表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/272

第54話「日本三大財閥の均衡は崩れる」

「う~ん……思ったよりも株って動かないんだね~」

 ここ数日の株の動きを見たアリアさんが、アリス様にそうおっしゃった。


「それは……平等院システムズの株が……安定しているだけ……。普通の株は……数分単位で……凄く動くのが……多い……。それに……極端な例えだけど……一円しか下がってなくても……安い会社の株を百万株もってれば……百万円の損……。株を甘く見れば……大変な事に……なるよ……?」

 アリス様は愚妹でしかないアリアさんに、そんな風に優しく株について教えられています。


「なるほどね~……。まぁ、今回は勝ちが決まってる様なものだからそんなに焦る必要が無いし、別に構わないわ。それに今回の勝負は雲母なんてどうでもいいしね。私が知りたいのは、神崎がどれほど出来る男なのかよ。株の知識があるのかどうか知らないけど、無いなら無いなりの行動を起こすはず。()()()みたいに私に交渉を持ってくるかしら?」

 アリアさんはそうおっしゃって、楽しそうに予想をし始めました。

 今回の勝負で微塵も負けるとは思っていない様です。


 とは言っても、その気持ちもわからない訳ではないです。

 なんせ今回の勝負ではアリアさんが圧倒的に有利な事に加え、アリス様が株の流れを読まれます。

 それはこの二週間の間で株価が最低になるタイミングがわかるという事です。


 ですから私としましても、本当に神崎さんに勝ち目があるのか疑わずにはおられません。


 彼がアリス様とした取引内容は複数ありましたし、彼がやろうとしている事もわかりました。

 確かにそれなら理論的にはアリアさんに勝てるでしょう。


 しかしそれは、アリアさんが株を買うタイミングがわかるという事が、絶対条件です。


 なのに神崎さんはアリス様と取引をする際に、アリアさんが株を買うタイミングを教えてもらう様に取引しませんでした。

 そして、アリス様も神崎さんにそのタイミングを教えるつもりは無いようです。


 となれば、神崎さんはどうやってアリアさんの買うタイミングを見切るつもりなのでしょうか?

 

 そこが勝負を分ける鍵になるのに、私にはその手口が見当も尽きません。

 だから、私には神崎さんが勝つというのがどうしても信じられませんでした。


 それにアリス様も神崎さんが勝つとは明言しませんでした。

 ひょっとしたらアリス様にとって、神崎さんはアリアさんの成長の糧にしようとした、ただの当て馬に過ぎないのでしょうか?


 ……いえ、それはありえませんね。

 アリス様はそのような御方ではありません。


 なんせこの三年間ほどの間、アリアさんと西条さんのこの対決を見越して、アリアさんに気付かれない様に裏で動き続けられていたのですから。


 そして、神崎さんが亡くなったはずの少年という事は、アリス様にとって大切な御方になります。

 それは彼に接しているアリス様の態度を見る限り、疑いようの無い事でしょう。


 過去にアリス様は、ご自身が連れてこられたプログラマーの御方について楽しそうに語られていました。

 その御方が当時中学生だったという事は、私は教えて頂けませんでしたが……。


 私は信用されていなかったのかと当時は思い悩みましたが、アリス様にとって彼は絶対に守りたい人だったから教えられなかったと、後に聞きました。


 そんなアリス様にとって大切だった人間を、この御方が当て馬にしたりするはずがありません。


 それと先程アリアさんがおっしゃられた『あいつ』というのは、黒柳龍くろやなぎりゅうさんという御方の事でしょう。


 少し前に対面して以来、アリス様もアリアさんも彼の事を気にかけております。


 私はその時アリス様の指示で店の外で待機をしていたため、話していた内容などはわかりませんが、アリス様が認められ、そして彼の事を気に入ってるというのはわかりました。

 そしてそれと同時に、アリス様はある懸念を持たれました。


 その事はアリアさんには内緒にしているそうですが……。

 もしアリアさんが知れば、無茶をしかねないからだそうです。


 本当――愚妹もいいとこですね……。


「――じゃあお姉ちゃん、私は勉強しに部屋に戻るけど、もうテスト中なんだから――といっても、お姉ちゃんは勉強なんか必要ないか。それじゃあ、また後でね」

 アリアさんはそう言って、ご自身の部屋へと戻られました。


 アリアさんはしっかりと勉強もしておられ、テストでは常にトップにおられます。

 それに比べアリス様は平均点くらいしかとられていません。


 とは言え、この御方はテストでわざと手を抜いておられるだけなのですが……。

 本気を出せば、全国模試でも一番間違い無しでしょうに……。


 ですがアリス様が本気を出せば、アリアさんが目立たなくなってしまうとの事で、アリス様はテストをわざと間違えられているのです。

 そこまで愚妹に譲ってあげる必要はあるのでしょうか……?

