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第30話「お前が望むなら、俺はいくらでも手を貸すよ」

「ふぅ……」

 俺は今回、久しぶりにE〇CELのプログラムに『E〇CEL V〇A』という言語を使ってプログラムを作っていた。

 

 桃井の負担を減らせるように、生徒会が作る書類で自動化できそうな物を、項目欄に手入力で値を入れればボタン一つでフォーマットが作れる用にしようと思ったのだ。


 ……そういえば……。


 俺はサイトを開いていて、ふと今は()()閉じてしまっている、KAIに依頼をする用のサイトを見てみる。

 そこには数多くの企業の名前と、仕事についての簡単な内容と依頼金額、それから連絡先になるメールアドレスが書かれている。


 これは、俺が開いた時にランダムで企業が並ぶようにしていて、その中からいつも俺は適当に仕事を見繕っている。

 ランダムにしているのは、数が多すぎて最初に投稿してくれた人とかのはまず見えなくなるため、均等性を持たせるようにしている。

 だが、これを見れるのは俺のみ。


 依頼者たちには、ただ入力項目欄と注意書きしか見えない様にしていた。

 そして、KAIが依頼を引き受けてまたサイトを畳むまでに同じ企業から投稿した場合は、その企業の依頼内容は全て消し去り、次回まで使えない様になる事と、企業の同じ回線から開くたびに、KAIが見るときの順番で下になりやすくなることを注意書きに書いている。


 何故かと言うと――何度も投稿されたらめんどくさいし、たくさんの企業がこのサイトを利用するため、同じ企業が開かないようにしてサイト閲覧時に重くなるのを減らす為だった。 


 ただ、ランダムで表示されるとしか公表していないが、実はもう一つ閲覧する方法がある。

 それが、金額で高い順から並べることが出来る事だった。


 ……言っとくけど、これも全部Aさんの指示だからな?

 うるさい……。

 そうだよ、当時の俺は言われるがまま行動していた、操り人形だよ……。


 まぁとは言え、金額を入力する事から、高い順でも見ているんじゃないかと言う事は多くの企業が予測していた。

 だから、このサイトを作って当分の間は、800万とかそういう額を入力してくる奴らも多かった。


 だけど、そういうやつらは次第と消えていった。

 なぜなら、俺が高い金額の仕事を引き受けないからだ。


 理由は二つ。


 一つ目の理由は、あまりに高いと経費がかかるため、KAIの介入がバレる恐れがあるから。

 二つ目の理由は、ただ単に引き受けたくないだけ。 


 ……だってな、どう考えてもめんどくさそうじゃん……。

 明らかに出来る人が居なくて、困ってるオーラ全開じゃんか。


 だから、俺はそんなのは全て無視する。

 別に俺はプログラムが作れたらいいだけであって、難しい事に挑戦したいと言う訳でもないからだ。


 だがしかし――金額が普通の奴でも、ほとんど貧乏クジしか引いてないんだよ!


 ていうか、KAIに来る依頼が最早まともなのがない!

 いや、たまにまともなのもあるのはあるが……。

 そういう奴は、大抵納期が短い。


 まぁ……仕方ないんだけどな……。

 表に出ない俺が悪いんだし……。


 まぁそんなわけあって、KAIは金額が高いと逆に依頼を引き受けないという噂が広まっていった。

 

 だから、今回平等院システムズが2千万で依頼を引き受けてくれと言った時、俺はAさんが戻ってきたんじゃないかと思ったのだ。


 Aさんは、俺が金額の高い順で依頼を見る事が出来る事を知っている。

 そして、金額が高いと依頼を引き受けない事が周知されている中で、この額を提示してきたのと、依頼元が平等院システムズで、依頼内容が俺の作ったAIアンチウィルスソフトの改修で有った事から、俺はAさんが関わっているんじゃないかと思っていた。


 結果は――空振りだったけどな……。

 

 ただ、不快な思いをしに行っただけだった……。

 あの時担当で出てきたのは新庄と言う男だったが、彼ではない。

 率直に役者が違うと感じた。

 少なくとも、中学生の俺が仕事出来るようにあれほどの事をする力があるとは思えない。


 まぁ、もう一人接触した人間は居たけどな……。

 平等院アリス――この前の出来事で、彼女は頭が凄くキレるんじゃないかと俺は思っている。

 それにアリスと言う名前はAさんとも繋がりがありそうだが――ハハ、それはありえないな。


 当時の俺は中学生だ。

 そして彼女も多分俺と歳がそう変わらないだろうから、絶対ないと言える。


 だって、どうして中学生か高校生かわからないが、平等院システムズの人間として俺に接触してこれる?

