第19話「衝撃的な事実」
――信じられない……。
桜と一緒に神崎君をコッテリ絞った後自室に戻った私は、今日の昼休みの光景を思い出す。
昼休み、神崎君の教室まで弁当を届けに行ったら、何故か彼と西条さんが一緒に教室から出て行ってしまった。
彼が何かされるんじゃないかと思った私は、コッソリ二人の後をついて行く事にした。
そしたら――何故か、西条さんが弁当箱を神崎君に渡して、二人並んで弁当を食べ始めちゃった……。
彼の表情から見て、仲良くと言った感じではなかったけど、西条さんは終始嬉しそうにしてた……。
西条さん……まさか、神崎君の事が好きになったのかな……?
自分の計画を邪魔されたのに……?
でも、彼女の表情からは、そうとしか思えなかった。
というか、神崎君の彼女になる宣言までしてたから、絶対にそうなのよね……。
しかも、彼は友達からなら良いって認めちゃったし……。
あれは彼が私を守る為にした、防衛策なのかな……?
それとも、本当は西条さんと付き合っても良いと思ってるのかな……?
それに、神崎君が変わるキッカケとなった――小鳥居春花って、誰なんだろう?
わぁ~もう……私の知らないことだらけだ~……。
なんだか、凄くモヤモヤする……。
わかってる、これは嫉妬なんだ。
神崎君の傍で話をしていた西条さんと、恐らく彼の大切な立場にいたであろう――小鳥居春花って人に対して、嫉妬してしまっていた。
でもこれが、彼が海君だからなのか、神崎君自身に好意を抱き始めたからなのか、よくわからない。
いや、どちらも『彼だから』と言われればそれまでなんだけど、今まで顔も知らずに片思いを続けていた相手が、身近にいた存在で、少し前まで毛嫌いしていた人だったという事実を割り切れなかった。
そして、絶体絶命の場面で助けてくれた神崎君自身にも、好意を寄せている私が居る。
その二つが混じり合いそうで、混じり合ってくれないのだ。
そして神崎君が海君だったと知って、一つ気づいた衝撃的な事実がある。
それは――神崎君がツンデレではなかったという事!
どういう事!?
彼は私に絡んでもらえて喜んでたんじゃないの!?
その照れ隠しとして、あんな言い方してきてたんじゃないのかな!?
私は未だにその部分が納得いかない。
でも、彼が私の事を嫌ってるのは疑いようのない真実だった。
だって……彼が花姫たる私に、そう言ってきてたんだもん~‼
やってしまった……。
これは本当にやってしまった……。
今までなら、私は彼に嫌われても問題なかったし、彼も喜んでいるからと思って態度を改めるつもりはなかったけど、彼が海君だって、今の私を嫌ってるのなら話は別!
とは言え、だから今更態度を改めるの!?
そんなの無理!
助けられた直後ならそれも出来たかもしれないけど――私は彼に助けられた直後にこう言ってる『キモい』っと――!
あぁあああああああああ!
馬鹿なの!?
私って本当は馬鹿だったの!?
彼に笑顔を向けられて、照れ隠しで反射的にそうやって答えてしまったのはわかる。
だけど、もっと言葉選ぼうよぉおおおおおおおおおおお!
だから、今更態度を改めるのは無理。
かといって、このまま彼に暴言を吐き続けるの!?
いや、手ならある!
私が花姫だとバラして、彼が海君だという事実に気付いたと告げ、優しく接すればいいんだ!
…………無理だぁああああああああああ!
だって彼に花姫の正体が私って伝えて、花姫自体が嫌われたらどうするの!?
そんな事になったら、もう海君とやり取りできないよ!?
私そんなの立ち直れなくなっちゃう!
でもでも、どうすれば……。
このままでは、西条さんに神崎君をとられてしまうかも……。
だって、今日の下校の時神崎君、西条さんと腕組んで歩いてたもん!
会話内容は聞こえなかったけど、なんだか話弾んでて楽しそうだったもん!
うぅ……それだけはやだよ……。
でも、どうしたら……。
その時、私の視界に例のあの本が目に入る。
それは彼から借りた、ヒロインが好きな人の為にエロゲーをするという話がモチーフのラノベ。
そういえば、海君は年齢を公表してなくて、ブログにはエロゲーの感想記事も書いてたよね……。
本当は高校生じゃないのかもしれないって思ってたけど、神崎君が海君なら、健全な高校生が何をしてるんだ……っと言いたい。
本当、エロゲーなんてふしだらなも……の……。
あ、あれ、これって――!
この時、私の頭には一つの名案が浮かぶのだった――!