顔で言われた時は、『本当にこの子は天使か!』って思った。
人の容姿を気にしない桜ちゃんは、本当に人として立派だと思う。
ま、まぁ、だからと言って容姿に気を使わない人間が駄目だという事はわかっているため、別に自分の事を棚に上げるわけではない。
でも、やっぱり今の俺で良いと言ってくれるのは、凄く嬉しかった。
……今、思いっ切り人の目を気にしてしまっている俺だが、過去に特徴的な容姿をしているせいで虐められている二人の少女に、『人の目なんて気にするな』的なアドバイスをした事がある。
うん、今の俺からすれば、『どの口が言うんだ、お前は』と思う。
まだ幼かった時の俺がその時に言った戯言が原因で、可愛かった従妹は変な方向に道を外すし……。
しかもその事を俺がずっと褒めていたせいで、もう後戻りできないとこまで来てるし……。
まぁもう一人は小学生時代に出会った春花なのだが――中学で再会した時にはもうその話を春花がする事はなかったから、きっと彼女は覚えてないのだろう。
春花は鈴の様な綺麗な声をしている事が特徴だったが、それ以外にも髪の色素が薄いらしく、地毛がクリーム色をしていた。
そのせいで小学生時代の春花は同級生の男子から虐められており、小学校は別だったけどたまたまその場に出くわした俺が、彼女を助けた事がある。
その時の彼女は自分の髪の色が嫌いと泣いており、俺はそんな春花に『他の人とは違う綺麗な髪の色をしているから、自信を持って髪を伸ばせば良いよ』と、言った。
ただそれは、春花を励ます為に嘘で言った言葉じゃない。
本当に春花の髪の色は綺麗で、初めて会った時には凄く可愛い子だと思った。
多分虐めていた男子達も、好きな子を虐める思春期特有の気持ちでやっていたのだろう。
まぁ虐められていた春花からすれば、そんな事知った事じゃないとは思うが……。
次に春花と再会したのは中学が一緒になった時だったが、前に会った時はショートヘアーだったのがロングヘアーになっていたから、俺の言葉を信じてくれたのかもしれない。
春花と仲良くなったキッカケは彼女に勉強を教えていたからだったが、彼女が一度も小学生時代のあの出来事を話題に出さなかったことから、彼女は忘れてしまったか、俺だったという事に気付いてないのだろう。
俺は春花が特徴的な髪色をしていたから、覚えていただけだったしな。
しかし、中学でも春花のその髪の色から、彼女の事を『軽そうな女』と言う同級生は少なくなかった。
本人は凄くそれを気にしていた。
当時は、春花の小学校からの友達とか俺が庇っていたけど、あいつ、一人で転校して行ったんだよな……。
転校先でまた、髪の事で弄られてなければいいけど……。
「――お兄ちゃん……これ、どうかな……?」
俺が過去を思い返していると、恥ずかしそうな声を出しながら桜ちゃんが声を掛けてきた。
多分、服が似合ってるかどうかの意見が欲しいんだろう。
桜ちゃんなら、何を着ても可愛いと思うけどな――。
俺はそう思いながら桜ちゃんを見ると――言葉をつまらせた。
ゴ、ゴスロリ服……?
