第62話「妹の理解者」
読み専(?)のしろ様からレビューを頂きました(*´▽`*)
書いて頂いたレビューを読ませて頂くと、ニヤニヤが止まりませんでしたヾ(≧▽≦)ノ
皆さんも、是非読みに行ってみてください(^^♪
「――だめ……体が火照って寝られない……」
ベッドに転がって眠りにつこうと思っていた私は、目を瞑ると今日一日の事を思い出してしまい、どうしても寝られなかった。
今日私は、私の人生を無茶苦茶にしたアリアに勝つ事が出来た。
とは言っても、アリアの策略を見抜いたのは海斗だし、対抗策を考えたのも海斗だけど。
海斗って本当に凄いと思う。
だって、あの狡賢いアリアの上を行ったんだもん。
今の学園に入ったのは、あいつに勝てる人間を見つけるという目的もあった。
でも、心のどこかでそれは諦めてたの。
金も地位も普通の人間とは比べ物にならないくらい持っていて、尚且つ頭が凄く回るから、普通の学生では敵わないと思ってた。
そんな時に出会えたのが海斗だった。
海斗ならもしかしたら――って思ってたけど、本当に勝っちゃったんだよ……。
しかも、私が勝手に勝負に乗っちゃったから、アリアに凄く有利な条件だったのにだよ。
海斗は桃井の事があったのに、私に自分から手を差し伸べてくれた。
私は見捨てられたって文句が言えない立場だったのに……。
私が優しいって言ったら海斗はそれを否定したけど、やっぱり優しい人だと思う。
それに私が鈴花の事で悩んでたら、優しく笑いかけてくれた。
あの時の海斗の笑顔、凄く素敵だったなぁ……。
今までは怖い海斗が好きだったけど、優しく笑いかけてくれる海斗の方が好きかもしれない……。
でも、彼は私の事をまだ許してくれてない気がする。
だって、彼は心の内側に私を入れる事を拒んでるもん。
海斗はKAIで間違いないと思う。
海斗が持つ技術が凄い事は知ってたし、アリアが言ってた言葉には信憑性があった。
それに、KAIが仕事を受ける時に交わす契約内容の事は有名だから私も知ってる。
アリスがアリアの問いかけに何も答えなかったのは、海斗がKAIだから、答えれば契約に触れるって事だったんだと思う。
何より、海斗自身が平等院システムズの内容を知っていた事を必死に隠そうとしてたのが、何よりもの証拠な気がする。
だけど、海斗は私が『KAIなの?』って聞いたら、否定した。
つまり、私には教えたくないって事なの。
だから、私は海斗にまだ拒まれてるんだと思う。
それに今回の勝負、海斗は勝負の要は私みたいな事を言ってたけど、私の言葉を完全には信じてくれてなかったというのは、海斗がアリアのインサイダー取引の証拠を取り出した時にわかった。
海斗は多分その証拠を手に入れるよりも、アリアが株を買ったかどうかの裏付けをとろうとしてたんだ……。
私の事、全然信用してくれてなかった……。
だけど、それは全て私が悪い。
海斗に信頼されるだけの実力もなければ、桃井に最低な事をしたのも私だ。
でも……桃井に対して許されない事をした事はわかってるけど、好きな人にまでそれを許してもらえないのは正直辛い。
だから、私は海斗の隣にきちんと立てるまともな人間になりたかった。
あの時アリアから賭けの報酬をもらっていたら、私はアリアと同じ人を陥れてお金を手に入れている様な人間になってしまう。
そんな事嫌だったから、私は報酬を拒んだの。
海斗は驚いてたけど、私は大金を手に入れるチャンスを逃した事を、ちっとも後悔していない。
今の私は海斗の隣に居られれば、それでいいから。
その為にも、今まで努力してきた事はこれからも続けようと思う。
いつか海斗が私の力を認めてくれるようになる事が、これからの私の目標だ。
だけど、それと同時に桃井に償っていきたい。
でも、一つここで問題があるの。
それは――海斗と約束したあの日から、まだ私は桃井に何もしてあげられてないという事。
そもそも、桃井が困る事がまずなかった。
勉強では学年どころか――全国でも上位に入る学力を誇るし、運動も男子に負けないくらい出来る。
男子が言い寄ってきたとしても、桃井は一人で振り払っちゃうし、何より最近はイケメンの彼氏が居たという噂が流れていて、桃井に言い寄ろうとする男子もいない。
そして桃井の雰囲気から、別に貧乏というわけでもないっぽいし……。
正直、彼女が困ってる姿が想像つかない。
万が一困ってたとしても、私より先に海斗が解決しちゃいそうだし……。
てか、桃井って海斗の事好きなんだよね……?
