第46話「自分好みに染まってくれる女の子」
「おはよう。ごめん、結構待たせちゃった?」
俺が待ち合わせ場所で西条を待っていると、後ろから西条が俺の肩を叩いてそう尋ねてきた。
「いや、俺もさっき来たとこだ」
俺の顔を覗きこんできた西条に、俺はそうテンプレの台詞を答える。
まぁ、本当は前と同じで三十分前には来ていたのだが……。
それに比べて、西条は待ち合わせ時間ピッタシに到着した。
というか――
「驚いたな……」
俺は西条の恰好を見て、思わずそう呟いてしまった。
今の西条は、いつも括っている髪をほどいたストレートロングヘアーにしており、服装も清楚系のネイビーワンピースを着ていた。
そのワンピースの色が西条の金髪によく似合っている。
………………初めて西条の事を凄く可愛いと思った。
「どうかな……? 海斗はこっちの方が好きかなって思ったんだけど……?」
西条は上目遣いで俺の方を見上げながら、自分の髪をクルクルと指で回していた。
俺は西条のその仕草に胸が高鳴ってしまう。
「……よく似合ってるよ」
「本当!?」
俺が西条の事を褒めると、西条は嬉しそうな顔して聞き返してきた。
俺はそんな西条に頷いて答える。
すると、西条は凄く上機嫌になって俺の横に並んできた。
「それにしても――そっかそっか、海斗の『さっき』って三十分前の事を言うのか~」
今日は予め西条と予定を決めていたため、そのまま目的地に向かっていると、西条がニヤニヤと笑いながらそんな事を言ってきた。
何故、俺が三十分前から居た事を知ってるんだ?
まさかこいつ……。
「お前、実は俺と同じくらいの時間から来てて、俺の事を観察してたな?」
「観察ってわけじゃないけど、あ、海斗もう来ててくれたんだ~って思いながら見てた!」
「……何故、声を掛けない?」
「いや……いつもと違う服装だったから中々出ていく勇気が無くて……。でも、遅刻するわけにはいかないからさっき声を掛けたの……」
西条は恥ずかしそうにしながら、そう言ってまた自分の髪をクルクルと指で回し始めた。
俺は西条のそんな仕草に思わず顔を右手で抑え、ソッポを向いてしまう。
……なんなのこいつ!
今日滅茶苦茶可愛いんだけど!
「でも、今日の海斗凄くカッコイイ……」
俺が西条の可愛さに悶えていると、西条がなんだか色っぽい声を出しながらそんな事を言ってきた。
待って……ヤバい!
今日の西条どうしたの!?
本当に魅力的に見えてしまうんだけど!?
俺は西条の仕草にドキドキしているのをバレない様に、素っ気ない態度をとる事にする。
「そ、そっか……そう言ってもらえると嬉しいよ……」
……何処が素っ気ないんだ、俺!?
照れてるのバレバレじゃねぇか!
「えへへ――えい!」
「――っ!」
西条は俺の言葉を聞いた後、いきなり抱き着いてきた。
俺はその行動に体が強張ってしまう。
「あれ、どうしたの? いつもみたいに振り払わないの?」
西条はニヤニヤ――というわけではなく、照れ笑いの様な顔で俺の方を見上げてそんなことを言ってきた。
……なんで今日に限って照れてるんだよ!
いつも抱き着いてくる時は全然照れてないくせに!
俺は西条についそんな事を思ってしまう。
いや、確かにいつもなら西条を振り払っている。
今だってもし西条がニヤニヤしてたり、俺の事をからかっている素振りを見せていたら、俺は容赦なく振り払っていただろう。
だが――今の西条は、照れた表情を浮かべながら嬉しそうに抱き着いてきていた。
……逆に皆に問いたい。
『可愛い女の子がこんな表情をしていて振り払えるか!?』っと。
くそ!
黒髪系でこそないが、今日の西条は俺の好きな清楚っぽい感じだし、いつもと雰囲気が違うせいで俺のペースが狂わされまくりだ!
