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第42話「馬鹿と天才は紙一重」

「それで、何処に行きたい?」

 俺は青山さんと影山さん(名前はさっき知った)という桃井のクラスメイトと別れてすぐ、桃井にそう尋ねた。

 今日は桃井の誕生日の為、桃井の好きなようにさせるつもりだ。

 ちなみに、未だ桃井に『誕生日おめでとう』を言っていない。

 まぁ、それにもちょっとした訳があるんだが――それも後でわかると思う。


「えへへ――遊園地!」

 俺の質問に、桃井はハニカミながらそう答えた。

 俺はそんな桃井から、咄嗟に顔を背ける。


 ……やばい……ここ最近で、一番可愛い。

 なんでこいつ、こんな可愛い表情が出来るの……。


 俺が顔を逸らすと、桃井が面白そうに俺の顔を覗きこんできた。

「……なんだよ?」

 俺は桃井に自分が考えてる事がバレない様に、睨んで牽制する。


「ううん、別に~」

 そう言って桃井は俺の顔を覗き込むのを止めるが、なんだか楽しそうだった。

 桃井が楽しんでくれるのは嬉しいが――なんだか、俺の事をからかって楽しんでいる気がしたため、それはそれで複雑な気持ちになる。


 というか……まぁもう当たり前と言えば当たり前なんだが、相変わらず周りからの視線が凄い……。

 もう何を言ってるのか、聞き取るのすら嫌になる……。

 

「そう言えば、もうすぐテストだけど、海君は大丈夫なの?」

 遊園地に向かっていると、そう桃井が訪ねてきた。


 テストか……。

 テストは学生が最も嫌う行事である。

 その次が体育祭だっけ?

 まぁ、それは個人で意見が別れるだろうけど。


 ……当然、俺にとっては両方憂鬱だ。

 

 テストは数学以外も平均点くらいはとれるが、テスト勉強をしないためそれは絶対じゃない。

 万が一赤点を取る可能性も考えられなくはないのだ。


 ……だったら、テスト勉強をしろって?

 嫌に決まってるだろ、そんなの……。

 俺はもう自分が進む道を決めてるんだ。

 今更勉強などした所で意味がない。


 そして体育祭は、別に運動が嫌いなわけではない。

 ただ単に、目立たない様にしながら手を抜かないといけないのが、めんどくさいだけだ。

  

 ……なぜ手を抜くのかって?

 想像してみろ、ボッチでオタクキャラが張り切って体育祭に臨んでたら、それだけで逆に目立つ。

 普通は影が薄い人間が何をしようと気にもならないかもしれない。


 しかし、それは絶対じゃない。

 ギャップと言う――人の意識に入りやすい物が存在するのだから。

 

 人々の意識の中で、根暗なオタクは運動が嫌いで苦手と言うのが、共通認識だ。

 それから外れる様な存在が居れば、当然人の意識はそちらに向く。


 つまり、注目される事が苦手で嫌いな俺にとって、それは最悪だという事だ。


「もし心配ならさ、私が勉強を教えてあげるよ?」

 俺の沈黙をどう捉えたのか、桃井がそう言って俺の事を見上げてきた。


 ……なんだろ?

 桃井とテスト勉強をするなら、それはそれでいいかもしれないと思っている俺が居る。

 

 だが――

「まぁ、それはちょっといいかな」

 と、俺は答えた。

 

 ただこれは、勉強が嫌だとかそんな理由じゃない。


 ……嘘だ……確かにそれも含まれているが――それが主な理由ではない。

 俺が断ったのは、桃井の勉強時間を俺に割いてほしくないからだ。

 桃井は学園に首席で入学して以来、トップの座から落ちた事が無い。

 それに全国模試上位常連という事は、たくさん勉強をしているだろう。


 だがしかし、最近の桃井はどうだ?


