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第41話「ヤキモチ焼きな女の子」

「嘘だろ……?」 

 今の状況に、俺は思わずそう呟いてしまった。


 現在俺は、如月先生に髪型をセットしてもらい、そのまま桃井と決めていた集合場所に着いた所だ。

 集合時間は10時にしており――只今(ただいま)の時刻、9時半。

 流石の俺もデートでは無いとはいえ、女の子を待たせるわけにはいかないと、三十分前を目処(めど)に集合場所につくようにしていた。


 ……本当は、これもポンコツ教師に言われた事だった。

 正直俺としては、『何故三十分も前から待たないといけないんだ……』という風に、納得などしてるはずもない。

 十分前に行っていればいいだろと思っていたが、ポンコツ教師がそれに対して文句を言ってきたので、渋々三十分前につくようにした。


 なのに――

「なんでもう居るんだよ、あいつは……」

 そう、三十分前に着いた俺よりも早く、何故か桃井がもう集合場所に居るのだ。


 まだ距離は少しだけあるが、あれは桃井に間違いない。

 というか、周辺に居る人達の視線が全てその女性に集まっている事から、桃井以外ありえないだろう。


 あんなに一杯視線が集まってる女の子に、俺は声を掛けに行かないといけないのか……?


 一体なんなんだ、この罰ゲームは……。


 てか、何で桃井一人しかいないんだ?

 桜ちゃんとはぐれたのか?

 

 でも、桃井の様子からして焦ってるようには見えないし……。

 とりあえず、このまま放っておくわけにもいかないから――――うん、やっぱり帰りたい……。


 俺は桃井に声を掛けに行く決意を固めようとして、桃井に集まる凄い視線の量に頭を抱えた。


 なんで最近、こんなに視線が集まる状況に出くわすんだよ。

 作為的な何かを感じかねないぞ……。 


 俺はそう思いながらも、今度こそ意を決して桃井に声を掛けに行く。

「おはよう、待たせてごめんな」

「あ、おはよう、海君! ううん、全然待ってないよ!」

 俺が声を掛けると、桃井がそんな風に笑顔で答えた。


 この会話ってテンプレだけど、男女の役割逆だよな……。


 一体桃井はいつから待っていたのか……。

 気にはなるが、これがテンプレだという事で、どうせ聞いても適当な時間を言うだけなのは想像が付くため、俺はそれについて聞くのをやめた。

 

 そのかわり――

「桜ちゃんはどうしたんだ?」

 ――と、もう一つ気になっていた事を聞いた。


「え?」

「え?」

 俺の質問に対して桃井がキョトンっと首を傾げたため、俺もその反応に首を傾げる。


 あれ……この反応ってもしかして……。


「桜なら、家にいるよ?」


 やっぱりか……。


 俺は桃井の言葉に目を右手で覆う。


 今日って俺と桃井だけで遊ぶって事だったのかよ……。 

 勝手に桜ちゃんも一緒に遊ぶものと思っていたため、この状況は予想外だった。


「もしかして、桜も一緒だと思ってた……?」

 俺の様子を見て桃井が、低い声でそんな事を聞いてきた。

「ま、まさか! 全然そんな事思ってなかったぞ!」

 桃井の急な豹変(ひょうへん)っぷりに、俺は咄嗟(とっさ)にそう言い(つくろ)った。


 なんで俺、こんなに焦らないといけないの……? 


 俺はちょっとこの状況に納得がいかなかったが、今の桃井にそんな事言うなんて、地雷をみずから踏みに行くようなものだと学習している俺は、当然ここでは笑顔を浮かべておいた。


 というか――今日の桃井なんだか凄くかわいいな……。


 上は白色のラフなゆるめのシャツで、下は水色を基調としたミニスカート。

 そして、今の桃井は薄っすらと化粧をしている。


 ファッション自体は普通の女の子って感じなのに、化粧のせいか、いつも以上に桃井が可愛く見えた。


 こんな子と今日は二人っきりで遊ぶのか……。


「――っ!」

 俺は二人きりと言うこの状況を理解した瞬間、桃井の事を直視できなくなった。


 やばい、どうしよう……。 

 桃井を見ていると、胸が凄いドキドキしてしまう……。


「むぅ……」

 俺が桃井から顔を背けていると、何故か桃井が拗ねた様な声を出した。


「どうした?」

 俺は桃井を横目で見ながら、そう尋ねる。

 

 ごめん、やっぱ直視は無理……。


 俺は心の中で桃井にそう謝る。

 今桃井の事を真正面から見てしまえば、顔が真っ赤になってしまう気がしたのだ。


「別に……」

 桃井は拗ねた声で、そう答えた。

 俺はこの状況がまずいと思いながらも、どうしたらいいのか頭が回らない。


「お、彼氏が来てあの子凄く良い笑顔をしたのに、今にも喧嘩を始めそうな雰囲気だぞ!」

「よし、やれやれ! 喧嘩別れしたらすぐにあの子に声を掛けに行くぞ!」


 といった声が、そこらかしこから聞こえてくる……。

 俺はその声にイラっとした。

 

 俺らのこの状況が見世物みたいにされているのと、なんだか桃井にちょっかいをかけようとしているのが気に入らなかったのだ。


 だから俺は――

「ごめん、行こっか」

 ――と、桃井の手を握って歩き出した。


「え? あ、うん!」

 さっきまで拗ねていた桃井は、一瞬戸惑った声を出したが、俺が引っ張るのに素直についてきてくれるのだった――。 





 わ、わ、手を!

 手をつないじゃってるよ!

  

 私は今、(かい)君と手を繋いで歩いているというこの状況に歓喜していた。


 だって、まさか手を繋いでくれるなんて思わなかったもん!

