第242話「アリスルート4」
新作現実恋愛『いじらしくてかわいい女の子を養う事になった件について』を公開しました!
甘々な物語にしていく予定です!
あとがきの下にあるタイトル名をクリックすると作品のページに飛べますので、是非とも読んで頂けると幸いです(*^-^*)
「いったいなんなんですか?」
リムジンに連れ込まれた俺は、上機嫌で右隣に座るアリアではなく無表情で左隣に座るアリスさんに声をかけた。
どうして他にも席はたくさんあるのに、この二人が両隣に座っているのかはツッコまない。
いつも何処かに連れ出される時はこの座り方がデフォルトになっているからだ。
「猫耳爆弾から……連絡が入った……」
「カミラちゃんから?」
「うん……。カイが宿に困ってるみたいだから……助けてあげてほしいって……」
凄く意外だった。
俺が宿に困っている事は白兎から聞いたんだろう。
だけど、俺の事を嫌っているはずだから気にも留めないと思っていたのに、まさかアリスさんに連絡してくれるだなんて。
本当はツンデレだった、という事だろうか?
なんだ、やっぱりかわいいじゃないかカミラちゃんは。
猫耳だし、このまま仲良くしたいところだ。
「喜んでるところ……悪いけど……男の娘が気にしてるから……って理由だよ……」
俺が少し喜んでいると、アリスさんが無情にも訂正をしてきた。
起伏のない声が余計に胸に刺さる。
それに考えていた事を読まれたのか、白い目を向けられていた。
「あ、あぁ、そうですか……」
「ふふ……大丈夫……。あの子は……カイの事も……好きだよ……」
上げて落とされたせいで落ち込んでいると、今度は可笑しそうに笑いながらアリスさんはフォローをしてきた。
この人、俺をからかって楽しんでいる。
「好きって、全然そう思えませんけどね。むしろ、会うたびに薙刀を振り回してくるんですが……」
「あの子にとって……それが君との……スキンシップになってる……」
なんだ、その迷惑すぎるスキンシップは。
いくら相手が猫耳少女とはいえ、薙刀で叩かれるのは嫌だぞ。
「一発喰らえば……やめてくれる……。今は君が……全てかわすから……ムキになってるところも……ある……」
「いや、喰らえって、あれ当たったら結構痛いんじゃないですか……?」
「相当痛いでしょうね。背が低くて力はないけど、技術を持ってるから一番痛い部分を狙ってくるわよ。最近、青木に指導を仰いでいるようだし」
アリスさんと会話をしていると、暇だったのかアリアが話題に入ってきた。
こいつが痛いというのなら本当に痛いのだろう。
そういうところでは嘘をつかないからな、こいつは。
というか青木先生に指導を仰いでるって、もしかして俺に当てるためなのか?
今は実力差が結構あるから見切れているけど、腕を上げられたらさすがに避けられないかもしれない。
俺はマリアさんや青木先生の命令と、アリアの相手をするという事もあって今もトレーニングは続けている。
とはいえ普段は筋力維持程度で、本格的に鍛えるのは週一くらいにアリアの相手をしている時だけのため、いずれ追い抜かれるだろう。
そうなると、さすがにまずい。
「私とのトレーニング、増やすしかないわね?」
なんでこいつは嬉しそうに言ってくるんだ。
むしろトレーニングなんてしたくないし、アリアの相手は凄く疲れるため今の週一の相手だってやめたいくらいなのに。
アリアがストレスを溜めて変な気を起こさないように相手をしているだけだが、いつまで続けないといけないのかアリスさんときっちり話をつけたほうがいいかもしれない。
このままだと卒業してからも付き合わされそうだ。
「アリア……カイは今……忙しい……。わがまま言ったら……だめ……」
「むぅ、わかってるわよ。まぁとにかく、カミラはあなたとじゃれてるつもりで悪気はないわよ。あの子たちをくっつけたのはあなたなんだから、あの子は感謝をしていても恨んではいないわ」
アリアは拗ねたように口を尖らさせた後、気を取り直してカミラちゃんの事を教えてくれた。
カミラちゃんの事をよく知っているこの二人が言うのなら間違いないのだろう。
まぁ二人をくっつけたのは俺というのは違う気がするけどな。
俺は龍やアリスさんに相談をして、男から目を逸らすカミラちゃんが白兎とちゃんと真正面から向き合うように説得しただけだ。
薙刀を振り回すカミラちゃんの攻撃をかわしながら説得するのは骨が折れたけど、最後は泣かせてしまったりしたからうまく説得が出来たわけでもない。
結局、泣きじゃくるカミラちゃんを慰め、彼女と向き合ったのは白兎自身だ。
それを俺のおかげだというのは些か図々しすぎるだろう。
「白兎が頑張った結果だけど、まぁ恨まれていないのならよかったよ。さて、それはそれとして、いったい何処に向かってるんだこれは?」
カミラちゃんたちの話については区切りをつけ、今現在どこを目指してリムジンは動いているのかを聞いてみる。
話の流れ的には宿を探してくれたような気がするのだけど、ホテルが見えるたびに見向きもせずに通りすぎてしまう。
正直いったい何処に連れて行かれるのか不安でしかなかった。
「私たちの家よ」
ふむ……?
「家って、もしかして別荘か? 有り難いけど、俺一人が使って大丈夫なの?」
俺が尋ねると、何を言ってるのとでも言いたげな表情でアリアが俺の顔を見つめてくる。
別に変な事は言ってない気がするのだけど。
もしかして素直に受け入れると思われていなかったのか?
