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第16話「愉快な少女は理解できない」

 なにしてんだ、俺……。


 桃井を助けた次の日、昼休みに俺は机に突っ伏していた。

 そして、とてつもない程の後悔が押し寄せてくる。


 理由はもちろん、昨日の事だ。

 俺の脳裏には、昨日の光景がずっと映し出されている。


 ――なんで俺……あんな態度とってるんだよ!?

 そりゃあ、ブチ切れてたよ!? 

 だから、昔の俺が顔を出したのもわかる!


 だけどな――なんで、桃井の頭撫でたりしてるの!?

 怖い……徹夜のテンション、まじで怖い……。


 そのせいで桃井と顔が合わせづらくて、早めに家を出てしまったから、今日は朝ご飯を食べる事も出来てないし、弁当も受け取ってない……。

 というか、桃井は生徒会で早く出るんだから、俺が遅めに起きればよかったのに……。

 だめだ、昨日から色々と頭の回転がおかしい。


 俺は、桜ちゃんから届いたメッセージを見る。

 それには『2年生のクラスだから、お姉ちゃんが弁当届けるって持って行っちゃった』と、書かれていた。

 何、この俺を追いつめる流れ……。

 やっぱあいつ、昨日の事を根に持ってるの……?

 

 昨日寝落ちから覚めた後、家の中ですれ違った桃井は顔を合わせてくれなかった。

 よほど昨日頭を撫でた事に怒っているのだろう……。


 そりゃあ、キモいとか汚いとか思ってる相手に、女の命ともいわれる髪を触られたら怒るよな……。 


 でも、一つ言い訳させてほしい。

 あれは、帰ってる最中に、桜ちゃんみたいになった桃井も悪いと思う……。


 だから、普通に桜ちゃんに接してしまう様な感じで接してしまったのだ。 

 ……桜ちゃんにも頭を撫でた事無い気がするけど……。


「――ねぇ、ちょっといい?」

 頭の上から声を掛けられ、俺は顔をあげる。

 またパシリか……?


「――っ!」

 俺は呼び掛け人の顔を見て、一瞬で警戒に入った。

 周りを見れば、他の生徒達がこちらを見ている。


 それほど、この人物が俺に話しかけるのは意外なのだ。

「なんだよ、西条?」

 俺は周りの生徒達に聞こえない様に声を抑えて、西条に問いかける。


「話があるから、ちょっと一緒に来て」

「話?」

「そう……多分ここですると、あんたが困るんじゃないかな?」

 俺はどうするか少し迷ったが、昨日の事だろうなと思い、西条について行った。




 

 ――俺が西条に連れて行かれたのは、体育館裏だった。


 ……しまったな……この判断は軽率だったか……?

 ここは体育が無い限り、人が滅多に寄り付かない場所だ。


 そして、今は昼休み。

 つまり誰もこないという事……。


 俺は目の前で、髪をクルクル指先で弄って俺の方を見つめている、西条を見る。


 まさか、お礼参り……?

 俺は西条を買いかぶり過ぎていたか……?


 正直言えば、今物凄く怖い。

 実は、俺は体育で目立たない様にしているだけで、運動は得意だった。


 だけど、もしここで数人の男が出てきたら、俺はたちまちやられてしまうだろう。

 ……なにそれ、どこのヤンキー漫画だよ……。


 普通ならありえない、でも、西条は普通じゃない。

 俺の読みが外れていたとしたら、これ、ヤバいよな……?


 だが、怯えてる表情を一切西条に見せない。

 ここで俺がこいつに下に見られれば、西条は再び何か仕掛けてくる可能性がある。


 だから、俺はあくまでこいつには強気な態度で臨む。

「どういうつもりだ……?」


 俺が西条を睨むと、何故だか西条は顔を少し赤く染めていた。


「そんなに警戒しなくても、大丈夫よ。話がしたかっただけだから」

 そう言って、西条はニコッと笑った。

 こいつが、俺にこんな表情をするとは思わなかった……。


 絶対恨んでいると思っていたんだが……?


