第246話「アリスルート8」
「社長ってそんなに儲かるのか?」
急にパソコンの使い勝手を試してみろとアリアに言われた俺は、明らかに改修をしろと言わんばかりに置かれていたシステムを動作確認しながらアリアに気になっていた事を聞いてみた。
アリアは自分用の椅子を隣の部屋(アリアの部屋)から持ってきて、ちょこんっと俺の隣に座って画面を覗き込んでいる。
アリスさんに関しては何か用事があるとかで、少々席を外しているようだ。
「まぁ、儲かるわね。儲からなかったらやらないわけだし」
「確かに、言われてみればそうだな」
「それに私、こう見えても四つの会社持ってて、しかも一つはテレビ局だし。――あっ、テレビ局行きたいなら言ってくれれば見学させてあげるわよ!」
急に眼を輝かせて、期待するような視線を向けてくるアリア。
もうこれは、見学したいと言えと言われているようなものだと思う。
「また今度でいいよ」
「それ、絶対にこない奴よね」
「にしても、アリアにしろアリスさんにしろ金の使い方が凄くないか? 雲母もお金をばらまくように同級生たちに奢ってやっているけど、正直格が違うぞ」
雲母の場合、使ったとしても数万程度だ。
だけどこの二人の場合は数十万から数百万、酷い時なんて数千万レベルのお金を使っている。
財閥としての規模は同じくらいなのだから、ご令嬢である雲母とアリアたちでそれほど差が生まれるものなのだろうか?
実際に働いているアリアはともかく、アリスさんなんて特に思う。
「話を流すのは酷いと思うの」
「だからまた今度行くって」
俺がアリアの話を流して別の話をしたせいでアリアが拗ねてしまい、不服そうに俺の服を引っ張ってきた。
プライドが高いだけに自分の話を無視されるのが許せないのだろう。
だけど、正直テレビ局に行きたいって気持ちはない――というよりも、行きたくない気持ちのほうが強い。
なんせ、社長であるアリアに連れて行かれたら注目の的だからな。
ただでさえ顔出しをしているせいでアリアは有名なわけで、しかもテレビやネットでは性格の悪さなんてわからないから、人を惹きつける容姿をしているせいで社会的なアリアの人気は高い。
そんなアリアが一般人の俺なんて連れ回していたら、あいつはいったい何者だってなるに決まっている。
見るからにめんどくさい状況になる事がわかっているのに、自分からその状況に飛び込もうとする奴はドMくらいだろう。
だから俺には当てはまらないのだ、決してな。
「何急に真顔になってるの?」
「いや、別になんでもない」
「そう――あぁ、お金の使い方についてだったわね。別に私たちだって無駄遣いをしているわけじゃないわよ?」
ふむ、無駄遣いをしていない?
こいつはいったいどの口が言うのだろうか?
「あっ、何よその顔は! 私たちはただ必要な投資をしているだけよ!」
「必要な投資……? これが……?」
俺は部屋の中を見回す。
置いてあるのは、アリアやアリスさんが使いそうにない機器関係。
そして、まるでアリスさんの事が頭から離れなくなりそうなくらい埋め尽くされたアリスさん似のキャラグッズ。
ふむ、何処が必要な投資なのだろうか?
「むしろここは最優先で必要な投資よ!」
「お前、一回病院で見てもらったほうがいいぞ。それか、経営者をやめたほうがいい」
「なんでよ!?」
明らかに優先すべき投資先を間違えているアリアに、俺は遠慮なく忠告をする。
よくアリスさんも止めないものだ。
このままだとアリアは投資先を間違えて破産する未来しか見えないぞ。
「最近よく一緒にいるようになってからわかったけど、お前実はポンコツだよな」
「あなたは思ってた以上に失礼よね!? 遠慮ってものを知らないの!?」
こういうふうにいじっても意外と怒らずに、面白い反応を返してくれる事も最近知った。
まぁ怒ってるのは怒ってるのだけど、ガチ切れってわけじゃないから問題ないのだ。
後、ポンコツっていうのはあながち間違えていないと思うし。
あまりにも馬鹿げた事をしたりするので、気を抜いた時の咲姫と同じくらいポンコツじゃないかと最近は思っている。
……まぁ、アリスさんが言うにはどうやら俺のせいらしいけど、俺は何もやっていないのだから人のせいにしないでほしいと思う。
「それにしても、アリスさんも金遣い激しいよな。いくら株で稼いでいるとはいえ、アリアと遜色ないほどの使い方してるだろ?」
むしろ、アリスさんのほうがアリアより金遣いが荒いかもしれない。
聞いた話だと、前の夏休みには岡山に別荘として一軒家を買ったりもしていたらしいし。
あの人、岡山に行く事なんてそうそうないのにほんとよく買ったものだ。
「また無視……。お姉ちゃんの場合、FXもしてるわよ。それに、上がるものは完全に読み切っているから結構大きい額を投資するの。だから、その分利益もあるわけ。お姉ちゃんがやる時は同じものに私も入れてるけど、本当儲かるばかりで損した事はないわね」
何それ、ずるい。
普通は専業でも外す事が多いのに、アリスさんの場合はきちんと読み切るため外さないという事か。
そんなのリスクなしにお金が増えるという事だろ?
俺にも教えてくれないかな?
「アリスさんって本当なんでも出来るよな。あの人は一人で生きていけそうだ」
ほんと死角なしというくらいにアリスさんはなんでも出来る。
そう思ってした発言なのだが、なぜかアリアは首を傾げた。
「何言ってるの? お姉ちゃんが一人で生きていけるわけないじゃない」
「は? アリアこそ何を言ってるんだ。あの人なら平気で生きていけるだろ?」
完璧といっても差支えのない人――それがアリスさんだ。
あの人の頭脳に敵う奴なんてそうそういないだろう。
あの人が一人で生きていけないのなら、誰も一人では生きていけないはずだ。
「あぁ、そう。お姉ちゃんの事理解してるのかと思ってたけど、ちゃんと理解はしてないんだ」
アリアは何か納得したようにポンッと俺の肩を叩いてくる。
なんだろう、少しイラッとしたのだが……。