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第26話「桃井が可愛すぎて困るんだが……」

「バッカじゃねーの!?」

 平等院システムズから来たメールを見た俺は、思わずそう叫んでしまう。


「納期一ヵ月とか何考えてんだ!? 元々は三ヵ月だったはずだろ!?」

 

 そう――先程平等院システムズで俺と少し揉めた男――新庄という男から来たメールには、納期が変更されたむねが書かれていた。


 あいつ、嫌がらせでこんな事して来やがったな……。

 こんな突然の納期変更なんて聞いた事が無い。

 むしろ、三ヵ月で仕上げるのすら十分早い筈だぞ……?


 抗議するか……?


 ……いや、俺は元になるプログラムを持ってるから、実際詰め込めば一ヵ月で仕上がるのは仕上がると思う……。

 それなら、下手に平等院財閥と揉めない方が良いか……?

 それに実際契約がスタートをするのは向こうの準備が居る為、早くても一週間はかかるはず。

 だから、短くても一ヵ月と一週間ある。


 ――今回の俺への依頼は、平等院システムズのアンチウイルスソフトを改修してほしいと言う事だった。

 ただ、普通のアンチウイルスソフトみたいに、発見されているマルウェア(悪さをするプログラム全般の事)をただ弾き、新種のマルウェアを発見出来次第更新をする事が出来るアンチウイルスソフトという物ではない。

 

 それに俺は一度、マルウェアが侵入してきた際にそのマルウェアの特性を記憶する事により、態々人間が更新しなくても自動で対策を――人間で例えるなら抗体を作るAI機能を搭載したアンチウイルスソフトを作った事がある。

 ……そのせいで過去にめんどくさいことになったんだけどな……。

 

 ただそれは、新種によってコンピュータを侵された後に対応する事が出来るだけであって、新種が出た時にはどうしてもデータを一度侵されてしまう。

 

 だから今回はそのアンチウイルスソフトを改修して、新種のマルウェアに襲われたとき、元々入れているデータから新種のマルウェアに近しい物を寄り添い、人間で例えるなら予防接種の様に病原菌を少しだけ先に接種する事によって、コンピュータが犯される前に先に自動で抗体を作るようにするというプログラムだった。

 流石に完全に防ぐことは出来ないが、それでも大部分のデータを守る事が出来る。

 

 まぁ、過去にAIを搭載した機能を作ったのはKAIじゃないから、平等院システムズは知らないはずだが――KAIでも普通のアンチウイルスソフトは何度か作った事があるから、出来るだろうって判断だろうな……。

 

 ……と言うより、出来なかった責任としてあの件を要求してくる気か……?

 全く、俺がお詫びとしてプロジェクトを引き受ける事になったから、断りづらいという事を理解してこんな事を言ってくるなんて、狡賢ずるがしこい奴だな……。


 元々報酬が二千万という破格な額だったから引き受けたが――これは本当にふざけてる。


 舐めやがって……。

 絶対一ヵ月で仕上げてやる。


 ……当分、ラノベもエロゲーも封印だな……。


 というかこれ、税金で結構とられるし、アメリカとかに直接売りに出した方がよかったんじゃないか……?

 ……そっちには全くコネがないけどな……。

 英語しゃべれないもん……。


 それにしても、迷惑メールがすぐたまるな……。

 毎日0時に迷惑メールは全て削除するようにしてるのに、もう7000件もメールが来てる。

 俺がメールを見てすらいないことは知ってるはずなんだけどな……。

 

 削除を時間単位に組みなおすか?

 ……いや、あまり頻繁に動かすようになると、動作が重くなるしな……。


 コンコンコン――。

 

 俺が迷惑メールに嫌気をさしてると、ドアがノックされた。

 俺はメール画面を閉じると、立ち上がってドアを開けに行く。


「どうかした?」

「えっと、こんばんは……」

「あ、あぁ……」

 

 俺がドアを開けると、そこにはお風呂上りなのだろう――今日は水色の可愛らしいパジャマを着た、体温の上昇から少しだけ頬を赤く染め、髪に少しだけ湿気を残した桃井が立っていた。


 なんでこいつって、何度も家で顔合わせてるのに『こんばんは』って来るんだろうか?

