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第222話「友達のため」

「――くっ……!」

「ほらほら! さっきまでの威勢はどうしたの!」


 試合が始まってすぐ、アリアの猛攻が海斗を襲う。

 アリアは両手を地面に着けて蹴りを繰りだしたり、逆に宙に浮いて蹴りを繰りひろげたりと、飛んだり跳ねたり自由奔放に攻撃を繰り出してる。

 そんなアリアに対して海斗は防戦一方だ。

 手を抜いているわけじゃないのはわかる。

 寧ろ外野で見ている私ですら目で追う事が出来ない速度で繰りひろげられているアリアの蹴りを、ギリギリでも防いでる海斗が凄かった。


 だけど、防ぐだけじゃあアリアには勝てない。

 このままではいつか海斗の守りは突破されて負けてしまう。


「アリアはまだ足しか使ってないのに……」


 これでアリアが手でも攻撃をしてきたらいよいよ海斗に勝ち目はない。

 ――私はそう思ったのだけど、隣で同じように観戦していたアリスが首を横に振った。


「アリアは最初から本気でやってる。手は使わないんじゃなく、使えないんだよ。アリアの身長は女の子の平均くらい。だから男にリーチで劣るアリアは足技のみを鍛えてきた」


 確かに単純な腕の長さでは女子であるアリアは男子より短い。

 フットワークなどで変わる事とはいえ、リーチのハンデは勝敗に直結するといっても過言じゃないと思う。

 だからアリアはそのハンデを出来るだけ消すために足技のみを極めた、とアリスは言ってる。


「そ、そうなんだ……。だったらこのまま海斗が防ぎきれたら、激しい動きをしてるアリアのスタミナが切れて勝てるかも……!」


 希望が見えてきた!

 そう期待したのだけど、隣にいるアリスは首を横に振る。


「スタミナ問題なんて、一番最初に克服してるに決まってる。アリアはあの動きを数時間続けられるよ」

「に、人間じゃないじゃない! てか、あんたどっちの味方よ!」


 アリアの肩を持つばかりするアリスに私は思わずツッコンでしまう。

 不知火もアリスがどう答えるのか気になるようで、ソッと視線をアリスへと向けた。


「――そろそろだね」


 だけどアリスは私の質問には答えず、意味深な言葉を呟いた。

 その視線はアリアの猛攻を受け止めている海斗へと向けられている。


 私もアリスと同じように海斗へと視線を向けた。

 すると一つの変化に気が付く。


「あれ……? 海斗、さっきよりも余裕を持ってアリアの足技受け止めてない……?」


 見間違いや勘違いじゃない。

 確かに海斗はアリアの足技に対して反応がよくなってきてる。

 ギリギリで受け止めていた足技に対して段々と余裕を持って防ぐ事が出来るようになっていた。


「あ、ありえません! まだ数分しか経っていないのですよ!? それなのにどうしてこれほど早くアリア様の動きに対応する事が出来るのですか!?」


 私と同じ疑問を持ったらしき不知火が驚きの声をあげる。

 アリアが圧倒的優位に見えていたからこその動揺だろう。


「元々カイは仮想アリアを想定してニコニコ毒舌を相手に戦ってきた。でもアリアとニコニコ毒舌では体格が違うから間合いや速さなどにズレが生じる。だからカイは、アリアとニコニコ毒舌の違いで生じるイメージのズレを修正する事に努めた。頭や体に刻み込まれたイメージを消すのには少し手間取ったようだけど、ニコニコ毒舌のほうが速さもキレも上だから下方修正なら対応は難しくない」


 そう説明してくれるのは、この場で唯一全てを理解していて見通しているアリスだ。

 彼女にとってはこれも想定内――いや、思い描いていた通りらしい。


「で、ですが、いくらなんでも慣れるのが早すぎないでしょうか!?」

「まぁさすが、ママが認めたセンスの持ち主ってところだよね。カイは努力を惜しまない天才だから、並の人間では足元にも及ばないよ」


 今のアリスは何処か誇らしげだ。

 まるで自分が育てた子供を誉められる事が嬉しいみたいに見える。

 だけどその態度が不知火には気に入らなかったらしい。


「どうしてそう楽しそうに言えるのですか! あなたの妹の敵ですよ!」

「別に、アリスはただ事実を言っただけ。それに格闘技のセンスに限ればアリアもカイに劣らないし、積み上げてきたものはカイの数倍になる。それは見ていてわかるよね? 何を君はそんなに焦ってるの?」


 確かに海斗の反応がよくなったとはいえ、まだアリアのほうが押してる。

 海斗は攻めに転じる事が出来ず、ただひたすらにアリアの攻撃を防いでいた。

 傍目からはアリアが勝つ未来以外想像出来ないような展開だ。


 またアリアの肩を持って、いったいどういうつもり――そう思ってしまうが、今回はまた少し話が違う気がした。


 多分アリスが今アリアの事を褒めたのは、主の勝利を信じる事が出来ていない不知火への戒めだったのだろう。

 今後もアリアに付いて回るのであれば、アリアの実力を信じて疑わない存在でなければ困る。

 きっとこれからもアリアの手足になる人間だと信じてるから、間違った方向に進まないよう導きたい。

 そういった思惑がアリスから見てとれた。


 何処までもアリアのためなんだな、そんなふうに思ってしまう。


 アリアは姉がここまで自分のために動いてくれてる事に気付いてるんだろうか?

