【番外編SS】クリスマスプレゼントは何にする?
「――もうすぐクリスマスだね」
珍しくも兄妹三人でデパートに買いものに来てるなか、デパート内に流れているクリスマスソングを聞いて咲姫が話し掛けてきた。
心なしか何かを期待しているような瞳で俺の顔を見上げている。
「お兄ちゃんは、サンタさんに何をお願いするの?」
咲姫の顔を見つめていると、俺の左腕に抱きついてる桜ちゃんが声を掛けてきた。
ちなみに今、左手には桜ちゃんが抱きついてきていて、右手には咲姫が手を繋いできている。
両手に花状態とはまさにこの事だろう。
周りの視線がかなり痛いが、俺が望んだわけではないのでもう知らない。
悪口を言うなら勝手に言ってくれ。
それよりも、今はこのかわいすぎる妹の相手をせねばならないだろう。
――うん、本当にかわいすぎる。
今の質問で理解したが、どうやら桜ちゃんはこの歳になってもまだサンタさんを信じているようだ。
そんな純粋な子がかわいくないわけがないだろ?
「俺はまだ決めてないな。それよりも桜ちゃんは何をお願いするんだ?」
決めてないというか、決めても意味がないのだが、そんな事を言うとその理由を聞かれるだろうから誤魔化しておいた。
桜ちゃんに関しては、香苗さんが演出するのだろう。
普通サンタさんなんて小学生までなのに子供扱いしすぎではないかと思うが、桜ちゃんが子供っぽいためいいんだと思う。
……一つ疑問なのは、桜ちゃんって意外と嘘が通じないくらい勘がいいのに、本当にサンタさんの正体に気が付いていないのだろうか?
「――今年こそは、サンタさんの姿を見るもん……!」
気が付けば、咲姫がなぜか一人で決意を固めていた。
何処か拗ねたように見えるのは、もしかしたらずっとサンタさんの正体を見破ろうとして、あしらわれているのだろうか?
桜ちゃんの顔を見てみれば、姉の顔をニコニコ笑顔で見つめてる。
まるで、純粋な姉を見守っているかのように。
もしかして桜ちゃん、サンタさんの正体に気が付いてるけど、咲姫のために知らないフリをしているのだろうか?
この子なら普通にありえるんだよな……。
「桜はね、新しい猫ちゃんのぬいぐるみさんがほしいの」
少しして、咲姫を見ていた桜ちゃんが先程俺がした質問に答えてくれた。
ぬいぐるみ好きなところはやっぱり幼い女の子みたいでかわいい。
ただ先程の考えがあるせいか、これも親にお金をかけさせないようにしているのではないか、という先入観がよぎってしまう。
まぁともあれ、ぬいぐるみくらい俺がたくさん買ってあげるのにな。
「そっか、かわいいぬいぐるみさんを貰えるといいね」
「うん!」
元気一杯に頷く桜ちゃん。
俺の妹は本当にかわいいな。
「咲姫はどうするんだ?」
隣でまだ何かゴニョゴニョ言ってる咲姫に、桜ちゃんと同じ質問を投げてみた。
「ん? 私は――海君とするために、柑橘系ブランドがもうすぐ出す、新作ゲームをお願いするの 」
嬉しそうに満面の笑みで答えてくれた咲姫。
その言葉によって俺の全身にかなり冷たい汗が流れた。
今咲姫は、笑顔でとんでもない爆弾発言をしたのだ。
柑橘系ブランドとは、エロゲーをメインに出しているブランドだ。
つまり、咲姫はエロゲーの新作をサンタさんに頼もうとしているわけだ。
わかるか?
わかるよな?
――今俺が、何を猛烈に焦っているのかを……!
「さ、咲姫。それはもうサンタさんに頼んだのか?」
俺は枯れてしまっている喉からなんとか声を絞り出す。
まだ頼んでいなければ間に合うはずだ……。
「うぅん、今日くらいにお母さんが聞いてくると思うから、そこでお願いするつもりだよ?」
「よしっ――!」
「えっ!? 急に大声を出してどうしたの!?」
間に合った事に喜ぶと咲姫が凄く心配したような顔で俺を見てきた。
まるで、『頭は大丈夫?』とでも言いたいかのように。
とりあえず今日の夜はいじめてやると思いつつ、俺はすぐに声を発した。
「咲姫、そのゲームは俺がもう予約まで済ませてるから、別のプレゼントをお願いしよっか?」
俺はとんでもない事態を避けるために、代案を提示する。
本当は、今月は色々と用事があって買う予定はなかったが、今からでも予約をする事は間に合うはずだ。
「あっ、そうなんだ! さすが海君だね!」
うん、そんなところで感心されても嬉しくない。
後、テンションが上がってるところ悪いが言葉には気を付けてくれよ?
今は二人きりじゃなくて、桜ちゃんもいるんだからな?
俺は自分の考えを伝えるようにアイコンタクトを咲姫に送るが、生憎咲姫は考え事を始めてしまって俺と目が合わない。
「だったら、SIMEEって会社が出した――」
「違う、そうじゃない! とりあえず咲姫はそっち系から離れろ!」
またもや咲姫が口にしたのは、エロゲーをメインに出している会社の名前だ。
というかその名前を出して桜ちゃんが興味を示したらどうするつもりなんだよ……。
名前を調べられたら一発でアウトだぞ?
チラッと桜ちゃんに視線を移してみると、どうやら俺たちの会話は聞いていないようでソッポを向いていた。
俺はその事に安堵しつつも、否定された事によって頬を膨らませている姉に向き直る。
「むぅ……どうしてだめなの……?」
いや、普通にだめだろ?
自分がいったい誰にエロゲーを頼もうとしているか理解――はしていないんだったな……。
ここでサンタさんの正体をバラすのは一つの手だが、なんだか咲姫の夢を壊すのも可哀想だ。
それに多分、香苗さんの楽しみも奪う事になりそうだし……。
「そっち系のは全て俺が買ってやるから他のにしよう、な?」
「むぅ……わかった……」
ご機嫌とりのために咲姫の頭を優しく撫でると、咲姫は不満そうにしながらも頷いてくれるのだった――。
これは番外編SSなので、本編とは少し異なります(*´ー`*)
本編のクリスマス編では別の話を考えてますので、その時まで楽しみにして頂けると嬉しいです!