第248話「アリスルート10」
「お姉ちゃんの秘密、知りたい?」
アリアはニマニマと楽しそうに笑みを浮かべながらグッと顔を近付けてきた。
お互いの息がかかりそうな位置に顔が来て思わず下がろうとするけど、生憎今は椅子に座っているため背もたれが邪魔をして下がる事が出来ない。
今まで男がいないお嬢様学園で育ったからかアリアは異性との距離感がおかしいところがあり、こういう時は本当に困る。
顔を近付けるためか左手を俺の太ももについてるし、相手が相手なら俺は好意を持たれていると勘違いをしているくらいだ。
まぁアリアだから絶対にそんな事はないとわかっているのだけど。
後、ここで指摘するのはなんだかこっちが意識してると思われて舐められそうなので、ここはグッと我慢する事にした。
「アリスさんの秘密? 弱味とか言うなら聞かないぞ?」
アリスさんの弱味を握る――完璧に思えるあの人の弱味を握れるなんて、一見とても美味しそうな餌に思える。
だけど、ここであの人の弱みを握る事が何を意味するのか、アリスさんを理解している者なら想像しただけで全員が全員恐怖を抱くはずだ。
誰だって弱味を握られたらそれを消したくなるものであり、それはアリスさんと言えど変わらないだろう。
わかるか?
つまり、本気になったあの人を敵に回す事になるのだ。
下手をすれば人生そのものを潰されかねないのに、誰がそんなリスクを背負いたがるのか。
少なくとも俺はごめんだ。
――しかし、アリアは首を横に振って俺の言葉を否定した。
「うぅん、弱味ってほどじゃないわよ。それにあなたには聞いてほしいし」
なんだ、勿体付けたような言い方をしていたけど、結局自分が話したいだけなんじゃないか。
……うん、少し意地悪をしてみよう。
「いや、興味ないからいいかな」
本当は弱味でないのだったらアリスさんの秘密を聞いてみたかったけど、喋りたそうにするアリアの様子を見て興味がないふりをしてみた。
すると、アリアは俺の返事が予想外だったのか、慌てたように顔を覗き込んでくる。
「な、なんで!? お姉ちゃんの秘密よ、聞きたいでしょ!? ほら、聞きたいって言いなさいよ!」
「いや、秘密って他人に知られたくないもんだろ? ここで聞くのはアリスさんに悪いからな」
「大丈夫よ! お姉ちゃんだって本当は知ってほしいと思ってるはずだもん! あぁ見えてお姉ちゃんはツンデレなんだからね! 伝える事に照れて言葉にはしないけど、心の中では知ってほしいと思ってるのよ!」
一生懸命力説を始めるアリア。
うん、絶対アリスさんはツンデレではないし、その言葉をアリスさんに聞かれたら自分がいったいどうなるか考えていないのだろうか?
いくら妹には甘いアリスさんでもさすがにこれは怒ると思うぞ。
まぁアリアなら何をされても俺はいいのだけど、怒りが俺に飛び火しないかが心配だ。
アリスさん普段は優しいけど、照れ隠しになると容赦がないところがあるからな。
……あぁ、だからツンデレなのか。
照れて青木先生をけしかけてくるアリスさんを想像して、どうしてアリアがアリスさんの事をツンデレと言ったのか腑に落ちた俺であった。
「まぁでも、やっぱりアリスさんの言葉じゃないし――」
「――ねぇ、聞きたいでしょ? 聞きたいって言ってよ」
アリアがやけに必死になるものだから思わず意地悪を続けると、今度は顔色を窺うようにお願いをしてきた。
その態度がさっきとのギャップからか、少しかわいく見えたのはここだけの話。
「まぁそこまで言うなら……聞きたい、かな」
さすがにちょっとかわいそうだったかと思った俺は、ここでやっと聞く姿勢を見せた。
すると、アリアは嬉しそうに表情を輝かせて口を開く。
どんだけ喋りたかったんだ、ほんと……。
「お姉ちゃんはね、確かにずば抜けた頭脳を持っているし、それによって要領がよくおまけに器用だわ」
「うん、聞く限りでも非の打ちようがないな」
「でもね、お姉ちゃんって驚くほど体力がないの。だから自分ではなく、人を動かして物事で結果を出したり、問題を解決するのよ。わかる? お姉ちゃんは自分一人ではちゃんとした行動が出来ないわけ」
確かに、思い返せばアリスさんが自分一人で何かを解決するところは見た事がない。
必ず誰かに指示を出すか、相手を説得して自分の駒にしてから物事を解決へと導く。
今までアリスさんが行動したほうがすぐに解決するはずなのにどうして自分ではしないのかと疑問に思う事があったけど、アリスさんに体力がなくて行動に移せなかったという事を考えれば納得がいった。
……いや、少し違うか。
あの人は自分でなければ相手を説得できないと思った時は、どれだけ負担だろうと自ら行動に移すはずだ。
今までそうやって俺や雲母のために裏で行動をしていたのだからな。
ただ、それも自分が直接動く必要がない部分を他の人間に任せる事で体力を温存したからできたのだろう。
全て自分一人でやろうとすれば、何処かで倒れていたというわけか。
しかし――。
「確かに、そう聞けばアリスさんは一人で生きていくのは無理だろう。だけど、それがどうしたんだ? 人は自分一人で出来る事なんてたかが知れている。俺の考えが間違っていた事を指摘するためとはいえ、アリスさんの体力がなくて自分では行動する事が出来ない事を嬉々として話すのは違うと思うぞ?」
俺の認識が間違っていた事は素直に認める。
だけど、だからといってアリスさんの秘密を嬉々として喋ったアリアは間違っていると俺は思った。
アリアは声色から俺が不機嫌になった事に気付いたのか、少し気遅れした様子を見せた。
だけど、すぐに調子を取り戻して口を開く。
「何勘違いしてるのよ、私が本当に言いたかったのはそういう事じゃないもん」
若干きつい言い方をしてしまったせいか、アリアは口をとがらせていた。
最後の語尾からしても、少し拗ねているようだ。
「じゃあ何を言いたかったの?」
「お姉ちゃんってさ、いつも何かあると一番にあなたに声をかけている事、気付いてた?」
拗ねさせてしまったので優しい口調に変えて尋ねてみると、アリアはかわいらしく小首を傾げながら質問をしてきた。
この機嫌の直りよう、やっぱり咲姫と似ているところがある。
「……いや、気付いていなかったな。そうなのか?」
アリスさんが誰に一番最初に声をかけているのか、それは声を掛けられる側であった俺にはわからない。
てっきり青木先生が一番だと思っていたけど……。
「昔は適材適所って感じで、事態に応じてお姉ちゃんは声をかける相手を変えていたわ。それが一番効率的だったからね。でも、今は違う。今は何かあった時一番最初に声をかけるのは必ずあなたなのよ、カイ。それがいったい何を意味しているのか、あなたにわかる?」
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また、『彼女に振られるといじらしくてかわいい少女を養う事になるらしい』がもうすぐ完結になりますので、その後新作ラブコメを載せます!
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一応、来週の土曜日辺りに載せようと思っています!(*´▽`*)