 しかし、警戒しておくに越した事は無い。

 俺を油断させる為に、今の態度をとっている可能性は十分考えられる。


「話ってなんだ?」

「まぁ、その前にお昼一緒に食べましょ? 私、二つ分の弁当を作ってきたから」


 そう言って、西条は本当に、二つ分の弁当箱を取り出す。

「え……手料理? お前、お嬢様なのに料理が出来るのか?」

「馬鹿にしないでよ。もしもの場合に備えて、幼い頃から料理――というか、家事全般叩きこまれているから」

 なるほど……もし、経営が危うくなった場合、娘を嫁に出せる様にと言う事か……。


「だけど――」

 俺は弁当は自分のがあると言いかけて、言葉を止めた。

 現在、俺の弁当は桃井がもっている。

 それを受け取る所を西条に見られると、良からぬ誤解――最悪、俺達が家族になった事もバレてしまう。


 そうなれば、桃井に殺されてしまう……。

 仕方ない、桜ちゃんの弁当は後で食べるか……。


「でも、なんで俺に弁当を?」

 わざわざこいつが、俺に弁当を作ってくる理由がわからない。

「べ、別にいいでしょ!」

 なんだか、西条は俺の問いかけに、慌てていた。


 まさか――!

「毒入りか……?」

「なんでよ!?」

 俺の質問に、すかさず西条が突っ込んだ。


「いや、毒入りは言いすぎたけど……下剤が入ってるんじゃないだろうな?」

「あんたは私をなんだと思ってるの!?」


 そりゃあ……。

「桃井を壊そうとした奴」

「うっ――」

 俺がそう言うと、西条が言葉に詰まった。


 俺は西条を見る。

 西条は俺から視線をずらしながら、ゆっくりと口を開いた。

「あ、あれには、訳があるの……」

「訳……?」

「ま、まぁ、その話もきちんとするから、とりあえずご飯食べよ! ね?」


 俺は西条の言葉に頷き、西条と並んで腰かける。

 ベンチがないから、体育館に入る階段になんだが……。

 俺が西条から受け取った弁当箱を開けると、そこには色鮮やかなおかずが詰め込まれていた。

「凄いな……本当にこれ、お前が作ったのか?」

「なによ……それくらい、私だって作れるもん……」


 俺の言葉が不服だったのか、西条は頬を膨らませてしまった。

 金髪ギャルがそんな態度をとるなんて、なんだかおかしかった。


 だけど……これ、本当に大丈夫なのか?

 見た目は凄く美味しそうだけど、下剤が入ってるかなんて、見た目でわからないしな……。


 しかし、隣で俺が食べるのを見守っている西条に、突き返すのも気がひけるし……。


 俺は恐る恐る卵焼きを食べてみる。


 ――甘い……。

 でも、凄くおいしかった。

 ただ、俺は醤油で作る卵焼きしか食べた事が無かった為、砂糖で作った甘い卵焼きに驚いてしまった。


「ど、どうかな?」

 俺が食べる所を横で見ていた西条は、期待と不安が入り混じった顔をしていた。

「あぁ、凄くおいしいよ。うん、素直に驚いた」

 俺がそう言うと、西条は『よしっ――!』と、小さくガッツポーズしていた。


 俺はそんな西条を横目に、本題に入る事にする。

「それで、話ってなんだ? 桃井に手を出した以外にも何かあるんだろ?」

 俺がそう尋ねると、西条は頷いて俺の目を見てきた。


 そして、ゆっくりと口を開く。

「ねぇ、今のあんたが、本性なのよね?」

「本性……?」

 俺は西条が言いたい事がわからず、首を傾げる。


「とぼけないで。昨日や今のあんたは、いつも学校で見せるあんたとはまるで別人格。いくらオタクが大切な物を傷つけられたからって、そこまで豹変するとは思えない。だから、学校で見せるあんたは偽りの性格で、今私と喋ってるあんたが、本当の性格なんでしょ?」


 西条の眼には、確信が込められていた。

 そうとしか、ありえないと。


 ……こいつ、漫画の読みすぎじゃないのか?

 何、偽りの性格って……。

 中二病、こじらせてんの? 