 それに、あれほどの事をやってのけるには相当な人脈がいるはずだ。

 いくら日本三大財閥の娘とは言え、まだ年端も行かない女の子にそんな人脈があるはずがない。


 だから、普段KAIは他人の作ったプログラムの改修依頼は引き受けないため、破格の価格で交渉を試みたと考えるのが妥当だろう。


 ……Aさんに会ってみたかったんだけどな……。


 コンコンコン――。


 あ、来たんだな……。

 

 俺がAさんの事を考えていると、ドアがノックされた。

 ここ最近おなじみとなっている、桃井が来たんだろう。


「――はい」

 俺がドアを開けると、桃井が相変わらずのお風呂上がりの恰好で来ていた。

 俺は未だこの桃井の姿には慣れていない。

 というか、いつまで経っても慣れる気がしない……。

 それだけ、お風呂上がりの桃井の姿は色っぽくて可愛いのだ。


「えへへ、また来ちゃった」

 桃井は照れ笑いを浮かべながら、俺にそう言ってきた。


 ……もう、無理……。

 何この子、本当に可愛いんだけど……。

 今の桃井は桜ちゃんより可愛――いくないです、はい。


 一瞬桜ちゃんの効果音付きのニコニコ笑顔が頭を(よぎ)った俺は、今思い浮かびそうになった言葉を振り払う。

 

 まぁ、それはいいとして、今日はちょっと桃井を部屋に入れたくないな……。

「悪い桃井、今日は駄目だ」

「……どうして?」

「なんでもだ」

 俺がそう言うと、桃井が頬を膨らませた。

 

 ……ねぇ誰か、この子の幼児退行どうにかしてくれないかな……?

 もう俺の心が持たないんですが……。


「どうしても、だめ……?」

 そう言って、桃井が上目遣いで俺の顔を見上げてきた。

「……いいです……」

「やったぁ!」

 俺が桃井の可愛さにやられて頷くと、桃井が嬉しそうに飛び跳ねた。


 ……こいつ、かわい子ぶれば何でも俺が許すと思って、こんな事やってるんじゃないだろうな……?

 いや、まぁ、許すんだけどな……。

 

 だって、言うだろ?

 可愛いものは正義だって。

 

 だから、俺がいつも了承してしまうのは仕方ない事なんだ……。

 決して、俺の気持ちが弱いわけではない。

 決してな!


「それで、今は何をしてたの?」

 中に入ってきた桃井が、最早(もはや)定位置となっているパソコンの前に座って、俺に聞いてきた。

「ん? あぁ、生徒会が作る書類を自動化できる分だけ自動化させようとしてるんだよ」 

 俺がそう言うと、桃井が驚いた表情をして口を開く。

「でも、仕事で忙しかったんじゃないの……?」

 桃井は申し訳なさそうな顔で聞いてきた。


 あぁ、だから部屋に入れたくなかったのにな……。

 俺が桃井の為にプログラムを作っていると知れば、絶対こいつは気にすると思った。

 だから内緒で作って後で渡そうと思ってたのに……。

 まったく……本当何してんだよ、数十秒前の俺は……。


 お前がしっかりしてくれないから、こんな事になるんだぞ?

