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第202話「本当に敵に回しては駄目な人」

ネコクロ新作ハイファンタジー『うちの使い魔は最強でかわいいんだけど、全く言う事を聞いてくれないためどうにかしてほしい』を公開しました!

後書きの下ら辺にあるタイトル名をクリックすればページに飛ぶことができますので、是非とも読んで頂けると嬉しいです!

「まさか……ホームルーム中に膝枕とはね……。カイも……やるようになったね……」


 トレーニングルームで休憩している中、俺の顔を見下ろしているアリスさんがからかってきた。

 どうして見下ろされているかについては、現在彼女が俺に膝枕をしてくれているからだ。

 テストも終わって雲母たちに勉強を教える必要がなくなったからか、俺がトレーニングしている間アリスさんはずっと傍にいるようになった。

 そして休憩時間のたびに膝枕をしてくれるのだが――最近、マリアさんの視線が痛くなってきたんだよな……。


『お前たち、それで本当に付き合っていないのか?』


 ――という視線でずっと見つめてくるのだ。

 とはいえ俺がアリスさんの言葉に逆らえるはずもなく、この膝枕行為はずっと行われている。

 肌に触れる感触はとても心地がいいのに、マリアさんの視線のせいでなんだか居心地が悪かった。

 アリスさんはマリアさんの視線など気にしていないようで、楽しそうに俺の頭を撫でている。

 この人の自由さは本当に凄いと思う。


「雲母が望んだ事ですからね……」

「君は……望まれれば……誰にでも膝枕を……するの……?」

「いえ、そういうわけではないですが……」

「つまり……金髪ギャルは……カイにとって……膝枕をしてもいい存在……という事だね……」


 確かにアリスさんの言う通りなのだが、直接言われると照れてしまう。

 少し前の俺なら絶対に女の子に膝枕などしなかったはずだ。

 この変化は受け入れていいものなのだろうか?


 ……段々、チャラ男みたいな感じになってしまっている気もするのだが……?


「もちろん……いい変化に……決まってる……。内気より……社交的のほうが……いいものだよ……」


 相変わらず俺の心を読んでいるようで、アリスさんはすぐに俺を肯定してくれた。

 この人のこういう部分が一緒にいて落ち着く理由なのだろう。

 欲しい時に欲しい言葉をくれる。

 そんな女の子など滅多にいないはずだ。


「それに……」

「それに?」


 アリスさんの言葉に温かみを感じていると、少しだけアリスさんの声色が変わったため彼女の言葉を待たずに聞いてしまった。

 するとアリスさんは、お互いの息がかかるくらいの距離に顔を近寄らせてきて、ニコッと微笑む。


「女の子の心を弄ぶような人間になっていたら、アリスがおしおきをしているから」


 笑顔で放たれた言葉。

 しかし口調が流暢なものだったため、これが冗談ではなく本気で言われたものだとすぐに理解する。

 少しだけ、背筋が冷たくなる思いがした。


「は、はい……」

「大丈夫……。カイがそんな事をしない事は……わかってるから……。まぁでも……間違った方向に進む時は……すぐにアリスが……修正をするから……安心して……」


 本当にこの人は優しい人だ。

 こんな俺の事を見捨てずに、ずっと気にかけてくれている。

 ずっと一緒にいてほしいと思うのは俺の甘えかもしれないが、それでもずっと一緒にいてほしいと思った。


 だけど――この人とも、社会に出れば別々になるんだよな……。

 それどころか、敵同士だ。

 この人を相手取るなど二つの意味で気が重くなった。


 自分の頭を駆使しても敵いそうではない相手で、そして尊敬しているからこそ争いたくない相手だからだ。


「君は……本当にいろんな事を考えるね……。よく考えている事は……カイのいいとこでもあるけど……ずっとそんなんだと……身が持たないよ……? 大丈夫……アリスはいつまでも……君の味方だよ……」