 今の俺の性格は、コミュ障の俺だ。

 別に偽りも何もないのだが……。


「何を勘違いしてるか知らないが――」

「小鳥居春花」

 俺は西条が口にした名前に、目を開いた。


「悪いけど、調べさせてもらった。あんた中学二年生の途中まで、クラスメイトの中心に居たそうじゃない。そんなあんたが、クラスメイトを二階から突き落とすという事件を起こした。その時期が、あんたが親しくしていた、小鳥居春花の転校直後。それから少しして、あんたは不登校になった。だから、その辺の事があんたが今の様になった原因でしょ? まぁ、クラスメイト突き落としたりしたら、不登校にもなるか……。でも、普通クラスの中心に居る様な人間はそんな事、絶対しない。もしするとすれば、何か心が不安定になる出来事があった。つまりそれが、小鳥居春花の転校ってわけよね? あんたにとって、彼女が大切な存在だったって事がわかるわ」


 俺は西条の言葉に、前髪を掻き揚げ、天を仰ぐ。

 参ったな……たった半日で、そこまで調べたのか……。

 全て当たっているわけじゃないが、少なからずあたっている。


 流石、西条グループのお嬢様だ。


 だが――

「そんな大げさな事じゃない。俺が一人の女の子を傷つけ、その事でクラスメイトとモメ、その最中にそいつが二階から落ちた、ただそれだけだ。別にクラスメイトを突き落としたかどうかについて、言い訳するわけじゃない。だが、それ以上俺と彼女の過去を詮索するなら、お前……本気で潰すよ?」

 そう言いながら、俺は横目で西条を睨んだ。


「は……はぃ……」

 西条は小さい声で、俺の言葉に返事をした。


 だけど――俺に睨まれた西条は、何故だか顔を赤くして、モジモジしていた。


 あ、あれ……?

 ここって普通、怯えるとこじゃないの……?


 なんでこいつ、こんな嬉しそうにしてるの……?

 ヤバイ……やっぱりこいつは、色んな意味でヤバイ……。


「ま、まぁ、今の俺は、クラスの俺が本当の俺だ。変な勘繰りはよしてくれ」

「まぁ、そう言う事にしとくわ。じゃあ、髪も切らないの?」

「あ、あぁ……当分切る気はないかな……」


 ……なんか最近、その事ばかり聞かれるな?

 よっぽど、目障りなのだろうか……。


「――それならそれで、他の子にとられないから……」

「え……? 悪い、声が小さすぎて聞き取れなかった」

 西条がブツブツ何か言っていたが、考え事をしていたせいで、聞き逃してしまった。


「な、なんでもないわ!」

 そう言って、西条は顔を背けてしまった。


 なんだったんだろうか……?

「なぁ、俺の方からも一つ聞いていいか?」

「何?」

「さっき聞きかけた事でもあるんだが、お前が桃井を狙った理由はなんだ?」

 俺の言葉に、西条は眼をつむった。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「私が……どうしてこの学校に居ると思う?」

「は……?」


 いや、それは俺も気になっていた事ではあるのだが……何故俺の質問は無視られたのだろう……?

「そんなの俺にはわからない」


 俺がそう答えると、西条は少しムッとした。

 当たらないまでも、きちんと考えてほしかったのかもしれない。


 ため息交じりに、西条は口を開いた。

「卒業時に、この生徒数県内一の学校のヒエラルキーで1位になっておく事――それが、私が家から出されたノルマ…………まぁ、この学校に来たのはそれだけが理由じゃないけど」


