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第39話「二人っきりの時間」

「――あの……」

「え、何……?」

 俺が桃井のクラスまで来て、桃井のクラスメイトらしき女子に声を掛けると、凄く怪訝な表情をされた。


 ……久しぶりにこの視線を感じる。

 今ではもう、俺のクラスでこの変な奴を見る目で俺の事を見る奴はいなくなった。

 それどころか、金髪ギャルのせいで恐怖を帯びた目で見てくるのだ。


 ……俺、何も悪い事してないんだけどな……。

 

 まぁそれはそれとして、早く用件を済ませて立ち去ろう。


「桃井さんは居ますか……?」

「え……もしかして告白? ……悪い事は言わないから、やめときなよ……」

 俺が桃井が居るかどうか尋ねると、女子生徒は哀れみの目で俺の方を見てきた。


 ……誰がいつ告白と言ったんだよ……。

 そんな目で見られなくても、桃井に俺が釣り合わないって事は、俺が一番自覚してるんだよ……。

 実際あいつが甘えてきてるのだって、俺があいつの家族だからだしな……。


「そんなんじゃないです。ただ、用事があるだけですから」

 俺は文句を言いたい気分になったが、相変わらず初対面の人間は苦手な為、そう答えた。


「あ~はいはい、そうだね。告白って言えないから用事って言っちゃうんだよね」

 そう言って、目の前の女子は残念そうな顔で俺の肩をポンっと叩いてきた。 


 ……キレてもいいだろうか……?


 ちゃんと俺の話を聞けよな……。


「だから――」

「この人、私に用事でしょ? 後は任せてくれていいわ」

「あ――桃井さん……」

 俺が再度桃井に用事だと言おうとすると、桃井がクラスの中から現れた。


 俺は桃井に感謝をする。

 もうちょっとで、この女子に暴言を吐きそうになってたからだ。


 ……あれ……?

 俺、いつの間にそんな人間になったんだ……?

 初対面の人間に暴言を吐くなんて、絶対にしなかったし、出来なかったはずだぞ……?


 まぁ、今はそんな事よりも、早くここを立ち去った方が良いだろう。

 なぜなら――

「おい、あれ例の奴だろ?」

「とうとう姉にまで手を出しに来たのか……?」

「しっ――! あいつに変な事を言ったら、西条さんを敵に回すことになるぞ!」


「ねぇねぇ、告白なのかな?」

「きっとそうでしょ。だって、桃井さんに用事だもん」

「でも、西条さんが居るのに?」

「それを言ったら、桃井さんの妹さんだって居るじゃない」

 ――という風に、桃井が俺の所に現れたせいで、クラス中の視線が俺達に集まっていた。


 予想はしていたが――まぁなんとも好奇心旺盛こうきしんおうせいな視線だな……。

 とりあえず、もうポンコツ教師の事はどうでもいいから帰っていいか?


 何度も言うが、俺は注目を集めるのが嫌いなんだよ……。

 これならボッチで居た方が良かったじゃねぇか……。


 俺は自分に集まる視線に、凄く嫌気がさしていた。


「――別のところで話をしましょう」

 俺が嫌がってるのに気づいたのか、桃井が助け舟を出してくれた。

 俺はそれに頷き、桃井と一緒にクラスを離れる。


「おい、ついていくか?」

「そうだな……気になるし……」

 俺達がクラスから離れてすぐ、そんな会話が聞こえてきた。


 あいつら……。

 

 俺はそんな桃井のクラスメイト達に苛立つ。

 

 本当、こういう奴らは何処にでも居るから困る。

 他人の会話に聞き耳を立てる事がどれだけ失礼な事なのか、理解できないのか?


「――ついてこないでくれるかしら?」

 その声がした方を見れば、桃井がクラスメイト達に、絶対零度みたいな冷たさを含んだ瞳で睨みつけていた。


 ……こわっ……。

 

 俺はその視線が自分に向いていないにも関わらず、身震いがした。

 当然、桃井のクラスメイト達は顔を青ざめ、慌ててクラスに戻っていく。


「ごめんね、かい君……」

 クラスメイト達が居なくなると、申し訳なさそうに桃井が上目遣いで俺に謝ってきた。


 本当に俺と二人きりで居る時とは別人だよな……。


 俺はそう思いながらも、桃井に返事をする。

「いや、桃井が悪いわけじゃないだろ。あいつらが悪い」

 俺がそう言うと、桃井は困ったように笑った。

 多分、俺が悪くないって言ったのに、桃井は自分のせいでって思ってるのだろう。


 ……本当に……お前が悪いわけじゃないのに……。

 悪いのは、好奇心で桃井に付きまとうあいつらだ。

 何も桃井が気にする事はない。


 ……こいつって、俺が知らないだけで、ずっと学校で苦労をしてるんだよな……。

 