わざわざ自分の誕生日に海斗と遊びたがってたくらいだし……。
でも、海斗と学校で話してる所見た事ないんだけど?
もしかしたら、私がずっと海斗の傍に居るからかな……?
もしそうなら悪い事しちゃったと思うけど……流石に海斗の事はいくら桃井でも譲りたくない……。
海斗を譲る事を桃井への償いにするって事だけは、許してほしい……。
いやそれよりも、そもそも海斗っていつの間に桃井と関係を持ったの?
桃井妹――最近は仲が良いから、桜って呼んでるけど、桜を通じて友達になったと言っても、そもそも学校で話してたことないよね?
私が絡むようになるまでは、海斗自身凄く影が薄かったって言うのはあるけど、その相手の桃井は凄く目立つ。
実際桃井が男子と少し長めに話をすれば、それだけでその事実は皆に知れ渡る。
いくら海斗が目立たないとはいえ、逆に桃井とのギャップがあるから、余計皆の中で噂になると思う。
でも、桜との噂以外は海斗の噂なんて聞いた事もなかった。
何よりも、桜が海斗の事を『お兄ちゃん』って呼んでるのはなんで?
あまりにも当たり前のように呼ぶから気にとめてなかったけど、初めて桜が海斗を呼びにきた時って、『神崎先輩』って呼んでたよね?
そもそも兄妹でもないのに、『お兄ちゃん』って呼ぶこと自体おかしいし……。
あれ……なんだろう……?
なんだか凄く嫌な予感がする……。
とりあえず海斗には悪いけど、調べさせてもらおう……。
私はもっと早く気付かないといけなかった事があったような気がして、次の日には行動に移す事に決めるのだった――。
2
アリアと決着をつけた次の日――俺はアリスさんが来るのを、家のリビングで待っていた。
……なんであの人、わざわざ俺の家に来るって言い出したんだよ……。
事前に『決着がついた次の日に、話したい事があるからまた会いたい』という連絡は、数日前からもらっていた。
しかしそれは、てっきり取引をした所で会うものだと思っていたのだが、昨日いきなり俺の家に来ると言い出したのだ。
父さんと香苗さんは、昨日から新婚旅行として一週間の海外旅行に出ているし、咲姫は明日から二泊三日の生徒会の研修合宿があるから、その打ち合わせとかもかねて今日は朝早くから学校に行っている。
だけど――まだ家には、桜ちゃんが居た。
それなのに俺がハーフの金髪女子なんて家に入れてしまえば、桜ちゃんから疑惑の目を向けられかねない。
あの子の地雷原を未だに把握していない俺は、アリスさんが家に来る事を拒否したかった。
俺がアリスさんにそう伝えると、『気にしない。むしろ面白そう』と、アリスさんから返信が来た。
……あなたが気にしなくても、俺が気にするんですが!?
てか、面白そうってなんだよ!?
あの人俺が困る事を楽しんでるだろ!?
ピンポーン――!