 というか、風呂を上がってすぐに俺の部屋に来るのはやめてほしいんだが……。

 

 今の桃井は、まぁ相変わらずと言えば相変わらずなんだが、凄く可愛い。

 そんな女の子が自分の部屋に来るなんて、中々心臓に悪い。


「えっと、またやらせてもらってもいいかな?」

 桃井はそう言って、恥ずかしそうに上目遣いで俺の方を見て尋ねてきた。


 …………うわぁ……やっぱ凄く可愛い……。

 夕食の時にはわかっていたけど、前の桃井に戻ってなくて本気でよかったと思う。


「えっと、サバトウィッチか?」

 俺が尋ねると、桃井はコクンっと頷いた。


 サバトウィッチとは、昨日俺が桃井にやらせたエロゲーだ。

 タイトルが魔女の集会魔女という意味の名前になってるが、語呂合わせだと考えてくれればいい。


 というか、やっぱりハマったか……。

 そりゃあ、あんな感動的な話を見たらハマってしまうよな。

 だから、他のルートもやらせてやりたいとは思う。


 ただ――。

「悪い、今日は無理――というより、当分の間はやらせてやれない」

 俺は申し訳なく思いながら、桃井にそう言った。

 

 今はプログラムを作らないといけないため、パソコンは貸す事が出来ないんだよな……。

 こうなるのも見越して三ヵ月の契約にしてたのに……。



「なんで!? まさか、意地悪するの!?」

 桃井は断られると思ってなかったのか、驚いた表情をする。

「いや、やらないといけない事があるからさ……」

「やらないといけない事って?」

 俺の言葉に対して桃井は不思議そうにキョトンっとして、首を傾げる。


 ……あ、やっぱこいつ桜ちゃんの姉だわ……。

 桃井のその表情に仕草は、いつも桜ちゃんが俺の言葉で分からない時にする仕草だ。


 つまり――凄く可愛い……。


 やばい、俺どうしたんだ!?

 今の桃井の仕草やら表情やらが、全て可愛く見えるんだけど!?


 ……まずい、これはまじでまずいぞ……。


 折角桃井が家族として仲良くしてくれようとしてるのに、俺がこんな感情を向けてしまったら、桃井に嫌われてしまう。

 絶対気づかれない様にしないと……。


「答えられないって事はもしかして……」

「え?」

 俺が一人悩んでいると、桃井が何かつぶやいた。 

 なんだろうか……?


「神崎君……そりゃあ、あなたも男の子だから仕方ないのかもしれないけど……独り占めは狡いと思うわ……」

「……は!?」

 桃井がなんだか頬を赤らめながら、チラチラと俺の方を見上げながら言ってきた。

 

 え、どういう事!? 

 ていうか、なんかその言い回しに仕草、桜ちゃんも似たような事してたよ!?

 君達何気に理解ありすぎじゃない!?


「そりゃあ、独りでやらないと困る事も有るかもしれないけど、私も他のルートが気になるの……」

「ちょっと待て、お前は何か勘違いをしてる!」

「え?」

 俺の言葉に桃井が首を傾げた。


 ……仕方ない、このまま桃井に誤解されるより、正直に教えた方が良いだろう。

「あのな、今仕事でプログラムを作らないといけないんだ。だから、パソコンが貸せない」

「え!? 神崎君高校生なのに仕事をしてるの!?」

 桃井は俺の言葉に驚いていた。


 ……まぁ、驚くよな……。


「そうなんだが……父さん達には内緒にしてくれ」

「内緒って……もしかして、如何いかがわしい仕事なの!?」 

「なんでだよ!? さっきプログラムだと言っただろ!? お前あれか、実はムッツリなのか!?」

 俺は桃井の意外な言葉にそう突っ込んでしまった。


 だって、そんな言葉が返ってくると思わないし!

