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第211話「投票結果」

「西条雲母の秘密――それは、その子がとっくに西条財閥から見捨てられてる事よ!」


「「「「「――っ!」」」」」


 雲母を指さしながら告げられた言葉に、この場にいるほとんどの生徒が息を呑む。

 そしてその視線はアリアから当事者である雲母へと移る。


「あんた、いきなり何を言ってるのよ!」


 当然、自分を作る一番の価値だった物――西条財閥の後ろ盾が実は嘘だったという事を暴露された雲母は、席を立ってアリアへと怒鳴る。

 そんな雲母をアリアは実に楽しそうな笑顔で見つめていた。


「ふふ、必死になっちゃって。そうよね、今までみんなを騙して使ってただけに、こんな秘密を暴露されちゃああなたは困るわよね」

「何処まで卑怯なのよ!」

「卑怯? 卑怯なのはみんなを騙してたあなたのほうじゃないの?」

「うっ――」


 ここで雲母が言い返せるはずもない。

 雲母が嘘をついてみんなを利用していたのは事実。

 例えここで否定をしても、アリアは確たる証拠を雲母に突き付けるだけだろう。

 そうなればいよいよ雲母の信用は地に落ちる。

 ここは黙り込んで正解だ。


「さて、共犯の海斗君。何か反論はあるかしら?」


 共犯――雲母が見放されている事を知っていて、それを黙り込んでいたからか。

 ずっと傍にいた俺には打ち明けていたと踏んでいるのだろう。

 まぁアリアにとっては俺は同じ業界に住む人間だし、何処かで情報を手に入れていたと考えているのかもしれない。


 しかし、海斗君か……。

 普段はカイと呼ぶくせに、随分と挑発的な行動を取ってくれるものだ。

 そして余程機嫌がいいらしい。


「――おい、どういう事だよ」

「知らねぇよ。俺だって聞きたいわ」


 アリアと見つめ合っていると、背中側――廊下にいる生徒から戸惑いの声が聞こえてくる。

 中にはこの段階で雲母の悪口を言う生徒もいた。

 おそらく過去に雲母の手によって苦汁を飲まされた奴らなのだろう。

 大手財閥が怖くて今まで黙り込んでいたが、その後ろ盾が嘘だったと知ってつい口走ってしまったというところか。

 たったこれだけでアリアの言葉を鵜呑みにして発言するなんて、それだけでたかが知れている。

 今の発言、後悔しなければいいが。


「ねぇ(かい)君、あの子嫌い。だって雲母をいじめてるもん」


 廊下にいる生徒たちの声に耳を傾けていると、いつの間にか咲姫が俺のすぐ後ろまで来ていた。

 この子にとって雲母はもう友達だし、その友達を陥れようとするアリアが嫌なのだろう。

 当初雲母の事を嫌っていたのに随分とした変化だ。

 普通なら自分を陥れた相手となど仲良く出来ないのに、これも雲母が自分の罪から逃げずに向き合った結果と言える。

 それに、雲母や咲姫の人間性があるからこそだろう。


「どう、海斗君? あなたも雲母になんか付かずに私に付きなさいよ」


 咲姫の発言はアリアにも聞こえてるだろうに、どうやら無視する事にしたようだ。

 アリアにとって咲姫は相性が悪い相手のようだし、取り乱して自身の評価が下がる展開を避けたように見える。

 このまま咲姫を仕掛けさせるのも面白そうだが、咲姫の行動は俺にも読めないところがあるし、下手な発言で咲姫の評価が下がるのも困る。

 だから当初の予定通り進めたほうがいいだろう。


「誰があなたなんかに――」

「咲姫、ちょっと静かにして。俺がアリアと話すから」


 アリアへと噛みつこうとする咲姫を手で制し、俺はアリアを見据える。

 咲姫は素直に言う事を聞いてくれて大人しくなった。


「馬鹿を言うなよ。お前が本当に潰したい相手は俺だろ?」


 こいつが今俺を誘ったのは、雲母ではなく俺に付く生徒がいる可能性を考慮した立ち回り。

 もしくは、俺の仕返しを恐れる生徒を味方につけるためのやり方だ。

 俺がアリアにつけばそういった生徒たちも一緒に自分の味方へとつける事が出来る。


 ただ、当然俺が引き受けない事もアリアは理解している。

 こいつが俺から引き出したいのはアリア側につくという言葉ではなく、この言葉だ。


「それに俺を味方に付けたいのなら、この勝負に勝てばいい」


 ――にやっ。


 望んでいる言葉を言った瞬間、アリアの口元が少し歪んだ。

 これでこいつは勝ちを完全に確信した。

 俺が負けた時、アリアの言う事を聞かなくてはいけなくなる。

 雲母に付いていく必要がなくなり、アリアに寝返る生徒が多いであろうこの状況ではアリアの勝ちは濃厚だ。

 そしてアリアが勝てば俺に手出しをされない保証も今再認識した。


 つまり、何も憂いなくアリア側に付く事が出来るのだ。