 ――うぅん、多分気付いてないだろうね。

 なんせアリスが気付かせないようにしてるんだから。


 見た目によらず優しいなぁと思いながら隣にいるアリスを見つめていると、何かに気が付いたようにアリスがスマホを取り出した。

 どうやら誰かから着信があったようだ。


「――えっ? ……そう、わかった。うん、入れていい」


 なんだろう、一瞬アリスが驚いたような表情をした気がする。

 入れていいという事は、予期せぬ来訪者が来たという事かな?

 だけどアリスでさえ予想していなかった来訪者っていったい誰……?


 アリスが入口に視線を向けているため、海斗たちの事は気になるけど私もそちらに視線を移す。

 すると、最初に私と同い年くらいの男の子が入ってき、その後ろに続くように三人の女性が入ってきた。


 海斗たちの邪魔をしないよう音を立てずに入ってきため海斗とアリアは気付いてないけど、観戦をしていた生徒たちは皆彼らに気が付く。

 そしてアリア親衛隊は誰一人として漏れずに驚いた表情をした。

 どうやらアリア親衛隊のメンバーは入ってきた彼らが誰なのかを知っているようね。


 男の子は率直に言うと優男といった感じの整った顔立ちをした美少年で、後に付いてきてる人達は全員美女という言葉が似合う人たちだ。

 一瞬美女三人を引き連れる男の子の事を女の敵と判断しそうになったけど、美女たちのうちの二人に見覚えがある事に気が付いて考えを改めた。

 彼らはまっすぐと私たちを――いや、アリスを目指して歩いてくる。


「――約一ヶ月半ぶりですね、アリスさん」


 美少年は私に微笑んで頭を下げた後、目的の人物であるアリスに声をかける。

 随分と柔らかい態度だと思った。

 そして好感を持てる態度ともいえる。

 いったいその甘いマスクでどれだけの女の子を毒牙にかけたのか気になってしまうところだ。


「まさか君がここに来るとはね……カイの差し金? ここに来るのは容易じゃなかっただろうに」


 態度には見せないが、この人物の登場にアリスが少なからず驚いてるのはわかった。

 顔は今もなお海斗とアリアに向けられているけど、横目で美少年の顔を見つめている。

 多分表情や仕草から考えを読み取ろうとしているんだろう。


「いえ、僕の判断でここに来ました。まぁ、みんなには多少わがままを聞いて――」

「多少?」

「――凄いわがままを聞いて頂きましたが、アリスさんたちに心配をかけるような事にはなっておりませんので気にしないでください」


 美少年が『多少』と言った時に後ろを付いてきていた一人――メイドの格好をしている人が笑顔で首を傾げると、美少年はひきつった笑みを浮かべて『凄い』という言葉に訂正した。

 事情は全く知らないけど、多分結構大事になるような事までをして彼はこの場に姿を見せたんだろう。


「外、生徒たちが大勢いたでしょ?」

「えぇ、しっかりと顔を売ってきましたよ」

「さすが、いい仕事をする。これは借りだね」

「いえ、友達のために勝手にお節介を焼いた、ただそれだけですよ」


 この二人の会話が何を指しているのかは私にはわからない。

 ただ、美少年がアリスにも内緒でこの場に来たのは、自分が勝手にしているだけという事にするためだって事はわかった。

 計算かどうかはわからないけど、傍目からはいい人に見える。


「手間をかけるね」

「好きでやってる事なので。――それにしても、思ったよりも早く決着しそうですね」


 美少年の言葉と視線につられて視線をアリアたちに戻すと、私はまた一つの違和感に気が付く。

 そしてその違和感はアリア親衛隊の次の一言で確信になる。


「アリア様の表情……おかしくありませんか……?」


 ――そう、形勢は変わらずアリアが攻めているにもかかわらず、なぜかアリアの表情は苦痛に歪んでいるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一体何色が名前の人なんですかね(すっとぼけ) (これが間違ってたら悲しすぎる)
[一言] だっ、誰なんだ⁉︎(棒読み)
[一言] 先読みチケットないの?
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