 なんでプログラムって言ってるのに、如何わしいに繋がるんだよ!


「違うわよ! ただ……親に内緒ってそんな仕事と疑ってもしかたないじゃない!」

「いや、そこは違法とかそっちに行くだろ!?」

「違法な事してるの!?」

「違う! ちゃんとした仕事だ! ただ、訳があって父さん達には知られたくないんだよ!」


 俺がそう言うと、桃井は渋々納得した。

 ここでその理由を聞いて来なかったのが意外ではあるが、聞かれても話すつもりはなかったため、俺にとっては有難かった。


 ただ――。

 俺は桃井の方をチラッと見る。


 ……うわぁ、シュンっとしちゃってるよ……。


 よっぽど楽しみにしていたのか、桃井はエロゲーが出来ないせいで残念そうに落ち込んでいた。

 

 ……確か桃井ってラノベも好きだったよな……?

「えっと、エロゲーはさせてあげられないけど、俺の持ってる好きなラノベを読んでもいいぞ?」

「え、いいの!?」

 俺がそう尋ねると、桃井はパッと顔をあげ、嬉しそうに俺の顔を見てきた。

 俺はそんな桃井を部屋へと招き入れる。

 桃井は笑顔のままラノベの入ってる本棚を見渡し、本を選び始めた。

 中に入ってきた桃井からは、花の様な凄く良い匂いがした。

 俺はそれ以上桃井を見ていると変な気分になりそうだったので、パソコンへと向きなおる。


 はぁ……これでラノベを持って、部屋に戻ってくれるだろう。 

 

 俺はもう桃井が居ないものとして、画面へと集中する。

 しかし――。

 

 テクテクテク――ストン――ピトッ。


「――っ!?」

 え、何してんのこいつ!? 


 本棚からラノベを選んだ桃井は、何故かラノベを持って昨日の様に俺の横に座った。

 しかも、体がくっつくような距離に。


「ん? どうしたの?」

 俺が驚いていると、桃井が不思議そうに尋ねてきた。


「いや、え? 何してんのお前?」

 俺はそんな桃井に逆に尋ね返す。

 俺には桃井の行動が理解できなかった。

 なんせ昨日とは違い、画面を見る必要が無い桃井はここに座る必要が無いのだ。

 自分の部屋に戻ってから読めばいいはず。

 なのに桃井は、まるで当たり前の様に俺の横に座ったのだ。


「だって、ここなら本を替えるのにすぐじゃん。駄目、だった?」

「……まぁ、そう言う事なら仕方ないな……」

 上目遣いで聞いてきた桃井に、俺は咄嗟にそう答えてしまった。

 

 ……何が仕方ないの、俺!?

 ラノベ一冊読むのに大体五時間から六時間かかるよ!?

 少なくとも、今日一日その本一つで持つよね!?


 俺は咄嗟に了承してしまった事に後悔してしまう。

 だってこのままじゃあ、作業に集中できない。


 ……なんでって?

 わかるだろ……?


 ……すぐ横に、風呂上がりのせいで頬を赤くした色っぽい女の子が密着する様に座ってるんだぞ!?

 しかもさっきも言ったけど、凄く良い匂いがするし!


 ……昨日の一件から桃井変わりすぎだろ……。

 いや、可愛くなって嬉しいんだが、これはこれで心臓に悪い。

 こいつ本当に俺を家族として見てくれてるのか、距離感が近すぎる……。

 心臓に悪いから、これはこれで困るんだよ……。

 というか、こいつは一体何の本を取ってきたのだろうか……?


 俺はチラッと桃井が読み始めたラノベのタイトルを見る

 そこには――『自称Gランクのお兄ちゃんが、ゲームで順位が決まる学園のトップになるよ?』っというタイトルだった。

 

 ……はぁ!?

