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第241話「アリスルート3」

「――おいおい、嘘だろ……」


 スマホを片手に握り締めた俺は、絶望的な状況に思わず天を仰いでしまう。

 現在俺は完全に予想外の状況で困り果てていた。


 なんせ――このままだと、野宿になりそうだったからだ。

 ネットで空き情報を調べたり、電話をかけてもかけても何処も宿が空いていないのだ。

 今日が大型連休ならまだわかる。

 もしくは、何か近くでイベントが行われているとかなら、たくさんの人が来て宿が埋まる事はありえるだろう。

 だけど、今日は何もない普通の土曜日のはずだ。

 なんでどこも空いてないんだよ……。


「どの宿もいっぱいだなんて、普通にありえないだろ……」


 あまりの状況に思わず口から文句が出てしまう。

 このままだと本当に野宿だ。

 今更家に帰る事なんて出来ないし、かといって宿は空いていない。

 新幹線に乗って遠くに行けばさすがに空いている宿はあるだろうけど、そんな遠くを借りてしまえば学園に通う事が困難になる。

 さすがに毎日新幹線通学は財布に痛手だし、馬鹿らしくてかなわない。


 誰かに泊めてもらうか……?


 宿が空いていない以上、友達の誰かに泊めてもらうしかない。

 そう思ってスマホに視線を落とすけど、いったい誰に電話をかけよう?


 最初に浮かんだのは龍の顔だけど、彼は今一歳年下の妹さんと二人暮らしをしている。

 年頃の妹がいる以上、泊めてなんて言えるわけがない。

 何より、龍の家から学園に通う事が厳しいだろう。


 となると、白兎だろうか?

 見た目は女の子だけど、彼は歴とした男だ。

 それに同性愛でもないし、身の危険はないと言える。


 仕方ない、白兎には悪いけど今日泊めてもらえないか聞いてみよう。


 白兎にお願いする事にした俺は早速彼に電話をしてみる。

 すると、数回のコールで電話は繋がった。


『もしもし?』


 電話越しに聞こえてくるのは、相変わらず男にしては少し高い声。

 ちゃんと白兎に繋がってくれたようだ。


「もしもし、神崎なんだけど、今って大丈夫?」

『こんばんは、海斗君。うん、大丈夫だけどどうしたの?』

「えっと……凄く言いづらいんだけどさ……」


 家に泊めてほしい――なぜか、その言葉を言おうとしたら急に緊張してきた。

 今更だけど、友達の家に泊めてもらおうとするなんて中学以来だ。

 だから慣れてなくて緊張してしまったのかもしれない。


『……今度はどの女の子に何をして怒らせたの?』


 俺が黙り込んでいたからだろうか?

 電話越しに話している白兎が溜め息混じりに呆れた声を出した。


 龍にしても桜井さんにしても、みんな酷くないだろうか?

 なぜ俺が女の子を怒らせた前提で話を進めるんだ。


 あられもない疑いを掛けられて文句を言いたくなるものの、今は大切な話があるためグッと我慢をした。

 そして、意を決して口を開く。


「その、さ……もしよかったら今晩泊めてもらえないか……?」


 急な事でもあるし、俺は申し訳なさそうな声を出して尋ねてみる。

 すると、白兎からは戸惑った声が返ってきた。


『あ~今晩かぁ……』

「やっぱり都合悪かったか?」

『えっと……』


 なんだろ、随分と歯切れが悪い。

 都合が悪いのならそう言ってくれればいいし、普段の白兎ならはっきり言うだろう。

 なのに、今日はなんか言いづらそうにしていた。

 何かあるのだろうか?


『――お姉様? どなたとお電話をされてるのです?』


 白兎の歯切れの悪さに首を傾げていると、電話越しから舌足らずのかわいらしい声が聞こえてきた。


 あれ、今の声って……?


 聞き覚えのある声に俺は再度首を傾げてしまう。

 なんとなく腕時計に視線を落としてみれば、時刻は20時を回っていた。

 一緒に遊んでいるとしては少し遅い時間。

 もしかして、白兎の奴――。


『カ、カミラちゃん? ごめんね、今は静かにしてて』


 うん、やっぱりカミラちゃんだ。

 しかもこの、俺には聞こえないよう意識して小さく注意している事をみるに、カミラちゃんがいる事を俺に知られたくないようにみえる。

 そこから想像をすると、白兎の家にカミラちゃんが泊まるか、はたまた逆の展開――はないか。

 今住んでるカミラちゃんの家には、アリアやアリスさんを始めとした俺たちの学園に通う他のお嬢様たちも住んでいる。

 さすがにそこへは泊まりにいけないだろう。

 となると、残るは一緒に何処かに泊まろうとしているかだな。


 デートくらいなら今更隠さないだろうし、先程俺が泊めてほしいといって歯切れが悪くなった事も納得出来る。

 白兎の奴、知らない間に大分進んでるんだな。

 相変わらずお姉様呼びのままだけど。


 とりあえず、リア充爆発しろと思った。


「ごめん、他を当たる」

『あっ……どうして泊まるところを探しているんだい?』

「ちょっと色々あってな。まぁ、気にしないでくれ」


 俺はそれだけ言うと、白兎に別れを告げて電話を切った。

 彼女とお楽しみのところを邪魔しても悪いし、他の人を探さないと――。


 そう思ってスマホの画面をスクロールしていたのだが、驚愕な事実に気が付いた。

 俺には白兎以外、泊めてもらえるような友達がいなかったのだ。

 昔に比べれば結構話すようになった奴ならいるけど、泊めてくれと言えるほど親しい関係の奴はいない。

 九条君なら快諾してくれそうな気もするが、やはり気を許しきれるかというとそうでもなかった。


 どうしよう、このままだと本当に野宿だ。


 ――いや、まだ漫画喫茶という手がある。

 個室を借りれば今日一日くらいはやり過ごせるだろう。


 仲のいい友達がほぼいないという考えを忘れるかのように、俺は早歩きで漫画喫茶を目指す事にした。


 そして移動する最中――道端を歩いていると、思わぬ人物の声が聞こえてきた。


「あっ、いたいた! お姉ちゃん、カイを見つけたよ!」


 道端だというのに恥ずかしげもなく大声を出すのは、普通ならこんな一般道路を歩いているはずがないアリアだった。

 言葉から察するに、俺を探していたのだろうか?


「アリア、いったいどう――」

「はい、捕まえた! 青木運ぶわよ!」

「はぁ……アリアさんなんかに手を貸すのはシャクですが、仕方ありません。これもアリス様のためですからね」


 なぜかいきなり右手にギュッとアリアが抱きついてきたと思ったら、何処からともなく現れた青木先生に左手を掴まれてしまった。

 二人は困惑する俺を抵抗させないようガッチリと両脇から拘束し、息をつく間もなくリムジンへと押し込んでしまう。

 まるで人拐いかのような手際の良さだ。


「ちょっ、何を――!」

「ふふ、このチャンス、逃さない手はないわよね」


 訳がわからないままリムジンに乗せられた俺が文句を言おうとすると、アリアはこれから獲物を補食するかのような輝いた目で俺の顔を見つめていた。

 ほっとけば舌舐めずりでもしそうな雰囲気だ。


 いったい何を考えているんだ、こいつは……。

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この展開は!?アリアの「このチャンス、逃さない手はないわよね」の一言は何かを期待させる~
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