 俺の記憶では生徒会が終わって家に帰ってからは、主に俺の横でラノベか漫画を読んでる――もしくはエロゲーを一緒にしていた覚えしかない。

 

 つまり、桃井が勉強をしている様子がないのだ。

 そのまま今回のテストに(のぞ)めば、下手をしなくても、桃井は学年トップの座から落ちてしまうだろう。

 勝手な思いではあるが、それだけは避けてほしかった。

 だから俺は、その事を桃井に言う。


「俺に構わず、桃井は自分のテストに集中しろよ。トップの座から落ちたら、それだけで今の学園なら軽く騒動になる」

 それだけ、桃井が学園にもたらす影響は大きいのだ。

 その上、先程の桃井の彼氏が居る発言が加われば、桃井は男に溺れて成績を落としたなど、良からぬ噂が流れる事は目に見えている。

 男子達を牽制するために放った桃井の策が、逆に自分の首を()めかねないのだ。


 ……まぁ、いきなり桃井が手を握りなおしてきた時は驚いたが、桃井の考えはその発言ですぐに()み取ることができた。 

 いつもこんな風に打算で行動してくれたなら、考えが読めて楽なのに……。


 俺は普段の桃井の行動や発言に悩まされている為、その事を(うれ)う。


「私は大丈夫だよ? いつも自分の部屋に戻った後はきちんと復習してるし、海君達と暮らすようになってからと暮らす前では、大して勉強時間変わってないもん」

 と、俺の予想を超えた事を桃井が言ってきた。

 

 ……嘘だろ?

 俺の部屋から戻るのって、基本は23時くらい(たまに長く居据わる)だから、睡眠時間を考慮しても、とれる時間はせいぜい二時間くらいだろ……?


 それで前と勉強時間が変わらないという事は、桃井はたったそれだけの時間で、全国上位の学力を誇ってるという事か……?


「え、それ本当なのか?」

 俺はちょっと納得が出来なくて、思わずそう尋ねた返した。

「うん、本当だよ?」

 俺の言葉に、桃井が首を傾げながら答えた。

 その様子に、嘘を言っているようには感じられない。


 まじかよ……。

 という事は、桃井は地頭が良いという事だ。

 しかし、それならもっと納得がいかない。

 

 いや、昔の桃井がそう言うなら、多分すんなり納得できたと思う。

 実際、映像記憶と言うのを幼い頃から失わずに成長した人間は、復習をせずに軽い予習などで、(ゆう)に全国模試上位に入ると聞く。

 だから地頭がかなり良くて、それほど勉強に時間を割かなくても、全国模試上位に居る事は納得が出来る。

 

 だけど、今のこの女の子っぽい桃井に、それは納得がいかない。

 なんせ、あの『こいつ馬鹿だろ』と思う発言ばかりする桃井だぞ?

 それならどうしてあんな、俺が理解できない発言ばかり飛び出してくるのか問い詰めたい。


 ……これはあれなのか?

 桃井の様な天才の考えは、凡人である俺には理解できないと言う事か?


『馬鹿と天才は紙一重』とも言うしな……。

 あれは、天才の着眼点が常識離れしていて凡人には理解が出来ないため、常識を知らない馬鹿発言と捉えられることを意味している。

 つまり、今の俺の状況だ。


 だがしかし、やはりそれでも納得いかないぞ?

 なんか今までの桃井の発言は、そんな感じではなかったと思う。


「ねね、もうテストの話はいいから、早く遊園地行こうよ!」

 しかし、楽しそうに笑う桃井を見ていると、そんな事はどうでも良いと思った。


 だから――

「テストの話を始めたのはお前だけどな?」

 と、俺は苦笑いしながらそうつっこみ、話を終わらせた。


 それにテストが終われば、夏休みだ。

 俺は今からそれが待ち遠しくなった。

 

 今年の夏は桃井と桜ちゃん――それに、西条も居る。

 きっと楽しい夏になるはずだ。

 

 ……あ、夏休みと言えば、毎年恒例の父さんの実家に帰る事になるのか……?

 今年は桃井達が居るとはいえ、だからこそ余計父さんの実家に帰る事になる気がする。


 父さん達は結婚する前に、俺が知らないうちに挨拶を済ませたらしいが、それでもやはり夏休みには顔を出す必要があるだろう。


 ただそれは、()()()が桃井達に会う事になる……。

 俺が最も苦手とする従妹の女の子と……。

 

 ………………今年はお金がたくさん入った事だし、一人でどっかに旅に出るのもいいなぁ……。

 

 と、俺はそう遠くない未来から目を逸らし、現実逃避するのだった――。

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