俺が今日という日をどう乗り切るか考えていると、どうやらアリスさんが来たようだ。
「宅配便かな?」
俺の横でテレビを見ていた桜ちゃんが、玄関に向かおうとする。
「あ、桜ちゃん、俺が出るから良いよ! 何か重たい物だったら困るし!」
俺が桜ちゃんを呼び止めると、桜ちゃんは一瞬俺の顔を見て、すぐに笑顔で頷いた。
「――はい」
「こんにちは……来たよ……」
俺が玄関のドアを開けると、気怠げな雰囲気のアリスさんが立って居た。
その後ろには、リムジンが停まっているのが見える。
やっぱり、お金持ちはリムジンに乗ってくるんだな……。
「入れて」
俺がリムジンを見ていると、アリスさんが俺の服の袖をクイクイと引っ張って、そう促してきた。
「あれ、一人だけですか?」
ここ最近ずっとアリスさんの傍に居た、あの優しそうな女性の姿が見えない。
てっきり、その女性も家に上がるものだと思っていたのに。
もし今見えてるリムジンの運転席に乗っているのなら、近くの駐車場に止めてくればいいだけだし……。
「ニコニコ毒舌は……今アリアの相手をしてる……」
「え?」
「誰かさんのせいで……アリアは今荒れ狂ってる……。護身術を身に着けてる……アリアを無傷で抑えれるのは……ニコニコ毒舌くらい……。だから……置いてきた……」
アリスさんは俺が知りたかった内容を教えてくれたと同時に、知りたくもなかった内容まで教えてくれた。
……あんな凶暴な女に、護身術とか教えるなよ……。
どう考えても被害者続出じゃないか……。
てか、今アリアが荒れ狂ってるのって、俺のせいと言うより、アリアを消化不良で気絶させたからじゃないのか……?
つまり、アリスさんのせいだよな……?
俺はそう思ってアリスさんの事を見ると、アリスさんはニコッと笑った。
……もしかして……。
「あなた、端からこれが狙いでした……?」
改心の為に叩き潰してくれと言ったアリスさんが、アリアが荒れ狂ってる事を大して気にしていない事に違和感を感じた俺は、一つの仮説を思いついたため、アリスさんに尋ねてみた。
「何の事……?」
アリスさんは俺の質問にわざとらしく、首を傾げる。
この様子から見るに、俺の仮説は当たってる気がした。
だから、その仮説をアリスさんに言ってみる。
「アリアを叩き潰したとしても、アリアがそう簡単に改心するはずが無いから、あいつの怒りを俺に集める事によって、他の人間に被害を出させない様にしたんじゃないでしょうね……?」
「アリアを改心させてほしかったけど……カイには無理そうだったからね……。その辺の話も……きちんとする……」
俺はアリスさんの言葉に頭を抱える。
この人は一体、俺と取引した時にどれだけ先の事を見通してたんだ……。
「お兄ちゃん、お客さんだよね?」
俺が頭を抱えていると、急に俺のすぐ後ろから声が聞こえた。
俺はその言葉に、ゆっくりと後ろを振り向く。
そこには、ニコニコ笑顔の後ろに『ゴゴゴゴゴ』の効果音をつけた、桜ちゃんが立っていた。
え、この子いつから俺の後ろに立ってたの……?
「その子なら……カイがドアを開けた時には……リビングらしき部屋のドアから……こっちを見てたよ……? カイの後ろに来たのは……今だけど……」
俺がダラダラと冷や汗を掻いていると、アリスさんが首を傾げながらそう答えた。
え……それって、最初から見られてたって事じゃん……。
俺達の話、聞こえてないよな……?
いやそれよりも、この子俺が嘘ついてアリスさんを迎えに行こうとした事に、気付いてたの……?
俺がそう思って桜ちゃんの顔を見ると、桜ちゃんはニコッと笑った。
「桜、嘘をつく人は嫌いって言ってたのに、どうしてお兄ちゃんは嘘をついたのかな? 何かやましい気持ちでもあるのかな?」
桜ちゃんは笑顔のまま俺の顔を見ていて、俺はどう答えたものか頭を悩ませる。
本当にこの桜ちゃんが降臨なさった時は、凄く怖い……。
いつもの天使桜ちゃんはどこへやら……。
「べ、別にやましい気持ちがあったわけじゃないぞ?」
「……」
俺が冷や汗を掻きながらそう答えると、桜ちゃんは俺の顔をジーっと見つめてきた。
そのまま十秒ほどたった頃、桜ちゃんが苦笑いを浮かべた。
「嘘つきは泥棒の始まりだから、駄目なんだよ?」
「は、はい……」
俺が素直に返事をすると、桜ちゃんはニコッと笑ってくれた。
どうやら許してくれたようだ。
しかし、今度は警戒した様にアリスさんの顔をジーっと見つめ始める。
……そう言えば、この子って極度の人見知りだっけ……?