 桃井の可愛さなんかに負けんなよ……。

「ごめんね……?」


 俺が考え事をして桃井に返事をしなかったせいか、桃井が上目遣いで謝ってきた。


 ……うん、無理。

 こんなん無理だって……。

 

 だって本当に可愛すぎるもん……。

 そりゃあ数十秒前の俺も負けるって……。


 俺は一人そんな事を考えながら桃井の隣に座る。

「別に俺が勝手にやってる事だから、桃井は気にしなくていいよ」

 俺は桃井の隣に座ると、そう桃井に告げた。

「でも、私の事なんかしてたら、仕事がキツくなっちゃうんじゃないの?」

 俺はそんな桃井に首を横に振る。


「俺の事なんてどうでもいいんだよ。後でどうとでもなるんだから。それよりも、桃井の仕事の負担を減らすようにする方が優先だ。もう夜遅くまで残らなくて済むようにな。それと、もしこれから何かあって暗い中帰らないといけなくなったら、何時でもいいから俺を呼べ。迎えに行くから」

「え、でも、そんなの悪いから……。私なら暗くても一人で帰れるし」

 俺の言葉に桃井がそう言って首を横に振った。

 

 こいつは本当に……。

 

 俺は桃井のその言葉にイラっときた。

 だから、思った事をそのまま桃井に言う。


「あのな、お前自分が凄く可愛いって自覚持てよ? お前が夜道を一人で歩いてると、変な男がホイホイ寄ってくるかもしれないんだ。そんなの心配で心配で仕方ないだろ? 俺の言ってる事わかるか?」

「は、はい……」

 俺は早口ぎみに、桃井に思ってる事を言った。

 桃井は驚いた表情をしながらも、俺の言葉にコクリと頷く。


 全く……こいつは危機感が本当にないんだよな……。

 風呂上がりのパジャマ姿で、普通に同じ年の男の部屋に毎日来るし……。

 それに今だってそうだが、ほぼ密着と言ってもいいくらい近距離で座るしな……。


 …………あれ?

 今回後から座ったの、俺じゃね?

 つまり、今これだけ至近距離なのって、俺のせいだよな?


 あれ、俺までいつの間にか距離感がおかしくなってる……。

 え、色々と不味くないか、これは……?


「えへ、えへへ」

 

 ……ん?

 

 俺が自分の距離感がおかしくなってる事に頭を悩ませていると、桃井が急に笑い出した。


「どうした?」

「あ、ううん、なんでもないよ!」

 俺が桃井の方を見て尋ねると、桃井が慌てて両手を顔の前で振る。

「なんか、おかしなことでもあったか?」

「違う違う、今日のおかしかった出来事を思い出して笑っただけ!」

「へぇ……どんな事があったんだ?」


 俺は桃井が思い出し笑いをするほど面白かった出来事が気になり、桃井に聞いてみる。

 桃井は一瞬困ったような表情をしたようにも見えたが、すぐに口を開いた。


「私がチョップした時の神崎君の顔」


 ……。


「おい! それ俺の事馬鹿にしてるじゃねぇか! というか、お前俺の後ろにいたくせに、俺の顔見えたのかよ!?」

「心の眼――そう、心眼(しんがん)って奴で見えた!」

「おま、嘘つくのにももっとマシな嘘つけよ!」

「いやいや、本当だもん! 綺麗な私の心は目の様に見る事ができるの! 神崎君の心が汚れすぎてて見えないだけ!」

「な、なんてことを言うんだ……」

「あははは!」

 何気に、桃井の最後の一言が俺の心を抉り落ち込むと、桃井が面白そうに笑っていた。

 

 いや、別に桃井の言う事をまともに受けた訳じゃない。

 ただ、自分の心が汚れてるって自覚があったから、ショックを受けたんだよ……。


 ていうか、心眼ってそういう意味じゃねぇし……。

 物事の大事な点を見通すって意味だから……。

 こいつ、本当に頭いいのかよ……。

 全国模試上位って実は嘘なんじゃないかと、最近俺は思い始めていた。


 ただ――今凄く楽しそうに笑ってる桃井を見てると、もうどうでもいいって思ったため、一回溜息をつき、俺はパソコンの方に向きなおすのだった――。



 2



 神崎君がパソコンの画面に向きなおした事を確認してすぐ、私は俯いた。


 ――聞いた!?

 ねぇ、聞いた!? 

 さっき神崎君、私の事可愛いって言ったよ!?

 しかも、凄くってついた!

 

 ダメダメダメ!

 顔がにやけちゃうよ!


 だって、彼に可愛いって言われたの初めてなんだもん!

 

 だから凄く嬉しくなって、思わず口から声が漏れちゃった!


