第17話「やはりこいつは頭がおかしい」
「なぁ――西条」
「ん? な~に、海斗?」
俺の呼びかけに、西条が楽しそうに見上げてくる。
その表情からは悪気が一切感じられない。
俺はそんな西条に――
「今、猛烈にお前のその、サイドポニーテールのポニーテール部分を切り落としたいんだが……いいよな?」
――と、真顔で聞いた。
「いや、全然良くないけど!? そんなことしたら、髪型変になるじゃない!」
そう言う西条は、面喰った顔をしている。
「そうか……ならもう、バリカンを使って丸坊主でいいや」
「何が!? 一体何がそれでいいって言うのよ!? むしろ悪くなってるじゃない!」
「……我が儘な奴だ……」
「いやいやいやいやいやいや! おかしい! この人頭おかしい!」
いやが多いな……。
どれだけ全力で否定してるんだ、こいつは。
確かに急にこんな事を言い出せば、頭がおかしいと思うかもしれないが――それでも、今の俺はイライラから猛烈にこいつの髪を切り落としたかった。
まぁもちろん、これには訳がある。
それは――
「なんでお前、俺と腕組んで下校してるの……?」
そう――学校が終わって俺が帰ろうとした時、西条が駆け寄ってきて、そのまま腕を組んできたのだ。
当然、俺は拒否をした。
だけど、こいつは一切離してくれないし、おかげで注目の的だった。
そして、西条の腕を無理矢理はがそうとしたら――
『きゃぁああああ! 神崎君に痴漢されるー!』
と、叫びやがった!
お、か、し、い、だ、ろ!
なんでお前から抱き着いて来てて、俺が離す為にこいつの腕を触ろうとしたら、俺は痴漢扱いなんだ!?
いや、周りの奴らも多分それはわかってる、わかってるはずだが――あの時向けられた視線が、俺だけを非難している様にしか見えなかったんだが……?
もう、あの最低な虫ケラを見る様な眼を向けられたくなかった俺は、西条が自分から腕を離してくれる事を期待するしかなかった。
そして、西条が腕に抱き着いてきているせいで、こいつのサイドに結んでいる髪が俺の顔に当たり、凄くくすぐったい。
元々目立つ事が苦手な俺は、西条に抱き着かれながら下校しているせいで注目を浴びるというストレスと、西条の髪のくすぐったさのせいでイライラが急上昇していた。
……本当、このポニーテール部分をバッサリと切ってやろうか……。
「――ねぇ、なんで抱き着いちゃあ駄目なの?」
西条は不思議そうに俺の事を見上げる。
……あれ?
何この表情?
まるで、俺が言ってる事の方がおかしいって言いたげなんだが……?
「いや、寧ろなんでお前が不思議そうなの? 普通、抱き着かないだろ?」
「え~? でも、友達同士にとっては普通だよ?」
そうなのか……?
友達同士は腕を組んで歩くのが普通なのか……?
……確かに、腕を組んで友達同士で歩いてる子も見かけるような――。
「――いやいや、あれは同性同士でするものだろ!?」
俺は一瞬納得しかけて、思いなおす。
友達同士と言っても、あれは女の子同士でしてるものであって、男女が友達同士で腕を組むものではないはずだ。
俺のその言葉に西条と言えば――
「え――海斗って、男同士で腕を組みたかったの……? ごめんね……私、女だから……」
と、若干引いた顔をしながら、俺の方を見ていた。
「な、ん、で、だ、よ!? どこからどうなったら、そうなるんだ!?」
「だって、同性同士で――って言ったから……」
「それは女の子同士でって意味だ!」
俺の言葉に西条はクスクスと笑う。
あ――。
「ごめんごめん。うん――わかってたよ」
「お前……性格悪いな……」
「え~……それちょっとひどくない? 海斗がイライラしてたから、リラックスさせてあげようと思ったのに~」
西条はそう言って、不満気に頬を膨らませている。
……いや、そのイライラの原因が主にお前なんですが……?
「それに、私達が腕を組むのはおかしくないよ?」
「は……? なんでだよ?」
俺は西条の言葉が理解できず、問いかける。
西条は楽しそうに口を開いた。
「だって私達は友達から始まり、交際を経て、最後に結婚する間柄でしょ? だからこう言う事をしても、問題ないんだよ」
そう言って、西条はニコっとした。
……ちょっとまって……。
え、今日昼休みでの約束って、そう言う事なの?
なんか話飛躍してない?
「意味が分からないんだが……。俺はただ単に、お前の友達になっただけのはずだが……?」
「え~何言ってるの? ちゃんと、友達から始めましょうって言ったじゃん? それを海斗は了承して、『やっぱり無し』って言うのも禁止したんだから、今更嫌だって言うのはだめだからね?」
なんだと……?
あれは言葉の綾かと思ってたのに、そう言う事になるのか……?
……え、わからない……。
これって俺と西条、どっちがおかしいの……?
なんだか西条の言い分も理解してしまっている自分が居る……。
……だがしかし、やはりこれだけは西条に言っておこう。
「やっぱお前、頭おかしいだろぉおおおおおおお!?」っと。