第238話「覚悟しておくといいよ」
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「それでさ、やっぱり海斗が他の子たちに気が行ってしまう事は仕方がないと思うんだ」
桜井さんを落ち着かせた龍は、俺に安心感を与えるように笑顔でフォローをしてくれる。
彼がどうしてそのような答えを出したのか気になる俺は、そのまま黙って龍の言葉を聞き続けた。
「アリスさんを始めとして、桃井さんや西条さんはとても魅力的な女の子たちだよね? 現に多くの男子生徒からモテている」
他校の龍がその事を知っているのは、単に彼女たちを見た事による予想だけではなく、他の子たちから聞いているのだろう。
彼には情報を扱う事を得意とする仲間もいる。
その子辺りから聞いているといったところか。
というか、ピンポイントで俺が気になっている子たちを挙げてきやがった。
龍には全て見抜かれているという事なのか?
「確かにモテるし、魅力的だけど……複数人に気が行っていい理由にはならないだろ?」
俺は龍に対して思っている事は口にせず、彼の言葉を肯定しながら否定もする。
魅力的だからといって、複数人を好きになっていい理由にはならない。
それが俺が出している答えだ。
しかし、龍は俺がそう返すとわかっていたのだろう。
笑顔のまま首を横に振る。
「彼女たちに気を掛けられてもいない生徒たちが好きになってしまうんだ。彼女たちに迫られて、アピールをされている君が何も思わないほうが僕はどうかと思うね」
魅力的な女の子がより自分を魅力的に魅せようとしているのだから、惹かれないほうがおかしいと龍は言っているようだ。
確かに甘えてくる咲姫は凄くかわいいし、雲母も俺の好みの女の子になろうと一生懸命頑張ってくれている。
だからかわいく思えて――んっ……?
「あれ、別にアリスさんにはアピールなんてされてないというか、恋愛的な意味で好かれてもいないと思うんだが?」
龍の言葉で引っ掛かるところがあった俺は、ついその事を口にしてしまった。
時々もしかしたら――と思うところはあったけど、アリスさんの場合すぐに無表情になるから俺の勘違いだったんだと思う。
だから龍も同じように勘違いしている、と思ったのだけど、目の前にいる二人は『まじかこいつ……』というような顔をしていた。
特に桜井さんは女の子なのにテーブルに突っ伏してしまう。
勤務中のウェイトレスさんがこんな態度でいいのだろうか?
「ねぇ、龍。神崎君いつか女の子に刺されて死ぬ気がする」
「怖い事言うなよ!」
いきなりとんでもない事を言い出した桜井さんに思わずツッコんでしまう。
だがしかし、急にこんな怖い事を言われれば誰だって同じ反応をするはずだ。
「まぁ、うん。少なくとも女の子の好意を無下にして酷い目には遭わされそうだね」
「龍まで!? しかも少なくともでそれ!?」
龍まで怖い事を言い出し、俺は本当に今後が怖くなってきた。
背中には気を付けたほうがいいかもしれない。
「まぁでも、これが海斗なんだよね」
「なんだかその納得のされ方は、それはそれで不満があるぞ」
「ハハハ」
笑って誤魔化された。
おかしいな、俺ってそんなに言われるほど酷いのか?
決して、ラノベなどにいる鈍感系主人公ではないはずなんだが。
なんせ、咲姫や雲母の気持ちにはちゃんと気付いているわけだし。
「わぁ、納得がいってない顔してる。絶対自分の事を鈍感だと思ってない顔だよ、あれは」
「…………」
なんだろう、今日の桜井さんはやけに攻撃的だな?
俺そんな怒らせるような事言ったか?