 

「ニコニコ毒舌、行くよ」

 私がアリアさんが出て行かれたドアを見ながら考え事をしていると、いつもの怠気だるげなアリス様ではなく、凛とされたアリス様が私の後ろに立たれておられました。

 ただし、その声はやはり少し小さいです。


 凛とされるアリス様を見る機会は滅多にないのです。

 アリス様はお話をする事が苦手で、話したがりません。

 ちゃんと話そうとするとお疲れになるらしく、いつも間隔を置きながら言葉を発せられます。


 しかし、大事な話をする時はそんな事も言っていられませんので、頑張って話をされるのです。

 その代わり、凛とされたアリス様が怠気のアリス様に戻られると、少しの間グッタリとされます。


 アリス様は疲れる事を御嫌いになられるので、滅多にこの姿を見られる機会が無いという事です。


 しかし、この後アリス様はある御方達と会う予定になっておられます。

 少し前にお電話はされていましたが、きちんとお会いになるのは愚妹が愚かな事をした少し後なので、三年ぶりくらいになりますね。


 今回の勝負が決まってすぐ、アリス様はその御方達と会う事を決められたのです。


「かしこまりました」

 私はそう言ってアリス様に頭を下げ、目的の所までアリス様の御供をさせて頂くのでした――。





「お久しぶりです、アリスさん」

「また大きくなられましたね」

 そうおっしゃられて、アリス様とついでに私も出迎えてくださったのは、優しそうなお顔をされた中年の男女です。


 この御方達は西条財閥のトップで――西条雲母さんのご両親になられます。

 男性の方が西条社長で、女性が夫人になられます。


 西条社長の性格はお顔通りとお申しますか、とてもお優しく社員思いの方だと、業界でも有名な御方で――日本三大財閥のトップをはられる御方達の中で、唯一マトモな御方です。


 アリス様のお父様と紫之宮財閥のトップである紫之宮社長は、社員の事など考えもせず、周りの人間を食い物としか考えてないのです。

 寧ろ、日本を背負って立つ企業のトップをはられる方としては、西条社長の様な御方が珍しいと思います。

 

 そんなご両親に育てられたのですから、アリス様と同じ学園に通われておられた、西条さんが優しい御方に育ったのも頷けます。

 しかし、そんな優しいお二方が、西条さんが学園から逃げて帰られた際に叱責し、条件を出して勘当をするとまでおっしゃられました。


 心をボロボロにされて家に逃げ帰った西条さんにとって、優しかったご両親にそんな風に叱責を受けたのであれば、あの様に変わられても仕方ないのかもしれません。

 

 偉大な御方であるアリス様でさえ、その言葉を聞いた時は驚かれたものです。

 まぁ西条社長達が西条さんにそんな風に接したのにも、わけがあるのですが……。


「久しぶり、会ってくれてありがとう」

 アリス様は無表情のまま、そうおっしゃられました。


 御父上により、アリス様は幼い頃から西条社長達と面識があります。

 対立関係であるせいで交流を深めていたわけではありませんが、アリス様はお二方を信用していらっしゃいます。


「アリスさんと会うのは、私共が雲母を家から勘当すると脅した後に会いに来られた時以来ですね」

 そう言って、西条社長はアリス様を見つめられます。


 西条社長がおっしゃられたのは、昔アリス様が西条社長に西条さんに対する対応の真意を尋ねに行かれた時の事です。

 

「あの時は驚いた……。まさか、西条の子を家から追い出すとは思わなかったから」

「我々も心を鬼にしての対応でしたからね……。しかしあのまま雲母を家に入れてしまうと、あの子が将来潰されてしまうのは目に見えていましたからね」

 西条社長は苦虫を噛み潰した時みたいな顔をされて、そうおっしゃられました。


「まぁ気持ちはわかる。社会に出た時に西条の子が相手をしないといけないのは、アリアだけじゃない。紫之宮の長女も相手にしないといけないのだから……」

 紫之宮の長女とは、私の親友でもある紫之宮(あい)さんの事です。


 彼女は常識に囚われない斬新な経営をし、かなりの凄腕社長として注目をされています。


 しかもそれは、アリス様の力を借りた偽りの凄腕社長であるアリアさんとは違って、正真正銘のあいさんの力です。


 紫之宮財閥にはあいさんがおられ、平等院財閥には西条さんを潰したアリアさん――そして、その後ろに隠れているアリス様と渡り合って行くには、西条さんを極限まで追い込んで実力をつけさせるしかないというのが、西条社長の判断でした。