 なんでこいつ、数ある中でそれ取ってきてるの!?

 前のエロゲーが主体になってる本といい、なんでそんな絶妙に俺が困る本を持ってくるの!?

 お前が喜びそうな本、他に一杯有っただろ!?

 

 いや、確かにタイトルは面白そうだし、絵も普通に可愛い学生の絵だけど――それは不味いんだ!

 とは言え、この作品が面白くないと言う訳ではない。

 この作品の話の面白さは、俺が知るラノベの中でもトップ3に入る。


 だが、これを桃井に読ませるのは不味い!


 なんせこの作品、戦争が不要になり、ゲームで全てが決まる世界で無敗を誇る最強の主人公が、一線を退き学園に編入するという所から始まる。

 しかし編入してすぐ、主人公にその学園はゲームで全てが決まる学園だったという事実が突きつけられる。 

 そこまでは、ただ普通にゲームで順位が決まるだけの純粋に面白そうな作品に聞こえる。

 ただ、その全てが決まると言うのが、本当に人生の全てが決まるとこまで行くのだ。

 という事は、当然ボロボロにされる生徒達が出てくる。


 そして一巻の中にも、主人公に負けた事により復讐を誓った女子生徒が、資金を手に入れるために新たな勝負をするんだが……それに負けた女子生徒がほとんどの服をとられた奴隷にされてしまう。

 結局は主人公が助けるし、その後もヒロインがピンチに陥っても主人公がカッコよく助けるから、普通に読んでる人にとっては凄く面白い。


 だが、桃井がそれを読めばこの前のトラウマを思い出してしまう!

 折角俺達が桃井が思い出さないで済むようにしてるのに、ここで見せてしまったら意味が無い!


「桃井、これは駄目だ!」

「え!? あ――ひどい!」

 俺が桃井からラノベを取り上げると、桃井が頬を膨らませて怒った。

 だがいくら怒ろうと、俺はこれを桃井に渡す訳にはいかない。


「悪い、他の本にしてくれ」

「どうして!?」

「これは駄目なんだ……」

「なんでそんな意地悪ばかりするの!?」


 桃井が凄く怒ってしまっているが、俺は桃井の言葉を無視してラノベを本棚にしまう。

 その代わり、この作品と並ぶ、俺の中でトップ3に入る本を取り出した。

「悪いけど、こっちにしてくれ。『この凄い世界にお祝いを!』という作品なんだが、俺のお勧めする作品の一つだ」

 俺はそう言って、桃井に渡す。


 この作品は主人公が間抜けな死に方をしてしまうんだが、若くして死んだ主人公は女神さまのいる所に飛ばされてしまう。

 その際に、チート能力を一つ上げるから魔王が支配する世界に行ってほしいと言われる。

 そしてなんだかんだで、主人公はチート能力じゃなくその女神さまを連れて行ってしまう。

 

 しかしその女神様はまさかの駄女神であり、スペックは凄く高いのに無茶苦茶ばかりしてしまう。

 他にも個性豊かな仲間が入るのだが――特殊な強力魔法しか使えないせいですぐガス欠で倒れる女の子と、防御力がかなり高いのに攻撃が当たらないドMの騎士だったという、まぁどんなめぐりあわせだよってメンバーが集まってしまうのだ。


 そして、主人公があろうことか中々のクズ人間だった。

 とは言え、普段はそうであっても、仲間のピンチになればその狡賢い頭をフル回転させ、個性豊かな仲間の長所を活かしてピンチを乗り切るのだ。

 ギャグ満載、ストーリー性もしっかりとしており、何よりヒロインが個性豊かで可愛いという、マジで最高の作品なのだ。 

 これなら、喜んで読んでくれるはずだ。


「それ、もってるもん……」

「え? そうなのか……」

 しかし、どうやら桃井はこれを持っていたようだ……。


 ……まぁ、この作品はアニメが二期までやってるし、結構有名な作品だもんな……。

 今度映画化もするし。

 

