第255話「アリスルート17」
「学校は楽しい?」
この屋敷を出て行くことを諦めた俺に対して、アリスさんは学校の話をしてきた。
まるで母親のような聞き方だ。
「そうですね、最近だと楽しいです」
「みんなに振り回される生活が楽しいだなんて、カイはドMだったんだね」
「凄く酷い言いようですね!? しかも振り回している筆頭はあなたの気がしますが!?」
「ふふ」
俺がツッコミを入れると、アリスさんは腕の中で楽しそうに笑みを浮かべる。
自覚があるんだろう。
そして、とても楽しそうだ。
「みんなの中心にいる子は、一度道を逸れてもまた中心に戻るんだろうね。それだけの魅力がその子にはあるから」
「えっと、褒めてくれてるんですか?」
「褒めてる。君はとても凄い子だよ。だから自分に自信を持っていい」
今日のアリスさんはなんというか、素直だ。
それだけご機嫌という事なのだろうか。
「そんなふうに褒められると照れますね」
「ふふ、事実だから素直に褒められるといい」
「アリスさんは学校楽しいですか?」
なんだかアリスさんが俺を照れさせて楽しんでいるようだったので、今度はこちらから聞いてみる。
すると、アリスさんがチラッと俺の顔を見てきた。
しかしすぐに俯き、ゆっくりと口を開く。
「そうだね、楽しい。…………カイがいるから」
小さく呟かれた言葉。
どこか恥ずかしそうだ。
「えっと……?」
「昔は何をしていてもつまらなかった。たまに漫画などで出てくるキャラの見る光景として、景色が灰色に見えると比喩することがあるけれど、あれは本当。つまらなくて興味が沸かないせいで、景色が灰色に見える。アリスの場合、学校ではアリアとも距離を取っていたしね」
「でも、今は違うんですか?」
「そうだね、カイが毎日楽しませてくれてるから楽しい。こっちに転校してよかったと思ってる」
本当に今日のアリスさんはどうしたんだろうというくらいに素直だ。
同時に素直なアリスさんもかわいいと思ってしまう。
「きっと、こっちに転校してきてよかったと思ってるのはアリスだけじゃないよ。アリアもそうだし、アリア親衛隊の子たちも、箱の中では出会えなかった個性的な子たちと知り合えた事は彼女たちにとって絶対にプラスになる。猫耳爆弾なんて、彼氏――彼女? まぁ、相方ができたくらいだしね」
箱入り娘たちだから、元居た学校の事を箱と言ったのだろうか?
いや、学校だけではなく、家の事も表しているのかもしれない。
アリスさんのようなお嬢様は基本家の中で大切に育てられ、交友関係なども親などに勝手に決められるだろうからな。
きっとそんな生活は窮屈でしかないのだろう。
だけど、幼い頃からそれが当たり前だという事で育った子たちは疑問を持たない。
考えを改める機会が出来、そして本来なら知り合えなかった子たちと知り合えた事は、彼女たちにとって幸せだったとアリスさんは考えているわけだ。
確かにうちの学校は人数が多いからか、咲姫や雲母、白兎を始めとした個性的な生徒が多い。
学生のうちに知見を広めるにはもってこいの場所だったかもしれないし、考えようによっては優秀な人材をスカウトすることだってできるだろう。
俺個人の意見としては、咲姫や白兎は誘っておいたほうがいいと思っている。
咲姫は言わずもがなやればなんでもできるハイスペックキャラだし、白兎は株に精通しているだけでなく機転が利いたり、他人にとても優しい人間だ。
むしろ、時々ポンコツな一面を見せる咲姫よりも、上司になってからでも部下を大切にして信頼を得そうな白兎のほうを先に抑えておいたほうがいいかもしれない。
まぁ白兎はカミラちゃんと付き合っている事から平等院財閥の系列に入るだろうし、咲姫も雲母と仲がいいからいい大学を出た後は雲母の会社に入るだろうけどな。
ただ、まだまだうちの生徒には優秀で特別な特技を持ったりしている人間はいるため、仲良くしておくに越した事はない。
「白兎はかわいい服を着るのが好きなだけで、カミラちゃんと付き合っているように中身は男なので彼氏でいいのでは?」
「でも、あの見た目をしてると疑問になる」
「確かにその気持ちはわかりますが……」
こんな事を裏で言われてると知ったらショックを受けそうだな、白兎は。
「まぁ男の娘がどっちかって話はいいと思う」
いや、よくないと思いますけどね?
彼氏でいいと思うのに、アリスさんの中では納得がいかないらしい。
「個性的な子たちも含め、そんな子たちの中心に今いるのは君だよ、カイ」
「えっ?」
「アリスやアリア、甘えん坊や金髪ギャルのように君の傍にいる事を望む人間はもちろんの事、君の傍にいない子たちだって君に注目をしているし、君の言葉なら今やみんなが従う。まぁ、中には恐怖での支配みたいになってる部分もあるから、それはよくないけど」
うん、今サラッと凄い事を言われなかった?
俺の傍にいる事を望むって、そういう意味でいいのかな……?
でも、アリスさんだしな。
ただ単に面白いから傍にいたいと言ってるだけのような気もする。
まぁ後、別に恐怖云々の話も俺が脅してるとかそういうわけでもないんだけどな。
雲母に睨まれたくないから怯えているとか、そういう感じなのに本当俺が恐れられるのは少し納得がいかない。
確かにアリアとの一戦でちょっと演技をしたから、それで余計に俺は敵に回したら駄目という話が裏では飛び交っているんだけどさ。
あの裏サイトでの俺の悪口はその反動もあるのかもしれない。
「そういう事を俺が望んでいるわけじゃないんですけどね」
「うん、わかってる。でも、みんなから注目されるような人間になった事はいい事だと思う。今はもう、他人の視線を怖がる君はいないから」
「そう、ですね。言われてみれば確かにもう他人の視線は怖くないと思います。慣れって凄いですね」
「慣れじゃなくて、君の心に変化があったからだよ。そしてその変化は君に人が集まるようになったからこそ生まれた物。自分一人だと中々変われないからね。だから、人を集める事ができるのはいい事なんだよ」
「でも、アリスさんは人を遠ざけたがりますよね?」
「アリスの場合は、相手の心まで読めちゃうからね……疲れるんだよ」
あぁ、やっぱりこの人は相手の表情などから心が読めてしまうんだ。
だからこそ、何か下心なんかがあったりしてもわかってしまうため、疲れるんだろう。
一人でいる事が多かったと聞くけど、他人の汚れた心を見たくなかったというのならよくわかる。
そういえば昔、アリスさんと桜ちゃんの会話で、アリスさんが理解を示した時に桜ちゃんがアリスさんも同じなのかと聞いた事があった。
桜ちゃんも他人から逃げるばかりするし、他人の感情の変化にすぐ気づくからアリスさんと同じ心が読めるのだろう。
やっと今になってあの時の二人の会話の意味がわかった。
「だったら、今俺といるのは疲れますか?」
「君はそれを本気で聞くから困る。疲れるんだったら、一緒にいない。今こうして一緒にいるのが答えだと思わない?」
どこか怒ったように注意をされてしまった。
心外だったのかもしれない。
「すみません、そうですね」
「うん、そう。まぁでも……さっき君には人を集める事はいい事って言ったけど……アリスの気持ち的には嬉しくない」
「どういう事ですか?」
「こうしていて思う。君を……誰かに盗られたくない。だから……他の子が君の傍にいると……嬉しくないんだよ」
そう言うアリスさんは、顔を真っ赤にして俺の顔を見つめてきた。
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