 折角おめかしして出てきたのに、海君ってば私の事一切褒めてくれなくて、桜の時はあんなに褒めてたのに――って、モヤモヤした気持ちになってたけど、今のこの状況でそんな気持ちは吹き飛んじゃった!


 というか、さっき周りに居た人達、海君の事を私の彼氏だって言ってた!

 なんか喧嘩別れしろみたいな事を言ってたのは嫌だったけど、周りから見たら私達ってそういう風に見えてるんだよね!?


 うわぁ――凄く嬉しい……。


 私は思わず、空いている右手で頬を抑えてしまう。

 触った頬は、凄く熱くなっていた。

 それくらい、私は今興奮しちゃってる。


 でも、仕方ないよね?

 だって、好きな人と手を繋げるってそれくらい嬉しいんだもん。


 だけど、なんで海君私の方を見てくれないんだろう……?

 今日の服……似合ってない……?


 折角今日の為に新調したのに……失敗しちゃったのかな……?


 私はそんな風に不安になって、海君の事を見上げる。

 やっぱり、海君は私から意図的に視線をずらしているようだった。


 ……なんか、ちょっとひどい。

 もし似合ってないんだとしても、目をそらなくてもいいじゃん……。


「ねぇ、海君」

「どうした?」

「私の今日の服……似合ってない……?」

 海君の態度に納得がいかなくなった私は、意を決して海君に聞いてみた。


「………………かわいいよ……」

 海君は私の質問に小さい声で答えると、またソッポを向いてしまった。


 私は横からその顔をジーっと見る。


 …………あっ!


 照れてる!

 この人照れてるんだ!


 横から見上げた海君の頬は、赤くなっていた。

 つまり、私の事を本当に可愛いと思ってくれてて、恥ずかしいから顔を背けちゃってるんだ。


 ……えへへ。

 海君も意識してくれてるんだ……。


 私が今の幸せな状況を噛みしめていると――

「あ、桃井さん!」

「本当だ、桃井さんだ!」

 と、お邪魔虫さん達が現れた……。


「青山さん、影山さんおはよう」

 私はすぐに海君と繋いでた手を離し、学校の様に冷徹な仮面をつけた。

 海君は私の横で、顔を少しだけしかめていた。


 この前海君が私の教室に来た時に、青山さんが海君に失礼な事を言ってたのは聞こえていたから、それで青山さんを見て嫌な顔をしたんだと思う。


「おはよう。ねぇねぇ、この人って桃井さんの彼氏?」

 青山さんがそう言って、海君の事を近い距離から見上げていた。


 あぁ……海君の顔が引きつってる……。

 青山さんって距離感が近いんだよね……。


 それに彼氏って、海君とは()()そんな関係じゃ――そうだ!


 私は青山さんの勘違いで、良い事を思いついた。

 そして、すぐに海君と手を繋ぎなおす。

 海君は驚いたような表情で私を見てきた。

 まさか一度手を離したのに、この状況で手を繋ぎなおすと思わなかったんだと思う。

 

 だけど、私は海君の視線に気づかないふりをして、青山さん達に――

「えぇ、この人、私の彼氏なの。ね、カッコイイ彼でしょ?」

 と、笑顔で告げた。


 私のその言葉で海君は納得したのか、もう驚いた表情をしていなかった。

 私は海君が驚いた声を出すかと思ってただけに、この態度は意外だった。


 やっぱり、海君は凄いなぁ。 

 これだけで私の考えがわかるなんて。


「あ、だから桃井さんって、みんなから告白されても断ってたんだ!」

「うん、なんだか納得だよ! こんなカッコイイ彼氏さんが居るんなら、そりゃあうちの学校の男子なんて目じゃないよね! 任せて、もう男共が桃井さんに言い寄らない様に、みんなにはちゃんと『桃井さんには彼氏が居るんだ』って言っておいてあげるから!」

 私の思惑通り、影山さんと青山さんは私達が付き合ってると思い込んでくれた。

 

 これで、もう学校の男子達に言い寄られなくて済む気がする。


 ……多分。


「でもいいなぁ、私もこんなカッコイイ彼氏がほしいなぁ」

 そう言って、青山さんがまた海君を近くから見上げていた。


 むぅ……ちょっと近すぎるよ……。

 それにその人、あなたが馬鹿にしていた人だよ?

 海君の顔が引きつってるの、気づいてないの?


「もうその辺でいいかしら」

 海君の事を凄く近い距離から見つめる青山さんが気に入らなくて、私は海君と青山さんの間に体を入れて邪魔をした。


「ありゃりゃ、桃井さんがヤキモチやいちゃった」

 青山さんは私の態度を見て、苦笑いをしている。


「今のは(みどり)が悪いでしょ? 人の彼氏を近くから見つめたらだめだよ」

「いたっ!」

 影山さんはそう注意すると、青山さんの頭にコツンっとグーを落とした。

 ちなみに、翠とは青山さんの下の名前だよ。

 

「じゃあ、私達はこれで」

 私はそう言って、彼女達から離れる。

「は~い、バイバ~イ! 彼氏さんもまたね~!」

「バイバイ、桃井さん。彼氏さんもさようなら」

 青山さんと影山さんの二人は、笑顔で手を振って私達が来た方に歩いて行った。


 青山さん、海君にまたねって言ったけど――まさか、また会おうとか思ってるのかな……?

 ううん、きっと社交辞令だよね……。


「疲れた……」

「あっ!」

 私が青山さんについて考えてると、海君がゲンナリした様子で手を離した。


 むぅ……別に手を繋いでてもいいじゃん……。

 

 私はそう言おうと思ったけど、海君が本当に疲れたようになっていたので、我が儘を言うのをやめるのだった――。

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