第257話「アリスルート19」
「――何を一生懸命しているの?」
龍からお願いされていた作業をしていると、いつの間にか部屋に入ってきていたアリアが俺の肩越しにディスプレイを覗き込んできた。
シレッと俺の肩に手を置いてきているけど、少し前まで敵対していた女の子とは思えないほどの近付きようだ。
「お前最近近くない?」
「そう? これが普通じゃない?」
「いや、普通なわけ――」
「でも、雲母や桃井、それに桃井妹だっていつもこんな距離でしょ?」
「…………」
確かに、アリアの言う通り雲母たちの距離間は凄く近い。
雲母や桜ちゃんは普通に腕に抱き着いてくるし、咲姫の場合も一緒にゲームをしている時はくっついてきたり、たまに手を繋いでくる事もある。
だからアリアが言ってる事は間違いではないのだけど、あの三人は例外だろう。
桜ちゃんは懐いてくれているだけだけど、雲母や咲姫の場合は――うん、まぁそういうことだ。
だから彼女たちと一緒にするのは違うと思う。
しかし、俺はそのことを指摘はしなかった。
下手に指摘をして、じゃあ何が違うのかという話になると厄介だからだ。
「まぁ、いい」
「ふふ」
俺が許すと、アリアはなぜか楽しそうに笑った。
少し前なら想像もできないほどの笑顔だが、ここ最近はこの笑顔をよく見ている。
アリスさんが望んでいた通りになっているという事なのだろう。
やはり、あの人は凄い。
なんでもあの人が望んだようになってしまうんだからな。
俺はこの場にいない、見た目からは想像できないほどの能力を持つ可憐な少女の顔を思い浮かべた。
「それで、話を戻すけど何をしているの? これ映像編集?」
「そうだよ」
「本当にカイってなんでもできるのね」
アリアはそう言いつつ、今や俺の部屋と化している部屋の隅に置いてあった自身の椅子を俺の横へと持ってきて座る。
どうやら見学をしていくつもりらしい。
「自分の仕事はいいのか?」
「うん、終わらせてきたからね」
終わらせてきた、か。
相変わらず仕事面では有能なんだよな、こいつは……。
「それでなんのために作ってるの?」
「内緒だ」
「………………なんのために作ってるの?」
「いひゃいいひゃい」
アリアの質問に答えずにいると、両頬を目一杯引っ張られてしまった。
どうやら俺の答えが気に入らなかったらしい。
「龍から依頼があったんだよ」
頬が解放された後、俺は仕方なくアリアに教える事にした。
「クロから? なんで?」
「紫之宮さんのため、かな」
「もしかしてクリスマス用?」
「へぇ、わかるんだ?」
「こう見えても私、女の子ですから」
そうドヤ顔で答えるアリア。
確かに見た目は凄くかわいい女の子だから普通に聞けば違和感なんてない。
しかし、アリアの性格を知っている人間からすると違和感しかなかった。
「何、言いたいことがあるのなら言っていいわよ?」
「いや、何もないよ」
ここで素直に答えれば絶対に怒ることがわかっている俺は笑顔で誤魔化す。
だけどそれはそれでアリアは気に入らなかったらしい。
俺の顔を至近距離からジッと見つめてきて、何を考えているのか表情から読み取ろうとしてくる。
さすがにこんな事をされるといくら俺でも照れてしまう。
「だから近いって」
「カイが何か隠すのが悪い」
「あのな――」
「――何、してるの……?」
「「――っ!?」」
お互いの息がかかりそうなほどに顔を近付けてきたアリアに文句を言おうとすると、ドアの入り口付近からとても不機嫌そうな声が聞こえてきた。
慌てて視線を向けてみると、無表情ながらに機嫌が悪いことがわかるアリスさんが立っている。
「あ、あの、アリスさん……?」
「何? アリスがいないところで乳繰り合っているカイ君?」
や、やばい。
なんか知らないけど今のアリスさんは凄く機嫌が悪いようだ。
この人に君呼びされるのは初めてだろう。
「あ、あ~そういえば私まだ仕事が残っていたん――」
「待て、逃げるな」
あたかも自分一人だけ逃げようとするアリアの腕を俺は速攻掴む。
アリアは放せと腕を振って逃げようとするけど、ここで逃がしたりはしない。
なんせ、今すぐにでもアリスさんをこの部屋から連れ出してほしいからだ。
「この映像、アリスさんには見せたくないんだよ。だから今すぐにアリスさんを連れてこの部屋から出てくれ」
「え、えぇ……? どうしてよ……?」
「サプライズにしたいんだよ」
「あ、あぁ、そういうこと……!」
小声で説明をすると俺の考えがわかったのか、アリアは急に目を輝かせる。
どうしてこいつが目を輝かせるのかはわからないけど、どうやら協力してくれる気になったようだ。
「――いや、でも、今のお姉ちゃんを一人で相手するのは……」
しかし、アリアは急に弱気になってしまう。
うん、今の不機嫌すぎるアリスさんを相手どるのは俺も怖いからその気持ちはわかる。
だけど多分これはアリアのせいなので責任は取ってもらおうと思った。
「貸し、一つにしておくわ……」
アリアはそう決意がこもった表情をして頷く。
いや、お前実の姉に対して怯えすぎだろう、とツッコミを入れたくなったけれど、気持ちはわかるのでグッと我慢した。
後は、怪訝そうに俺たちの顔を見つめるアリスさんが素直にアリアと一緒に出てくれるかだが――心配はいらなかったらしい。
「後で、二人だけで話がある」
アリスさんはそれだけを言い残し、アリアと一緒にあっさり出てくれたのだから。
――いや、うん。
これ後が凄く怖いやつなんだが。
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