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第33話「ポンコツ教師の意外な才能」

 ――土曜日、俺は一人で服を買いに街まで来ていた。

 と言うのも、俺はあまり服に執着がなく、女の子と出かける様な服が一枚も無いのだ。


 ……女の子と出かけると言えば、この前桃井と仲直りの為に一緒にエロゲーをした時の事なんだが――

「あいつ、マジで可愛すぎるだろ……」

 俺はそう呟いて、右手で顔を抑える。


 怒らせてしまった時はどうなる事かと思ったが、一緒にエロゲーをやる条件として桃井は、俺に背もたれになるよう要求してきた。


 本人曰く、『背もたれ無しに長時間ゲームをすると辛いから、支えになってほしいの』との事らしい。

 まぁ持たれてくるくらいなら、ちょっと恥ずかしいとは思うが、桃井の機嫌が直るならいいかと思って俺は引き受けたのだが――桃井が座ったのは俺の足と足の間で、そのままもたれかかってきたのだ。


 うん、そうだよな……。

 桃井は背もたれって言ったんだ。

 なんで俺はあの時、普通に横に座って寄りかかってくると思ったんだろう……。


 その上マウス操作は俺がするとのことで、マウスを操作するために腕を伸ばすと、なんだか桃井を包んでる形になってしまった。

 そしてお風呂上りの桃井からは凄く良い匂いがするし、凄く色っぽくてつい抱きしめそうになるのを凄く我慢した……。


 挙句Hシーンに突入した時は、桃井の体が持たれかかってきているせいで余計興奮してしまうし……。

 うわぁ……俺ってマジ最悪じゃん……。

 

 それに、寝落ちしてしまうし……。

 朝目を覚ますと桃井はもういなかった。

 多分、自分の部屋で寝たんだろうけど、寝落ちしてる俺に怒ってるんじゃないかと凄く焦った。


 まぁ朝ご飯の時に顔を合わせた時、何故かかい君呼びになってたのは気になったけど、普通に笑顔だったし、ちゃんと桃井の誕生日に遊ぶ約束が出来たから良かったと思うが……。


「あ――神崎君だ!」

「え?」

 急に名前を呼ばれたため、俺は手を顔から外し、呼ばれた方を見る。


 誰だ……?

 もう俺をこの呼び方で呼ぶ奴はいないはずだが……。


「やっほ~!」

「……」

 俺の目の前に居たのは、例のポンコツ教師だった。


「ねぇねぇ、一人でなにしてるの?」

「おはようございます、先生。それでは失礼します」

 俺は如月先生の質問を流し、挨拶をして引き返す。


「ちょっとまってよ!」

 そう言って、如月先生が俺の腕を引っ張ってきた。

 俺はそんな先生に傍迷惑はためいわくな顔をして――

「あの……どちら様ですか? 人違いなんですが……」

 ――と言った。


「いやいや、さっき先生って言ったよね!? なんで最近すぐ逃げるのかな!?」

 如月先生もとい、ポンコツ教師は――あれ、逆か?

 まぁ、どっちでもいい。

 とりあえず、なんだかショックそうな顔をしていた。


「今回は何をやらかしたんですか?」

「まだ今日は何もやらかしてないけど!? なんで声を掛けただけでそんな事言うのよ!」

 如月先生は叫ぶように大きな声で俺に言ってきた。


 ……だってなぁ、この人が俺に声を掛けてくる時って大抵何かやらかした後だからな……。

 それに、自分でも『まだ』って言ってる時点で、自分がすぐ何かやらかす事を自覚してるだろ?


「あ、あの……お姉ちゃん?」

 俺達のやり取りを見ていた女の子が、如月先生に声を掛けた。

 身長の低さや顔の幼さからして、桜ちゃんみたいな子だ。

 顔つきは全然違って、桜ちゃんみたいな人懐っこい顔じゃなく、おっとりとした優しそうな子だな。

 先生、歳が離れた小学生の妹さんも居たのか……。


 ……小学生の見た目から桜ちゃんを連想するのって、どうなんだ……?


「あ、ごめん華恋。全く、神崎君が意地悪するから妹に変なとこ見られたじゃない」

 ――と、如月先生がジト目で俺の事を見てくる。


 別に意地悪してたんじゃなく、素で嫌がってたんだがな……。


 ……ん?

 今この人、妹さんの事『華恋』ってよんだ? 

 確か華恋さんって、俺と同い年だったような……?