 でも、咄嗟の誤魔化し方が下手だったよ~……。

 なんで、神崎君の顔がおかしかったとか言っちゃうの!


 上手く冗談で笑いに持って行けたけど、ちょっと違ったら怒られちゃう奴じゃん!


 ていうか、彼の顔がおかしいわけないでしょ!?

 彼の顔はいつだって凄くイケメンだよ!


 だって、今もパソコンに真剣な表情で向き合ってるんだもん!

 凛々しくてすごくカッコイイ!


 でも、目が若干しか見えないのが惜しい!

 

 ……どうにか目が全部見える様にならないかな?


 いっそ、ふざけたふりして、前髪ハサミで切っちゃう!? 

 

 ……だめ。

 そんなのしたら、多分本気で怒られる。


 だったら、私の髪留めを前みたいに貸しちゃう?

 う~ん、でもそれらしい理由が……。

 どうせ『前髪邪魔でしょ?』って言っても、『慣れてるから見える』って返ってくるだろうし……。


 私はこれから一時間くらい、神崎君の前髪をどうにか出来ないかひたすら考え続けてみたのだった――。





 俺が一人で集中してから一時間くらいたった頃、休憩がてら桃井に声を掛ける。

「桃井、ちょっといいか?」

「――っ! な、なにかな?」

 俺が桃井に声を掛けると、何故か桃井が凄く驚いていた。


 急に話しかけたせいで、驚かせてしまったか?

 でも、なんだか気まずそうに眼を背けてるような……?

 もしかしてこいつ……。   


「お前、今何か企んでたか?」

「ななな、なんの事かな!? 言い掛かりは良くないと思うよ!?」


 ……。

 なんてわかりやすい奴……。

 本当に一体何を考えていたのか気になるが、まぁあまり無駄な時間を使いたくないしな……。


「とりあえず、このプログラムの動作について説明するから、スマホ――充電ないんだったな……。メモ帳ってすぐ用意できるか?」

「あ、うん!」

 桃井は俺の言葉に頷くと、パタパタと部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。


 俺はその桃井にこのプログラムの使い方を説明していく。


 項目ごとに入力する値の形式や、書類のフォーマットの選択はドロップダウンリストにして文字を選んで入力できるようにして、その文字に対してシートの形式が変わる様にしているとか、シートの名前を使ってプログラムが動く様にしているから、シートの名前は絶対に変えるなとか、そんな感じの事だ。


 まだ作ってる最中ではあるが、そろそろ桃井が寝る時間が近づいていたため、俺は先に説明した。


 そして――

「それと、同じ物とかの名前を使う時は二つ目の欄から名前を入れるんじゃなく、same(日本語で同じという意味)って文字を入れてくれ。もし同じ名前で入れてしまうと、フォーマットに作り替える時、別々の物として表示されてしまうから」

「えと、それはどうして?」

「こっちの方が後々動作を追加する時楽なんだよ。だから、何か要望があったらすぐ言ってきて欲しい」

「え、でも、仕事の邪魔に……」

 桃井はそう言って、申し訳なさそうに見てきた。

 

 本当、こいつは人の事ばかり気にするな……。

 自分が楽になる事をもっと考えればいいのに……。


「さっきも言ったけど、俺の事なんてどうでもいいんだよ。桃井が楽に作業が出来るようにしたいんだ。そしたらお前も早く帰って来れて、もっと一緒に居られるだろ?」

「え……?」

「それに多分ショートカットキーを使ってないだろうから言うけど、Ctrl+Cキーでコピーが出来る。Cの代わりにAを押せば全体の文字が選択できるし、Xなら切り取り、Vなら貼り付けが出来る。そういうのを覚えてるだけでも早く作業が出来るようになる。それにな、一人で一生懸命頑張るのはいいが、お前が望むなら――」


 ――トン。


「――っ!」

 俺が喋っていると、桃井が俺の肩に頭を乗せてきた。

 

 え、ちょっ、何してんのこいつ!?

 これは流石にもう、家族の領域じゃないだろ!?


「も、桃井……?」 

 俺は恐る恐る桃井の方を見る。


 すると――

「………………すー――すー――」

 ――と、桃井は可愛らしい寝息を立てていた。


 ……え?