さすがにアリスさんがこの拉致に加担している以上、俺は抵抗をしたりしないんだけどな。
なんせ、抵抗したところで言い含められる事は既に学習済みだからだ。
だけど、アリアは俺が立てる予想とは反して信じられない事を口にしてきた。
「今から行くの、平等院家の本家だけど」
「…………はい?」
信じられない言葉に俺は首を傾げる。
あれ、聞き間違いかな?
うん、聞き間違いだよな?
さすがに平等院の本家とか、そんな事はありえないはずだ。
俺は必死で聞き間違いだと思い込もうとする。
だけど、アリアは俺を追い詰めるかのように再度同じ言葉を口にしてきた。
「だから、別荘ではなく、平等院家の本家――つまり、私たちの本当の家に向かってるの」
「嘘、だろ……?」
「なんでこんな事で嘘をつかないといけないのよ。本当に決まってるでしょ。何、嫌なの?」
戸惑う俺に対してアリアが怪訝そうな視線を向けてくる。
どうして俺がここまで戸惑っているのか全く心当たりがない顔をしているのだけど、こいつはとぼけてるのか馬鹿なのかいったいどっちなんだ。
「平等院の本家って事はあれだろ? 平等院社長がいるんじゃないのか?」
そう、俺が今困惑しているのは平等院社長がいるからだ。
娘が男を家に連れ込むだなんて普通の親でも怒るだろうに、娘を政略結婚の道具とでも考えてそうな平等院社長がどんな反応を見せるかわからない。
それに、実を言うと俺は平等院社長に半端なく嫌われている。
理由としては、俺が意図せずいろんなところであの人に喧嘩を売っていたからとの事だそうだ。
アリアやカミラちゃんの時は確かに平等院社長の怒りに触れるような事はしていたけど、どうやら他にも俺が動いた事によって平等院社長の狙いをことごとく潰していたらしい。
おかけで以前アリア経由にこういうメッセージが届いた。
『餓鬼が調子に乗るな』
うん、大の大人が高校生相手に言っていい言葉ではない。
しかも日本を代表する大手企業のトップなのに、些か器が小さすぎるんじゃないだろうか。
アリスさんが嫌うのも――って、今は平等院社長に対する文句はどうでもいい。
問題は、その平等院社長が住む家に連れていかれようとしている事だ。
普通に考えてありえないだろ?
何処に犬猿の仲の相手を一緒に住ませようとする馬鹿がいるんだよ。
俺は文句を言いたげにアリアを見つめる。
すると、アリアは納得したように頷いた後、笑顔で口を開いた。
「大丈夫、お父様は今海外進出のために中国に行ってるから当分家に帰ってこないはずよ」
ニコニコと笑顔で何も心配がいらないと言うアリア。
その言葉を聞き、俺の頭にはある言葉が浮かんだ。
そして、その言葉をアリスさんが代弁する。
「今……フラグ……立ったね……」
『フラグ?』と不思議そうに首を傾げるアリアを横目に、俺はアリスさんの言葉に同意するように頷いた。
不安要素に対して絶対にないだろうと安心した時こそ、狙いすましたかのように訪れるのがこの世界のお約束だ。
これは本気で拒絶したほうがいいかもしれない。
「まぁ……大丈夫……。あの男の動きは……把握してるし……カイがいる間は……アリスたちもあっちの家に……住むから……。もしもがあっても……フォローはする……」
「あぁ、それなら安心――安心……? えっ、いや、アリスさんたちも一緒に住むんですか?」
「当たり前じゃない」
アリスさんの言葉に戸惑いながら聞き返すと、アリスさんが口を開くよりも先にアリアが肯定した。
なんでこいつはこんなに嬉しそうにしているのだろうか?
男と一緒に住む事に全く危機感を持ってない?
いや、そもそも俺を男として見ていないのか。
もしくは、何か罠を仕掛けていて俺の弱味を握ろうとしている?
なんにせよ、今度はまた別の不安要素が出てきたぞ。
「あの、アリスさん。やっぱり俺は――」
別の宿を探す――そう言おうとした時、俺のスマホに着信が入った。
見れば、画面に咲姫の名前が表示されている。
いつまでも部屋に戻ってこない事で俺がいない事に気付いたのかもしれない。
気付くのが遅くないかとは思うけど、あの子の場合ラノベとかに集中してしまうと時間を気にしなくなるからな。
だから今頃気付いても不思議でなかった。
「はい、もしも――」
『ちょっと海君! 今何処に――!』
電話に出ると、咲姫の大声で耳がキーンとなってしまう。
そして凄く早口で巻くし立ててきたのだけど、そのせいでうまく聞き取れなかった。
まぁ要約するに、どうやら早く帰ってこいと言ってるようだけど。
父さんの事は叱っておいたから遠慮なく戻ってこいとの事だが、いったい何を言ったのか不安でしかない。
むしろ俺に対する父さんの怒りを増している気がするのは俺だけだろうか?
なんにせよ、とりあえず今日は帰るつもりはない。
「ごめん、俺は大丈夫だから気にしないで」
『あっ、ちょっと――!』
咲姫はまだ何か言っていたけど、この子を説得しようとしても無駄なため俺はピッと通話を切った。
絶対怒ってるだろうけど、フォローはメッセージと学園で会った時にすればいい。
「うんうん、あの子はめんどくさいから切って正解よ」
俺が電話を切った事に対してアリアは満足そうに頷く。
相変わらずこの二人の仲は険悪なままだ。
元から相性が悪かったし、話を聞かず発言が読めない咲姫の事をアリアが苦手にしているところはあったけど、最近だとなぜか更に険悪になってしまっている。
二人に挟まれた時は正直生きた心地がしないものだ。
それにしても、本当に俺はこれからアリスさんの家に泊めてもらうのだろうか……?
父さんに反発して家を出たものの、随分と予想外の展開になってしまったものだ。