「え、その子って、先生がいつも言ってた俺と同い年の妹さんですか……?」

 俺はちょっと信じられないといった感じで、如月先生に聞く。


「ん? そうだよ? ね、言った通り凄く可愛い妹でしょ!? 特にこの子ね――」

 そう言って、また如月先生の妹自慢が始まったため、俺は聞き流しながら華恋さんを見る。


 ……嘘だろ……?

 これで俺と同い年……?

 マジで小学生にしか見えないんだが……。


「あ……えと、如月華恋。よろしく……」

 華恋さんは先生にしがみつきながら、自己紹介をしてくれた。

 なるほど……先生が凄く自慢するだけあって、確かに可愛い女の子だ。

 まるで守ってあげたくなるような子だな……。


「どうも、如月先生にいつもお世話になっている神崎海斗です。宜しく」

 俺はそう()()()()を言って、華恋さんに頭を下げた。


「そうそう、神崎君は私がいつもお世話してあげてるのよ!」

 俺の言葉で気を良くしたポンコツ教師が、そう華恋ちゃんに言っていた。


 ……どの口が言うんだ、このポンコツ教師は……。

 数えられないくらい世話を焼いた覚えはあるが、俺が世話を焼かれた記憶が無いぞ……?


「それで神崎君、一体何をしてたの?」

「別に……ただ、服を買いに来ただけです」

 俺はとりあえず、何か変な事に巻き込まれる前にさっさと離れたくて、素っ気なく返す。 


「デートね!」

「は!?」

 俺が服を買いに来たと言っただけで、何故かこのポンコツ教師は意味が分からないことを言い出した。


「だって、神崎君が服を買いに来たって事はそうとしか考えられないもん!」

「……一応理由を聞いても?」

 俺はめんどくさいが、なんか聞き捨てならない事を言いそうだったから、如月先生にそう尋ねる。

「だって、前に神崎君に服の話をした時、全く関心を示さなかったもん! なのにわざわざ休みの日に買いに出てるとこが怪しい!」


 ……そんな話をしたか?

 いや、まぁ、したのかもしれないけど、俺基本この人の話は右から左だから覚えてないんだよな……。


「まぁ確かに遊びには行きますが、別にデートではありませんよ」

 俺はそう事実を先生に告げる。


「ん? 女の子と遊びに行くんじゃないの?」

「いえ、女の子です」

「じゃあ、デートよね?」

「いえ、違いますけど?」

「二人っきりよね?」

「そうですね?」

 まぁ、桃井の時は桜ちゃんも居るけど。


「……デートよね?」

 如月先生は首を傾げながら、俺に聞くんじゃなく、華恋さんに聞いた。

「うん……デートだよね……?」

 華恋さんも同じように首を傾げていた。


 ……デートなの?

 だって、ただ遊びに行くだけだぞ?


「神崎君、もしかして遊びに行くって約束しかしてないから、デートじゃないって言ってる?」

「はい、そうですが?」

「ふっ……」

 俺の言葉にポンコツ教師が馬鹿にした様な顔をした。

 

 おい教師、なんだその顔は!

 生徒にそんな顔してもいいのかよ!


「まぁ、いいよ。それじゃあ、行こう!」

 そう言って、如月先生は俺の腕を掴んで歩き始めた。

「は!? なんで俺の腕を引っ張ってるんですか!?」

「え? だって、神崎君の服を選んであげないと」

 如月先生はそう言って、首を傾げていた。


 ……どんな思考回路してるんだよ、このポンコツ教師は……。

 なんで俺の服買いに行く事になってるんだ?

 今さっきの話のどこに、そんな会話があったんだよ?


「あの……お姉ちゃん、言い出したら聞かないから……」

 そう言って華恋さんが申し訳なさそうな顔をしていた。

 うわ……こんな事言われたら、無理矢理逃げれないじゃん……。


「それに神崎君、あなたのセンスに任せてると、きっと女の子に恥をかかせると思うの」

 如月先生は凄く良い笑顔でそんな事を言ってきた。


 ……ほぉ……このポンコツ教師、どうやら俺に喧嘩を売っているようだな……。


「別に、俺は一人でも大丈夫ですけど?」


「神崎君、ファッション雑誌読む?」

「読みません」


「テレビで結構モデルの人とか見る?」

「興味ありません」


「友達とファッションの話する?」

「まず友達が居ません」


「「「……」」」


 ……なんだろう、凄く気まずい雰囲気になったのだが……。


 華恋ちゃんが可哀想な――そして、同類を見る様な眼を向けてきた。


 ……この子も友達が居ないのだろうか?

 まぁ、あまり話すのが得意なようにも見えないが……。


「神崎君の自信は何処から来るのかな……」

 如月先生は頭を抱えていた。


 なんか、この人にこれをされると自分が情けなくなってくるんだが……?