 寝てるの?

 いつから寝てたんだ?

 というか俺、独り言を言ってたようなものじゃねぇかよ……。


 まぁ、でも――。

 俺は桃井の可愛い寝顔を見る。


 ……多分、一生懸命頑張って疲れてたんだろうな……。


 このまま寝かせてやりたいけど、流石にこれだと作業が出来ない。

 左手だけでキーボードを打つのは勘弁してほしいし……。


 とは言え、桃井の部屋に寝かせるにしても、勝手に入るわけにはいかないしな……。

 仕方ないか……。


 俺はどうするか結論付けると、ちょっとだけ桃井の頭を自分の肩から離し、立ち上がって桃井の膝の裏側に右手を入れ、背中に左手を回すと抱きかかえた。


「――っ!」


 ん……?

 今、ビクってしたのか?


「起きたのか?」

 俺は抱きかかえている桃井に声を掛ける。


 すると――

「……すー――すー――むにゃむにゃ……」

 ――と、寝息と寝言みたいな事を言っていた。


 ……本当に、むにゃむにゃって言う奴いるんだな……。


 俺はそう思いながらも、桃井を俺のベッドに運んで寝かせる。

「俺が寝る時に起こすけど、それまではゆっくり寝といてくれ。それじゃあおやすみ、桃井」

 ――と言って、桃井に掛布団を掛けるのだった――。





「~~~~~~~~~~~~~!」

 神崎君が私をベッドに寝かせてパソコンのとこに戻ると、私は彼に気付かれないくらいにベッドの上で顔を両手で覆って身悶えた。


 まってまって、いきなりお姫様抱っこされた!

 私、ただ寝たふりしてただけなのに!


 でも、凄く嬉しいからいいんだけどね!

 

 ていうか、彼が私ともっといたいみたいな事を言ってくれたから、思わず甘えたくなっちゃって、肩に頭を乗せちゃった!

 それで誤魔化す為に寝たふりをしたんだけど……。


 でもでも、彼戸惑ってはいたけど、全然嫌がってなかったからいいよね!?

 今度は起きたままやっちゃってもいいんじゃないかな!?


 ま、まぁ、それはチャンスを見てしてみる事にしよう……。

 それよりも――

「神崎君の匂いに包まれてる~……。凄く幸せ~……」


 私は今、神崎君がいつも寝ているベッドに寝ているの!

 そう――彼の匂いが染みついた、ベッドに!


 でも、全然臭くないよ!

 めっちゃ良い匂いなの!

 そして、彼の匂いに包まれてるとなんだか、彼自身に包まれている様に思えちゃう!


 ……いいじゃん……。

 だって、私が彼と一緒に居られるのって夜だけだもん……。

 だから、こうやってたまには羽目はめを外してもいいはずだもん……。


 桜に西条さんはずるいよ!

 

 いや、桜は可愛い妹だからあれなんだけど、それでも朝は神崎君と一緒に登校して、お昼も一緒に食べて、下校まで一緒だもん!


 そんなのずるいよ!

 私だって、一緒に登校したいし、お昼だって一緒にたべたい!

 そして、下校は一緒に寄り道とかしてみたいの!


 それに西条さんだって、神崎君を海斗って呼んでいるし、ベッタリだし、よく抱き着いてばかりいるから本当にずるい!

 私だって名前で呼びたいし、抱き着いてみたいのに!


 私にはそれらが叶わないんだから、こんな時くらい羽目を外したくもなるの!

 だから、変態だなんて思わないでよ!

 

 ……あれ?

 これって、このまま彼が起こしに来ても寝たふりをしていれば、寝る場所に困った彼と一緒に寝られるんじゃないの!?

 それにダブルベッドじゃないから、狭くて抱き合って寝る感じになっちゃうよ!?


 わぁ、なにそれ!

 今日ずっと一人で頑張ってたご褒美を、神様がくれたのかな!?


 えへ、えへへ……。

 神崎君、早く来ないかなぁ……。


 それから一時間経過――。

 

 ふふ、良い匂い~。

 もう、この中から出たくないよ~。

 まだ私はこの匂いも楽しみたいから、神崎君が来なくても大丈夫~。


 二時間経過――。


 ま、まだかなぁ?