 後半部分は西条が凄い小さな声で言ったため、聞き取れなかった。 

 だけど、わざわざ小さい声で喋ったって事は、本当は言いたくない事なんだろう。

 ならば、後半部分はスルーしよう。


「ノルマ?」

「つまり、私はそのノルマを達成できていなかったら、家を追い出されるの」

 西条はそう言って、目を伏せた。

「なるほどな……。だから、実質一位の桃井を潰そうとしたのか?」

 俺の質問に、西条はコクンっと頷いた。


 そういうことか……。

 もう後は聞かなくてもわかる。

 お金持ちが集まる学校ではなく、市民の中で競わせ、市民を従わせることを覚えさせると言うのが、彼女の親の狙いだろう。

 そういう意味では、生徒数がかなり多く、無駄にスペックが高い奴らが集まるこの学校は、うってつけなのかもしれない。


 しかし、えげつない事を考える物だな……。


「おかしいでしょ? 笑ってもいいわよ?」

 西条は皮肉めいた笑い方をしながら、俺にもそうするよう促してきた。


 あぁ……この表情を見ればわかる。

 こいつの心は疲れ切っている。

 入学してから今まで、自分の地位を上げるために頑張ってきたのだろう……。


「別に笑わないよ」

「え……?」

 俺の返事に、西条がキョトンっとした。

「これから過酷な競争社会に出る前に、それ相応の力をつけたいという親心だろ? それに対して、一生懸命に応えようとしている奴を笑えるかよ」


「……へぇ……やっぱ、海斗は変わってるね」

「はぁ? なんで、下の名前で呼んでんだよ」

「いいじゃん、そんくらい!」

 そう言う、西条の顔はなんだか笑顔だった。


 だが、俺は西条に苦言を申さないといけない。

「だけどな……それはあくまでこころざしとしてだ。人を陥れる手段を用いる奴を俺は認めない」

 俺がそう言うと、西条は俺の眼を見てきた。

「わかってる。もうそんな事するつもりないし、桃井にも手を出す気はない」

 そういう西条の眼は、嘘をついている様には見えなかった。


 それに桃井か……。

 ちゃん呼びしていないと言う事は、もう桃井を見下していないと言う事か……。


「信じていいんだな?」

「もちろん」

「そうか……なら、もう俺は()()()()()


 本当なら、桃井をあそこまで追い詰めた人間に対してこの判断は甘いのだろう。

 だがそれを理由に、変わろうとしている人間を拒絶するのは、おかしいと思った。

 もしそれで変わろうとしている人間のきっかけを潰してしまえば、そいつはもう変わることが出来なくなるかもしれない。


 俺が変わったように、他人が与える影響とは、それほど大きいのだから。

 今の西条は、その立ち位置に居る気がした。


「ありがとう……」

 俺の言葉に、西条は嬉しそうに笑った。

 その笑顔は、俺の中に合った西条の怖いイメージとは、別人に見えた。


「ねぇ……」

「ん?」

 俺がそんな事を考えてると、また西条は髪の毛をクルクルと指で弄り始めて、俺の方を見ていた。


 心なしか、若干顔が赤く見える。

 そんな彼女が口にしたのは――

「海斗は、桃井と付き合ってんの?」


「はぁああああああああああ!?」


「きゃっ――!」

「あ……ごめん」

 あまりの驚きに、つい叫んでしまった。


 だがしかし、どう見たら俺達が付き合っている様に見えるんだ!?


「いや、付き合ってる訳ないだろ。どう考えたらそうなるんだよ?」

「いや、だって……『俺の大切な“彼女もん”』って言ってたじゃん。だから、そうなのかなって?」 


 ああ、そう言う事か……。

 俺が大切な“家族”って言った事を、別の意味で捉えたのか……。

 まぁ、同級生がまさか家族になっているとは思わないよな……。

 

 でも、俺の過去を調べたくせに、俺と桃井が家族になった事は知らないのか?


 ――あぁ……半日で調べるために、俺が変わったと考えられる中学時代に的を絞って調べたのかもしれない。

 高校に入学した時にはもう、今の俺だったしな。

 まぁ、誤解はきちんと解いといた方が良いな。


「あれは大切な友達という意味だ。俺は彼女の妹と仲が良いんだが、その為、桃井とも接点があって、まぁ、友達と呼べる存在だろうって感じだ」


 俺は本当の事を交えながら、西条に説明した。

 全て嘘よりも、真実を混ぜた方が信じ込ませやすい。


 それに、桜ちゃんとはよく昼食を一緒にしているため、後で変に勘繰られるより、ここで話しておいた方が良いと判断した。


 ……桃井が友達って、誰がどう聞いても嘘だな……。

 これは失敗したか……。


「ふ~ん……その桃井妹が彼女なの?」

 だが、西条は別の事を気にしていたみたいで、桃井友達発言はスルーされた。


 しかし、桜ちゃんが俺の彼女って……一体何を考えているんだ?

 こいつは俺があの天使みたいに可愛い女の子と、つり合ってるとでも思っているのか?


 自分がいつも桜ちゃんと並んで歩いてる姿を思い浮かべる――。

 ……うん、どうみても、つり合ってないな……。

 

 というか、桜ちゃんは妹として可愛いけど、あの子を彼女にしたいって思ったら、犯罪な気がする。

 ……おかしいな、歳一歳しか変わらないのにな……。


 おっと――いつの間にか、西条の事を忘れていた。

 西条は返事をしない俺の事を、訝し気に見ている。 


「いや、あの子は何と言うか、妹っぽい感じな子だよ」

「へ、へぇー」

 俺の返答に、西条はソッポを向きながら、興味無さそうな声を出す。

 だけど、自分の髪を指でクルクル回す事はやめていない。 


 こいつはなんでこんな事を聞いて来るんだ?