「とりあえず、まず髪を切ろうか」

「嫌です」

 俺は如月先生の言葉に即答した。

 

「なんか、この会話昔も良くしたなぁ……。そんなに嫌なの?」

「そうですね……昔ほどではないですが、やはり知り合いがいるとこでは視線が気になるので……」 

「つまり、知り合いがいないとこではもう大丈夫と?」

「まぁ、多分……」


 俺のコミュ障は桃井や桜ちゃん、西条のおかげで大分無くなってきたと思う。

 だけど、やはり知り合いが居るとこでは視線が気になる。


「おけおけ、ちょっと神崎君ここで華恋と待っててよ!」

 そう言って、如月先生はドラッグストアに入っていった。


 ……まじかよ、あの人……。

 初対面の男女を二人っきりで置いて行くか、普通……?


「――あ、あの……」

「え?」

 如月先生が居なくなってすぐ、華恋さんが口を開いた。

 てっきり二人とも沈黙して、気まずい雰囲気になるかと思ったんだが……。


「その……友達居ないんだよね?」

「あ、はい……」

 くっ、そんな風に聞かれると辛い……。


「よかったら、華恋と友達になってくれないかな……?」

 華恋さんは恥ずかしそうにそう聞いてきた。

「喜んで友達になります!」

 俺はそんな彼女に即答した。

「よかったぁ……」

 華恋さんはホッとした様に胸を撫でおろす。


 俺はそんな華恋さんを横目に、小さくガッツポーズをする。

 

 初めて俺にまともな友達が出来た! 

 色物じゃなく、ちゃんとした友達がな!

 

 ……小学生みたいな同い年の女の子って、その時点で色物じゃないか……?

 いや、まぁ、それは彼女に対して失礼だ。

 これは普通に喜ぼう。


 とはいえ――

「どうして、急に友達になろうって言ってきたんですか?」

 俺は不思議に思い、そう尋ねてみた。

「あ――その、華恋実は同じ学校に憧れてる人がいて……その人に近づきたくて変わろうと思ってるの……」

 そう言って、華恋さんははにかんだ。


 おぉ、凄いな……。

 憧れる人に近づくために変わろうだなんて……。


 彼女の話し方的に、人と話すのがあんまり得意じゃないのはわかる。

 それなのに変わろうとしているのが、似た様な俺からしたら素直に凄いと思った。 


「自分から変わろうとするなんて凄いな……。改めてよろしく、華恋さん」

「ありがとう……。よろしく、海斗ちゃん」

 俺が笑って言うと、彼女も笑って返してくれた。


 ただ――。

 ……海斗ちゃんってなんだよ……。

 やばい、凄く嫌だ……。

 だって、めっちゃ恥ずかしいもん……。

 でも、この子にそれを言うのは気がひける……。


「うんうん、いいね、海斗ちゃん!」

「……は!? 先生、いつの間に!?」

 いつの間にか、先生がドラッグストアで買った袋を片手に俺達の後ろに立っていた。


「今のだよ? そっかそっか、二人はちゃんと友達になったか~。でも、今度女の子とデートするのに、華恋ちゃんに手を出すのは感心しないぞ、海斗ちゃん?」

 そう言って、ポンコツ教師が怒ってるふりをする。


 ……。


「とりあえず、言いたい事が三つ程ありますが――次ちゃん呼びしたら、先生の授業を妨害します」

 俺はそう言って、先生を睨む。

「大丈夫、神崎君にそんな度胸は無い!」

 と、ポンコツ教師は笑い飛ばした。


 ……このポンコツ教師、泣かしたい……。


「――というか、何を買ってきたんですか?」

「これだよ?」

 俺が先生に買ってきたものを尋ねると、先生が袋から何かを取り出した。

「……なんですかそれ?」

 俺は先生が取り出したものがわからなくて、そう尋ねた。


「えぇ!? 神崎君ワックスを知らないの!?」

 俺の言葉に如月先生が驚いた。

 

 へぇ……これがワックスなのか。

 実物は初めて見るな……。

 てか、ワックスなんて男がつける物なのに、なんで先生が買ってきたんだ?


「先生がワックスを使うんですか?」

「神崎君っていつも凄く鋭いのに、たまに凄く鈍感っというか、馬鹿になるよね……」

 如月先生が凄く残念な物を見る目で見てきた。


 ……この教師に言われると凄く腹が立つんだが?