俺は桜ちゃんの小動物が警戒している様な姿から、彼女が学校では他の生徒達から逃げ回っている事を思い出す。
最近ではいつも昼を共にしているからか、雲母には懐く様になったみたいだが……。
だけど、桜ちゃんの警戒態勢はすぐに終わった。
「初めまして、お兄ちゃんの妹の桜です」
桜ちゃんはアリスさんに笑顔で礼儀正しく挨拶すると、ピョコっと頭を下げた。
……あれ?
すぐ笑顔に戻ったな……?
まぁ、アリスさんは見た目気怠い雰囲気は出しているが、優しそうに見えなくもないしな。
……いつも無表情だけど……。
そんな一連の桜ちゃんを見て、アリスさんは面白そうな表情で笑う。
「へぇ――良い目を持ってるね……。平等院アリス……お兄さんとは……友達……? まぁ……よろしく……」
アリスさんも桜ちゃんと同じように、頭を下げた。
良い目ってどういう事だ……?
――あぁ、桜ちゃんの目は凄く可愛らしいし、そういう意味か……。
というか、何故友達の部分が疑問風だったのかを問いただしたい。
俺達はまだ、友達という関係ではなかったのだろうか……?
俺がそんな事を思ってアリスさんを見ると、アリスさんは桜ちゃんの頭を撫でて、桜ちゃんの耳元まで顔を近づけた。
「この社会は……汚い人間ばかりで……大変だよね……?」
アリスさんが何を耳打ちしたのか俺には聞こえなかったが、桜ちゃんが驚いた表情でアリスさんを見ていた。
一体何を言ったんだ……?
もしかして、俺の悪口でも桜ちゃんに吹き込んだんじゃないだろうな……?
俺はアリスさんに色々と痛い過去を知られている為、アリスさんが変な事を桜ちゃんに教えていないか不安になった。
だが――次の桜ちゃんの一言で、アリスさんが耳打ちした事は、俺と関係が無い事だという事がわかった。
「もしかして――お姉さんもなんですか……?」
桜ちゃんがアリスさんにそう尋ねると、アリスさんはニコッと笑っただけで何も答えない。
……何が一緒なんだ……?
「カイ……部屋に入れて……」
アリスさん達の話す内容が理解できなかった俺が二人を観察していると、アリスさんが俺の部屋に行こうと言い出した。
わざわざ俺の部屋に行くのは、桜ちゃんに聞かせられない内容だからだ。
アリスさんを自分の部屋に案内している最中、俺は先程から気になっている事を聞いてみる事にした。
「桜ちゃんに一体何を言ったんですか?」
「……あの子は……見かけによらず……凄く苦労してる……。しっかり気遣ってあげないと……取返しのつかない事に……なるよ……?」
俺の質問とは違う言葉が返ってきたが、それはまた気になる言葉だった。
「どういう事です……? 一体何が取り返しのつかない事になるんですか……?」
桜ちゃんの事となると、簡単に流していい話じゃない。
あの子がもし困っているのであれば、俺は力になってあげたい。
「ちびっこ天使が……話してないのなら……アリスが言うわけにはいかない……。今も尚……あんなに優しそうにいられるのが……凄い……。本当に……天使のような子……」
アリスさんはそう呟くと、もう何も答えてくれなかった。
俺は桜ちゃんに一体何が起きてるのかがわからず、胸にモヤモヤした感情を抱えたまま、自分の部屋へと向かうのだった――。