「じゃあ、これはどうだ?」

 

 次に俺が取りだしたのは『竜王のショウギ!』という作品だった。

 これは中学で将棋のプロになった主人公が、竜王リーグを全勝して史上最速で竜王になっているんだが――物語が始まったところでは、将棋界最強の称号を得てしまったプレッシャーから、主人公はスランプにに陥ってしまう。

 しかし、天才的な才能を持った小学生の女の子と出会い、そのまま小学生の女の子ばかりに囲まれてスランプを抜けるというロリコンの為の作品だ。

 ……と言うのは嘘で――いや、実際たくさんの小学生の女の子に懐かれて囲まれる。


 しかし、読みどころはそれだけじゃないんだ。

 将棋がわからない俺にもしっかりわかる様に書かれていて、読んだ俺は実際将棋を始めようかとさえ思った程の面白さだ。

 

 何より、天才的な才能を示す弟子とそのライバルとなる第二の弟子の成長はもちろんの事、スランプを抜けた主人公が指す天才的な将棋に熱いバトル、そして理不尽に女の子から追いつめられる主人公が凄く面白いのだ!


 ……ちなみに、幼馴染の中学生の姉弟子(先に弟子入りしてるから年下でも姉)という、ロリコンではないけど、ちょっと怪しいポジに居る女の子も出てくる。

 この子は女子将棋界最強で、凄く可愛い――しかし、性格は主人公が女の子と仲良くしていれば制裁を加えるというちょっと理不尽な部分がある子だ。

 

 ……なんだろう……ちょっとこれ言ってて、今凄く主人公に同情をしてしまう……。

 昔は笑いながら読んでいたはずなのにな……。


 まぁそんな女の子だが、実際は主人公に恋心を寄せており、ただ単のヤキモチをやいていただけという可愛い理由だった。


 ……やっぱ主人公に同情しない。

 お前は裏切り者だ……。


 とはいえ、年下ばかりかと思えば、成人をした妹弟子だったり、大学生の凄く可愛いお姉さんが出てきたりと、しっかりと年上が好きな層も抑えてある。


 この作品はアニメ化もしているが、一目見た人はロリコンアニメだと思うだろうから、きっと桃井は持っていない筈!


「だから、それも持ってるってば……」


 なん、だと……?

 まさかこれも持っていたとは……。


 ヤルな桃井。

 しっかりと面白い作品を抑えてるじゃないか……。


「じゃぁ、これはどうだ?」

「もってる」

「これは?」

「ある」

「これは?」

「もってる――というか、これもそれもあれもぜ~んぶもってる」


 嘘……だろ……?


 俺のオススメの作品が桃井に全てコンプリートされているなんて……。

 もしかしてこいつ、俺よりラノベを持ってるんじゃないだろうな……?


 でも、ちょっとまて……。

「お前、前に俺がラノベ貸す時『そうは言っても、これだけあるとね……』って言わなかったか?」

 俺がそう尋ねると、桃井が困ったように頬を掻いて苦笑いする。

「それって、『そうは言っても、”持ってるのが”これだけあるとね……』って言ったの……」


「まじか……そう言う事かよ……」

 だからあのとき、本を出して入れて出して入れてで、中々決まらなかったのか……。


 俺は思わずガックシと来てしまう。

 桃井はなんだか申し訳なさそうに俺の方を見ていた。


 あれ、でも……?

「じゃあ、なんで俺がもってるラノベ本棚を嬉しそうに眺めていたんだ?」

 俺は一つ気になった事が出てしまい、桃井に聞いてみた。


 前に桃井が本棚を眺めていたとき、桃井は嬉しそうにラノベを眺めていた。

 しかし、持ってる本ばかりあるんだったら、読みたいのが見つからないため、困ったような表情をしていたはずだ。


「え? だって、自分の好きな作品を他の人も持ってたら、凄く嬉しくない?」

 そう言って、桃井がニコッとした。


 ドクンッ――!