 少なくとも、俺はこのポンコツよりはマシなはずだ。


「これはね、海斗ちゃんに使うの。海斗ちゃんの前髪は目を隠すくらいの長さだから、ワックスで前髪をあげていけば、目までちゃんと出るようになるの。それだけで全然違うはずだよ?」

「は? 俺に使うんですか? ……ていうか、ちゃん呼びはやめて下さい!」

 何こいつはシレっとちゃん呼びしてるんだよ!


「だって髪を切らないんだったら、これくらいしか見た目を良くする方法ないよ?」

 如月先生は首を傾げて、そんな事を言ってきた。


 俺が言った事は無視かよ!


 ……そう言えば、確かにこの人はこんな人だった……。

 華恋さんが先ほど言ったように、この人は本当に言い出したら聞かない尚且なおかつ、人の話も聞かない。

 だから相手にするのがめんどくさいんだった……。


「いや、髪はこのまんまで良いんですが……?」

 もう俺はちゃん呼びの方を後回しにして、髪型の話に入った。


「だからさっきも言ったけど、男がカッコ悪いと女の子に恥をかかせるよ? それにあなたのデートの相手は、西条さんか桃井さんの妹だよね? あのとびっきり可愛い二人のどちらかを相手にするんなら、ちゃんと見た目良くしないと後悔するよ?」

「……なんで俺の相手を知ってるんですか?」

 いや、まぁ、デートじゃないし、遊ぶのは二人ともなんだが……。


「え、だって、君その二人のどちらかと出来てるって学校中で有名だよ?」

 ……まじかよ……。

 なんで俺の知らないとこでそんな噂たってるんだ……。

 

 …………いや、そりゃあたつわな!

 だってあの二人、見た目の可愛さから凄く目立つし、俺昼飯いっつも一緒に食べてて、しかも抱き着かれてるじゃねぇか!

 それで噂にならないと思ってた俺が馬鹿だわ!


「本当は髪を一回濡らしてドライヤーで形を作るんだけど、今日は応急処置程度でいいからこのままやってみようか」

 そう言って、如月先生が笑顔で近づいてくる。


 ……え?

「今、つけるんですか?」

「うん! 神崎君ワックスの仕方知らないだろうし、私も神崎君の顔に興味あるもん!」

「いや、それあんたが見たいだけだろ!?」

 俺はとうとうタメ語で話してしまった。


「まぁまぁ、とりあえず任せてよ」

 俺のタメ語など気にせず、座る様に促してきた。


「お姉ちゃんの気が済むようにさせた方が……早く終わるよ……?」

 俺の横に座っていた華恋さんが同情した様な眼で言ってきた。

 

 まじかよ……。

 このポンコツ教師、学校で覚えてろよ……。

 

 俺はそんな風にポンコツ教師に復讐を誓ったのだが――。


「「お、おおお!」」

 諦めて先生にワックスを付ける事を許したのだが、髪型を整えた俺の顔を見た二人が、そんな声をあげた。


「な、なんですか……?」

 俺が顔をしかめて尋ねると――

「予想外の凄い優良物件が出てきた! 海斗ちゃん、先生と付き合おう!」

 ――とポンコツ教師が本当にポンコツな事を言い出した。


「あなたは馬鹿ですか……。そんな事をすれば先生首になりますよ……?」

「海斗ちゃんが養ってくれるならそれでいい!」

 だ、だめだ……。

 このポンコツ教師、本当に駄目な人間だ……。


「で、でも……本当に、カッコイイよ?」

 そう言って、華恋さんが拍手をしてくれた。


「あ、ありがとう……」

 俺はそんな様子に照れてしまう。

「おかしい! 先生の時と態度が違う!」

 俺が華恋さんに見せた態度に不満を持ったポンコツが、何かまた変な事を言い出した。

「気のせいです。先生、思い込みで物を言うのはやめましょう」

「あ、あれ? そうかな……?」

 俺が適当に考えた言い訳を言うと、如月先生は首を傾げて納得しはじめた。


 ……この人鋭いとこもあるけど、9割方ポンコツだな……。


 俺はそんなチョロい先生を見てそう思った。


「とりあえず、デートの日は私が髪型を作ってあげるから、私のとこに来てからデートにいくように!」

「えぇ……なんですか、それは……?」

 俺はもう、この人の思い付き発言に驚かなくなったが、それでもやはりめんどくさい……。


「だって、勿体ないじゃん! ちょっと髪型整えただけでこれなら、きちんと整えれば凄くカッコイイよ!? そして、神崎君がワックスをちゃんと使えるとは思えないもん! だから絶対私のとこに来るように!」

「は、はぁ……」

 俺は如月先生の剣幕におされ、思わず頷いてしまう。


 ……え!?