 結構匂いは堪能(たんのう)できたから、もう来てもいいんだよ……?


 三時間経過――。


 むぅ……。

 遅いよぉ……。

 神崎君は私を焦らしてるの……?

 焦らすのよくないよぉ……。

 私、焦らしプレイは苦手だよぉ?

 はやくきてよぉ……。


 四時間経過――。

 

 えぇ……。

 なんで来ないの……?

 もしかして、私が起きてるのバレてる……?

 ま、まぁ、もう少し待ってみよ……。


 五時間経過――。


 ちょっと、何時まで起きてるの!?

 もう三時だよ!?

 大分前に私のために作ってたプログラムが完成したのは、独り言が聞こえてたから知ってるよ!?

 いや、私のせいで作業が遅れて、今頑張ってるくれてるんだよね、ごめんね!

 でも、そろそろ来てくれないと、私もう我慢出来ないよ!?


「はぁ――さて、そろそろ桃井を起こして寝るかな……」

「――っ!」

 く、くる!

 絶対に起きてるのバレないようにしないと!


「お~い、おきろ~」

「……」

「ももい、お~い」

「……」

「こら、そろそろ起きて自分の部屋に戻ってくれ」

 言葉で起きなかったせいか、神崎君が体を揺すってくる。

 でも、私は決して起きない。


「困ったな……全然起きないんだけど、どうしようか……」

 とうとう、神崎君は揺らすのを諦めた。


 ふ、ふふ。

 私はもうすぐ神崎君が諦めそうなことを察し、ドキドキワクワクで待ち構えた。


「こんな時どうすればいいんだっけ……? あぁ、くすぐればいいのか」

「――っ!」

 まって、それはだめ!

 私くすぐり弱いの!


 ……あれ?

 でも、神崎君がしてくれるならいいかも?

 むしろ、ウェルカム!?


「そんなことして怒られたり、嫌われても困るからしないけどな……」

 

 いやいや、怒らないし嫌わないよ!?

 だからやってみよ、ね!?

 

「はぁ……仕方ないな……」

 

 あれぇ?

 くすぐり諦めちゃったの? 

 それなら早く布団の中においでよ!


 私がそう思ったのが通じたのか、神崎君が掛布団を掴んだ。

 や、やっとくる!


 私は今度こそ――と思い、身を固めた。

 すると――

「なぁ――桃井、一人で一生懸命頑張るのはいいけど、あまり無理するなよ? お前が望むならいつだって俺はお前の為に尽くすんだからな……。じゃぁ、おやすみ」

 神崎君は優しく囁くように私の耳元でそう言って、私がイゴイゴしていたせいでずれてしまった布団を肩まで優しくかけなおしてくれた。

 そして、彼はそのまま部屋を出て行った。


「………………ずるい……」

 私は彼が居なくなると、ボソっとそう呟く。


「ずるいずるいずるいずるいずるい!」

 そう言って、彼のベッドの中で顔を両手で抑えてジタバタする。


 だって優しくあんな事言われたら、誰だってときめいちゃうよ!?

 なんで彼ばっか私を(もだ)えさすの!


 私だってたまには彼を悶えさせたいよ!


 で、でも……ああいってくれたって事は、少しは大切に思ってくれてるんだよね?

 もう、海斗君って呼んでもいいのかな?

 それとも、海斗の方がいい?

 う~ん……悩ましいなぁ……。


 それに、もうすぐ七月七日の私の誕生日が来る。

 彼と前にした遊ぶ約束の日は、その日にしてもらいたい。

 だって、誕生日に好きな人と一緒にデートできるって凄く嬉しいよね?


 遊ぶ約束を勝手にデートって言ってるけど、男女が二人で遊ぶんだから、これはもうデートだよ!

 異論は認めないからね!


 えへへ、神崎君、私の誕生日覚えててくれるといいなぁ……。


 まぁでもね、それはそれとして、これだけはちょっと言わせてほしいなぁ――

「――なんで女の子が自分のベッドで準備万端で待ってるのに、どっか行っちゃうのよ、このいくじなしぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」――と。

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