第250話「アリスルート12」
「――あの、そろそろ機嫌を直して頂ければと……」
「別に……怒ってない……」
「でしたら、もう体を起こしてもいいでしょうか……?」
「………………だめ……」
「えぇ……」
現在アリスさんと二人っきりになっている俺は、横になった状態で少し戸惑っていた。
というのも、今現在不機嫌そうなアリスさんに膝枕をされ、細くて白い綺麗な手で頭を撫でられているからだ。
優しく丁寧に撫でられているし、太ももはほどよい肉付きで柔らかいのでとても気持ちいい。
だからこの体勢に不満はないのだけど、不機嫌そうな表情をしているアリスさんが若干怖いのだ。
ちなみにアリアはアリスさんが不機嫌だと気が付くと早々に部屋を出ていった。
まず間違いなく、あいつは俺だけを残して逃げていったのだ。
絶対に後でいじめてやろうと思う。
ただ、取り残されてしまってはアリスさんをほっとくわけにもいかず、どうにかご機嫌を取らないといけないと判断した。
そうして何か別の話をしようとした俺に対して、アリスさんが横になるように指示をしてきたのだ。
もちろん、自分の膝の上に頭を乗っけるようにも言われた。
そして拒否する事を許さない雰囲気を纏っていたので、俺に選択肢はなかったのだ。
「カイ……」
「はっ、はい!」
「カイは女の子なら……かわいかったら誰でもいいの……?」
「えっと……?」
突然弱々しく発せられた言葉。
てっきり怒られるものかと思っていたので、予想外の言葉に俺は戸惑ってしまう。
「甘えん坊にも……ちびっ子天使にも……金髪ギャルにも……あまつさえアリアにまで……デレデレデレデレデレ……」
「い、いや、あの、何か誤解を生んでいますよね……?」
「誤解……? 誤解っていうのはね……誤った解釈をしている事を……指すんだよ……? カイは……アリスが……誤った解釈をしていると……言いたい……?」
アリスさんは飲み込まれそうだと錯覚しそうなくらいに大きく澄んだ瞳でジッと俺の目を見つめてくる。
あっ、これまずい奴だ。
アリスさんが一番大事にしているアリアの事を撫でてしまったせいか、思っていた以上に彼女は怒ってる。
下手な返しをすればそれだけで詰む未来が見えた。
「その、誰にでもデレデレしているわけでは……」
「うん……そうだね……。かわいい子にだけ……デレデレしてるね……」
しまった、薮蛇だった。
人それぞれかわいいの基準は違えど、確かに先程アリスさんが上げたメンバーは誰が見てもかわいい分類に入る。
要はアリスさんが最初に言ったかわいければ誰でもいいのか、という範囲から出れていないのだ。
「いや、あの、えっと……」
まずい、何も思い浮かばない。
この相手が咲姫やアリア、雲母ならいくらでも誤魔化せる手は浮かぶ。
だけどこの人は桜ちゃんと同じ――いや、桜ちゃん以上に誤魔化しが効かない。
おそらく俺が返してきそうな言葉は予め数十通り考え付いており、もう既にどのパターンできても返せる準備はされてるだろう。
この人を相手取るのは本当に厄介なのだ。
「………………そのくせ、アリスには何もない……」
記念すべき250話で話が短くて申し訳ないです(。>д<)