 俺、今この人におされたの!?

 この脳内お花畑のポンコツ教師に!?


「じゃあ、次は服を買いに行く番だね!」

「えぇ……まだ、続くんですか?」

「何言ってるの? むしろそっちが目的だったじゃん!」

 

 確かにそうなんだが……もう、帰りたい……。


 俺は先生に連行されながら、ずっと帰りたいと心の中で祈るのだった――。




 

 ――そこからは如月先生により俺は着せ替え人形にされていた……。

 ただ、驚いた事にこの人のファッションセンスは凄く良い。

 持ってくる奴はどれも良い奴で、俺が着替える度に如月先生と華恋ちゃんどころか、店の店員や居合わせた高校生の女の子達まで、歓声に似た黄色い声を上げていた。

 

 ボッチの俺がこんな風に周りから褒められるのは初めてだった。


 服って本当にすごいな!

 どうりでみんなファッションに力を入れるわけだ!

 

 服とはこれほどまでに人を変えるのかと俺は思った。

 

 だけど――

「せ、先生……恥ずかしいんで、服を着替える度に写真を撮るの止めてください……。後、そこの人達も……」

 ――そう、俺が服を着替える度に、何故か如月先生と女子高校生たちが写真をとっているのだ。

 いや、初めは如月先生が一人で撮っていたのだが、それを見た女子高校生達が同じように撮りだしたのだ。


 つまり、元凶は如月先生であって、女子高校生達は先生を真似して面白半分で撮ってるだけだろう……。


「えぇ、いいじゃん、これくらいの役得があってもさぁ!」

 そう言って、如月先生が抗議してきた。

 

 役得って……。

 ただ単に俺が服着てる姿を撮ってるだけでしょうが……。


「これも、着てほしい……」

 俺達がそんなやり取りをしていると、華恋さんまでもが服を持ってきた。

「あぁ、はい……」 

 俺はその服を受け取ると、また更衣室で着替え始める。


 なんで俺はこんな事してるんだよ……。

 と言うか、これ俺が一人で更衣室独占してるけど、いいの……?


 結局俺が一つの全身コーディネートを決めるのに有した時間、約二時間……。


 アホか!

 

 ――と、俺は猛烈に叫びたくなっていた。


 だけど、俺の予定は三日もあるんだ。

 いや、一回は西条だけだから、同じ奴着て行けばいいのかもしれないけど、桃井の時は桜ちゃんもまたいる為、同じのでは困る。 


 まぁそのついでとして、センスが良い先生に選んでもらいたかった。

「すみません、ここまで時間費やしてあれなんですけど、後二セットほしいんですけど……。今まで着た奴の中からもう二セット選んでもらえませんか?」

 俺がそう言うと、如月先生が驚いた顔をした。


「もしかして、他に二人の子とも遊ぶの!?」

 俺はそれに渋々ながら頷く。

「プレイボーイだ!」

「その言い方はやめて下さい!」

「でも事実!」

 そう言って、如月先生がケラケラと笑った。


 ぐっ……。

 確かに、三人の女の子とは遊ぶけど、二人は家族なんだが……。

 まぁ西条は違うが、あいつの場合はただ遊びに行くだけだし……。


 クイクイ――。

 

 ん?


 俺が服を見繕い始めた先生を見ていると、華恋さんが服を引っ張ってきた。

「どうしました?」

「華恋の憧れの人もそうなんだけど……あまり八方美人で居ると、後で凄い事になるよ……?」 

 ――と、華恋さんが苦笑いで言ってきた。


「その凄い事とは……?」

 俺が思わずそう尋ねると、華恋さんは首を横に振った。

「聞かない方が良いよ……」


 俺はその言い方に凄く不安な物を感じ、冷や汗が出てくる。

 

 えぇ……一体なにがあったんだよ……?

 まさか、いろんな女の子に良い顔しすぎて、ゲームみたいに刺されたとか……?

 

 ……やばい、想像するだけで怖い……。

 でも、俺は大丈夫なはず……。


 今のところは家族二人だし、言うなればちゃんとしたヒロインポジに居るのは西条だけだ。

 いや、西条とどうこうなるとは思えないが、とりあえず女の子に刺されるはずがない……。


 ――俺はそう自分に言い聞かせ続けるのだった――。


 あ、ちなみに華恋さんと連絡先はきちんと交換しました、はい。


 ……何故か、如月先生とも交換する羽目になった挙句、今回手伝ったんだから学校でもう逃げないという約束までさせられるのだった――。

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