第243話「アリスルート5」
お金持ちってどうして不要なほど屋敷などを大きくするのだろう?
アリスさんたちの家に着いてまず思ったのはその事だった。
まず、敷地内に入っても車で移動しないといけないくらい広い庭っていうのがおかしい。
平等院家の人間は庭鑑賞なんてする柄ではないだろうし、使用人を住まわせる屋敷はともかく、この広大な庭は絶対に不要だと言い切れる。
しかも番犬としてドーベルマンが大量に放たれているじゃないか。
あれ、野良犬化してないのか心配になるレベルだぞ。
「何、ドーベルマンが気に入ったの? いいわよ、好きなだけあげる」
「いや、いらないです」
庭のあちこちにいるドーベルマンたちを車内から眺めていると、何を勘違いしたのかアリアがドーベルマンをくれると言ってきた。
当然番犬なんて必要としない一般人の俺は即答で断る。
しかも好きなだけと言われても、餌や飼う場所に困ってしまうのだ。
絶対に必要としないし、遠慮してると思われてもめんどうなので拒絶感をわからせるために敬語で断った。
――しかし、ここでアリスさんの悪い癖が出る。
「カイは……犬より……猫派……」
「いえ、そういう話では――」
「――そっか! じゃあブランド猫を大量に仕入れるわ!」
「だからそうじゃない!」
パンッと手を叩いて納得がいった顔をするアリアに速攻で俺はツッコみを入れる。
こいつの場合本当に有言実行しかねないため、冗談だと流すわけにはいかないのだ。
「アリア……猫のかわいさは……血統じゃない……。かわいさは……見た目と……性格……」
「わかったわ! 今からメイドを使いに出させてかわいいと思った猫を手当たり次第買わせてくる!」
「アリスさん! アリアをからかうのをやめてください!」
俺の言葉をアリアが勘違いするようにわざと誤った方向に話を持っていくアリスさん。
この人が悪ノリをすると性質が悪すぎるのだ。
そして、時折こういう悪ふざけをするのがアリスさんの悪い癖と言える。
しかもアリアもアリアだ。
いくらアリスさんの言葉だとはいえ全てを鵜呑みにするんじゃない。
妹だろうと平気でからかうぞ、この人は。
「お姉ちゃん、私をからかったの!?」
「違う……カイが……ツンデレ……」
「なるほど、確かにカイは素直じゃないものね! 今から手配を始めるわ!」
「お前馬鹿なの!?」
アリスさんの言葉をそのまま信じてスマホを操作し始めたアリアの手から、俺は慌ててスマホを取り上げて通話を切る。
スマホを取り上げられたアリアは怒って俺から取り返そうとするけど、伸ばしてくる手を全て俺はいなす。
もう何度もしてきた攻防だ。
防御に徹すれば、アリアの速度なら全て受け流せる。
「アリアの手を……余裕でいなせる……ようになるとは……随分と……腕をあげたね……」
「お褒めの言葉ありがとうございます! ですが呑気に観戦せず、アリアの勘違いを解いてもらえませんかね!?」
「楽しそうだから……いいや……」
「自己完結しないでくださいよ!」
俺の声はアリスさんに届かず――いや、届いてるけど思いっ切り無視をされてしまった。
しばしアリアの相手をしろという事らしい。
ここ最近アリスさんの中で俺はアリアの面倒見係にされている気がするのは気のせいだろうか?
いい感じにストレス発散の道具にされている気がしてならない。
「――こら、返しなさいよ! 男のツンデレなんてあんまりかわいくないんだからね!」
「誰もかわいさなんて求めてないし、ツンデレでもない! 猫を取り寄せないと言うなら返すよ!」
「でも猫は好きなんでしょ!?」
「好きだけど、それとこれとは話が別だろ!」
馬鹿正直に伸ばしても全て受け流されるからか、フェイントを織り交ぜながら俺の右手にあるスマホを狙ってくるアリア。
そして、確実にスマホを狙う意思を持つ手だけを見極めてロスがないよう弱い力で軌道を逸らす俺。
傍から見れば『あいつら何してんの?』と言われかねない行為を、俺たち二人は言い合いをしながら真剣にやっていた。
結局このやりとりは屋敷に着くまで行われ、いったい俺は何をしているんだと頭を抱えたくなる俺の横で、アリスさんはとても楽しそうにしている。
絵になるような微笑みを浮かべるアリスさんは本当に美少女だと思うし、楽しそうにしてくれるのは凄くいい事ではあるのだが――俺をダシにするのはいい加減やめてほしいと心から思った。
――しかし、これは俺を待ち受ける序章でしかない事をこの時の俺は知らない。
突然アリスさんルートになって困惑させてしまったと思いますが、咲姫よりも先に、アリスさんルートを書かせて頂きます( ;∀;)