「~~~~~~!」

 俺は思わず、桃井の言葉と表情に悶えてしまう。

 

 ヤバイヤバイ! 

 今の桃井凄く可愛いし、めっちゃ今の言葉嬉しい!

 だって、自分と同じ考えの子って嬉しくないか!?

 なんか価値観が同じって言うかさぁ!?

 自分の事を理解してもらえたような気までしてしまう!

 

 だから、凄く素敵な笑顔で桃井が言ったのもあり、俺は凄くドキッとしてしまったのだ。


 とりあえず、桃井とはいつか語り合おう……。

 

 しかし、それは困ったぞ……?


「ね、だからさっきの貸して? お願い」

 そう言って、桃井は両手を顔の前で合わせて、俺の方を上目遣いで見てきた。


 ……待って!

 おかしい!

 流石にこれはおかしい!

 

 百歩譲ってさっきまでの桃井は、あれが本性だって認めてもいい!


 だけど――こいつあざと過ぎだろ!?


 絶対別人だって!

 テレビ局でも呼んで、ドッキリでも仕掛けてるんじゃないだろうな!?


 俺は思わずそう思い、キョロキョロしてしまう。


「どうしたの?」

 そんな俺に桃井が不思議そうに声を掛けてきたが、俺は桃井をほっといて真剣にカメラを探す。


 ……やっぱり無しか……。

 え、という事は、こいつ地でこれなの!?


 ……はぁ、もういいや……。

 ここ最近の事を考えても、一々突っ込んでたら体力持たねぇよ……。

 

 とは言え、あの作品は絶対に読ませるわけにはいかない。

 どうしたものか……。

 

 俺はそう思って、本棚を見渡す。


「――あ」

 あった……。


 これなら買ってそんなに時間が経ってないし、桃井も持ってない可能性が高い。

 それに、凄く面白かったしな。


 これは仲の良い友達二人に彼女が出来て困った主人公が、自分の裏垢で彼女を募集してしまう。

 誰からもちゃんとした返信が来ないかと思ったら――一人だけ本気で彼女になってもいいと言う子が出てくる。

 もちろんその子の顔も、何処に住んでいるのかもわからない。


 まぁ、そんな子と仲良く付き合ってるふりをするのだが――実際はその子は生徒会役員の中に居る事が判明する。

 そして、主人公はそのアカウントがどの子か見つける事が出来れば、彼女と本気で付き合うと約束をする。


 しかし、主人公に好意を寄せるのはその子だけじゃない事を知っていたその子は、主人公にもう一つ約束するように要求する。

 それは――もし違う子に告白して付き合う様になってしまっても、責任をとるようにとの事だった。


 まぁ最初は絶対この子だろうという子が居たのだが、最後ら辺で本当に誰だかわからなくなってしまうから、作者の書き方が上手いと思った。


 なんとなく答えは予想しているが、続編はまだだし、今はその答えがあってるかを楽しみにして新作を待ち中だ。 

 まぁ、話が面白いのはもちろんのこと、それ以上に女の子達が半端なく可愛かったけど……。

 

「これならどうだ?」

 俺はそう言って桃井に見せる。


 頼む――。


「『ネットの彼女を、本気で彼女にしたら駄目ですか?』――うん、私これ読みたい!」

 タイトルを口に出して読んだ桃井が、嬉しそうにラノベを受け取った。


 良かった……。

 これで今日は大丈夫だ。

 今日桃井が帰ったら、あの本は少しの間隠しておこう……。


 俺は一安心してパソコンの前に座りなおした。


 よし、やっと作業に入れる!


 俺はそう思って画面に集中を――


 テクテクテク――ストン――ピトッ。

 

 ――する事が出来なかった……。


 うん、やっぱりそうなるんだね……。


 結局、この日は一切作業が進まないのだった――。


 うるさい!

 こんな事されて作業に集中できるかよ!


 っと、俺は脳の自分へと叫ぶのだった――。 

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