「確かに報告を聞く限り、西条の子はかなり成長したと思う。だけどそれは――人格を代償にして得た力」

 アリス様は淡々とそうおっしゃられました。


 しかし、その心中は穏やかではないでしょう。

 アリス様は愚妹のせいで西条さんが今の様な目に合っているという事を理解したうえで、西条社長達をとがめているのです。


 ボロボロになってしまった西条さんを突き放したのは、間違いだとアリス様はお考えになっておられます。

 力をつけさすにしても、他にやり方があったと。


 だからアリス様はすぐに、西条さんのケア役として梓さんを――そして、西条さんの力になれる様に神崎さんを学園に忍び込ませたのです。


 ……まぁ神崎さんの事を当時の私は、アリス様が忍ばせたのは想像していただけで、アリス様から事実を知らされていたわけではなかったですし、私が紹介した梓さんは本当に役に立たなかったわけですが……。


 ……あれ……?

 やっぱり私って、アリス様に信用されていないんじゃないんですか……?


 いえ、それよりも――本当に梓さんをアリス様に紹介したのは、私にとって人生最大の汚点ですよ……。

 アリス様は急遽教師として紛れ込める人材が必要だったという事で、私の紹介を信じてご自身の目で確認をされずに入れてくださったというのに……。


 本来ならアリス様自身の目で必ず確認されていたでしょうから、梓さんはとんでもない悪運をお持ちなのでしょうね……。


「そうですね……今の雲母は、もう昔の優しかった子ではありません。しかし、その代わりに力をつけれたのなら良いとも思っていたんです。ですが、今回の勝負はどういう事でしょうか? 時が来るまでは、アリスさんがアリアさんを遠ざけて、雲母が完全にアリアさんを上回れるようになったら勝負をする様に仕向ける話だったはずですが……?」

 西条社長がそう言って、アリス様を見つめられます。


「思わぬ接触があったのは事実だけど――今回勝負が行われた事は、西条の子にとって最高だった」

「それは何故です?」


「今の西条の子には――KAIがついてる」


 アリス様がそうおっしゃられると、西条社長達が驚いた顔をされました。


「KAIってあのKAIですか!? どうして雲母に!?」

「西条の子が持って生まれた運のおかげ。その人物がKAIだというのも、アリスが保証する」

 アリス様はそうおっしゃって、頷かれました。


 本当はご自身がそうなるように導かれたというのに……。

 あくまで、西条財閥には恩を売る気がないという事ですね。


「今回KAIが何処まで力を貸すか――どれだけ西条の子が自分の力で戦うかはわからない。だけど、KAIは西条の子を勝たせる気でいた」

「おぉ――! あのKAIが付いてくださるのなら、安心です!」

 西条社長達はそう喜ばれた。


 KAIが学生だと知れば、どれだけ驚くでしょうか。

 しかし、アリス様は絶対その事はおっしゃられないでしょうね。

 おそらくアリス様の大切な基準としては、神崎さんの優先順位はアリアさんの次――もしくは、同等でしょうから。


「勝負に絶対は無いけどね……。ただ今日来たのは、聞きたい事があったから。もし今回西条の子がアリアに勝ったら、西条の子をどうするつもり?」

「それはもちろん、家に戻って来させますよ! いやぁ――恥ずかしながら、雲母を家から追い出してからというもの、心配で心配で仕方がないんですよ……。結局試練を与えると言っておきながら、可哀想で雲母が持ってるお金は没収しませんでしたしね……。あれだけあれば、贅沢な生活をして暮らしても全然おつりが来るのに……」