 このままだと誰がどう見ても俺たちの負けは目に見えている。

 さて、一つ抵抗をしておこう。


「ところでアリア、俺は他人を陥れる行為を禁じていたはずだ。現在お前は雲母を陥れたわけだが、勝負を始める前にお前の負けが決まった事になるぞ?」

「ふふ、何を言ってるの? 私は事実を言っただけで陥れてはいないわよ? もし事実を言われて雲母が何か困るのなら、それは彼女に対する罰であって陥れてるわけじゃない」

「屁理屈もいいところだな」

「ならみんなに聞いてみる? ねぇ、今の行為が陥れだと思う人は手を挙げてよ。あっ、もちろん廊下にいる人たちでも構わないわよ」


 教室内にいる生徒は全員顔を背ける。

 廊下にいた生徒たちもほとんどが顔を背けていた。


 唯一手を挙げたのは五人。

 咲姫、桜ちゃん、それに春花や白兎、そして朝比奈さんだ。

 白兎に関しては捕まっていたカミラちゃんが青柳先生の手を振り解き、慌てて手を下げさせようとする。

 次にアリアの矛先が向くのが、ここで手を挙げた生徒たちだと理解しているからだ。

 今アリアは自分にまだ歯向かおうとする生徒を見極めるために廊下の生徒達も巻き込んだ。

 咲姫や桜ちゃんは手を挙げると思っていたが、まさか春花や白兎までもが手を――いや、あいつらは挙げるか。

 春花は他人が陥れられる事を見逃せるような子じゃないし、白兎も友達を見捨てるような奴じゃない。


 そして肝心の朝比奈さんもちゃんと手を挙げてくれていた。


 雲母は朝比奈さんが手を挙げてくれた事が嬉しかったのだろう。

 驚いた表情をしつつも、嬉しそうに朝比奈さんを見つめている。

 過去と似たような状況でも今度は味方をしてくれた。

 元々誤解だと理解していたのだから、それだけで彼女たちのわだかまりは取り払う事が出来る。


 やはり朝比奈さんを信じて行動に移してよかった。


「ふぅん、やっぱあなたはそちら側に寝返ってたか」


 アリアの鋭い目が朝比奈さんを捉える。

 自身と一緒に行動していない時点で朝比奈さんの事は信じてなかったのだろう。

 アリア親衛隊のほとんども朝比奈さんに厳しい視線を向けていた。

 雲母は朝比奈さんの傍に行こうとするが、それをアリアに気付かれないようアリスさんが止める。

 まるで、余計な事をするな、とでも言うかのように。


 朝比奈さんはアリアやアリア親衛隊の厳しい視線を凛とした表情で受け止めている。

 他の生徒たちからはいったい何が起きているのかはわからないだろう。

 事情を知らない生徒たちからすれば内部反乱にしか見えない。

 その中で、最近朝比奈さんと仲良くしている春花や、彼女たちに頻繁に声を掛けられている咲姫が動き出そうとしている。

 このままでは春花はともかく咲姫がアリアに喧嘩を売ってしまうため、そろそろ次の段階に入ったほうがいいだろう。


「アリア、他に気を散らせるなんて随分と余裕があるな」

「ふふ、もう勝負は決まったようなものでしょ? 今ここで私の言葉に手を挙げるクラスメイトはいなかった。つまりそれが答えになる」


 アリアに反発しなかった時点で、もうクラスメイトたちは俺たちではなくアリア側についている。

 そう言いたいのだ。


「ほら、無駄だと思うけど投票を開始しなさい。最後に斬首してあげるわ」

「…………」


 俺は黙って紙を配り始める。

 机の上に紙を置いていってるのだが、誰一人として俺と目を合わそうとはしない。

 全員に配り終えると、そのまま記入してもらう。

 そして一人ずつ投票箱に入れていく。


 開票は、俺がするのではなくアリア陣営の不知火さんに任せる。

 その事を言った時にほとんどの生徒が驚いたが、この場において彼女ほど適任者はいないだろう。

 アリア側が不正を疑わない人材で、なおかつ不正を嫌う子なため俺にとっても不利益にならない。

 少ししか関わりを持っていないが、アリスさんに相談したところでも同じ回答だった。

 つまりアリスさんの目から見ても不知火さんなら公平な立ち回りをするという事だ。


 一枚目を取り出した不知火さんは中身を見て、一瞬俺へと視線をよこす。

 しかし何も言葉を発する事はせず、次々と投票の結果を紙に記入していく。

 開票が進むにつれ、その手は次第と震え始めた。


 アリアは不知火さんの違和感に気付いたのだろう。

 驚いたように俺のほうへと視線を向けてきた。

 俺はそんな彼女に気付ないふりをし、やがて終わる不知火さんの言葉を待つ。


 そして、開票の時間がくる。

 結果を発表する不知火さんは深呼吸をした。


「――アリア様を認める票は……0票です……」


 声が震える不知火さんの言葉を聞き、廊下はざわめきを立てるのだった。


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