 さっき俺が来ただけで、あれだけの視線が桃井にも集まった。

 普通なら我慢が出来ない筈なのに、桃井は冷徹という仮面をつけてそれに耐えている。


 ――どうにか、この子にも平穏な日常が訪れるようにしたいと思った。


 ……ただ、俺の方の平穏が失われつつあるんだけどな……。

 

 俺は何とも言えない気持ちになり、桃井の方を見る。

 桃井は先程の困った笑顔はなくなり、なんだか笑うのを我慢してて、無理矢理真面目な顔を作っている様にも見えた。

 俺はそんな桃井の表情に、首を傾げながら歩き続けるのだった――。


 



「――それで、どうしたのかな?」

 体育館裏にまで移動すると、桃井がそう尋ねてきた。


 ただ、何故体育館裏に来たのかは、俺が聞きたい。

 しかも、わざわざ遠回りをした理由はなんだったのかも聞きたい。


 ……ここまで移動する必要がなかっただろ……。


 俺はそう移動中も考えながらも、桃井が何だか笑顔ではないが楽しそうな雰囲気を出していたため、結局何も言えずにここまで来てしまった。


「前に渡したプログラムが入った奴を返してほしいんだ。急に必要になったから」

 俺はそう言って、桃井に右手を出す。

「あ――うん」

 桃井は俺の言葉に従い、スカートのポケットから取り出して渡してくれた。


 ……あのスカートって……ポケットあったんだ……。

 

 どうでもいい事ではあるが、俺は自分が知らなかったため、ついそれに反応してしまった。


「ありがとう――じゃあ、それだけだから」

 俺がそう言ってきびすを返そうとすると――

「え……それだけ……? もう行っちゃうの……?」

 ――と、桃井が寂しそうな声を出した。


 俺はその声に足を止め、桃井の方を振り返る。

 桃井は声と同じように、寂しそうな表情をしていた。


 ……え、なんでこいつこんなに寂しそうなの?


 相変わらずというか、桃井の感情の機微きびが俺には理解できなかった。

 もしかしたら、あんなクラスメイト達ばかりで孤立とまでは言わなくても、気軽に話せる相手が居ないのかもしれない。

 だから、最近では結構気軽に話せるようになった俺と、もうちょっと会話がしたいのかもな……。

 

 ……うん、それなら納得がいく。

 

 俺はそう結論付けると、桃井の傍まで行き、前に西条と一緒にお昼を食べた時の様にして座った。

 桃井が話し相手が欲しいのなら、昼休み一杯は桃井の相手をしようと思ったからだ。


 ……昼飯は食べ損なうが――その恨みはあのポンコツ教師に後で晴らすとしよう。


「あ――!」

 桃井は俺が体育館に入る階段に座ると、嬉しそうに俺の横に座った。

 ちゃっかり、座る前に自分の下にハンカチを敷くところが、流石だと思った。


 それにしても――俺が残って話すようにしただけでこんな風に嬉しそうに座る桃井が、本当に可愛いと思った。


「あ、そう言えば、そのプログラムありがとね」

 桃井は俺の横に座るなりすぐ、俺の右手を見ながらそう言ってきた。

「ちゃんと使えたか?」

「うん! 凄く作業早くなったんだよ? だから、本当にありがとう――作ってくれて凄く嬉しかった」

 そう言って、桃井はニコッと笑った。


 ……ごめんな、桃井。


 俺はそんな無邪気な笑顔を浮かべる桃井に、心の中で謝る。


 桃井が喜んでくれてるそのプログラム――ポンコツ教師がデータのゴミクズにしちゃったんだよ……。


 あの人……本当、一度痛い目見させとこう……。

 とりあえずあの甘ったれた根性だけはどうにかしないと、取り返しのつかない事をしそうで怖いんだよな……。

 

 というか、これで俺があのポンコツ教師を避け続けていた理由がよくわかっただろ?

 あの人、本当に甘ったれすぎてうっとおしいんだよ……。


 俺はそう思いながらも、桃井に笑顔で返す。

「まぁ、そう言ってもらえて嬉しいよ。それで、()()()()も使えるようになったか?」

 自分でも意地が悪いとは思いながらも、桃井にそう尋ねた。


「も、もちろんだよ! みんな喜んで使ってるよ!」

 桃井は少しどもりながらも、そう言って笑顔を見せる。


 こいつは本当に……。

 俺はそんな桃井に呆れるが、現状これ以上問い詰める事は出来ない。

 問い詰めればなぜ知っているのかって事になる。


 まぁ、今は桃井がしたいようにさせておこう。

 それで夜遅くまで残る様になれば、その時苦言を言えば良いだろう。

 とりあえず今は、折角桃井と学校で話せるのだから、楽しい会話をしたい。


 俺はそう結論付けると、昼休み一杯まで、桃井とラノベの好きな作品について語り合った。


 ……もちろんその後、再度ポンコツ教師には説教をしておいたのだった――。


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