 まさか、俺の弱みを探してるのか……?


 俺はまた西条を警戒する。


 すると西条は――

「じゃあ、もう単刀直入に聞くけど、彼女はいないの? それか、好きな子とか?」

 と、聞いてきた。

 

 こいつ、やっぱり俺の弱みを探しているな……?

「お前に答える必要あるのか?」

「え――いるの!?」

 俺の言葉に、西条が身を乗り出して聞いてきた。


「い、いや、いない」

 俺は西条の勢いにおされ、正直に答えてしまった。


「な、なによ! ビックリさせないでよ、も~!」

 西条はそう言って、なんだか安堵みたいな溜息をつく。

 

 あれ?

 こいつ的には、俺が居るって答えた方が弱みを握れたんじゃないの?

 なんで安堵してるわけ?


 まぁ、もう答えてしまったものは仕方ない。

「俺みたいな奴に彼女がいるわけないだろ? それに、ほとんど女子と関わらないのに、好きな奴なんて出来るわけないし」 


「ふむふむ、なるほどなるほど。そんな可哀想なあんたに、朗報があるの!」

 なんだか、西条がちょっとだけ芝居がかかった話し方をしだした。

 こいつって中二病みたいな想像をしたりするし、意外に愉快な奴なのかもしれない。


「なんだよ、朗報って……?」

「ふっふ~ん」


 わぁ……凄いって胸張ってる……。

 やっぱ西条って、こんな人間だったんだ……。


「この私、西条雲母があんたの彼女になってあげる!」

 そう言って、西条は自分の胸に手を置いた。


 ……え?

 今こいつなんて言った?

 彼女になってあげるって言わなかったか?


 ……やっぱこいつ、頭おかしいだろ?


「何言ってんの、お前……?」

 ――当然、俺の反応はこうなる。


 俺の言葉に、西条はショックそうな顔を浮かべた。

「な、なんで!? そこ、喜ぶとこじゃないの!? だって、私みたいな美人で大金持ちが、あなたの様なボッチの彼女になってあげると言ってるのよ!?」


 こいつ……大金持ちはともかく、普通自分の事を美人って言うか?


 …………まぁ、確かに美人だけどな……。


「いや、訳が分からな過ぎて、ついていけてない。まず、なんでお前が俺の彼女になるの?」

「そ、それは……」

 西条は顔を赤くして俺から顔背け、なんだかモジモジしている。


 昼休みも残り少ないのに、これでは答えを得る事が出来なさそうだった。

 だからもう、結論だけ言っておこう。

「俺、お前の事をよく知らないから、無理」


 そりゃあ、俺だって健全な高校男子だ。

 彼女だって欲しい。

 でも、いくら相手が美人だからって、好きでもない奴と付き合いたいとは思わなかった。


 それに、やはり俺は過去のあの出来事のせいで、誰かと付き合おうという気持ちになれない。


 俺の返事に、西条は地面に崩れ落ちてしまった。

 だが、すぐ立ち上がる。

「なら、お互い友達って所から始めましょう!」


 友達……。

 その言葉には心を打たれるが……西条だぞ……?

 桃井をあそこまで追い詰めた奴と友達になるのか……?

 でも、もう気にしないって言っちゃったしな……。


「わかった。それなら、問題ない」

 俺の言葉に、西条は眼をキラキラと輝かせた。


「本当ね!? やっぱり無しとかは駄目よ!?」

「あ、あぁ……」

 俺は西条の勢いに気圧されたように頷いてしまい、西条は凄く嬉しそうに微笑んだ。


 本当、一体何を考えているんだ、こいつは……?

 

 全く西条の事が理解できない。

 というか、理解したくない……。


 だが一つわかるのは……俺が凄くめんどくさい奴に目をつけられたという事だ……。


 結局その後も、昼休みが終わるまで西条は俺を解放してくれないのだった――。


よく、雲母の対応について批判の声を頂くので、ここにだけ書かせていただきます。


どうして海斗がこんな対応をとったのか、この少女がどうなるのか、話は後々まで続きます。


それを見届けて頂けると、作者としては嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み続ける価値があると思います。 [一言] 作者さまを批判する気は毛頭ありませんが、雲母と手下たちは許せないですね。被害者を守る為に公の場で断罪は不可能ではありますが、無罪放免では小説とし…
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