 KAIが味方についた事を知ったからか、西条社長は和やかな雰囲気を出していました。


 本来試練を与えると言うのなら、生活なども苦労させなければいけないのに……本当にこの御方は優しい方だと思います。


 ……もしかしたらそのせいなのかもしれませんね……。

 神様が西条財閥にだけ、アリス様の近い世代で化け物と言っても過言が無い人間をお与えにならないという、試練をお与えになったのは……。


 これはアリス様の予想ですが――そのせいで、西条財閥はアリス様の世代ですたれていくとの事です。


「そうだと思った……。西条の子がアリアに勝ったとしても、絶対に連れ戻したら駄目」

 アリス様は溜息混じりにそうおっしゃられました。


「それは何故ですか……?」

 西条社長は怪訝な表情でアリス様に尋ねられました。

 アリス様の思惑が理解できないのでしょう。


「今ここで西条の子を連れ戻せば、折角のKAIとの繋がりが失われる。前アリスが電話で話した事を覚えてる?」

「あ――えと、確か紫之宮財閥に凄い少年がおつきになられたとか……」

 その凄い少年というのが、黒柳さんの事です。


「そう――クロは凄い。このままいけばアリスの世代で、日本三大財閥の拮抗していたバランスが崩れる」

「本当にそんな力を持つ少年が居るのですか……?」

「クロ自身の力はアリスやKAIには及ばない。おそらく、個人の力はアリアレベル。だけどクロの長所をもってすれば、KAIやアリアはクロの相手にすらならない」

 アリス様は平然とそうおっしゃられました。


 まさかここまでおっしゃられるとは思いませんでした。


 愚妹はともかく、アリス様は神崎さんの力を凄く評価されています。

 そんな彼が相手にもならないとは……。


「その彼の長所とはなんですか……?」

「クロの長所は――対面した相手を味方につける。そして優秀な人間ほど、彼の事を好む」

 アリス様がおっしゃられた言葉を聞いて、私はまるで黒柳さんは物語の主人公の様な方だなと思いました。


 私がそんな事を考えている中、アリス様の言葉は続きます。

「クロは相手を頭ごなしに抑え込むんじゃなく、相手と心から向き合い、自分の目的を達成しながら相手の望む事を同時に満たす事が出来る。そして力や才能を持つ人間の周りは、自分を利用しようと近寄ってくる人間ばかりだから、心から向き合って話をしようとするクロは好意的に映る」


「しかしそれは協力を得るという意味では、頭ごなしに抑えつけるのと変わらないのでは? まぁ、自分の目的を達成しながら、相手の望むことを叶えるというのは凄いと思いますが……」


「全然違う。頭ごなしで得られる協力は最低限のものでしかない。だけど、心から向き合おうとするクロが味方につけた人間はクロの為に頑張ろうとする。つまりそれは、優秀な人間が自分の持つ力を最大限に発揮し、クロに協力をするという事。そしてクロは指揮を執る人間としては、かなり優秀なタイプだと思う。だから、例えクロ自身の力はそこまで強くなくても、クロは集団戦で最強の存在になる。逆にKAIは個人技でこそ並ぶ者はいないかもしれないけど、集団戦は不得意なタイプの人間。なぜなら彼は、他人の気持ちが理解できないから。もうここまで言えばわかるよね? これからアリアや西条の子――そしてクロが立つのは、会社を導く立場。それはつまり、集団戦。だからクロを獲得できた紫之宮財閥は、この先急成長を遂げるはず」 


 アリス様はまるでバッサリ切る様に、神崎さんが集団戦では戦えないとおっしゃられた後、紫之宮財閥が成長する事をおっしゃられた。

 確かに神崎さんはコミュ障だと報告を受けておりますが、彼を直接見た限りでは人の心が理解出来ない様なタイプには見えなかったのですが……?


 ですが、アリス様がそうおっしゃられたという事は、そうなのでしょうね。


 それにこれだけを聞かれれば、紫之宮財閥が三大財閥から抜け出る存在になるように聞こえるかもしれないですが、この話の中にアリス様が関与した場合の事が出てきていません。


 おそらく黒柳さんが出て来られれば、アリス様も再び表舞台に立たれるでしょう。


 ……あ、そういうことですか。

 私はここに来て、やっとアリス様の狙いがわかりました。

 

 アリス様は先を見越して、ここでアリアさんに挫折を味わせる事で成長してもらい、紫之宮財閥相手に戦える存在に育てようとされているんじゃないでしょうか。


 これはアリス様に命じられて調べた事ですが、紫之宮財閥――というより黒柳さんには、彼を慕う人間の中に、情報収集にけ、噂の真偽を見極める能力を持つ少女と、幼い頃から持つ映像記憶能力を失わずに育った、神童とまで呼ばれる少女が居る事がわかっております。