現在桜ちゃんが着ているのは、黒と白を基調にした、フリフリとしたパっと見メイド服にも見えそうな服だった。
胸元には大きな黒いリボンが付いており、黒と白の服が二枚重なったようになっている。
黒色を基調とした短めの服の端をフリフリみたいにカットしていて、その下から長袖の白色の服が出てきているというデザインだ。
そして白色の服も、やはり端はフリフリみたいに切られていた。
前に桜ちゃんが着ていたピンクのフリフリは、子供っぽさが出てるって感じだったけど、今回の服は完璧にゴスロリ服という物だろう。
しかし、桜ちゃんの低身長と幼い顔立ち――しかも凄く可愛い顔立ちの為、よく似合っている。
そして今の桜ちゃんは自分がゴスロリ服を着ている自覚があるからか、俺が桜ちゃんの方を見ると桜ちゃんは俯いてしまい、凄くモジモジとしていた。
や、やばい……可愛すぎる……。
当然俺は、そんな桜ちゃんに興奮を隠しきれない。
いや寧ろ、いつも天使の様な笑顔を浮かべる可愛い妹が、こんな服を着ていて興奮しない兄など居ないだろう。
「へ、変かな……?」
俺が黙って桜ちゃんの方を見ていると、桜ちゃんが俯いたまま、泣きそうな声で聞いてきた。
何も反応を見せない俺のせいで、自分の服が似合ってないと思わせてしまったみたいだ。
「いや……凄く可愛いよ」
実際凄く似合ってるため俺がその事を伝えると、桜ちゃんがパッと顔を上げた。
その瞳はキラキラとしている。
「ほ、本当!?」
「うん、本当だよ。というか、桜ちゃんならどんな服でも似合って可愛いと思うよ?」
「そ、そっかな……?」
俺が桜ちゃんを褒めて正直な気持ちを言うと、桜ちゃんは『えへへ……』と嬉しそうに笑いながら、そう尋ね返してきた。
俺はその言葉に笑顔で頷く。
こんな可愛い子なら、どんな服を着ても本当に似合うと思う。
「でも、ゴスロリ服を着るのって初めてだよね? 元からそういう服が好きだったの?」
「う~ん、こういう凄く可愛い服は好きなんだけど、買って着るのはためらってたかな……? でも、お兄ちゃんがこういう服を着たら喜んでくれそうだと思ったから、買ってみたの!」
桜ちゃんはそう言うと、可愛らしい笑顔を浮かべた。
……うん、やっぱりこの子は天使だ!
俺の為にわざわざ凄く高いはずのゴスロリ服を買って着てくれるなんて、この子本当良い子過ぎないか!?
てか、桜ちゃんそんなお金持ってたんだな。
……父さんの事だから、可愛い桜ちゃんにきっと小遣いをはずんでるんだろうな……。
あの人俺に小遣いをあまりくれないだけで、実際かなりお金を持ってるみたいだし。
まぁ、俺は自分で稼いでるから良いんだけど……。
しかし、ちょっと釈然としない気持ちはやっぱりあるな。
というか俺、桜ちゃんに自分の好み把握されていないか……?
桜ちゃんに自分の好きな物とかそんなに話してないと思うけど、オタク一般がロリっ子とかを好きだって認識なのかな?
それならいいけど、もし自分の性癖まで把握されているかもしれないと思うと、ちょっと不安なんだけど……?
「じゃあお兄ちゃん、行こ!」
桜ちゃんはそう言って、左手で俺の右手を抱え込み、抱き着いてきた。
その拍子に、桜ちゃんのふくよかな胸が俺の右手に当たり、プヨプヨとした感触が気持ち良い。
……やっぱり、抱き着いてくるんだね……。
胸の感触にはまだ慣れないし恥ずかしいが、桜ちゃんが抱き着いてくる事は想定していたため、俺はそんなに動揺しなかった。
そんな桜ちゃんは、右手に大きな手提げ鞄を持っていた。
いつもは小さいポーチを持ち歩いてるのに、なんで今日はそんな大きな手提げ鞄を持っているのだろう?
「桜ちゃん、その手提げ鞄には何が入ってるの?」
気になった俺は、その事を桜ちゃんに聞いてみる。
「えへへ……内緒!」
桜ちゃんは悪戯っぽい笑顔でそう言うと、俺が見えない様にピュッっと手提げ鞄を自分の身体の後ろに隠してしまった。
この様子では『持とうか?』と言っても、渡してはくれないだろうな。
一体何を持って来ているのやら……。
桜ちゃんが持っている手提げ鞄や、桜ちゃんがアキバに行きたがった理由がわからない俺は、首を傾げながら桜ちゃんと一緒に家を出るのだった――。







