第65話「妹が遊びに行きたがった所は、予想もしない所でした……」
「――絶対、私が居ない間にあの女の子を家にあげたら駄目だからね!」
今日から二泊三日の生徒会研修合宿に行く咲姫が、大荷物を後ろ手に、俺に口うるさく言ってきている。
朝起きてから、咲姫はずっとこの調子だ。
昨日も散々説教されたのに、朝からこれでは気が滅入る。
「わかったって。ほら集合時間に遅れるんだから、早く行けよ」
「むぅ……そんな追い払おうとしなくてもいいじゃん……。今日から少しの間いないのに……」
咲姫はそう言って、拗ねた様な顔をして俺の顔を見上げる。
その顔はプクーっと膨れ上がっており、子供っぽくて可愛いと思う。
そしてやっぱり、この膨れ上がった頬を突いてみたいなとも思った。
まぁそんな事をすれば、咲姫の怒りが増すから絶対にしないが……。
「あ――本当にもう行かないと遅れちゃう! 最後に一つ言わせて、私が居ない事を良い事に、桜に手を出したら酷い目に合わせるからね! じゃあ、行ってきます!」
咲姫は最後に物騒な事を言うと、家を出て行った。
俺が桜ちゃんに手を出すはずが無いのにな……。
俺は桜ちゃんの事は好きだが、それは妹として好きなだけだし、妹に欲情するような性癖はあいにくと持ち合わせていない。
「行っちゃったね……」
咲姫が居なくなった事で、桜ちゃんが寂しそうに呟く。
この子は一度懐くと凄く甘えん坊になるみたいだから、咲姫が居ないのは寂しいんだろう。
てか、今日から三日間――って言っても、三日目には咲姫が帰って来るけど、少しの間桜ちゃんと家で二人きりか……。
……うん、なんだろう、よく考えれば、それって不味くない……?
いくら桜ちゃんが小学生にしか見えないとはいえ(胸以外)、俺と桜ちゃんは歳が一つしか違わない。
しかも、兄妹ではあるが、実際は血が繋がらない。
そんな二人が今日から少しの間、二人っきりで生活をする。
これって、周りから見たらアウトだよね……?
ま、まぁ、間違いを犯さなければいいだけだよな!
俺はそう結論づけると、もう考えない事にする。
何はともあれ、桜ちゃんとの二人だけの生活は楽しみでしかない。
だってこの天使の様な子と二人だけだぞ?
最近振り回されるばかりの咲姫が居ないから、桜ちゃんから癒しを貰い続けるだけの生活が出来そうだ。
「お兄ちゃん、桜、行ってみたいとこがあるの!」
桜ちゃんが急に俺の服の袖をクイクイっと引っ張ると、満面の笑みでそう声を掛けてきた。
「うん、どこに行きたいのかな?」
俺はそんな桜ちゃんに同じように笑顔で返す。
もう桜ちゃんの笑顔だけで、顔がだらしなくニヤケそうになる。
「え、えっとね……そのね……」
桜ちゃんは少し恥ずかしそうにモジモジしながら、言い淀んでいた。
恥ずかしがるって、一体どこに行きたいのだろうか?
でも桜ちゃんが望むのなら、例え世界の裏の果てでも俺は連れて行こう。
俺が可愛い妹の我が儘なら何でも聞いてあげようと気持ちを固めると、桜ちゃんが意を決した様に口を開いた。
「あのね――桜、アキバってとこに行ってみたいの!」
「……え!?」
――桜ちゃんが行きたいと言ったところは、まさかのオタクの聖域とまで言われる所だった。
ちなみに人混みが苦手な俺は、いくらオタクとは言え、アキバに行ったことが無い。
なんでこの子、そんな所に行きたがるの……?
俺は何とも言えない不安を抱えながら、しかし可愛い妹のお願いを断れるはずもなく、アキバに行く決意を固めるのだった――。