「…………どうせ振り払ってもくっついてくるんだ。振り払うだけ体力の無駄だ」
俺はどうにか喉から言葉を絞り出した。
「そっか……じゃあ、遠慮なく……」
そう言って、西条は抱き着いてる腕を更にギュッとしてきた。
俺の胸はドキドキしすぎて、今にでも張り裂けそうになっていた……。
俺の頭の中は、もう西条の事で一杯になってしまった。
西条は本当に俺の事を好きなのか?
もしそうなら、咲姫の事を異性として好きになるという過ちを犯す前に、西条と付き合った方が良いんじゃないのか?
……いや、この考えは西条に失礼過ぎるよな……。
でも、今の西条は凄く可愛いと思う。
西条を一人の女の子として意識しだしている、俺が居るんだよな……。
……仕方ないだろ?
今まで俺はボッチで孤独だったんだ。
こんな自分好みの可愛い子が好意を向けてくれたら、コロっといってしまっても仕方ないんだ!
……まぁ流石に、そこまでチョロくはないが。
ただ、本当にもう西条を雑に扱えないかもしれない……。
というか、最近咲姫の事も凄く可愛いと思うし、桜ちゃんは言わずもがな――西条までも可愛いって思うなんて、俺ちょっと節操なさすぎるだろ……。
俺は目的地につくまでの間西条と会話を交わしながらも、頭の中では自分の不甲斐なさを嘆くのだった――。
2
「やっとついたぁ!」
西条はそう言いながら、右手を天に向けてグーっと伸ばし背伸びをする。
ちなみに、左手では俺の右手を抱きかかえたままだ。
西条がそう言うのも無理はない。
今回はショッピングモールでショッピングを楽しみたいという西条の要望に、俺が都内の中心にある店を希望したのだ。
そのため、かなりの移動時間を費やしている。
……何故かって?
俺だって馬鹿じゃない。
桜ちゃんや咲姫みたいな凄く目立つ女の子と遊んだんだ。
それなのに同じような所で西条と遊んでみろ。
ラノベや漫画のお約束展開とも言える、浮気男騒ぎ間違いなしだろう。
だから今回は近場で遊ぶんじゃなく、都心という遠いとこまで来たのだ。
ただショッピングをするだけなのに、文句を言わず俺の要望を聞いてくれた西条は良い奴だと思う。
しかし、どうして西条は遊ぶというのに、ショッピングを選んだのだろう?
「なぁ、ここまで来て言うのもなんだが、本当にショッピングでよかったのか?」
やはりその事が少し引っかかる俺は、西条にそう尋ねてみた。
「本当に今更だよ~。でも、これでいいの。だってショッピングデートしてみたかったし」
西条は俺の言葉に苦笑いした後、そう言って笑顔を向けてきた。
そうか、西条はこれをデートだと思ってるのか……。
最初は遊ぶってだけでデートじゃないと思っていたけど、西条がそう思ってるのならこれはデートなんだろう。
という事は、俺の初デートとなるわけか……。
………………って、西条が魅力的に見えだした途端これをデートとか言う俺って、どう考えても最低だよな……。
「それに――」
俺が自分の現金さに嫌気がさしてると、西条が言葉を続ける様にして俺の方を見上げてきた。
「好きな人の好みに染まりたいから、海斗に服を選んでもらったのを買いたいの」
と、西条はハニカンだ笑顔をしながら、俺にそう言ってきた。
「~~~~~~~~~~~~~!」
当然、そんな笑顔と言葉を向けられた俺はひとたまりもない。
もう本当に胸が張り裂けそうだった。
どいつもこいつも一体何なの!?
なんでこんなに俺を悶えさせるわけ!?
というか、俺の人生本当どうしちゃったの!?
なんか色々ありすぎて、もうわけがわからないんだけど!?
俺は西条と一緒に服を選んでいる間、ずっとそんな事を考え続けるのだった――。