 彼女達は必ず紫之宮財閥側に付くでしょう。

 そしてそこには、紫之宮愛さんまで加わるのです。


 となればいくらアリス様と言えど、一人では太刀打ちが出来ません。

 ですから、その為の戦力を育てるつもりなのでしょう。


 そしてこのままいけば西条財閥が廃れていくと、アリス様はおっしゃったわけです。


 ……そのため、優しいアリス様は今回の様な決断をされたのでしょうね……。

 本当はアリス様自身が欲しかったでしょうに……。


「しかし――アリスさんの言葉を聞いていると、KAIではその少年に敵わないみたいなのに、KAIとの繋がりを断つわけにはいかないとおっしゃられるのですね? あ、いえ、KAI自身はかなりほしいんですが、なんだかそこが気になりまして」

 西条社長が顎に手を当て、アリス様にそうお尋ねになられました。


「それは今のKAIの話。だけど、KAIならクロに並べる可能性がある。だからアリスはKAIを育ててあげる」

 アリス様はそう言って、ここに来て初めて笑顔を浮かばれました。


「まるでKAIを自分の子供の様におっしゃられるのですね。彼は40歳くらいの大人でしょう? そもそも、雲母の代になる頃には彼はもう業界にいないのでは……?」

 西条社長の言葉にアリス様は笑顔で首を横に振られました。


「心配いらない、アリスを信じてほしい。それに西条の子を連れ戻したりしなければ、KAIが西条の子に付く様にアリスがしてあげる」

「どうしてそこまで……? もしかして、アリアさんが雲母を追いつめたからですか?」

 アリス様は西条社長の質問に、再び首を横に振られました。


「そうじゃない。アリスはアリスの守りたい物の為に動いているだけ。西条の子にKAIがつくことにより、日本三大財閥の均衡はなんとか保てる。そうなれば、紫之宮財閥と一騎打ちにならずに牽制する事ができる。とはいっても、さっきも言ったけどクロは良い奴だから、何か仕掛けてくるわけじゃない。でも何処かの会社が伸びるという事は、反対にどこかの会社が業績が悪化していく。だから、今のうちから手を打たないといけない。……まぁ、KAIの成長が絶対条件だけど……」


「私共はこのまま静観していれば良いんですね?」

 西条社長の言葉にアリス様は頷かれました。


「話はそれだけ。じゃあ、バイバイ」

 そう言ってアリス様は手を振り、私に目で『帰るよ』と、合図をされました。

 

 この御方は本当に不思議な方です。

 敵対組織である、相手のトップと対面してもいつもの姿勢は崩さず、そして誰よりも先の事を見ています。

 そんなアリス様の言葉には不思議な重みがあり、その言葉を向けられた相手は納得してしまうんですよね。


「――神崎さんの事、本当に良かったんですか?」

 部屋を出てすぐ、私はそうアリス様に尋ねました。


「……仕方ない……。皆が幸せになるには……これがベスト……」

 今のアリス様は、もういつもの怠気な様子に戻っておられました。


 私はアリス様の言葉に涙が出そうになります。

「他の方の幸せのためにアリス様は我慢をして、神崎さんを西条さんにあげるとは――アリス様はやはり偉大ですね!」

 感極まった私は、そうアリス様に言いました。


 するとアリス様は首を傾げ、私の事を見てこられました。

「何を……言ってるの……? 別にカイを……西条の子にくれてあげるなんて……一言も言ってないけど……?」


「え……?」

 私はアリス様の言葉に、先程のやり取りを思い返します。


 ――確かに『くれてあげる』とはおっしゃってませんが、それは神崎さんがアリス様自身の物ではなかったからではないのですか……?


 私がアリス様に言った言葉も、アリス様の物としての『あげる』ではなく、譲って『あげる』という意味で言ったわけですし……。


「カイは……貸し続けてあげるだけ……。カイはアリスのだから……くれてあげたりは……しない……」

 アリス様はそうおっしゃられ、ニコッと微笑まれました。


 ……これから先の未来――修羅場しか見えませんね……。


 私はアリス様の言葉に、これから先で行われるであろう壮絶な戦いを予感するのでした――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『新作です……!』
↓のタイトル名をクリックしてください

数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました

『数々の告白を振ってきた学校のマドンナに外堀を埋められました』5月23日1巻発売!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
数々1巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』8巻発売決定です!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊び6巻表紙絵
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  


『迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について』コミック2巻発売中!!
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★ 
お隣遊びコミック2巻表紙
  ★画像をクリックすると、集英社様のこの作品のページに飛びます★  

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