第251話「アリスルート13」
「えっと……?」
アリスさんの様子に違和感を覚えた俺は、アリスさんの顔色を窺う。
そして目に入ったのは、怒っている表情というよりも拗ねた表情をしているアリスさんの顔。
んっ、拗ねてる……?
「……別になんでもない」
戸惑って見ていると、アリスさんはハッとしたような顔をしてそっぽをむいた。
口が滑った――いや、思わず言ってしまった彼女の本心だったという事がわかる。
「なんで顔を背けるんですか」
この状況を変えるポイント、また、滅多に見せない彼女の本心が見えた事で俺は体を起こしてアリスさんの顔を覗き込む。
直感だけど、ここでアリスさんを逃がしてしまうと多分お互いが後悔する。
普段のこの人は本当に隙がなくて本心を見せてくれないからだ。
いや、少し違うか。
本心は見せてくれるけど、弱味になる部分は見せてくれないのだ。
不機嫌になれば容赦なく実力行使をしてくる人だけど、自分が傷つくような事は周りに察せられないようにうまく取り繕っている。
少なくとも今まで数えられる程度でしか見た事がないだろう。
「カイの顔が見たくなくなった」
「……すみません」
「嘘だよ、そんなに落ち込まないで」
真顔で言ってくるものだから胸に突き刺さったのだけど、アリスさんはすぐにフォローをしてきた。
この人の場合嘘か冗談かがわかりづらいんだよな。
てか、いつの間にか流暢な喋りになってるし。
「アリスさんは拗ねてるんですか?」
「直球で聞いてくるなんて本当君はどうかしてる」
あっ、今度は本気で怒ってる。
俺の目を見つめる目つきが変わった。
「いや、あの、違うんですか?」
「違う」
「だったらなんで機嫌が悪いんですか?」
「君に呆れてるから」
うん、完全に怒ってるな。
とはいえ無神経な質問をした俺が悪いのだけど。
さて、どうしようかな。
この人の機嫌を損ねた場合大抵青木先生に酷い目に遭わされるのだけど、幸いあの人はこの場にいないためアリスさんがけしかけてくる事はない。
その代わり、彼女の機嫌を直す手段もないという事になる。
「んっ」
アリスさんの目を見つめていると、彼女はポンポンッと自分の膝を叩いた。
どうやらもう一度横になれと言ってるらしい。
彼女の機嫌を直すならこのまま指示に従ったほうがいい。
それに俺としても彼女に膝枕をしてもらう事は役得だと思う。
美少女に膝枕をしてもらって喜ばない男なんていないからだ。
実際アリスさんの人気は今や学校内でとても高くなっている。
相変わらず人気の高さで言えば咲姫が一番で雲母が二番だけど、その次につけるのはアリアじゃなくてアリスさんだ。
アリアに関しては龍のおかげで俺との一悶着に何か言う者はいなくなったけど、やはり強気な性格が仇になっている。
他のお嬢様は男子生徒を遠ざけてるし、アリアに執心のためみんな近寄れないようだ。
桜ちゃんも似たようなもので、相変わらずほとんどの生徒からは逃げ回るため人気はあるけど咲姫たちには及ばないという感じだった。
ただ、桜ちゃんに関してはカミラちゃんと一緒に行動している事が多く、ちびっこコンビは目の保養になるとかで別方面から人気を集めている。
特に最近女子の中でこの二人は熱いようだ。
そんな中、アリスさんは素っ気ないけど接してきた相手を無下に扱わず、むしろさりげない気遣いをしてくれる事から人気が集まり始めたらしい。
後は、どこか幻想的な美少女で、口数が少ない事から咲姫が失ってしまったクール美少女という位置づけで人気になったとか。
ましてや咲姫とは違い全然毒を吐かない事から昔の咲姫よりも人気は高いかもしれない。
それに俺とアリアが揉めた時に見せた妹思いの一面や、俺といる時に見せる笑顔がギャップ萌えでいいとかなんとか――。
正直転校してきた時とは打って変わってアリスさんの人気は鰻登りだ。
まぁそんなアリスさんよりも咲姫や雲母のほうが人気が高い理由は、実は咲姫がクールの皮を被った甘えん坊だというのがバレてしまった事で、前は咲姫の毒舌で遠ざけていた層からも人気を集めるようになったというのと、雲母の場合は自分を陥れたアリアを受け入れた心の広さから、雲母を怖がっていた層からも支持を得られるようになったという事が理由になる。
……さて、そんな人気鰻登りの三人相手にハーレム疑惑をかけられていた俺はというと、裏では結構酷く言われているようだった。
というのも、俺が誰か一人をきちんと選べば他の子はフリーになるのだからさっさと選べ優柔不断野郎という事らしい。
しかも質が悪いのは、俺の耳に入る距離では一切言われていない事だ。
学校内の俺がいないところですらそんな会話はされていない。
おそらく誰かしらから俺の耳に入る事が怖いのだろう。
だったらどうしてこんな噂が流れていて、俺がその事を知っているのかという話になるのだが――どうやら俺たちの学校専用の2chでこの話題が持ちきりらしい。
いや、いったいいつの時代だよ!
――って話なんだけどな。
まさか今時学校の2chが動いてるなんて思わなかったけど、まぁ誰が言ってるか特定されず、なおかつ学校のメンバーに話せるところと言ったらうってつけだったのだろう。
ただ、特定されないというのは大間違いなのだけどな。
普通に特定できるぞ、俺は。
だけど今言われてる悪口は俺が招いた事なので目を瞑ってる。
これが実害を招くようであれば容赦なく特定して止めるけど、今のところ俺の悪口だけなので動く気はない。
こういう事は止めるとなると半端ない労力が必要となるし、下手をするとキリがなくなるため自分の事でわざわざ動こうとは思わないのだ。
もちろん、俺と一緒にいる子にまで何か言い始めたら容赦はしないが。
「何を一人深刻そうな顔で考え込んでるの? アリスの膝枕を前にして他の事を考えるとはいい度胸をしてる」
うん、アリスさんの人気から俺の悪口に考えが移り、考え込んでいる間にアリスさんの機嫌は更に悪くなっている。
この人こんなに機嫌が悪いのにどうして俺に膝枕をしようとしてるのか。
まさか、上から叩いて来たりしないよな?
……いや、アリスさんに限ってそんな事ありえないのだけど。
ただ、今ばかりはこのまま膝枕をしてもらうわけにはいかない。
このまま膝枕をしてもらうと、間違いなくアリスさんが漏らした気持ちは有耶無耶にされてしまうからだ。
久しぶりの更新になってしまい申し訳ないです!
皆様に楽しんで頂ける作品をこれからも頑張って作っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!
ネコクロ