白い目で俺の顔を見つめてくる桜井さんを前にして俺は少し戸惑ってしまう。
普段は気がいい女の子で、とてもフレンドリーなのだけど、今は全然フレンドリーじゃない。
桜井さんは桜井さんでとてもかわいい顔立ちをしているため、白い目で見つめられると新しい扉を開く人が出てきそうだ。
生憎、俺にはそっちの性癖はないが。
桜井さんの白い目についてちょっと考えていると、龍が『こんな時に何変な事を考えているの?』という目で俺を見ていた。
うん、完全に見抜かれている目だ、あれは。
「アリスさんの件は一先ず置いといて――」
「置いてたら駄目だよね?」
「うぐっ……」
この話題はよくないと思い話を逸らそうとすると、ニコッと笑みを浮かべた龍がすかさず逃げ道を塞いでしまった。
『逃がさないよ?』とでもいいたげな笑顔だ。
「自分の気持ちをどうにかしたいと思っておきながら、どうしてアリスさんから目を逸らそうとするかな」
「別に逸らしてるわけじゃあ……」
「彼女の好意から目を逸らしてるじゃないか。あまり他人の事に口出しをするのはよくないけど、いくらなんでもこのままだと彼女が可哀想だよ」
笑顔だけど、声のトーンや仕草から真剣に話している事がわかる。
そういえばアメリカにいる時から龍はアリスさんの事を気に掛けていた。
何か思うところがあるのかもしれない。
「とはいってもな……アリスさんだとわかりづらいっていうか……」
「あれほどまでにあからさまなのに、わかりづらいと言う君の神経が僕にはわからないよ」
「……龍ってさ、意外と結構鋭く物を言ってくるよな?」
笑顔で毒を吐く龍に対して俺は苦笑いをしながら聞いてみる。
すると、龍が何か言うより先に桜井さんが口を開いた。
「遠慮してない証拠じゃん、いい意味で」
「いい意味なのか?」
「友達付き合いで遠慮するほうがおかしいよ? まぁ、親しき仲にも礼儀ありっていうから少しは必要だと思うけど」
「意外だな……」
「そんなに意外かな? 私、結構友達に気を遣ってると思うけど」
「いや、桜井さんがそんな言葉を知っていた事が――」
「よし、喧嘩を売ってるね! 喜んで買ってあげるよ!」
突如両手でグッと拳を作ってファイティングポーズを取り始める桜井さん。
構えは冗談なのはわかるけど、シレッと机の下で足を蹴られた。
まぁ今のは俺が悪いが、やはりこの子はちょっと気が強い。
見た目はツインテールだし女の子っぽいんだけど、龍からはちょっと女の子らしくないところがあると聞いていた。
勉強も龍が見ているとか。
「二人も打ち解けたね」
満足そうに頷く龍。
完全に他人事だ。
「まぁとにかく、海斗はもっとちゃんと女の子と向き合いなよ。今回だってみんなに不義理だとか言って、また目を背けようとしていたよね?」
「うっ……」
「彼女たちが魅力的なのは仕方がない。だから、目を背けるのではなく、彼女たちの思いをちゃんと受け止めて自分の中でどうしたいか答えを出すといいよ」
「自分の中で答えを……」
俺は龍に言われた言葉を復唱する。
元々咲姫の気持ちに向き合うかどうかで悩んでいたのに、別の要素が加わった事で俺は自分がどうしたいかなんて考えていなかった。
もちろん、ハーレムを望むような最低な事は言わない。
だけど自分の中で誰と付き合いたいか――せめて、そのくらいは自分で答えを出さないといけないと思った。
「彼女たちとちゃんと向き合って、もう一度考えてみなよ」
龍はとても優しい笑顔で、励ますように暖かい言葉を投げてくれる。
龍に相談してよかった、と本気で思った。
持つべきものはやはり友達だ。
「ありがとう、龍。今度は逃げない」
「うん、それでいいと思うよ。――あ、でもね」
「ん?」
まだ話がありそうな龍に俺は首を傾げて彼の言葉を待つ。
すると、龍はテーブルに置いているコーヒーを口に運びながら笑顔でこう言ってきた。
「誰かと付き合ってまで他の子に気が散ってたら、その時は覚悟をしておくといいよ」
笑顔だけど、冗談で言ってはいない。
おそらく脅しでもないだろう。
浮気のような事をしたら、ただでは済ませない。
龍はそう言っているのだ。
友達ゆえの不義理は見逃せないという事なのだろう。
有難いと思うと同時に、心底肝が冷えた。
「まぁ、心配なんてしてないけどね。さて、話に一区切りついたところで一つお願いがあるんだけど、聞いてくれないかな? 大丈夫、そんな顔しなくても海斗にとっていい話になると思うよ」
いったい俺はどんな顔をしていたのかわからないが、龍は笑いながらA4用紙の束を俺に差し出してきた。
今日龍のほうからも話があるとは聞いていたが、どうやらこれの事らしい。
――その後、俺と龍はある事について密に打ち合わせをするのだった。