 優しく言い聞かせるようにアリスさんは言ってきてくれる。

 どうしてそこまで俺の考えを読めるのかは不思議でしかないのだが、やはりこの人の言葉はすんなりと胸に入ってきた。

 本当はそんな事は無理だとわかっていても、こんなふうに言われれば安心する事が出来た。


 しかし――。


「むぅ……アリスの言葉を……信じてない……」


 彼女の言葉を疑った事まで一瞬でバレてしまった。

 そのせいでアリスさんは、不満そうにジト目で俺の顔を覗きこんでくる。

 てっきり俺を安心させるためだけに使われた言葉だと思ったのに、どうやら彼女は本当に社会に出ても俺の味方になるつもりでいるようだ。

 それはつまり平等院財閥を――アリアを裏切るという事なのだが、本当にこの人はそんな事をするのだろうか?


 今回アリスさんがアリアを裏切っているのは、アリアの考え方を正すため――つまり、将来を見据えてアリアのために動いている。

 だけど社会に出ての裏切りはアリアを不幸にするだけだ。

 この人がそんな事をするとは思えないのだが……。


「もしかしなくても……忘れているようだね……。前に教えたはず……。アリスと……カイと……クロがいれば……三大財閥を……コントロールする事が……出来る……。それはつまり……三大財閥で……手を組み合う事も……可能……。だから……争う事はないし……君の味方になれる……」


 そういえば初めて雲母とアリアが戦った時、決着がついた後にアリスさんから『三大財閥のコントロール』については聞かされていた。

 みんなの幸せを願うからこそ、三大財閥をコントロールする必要がある。

 そしてそれは、俺と龍――クロの存在があれば叶うと彼女は言っていた。

 まさかそのコントロールという言葉に、手を組み合うという言葉が隠されていたとは思いもよらなかったな。


 もしかして――。


「俺が雲母を西条財閥に戻すために、西条財閥に入ろうとする事まであの時にはわかっていたのですか……? それに龍と合わせたのも、俺と龍が手を取り合う仲にするため?」

「わかっていたというより……そうなるように……少し手を入れた……かな……? 金髪ギャルの状況を知って……彼女と親しくなれば……君なら迷いなく……その手段を選ぶと……思っていたから……。アリスとしては……そのほうが都合がよかったのも‥…ある……。前に言ったように……三大財閥の均衡を……維持するには……カイが……西条財閥側につく事が……必要不可欠な事……だったから……。だけどそれだけでは……アリスとカイは……敵同士……。だから……クロも巻き込んで……三大財閥が……敵対しないで済む状況を……作ろうと思った……。三つ巴なら……片方が裏切るという事が……出来ないからね……。裏切れば……他二つから……潰される事になるから……。でもね……カイとクロを会わせたのは……あの時のカイには必要だと……思ったからだよ……。…………怒ってる……?」


 俺の質問に答えてくれたアリスさんは、最後に少しだけ不安を覗かせた。

 必要な事だったとはいえ、人を操るように手を回していた事を俺が怒る可能性があると思っているようだ。


「怒りはしませんが……ただ、驚いてはいます。でもそれ以上に感謝をしていますよ。あなたがそこまで手を回したのは俺のためだったんですし、何より龍と友達になれたのは大きかったです。だから感謝はすれど、怒ったりなどしませんよ」


 例え手の平の上で転がされていようと、自分のためを思ってしてくれた事に怒れるはずがない。

 そして龍がいたからこそ俺は前向きになれたんだ。

 本当にアリスさんには感謝をしているだけで、怒るつもりは毛頭なかった。


「……少し……安心した……」


 アリスさんは小さくそう呟くと、また俺の頭を撫で始めた。

 おかげでまた和やかな雰囲気が流れ始める。

 マリアさんの視線は相変わらずだが、それもアリスさんの手に意識を集中させていれば気にならなくなった。


「――そういえば、アリアの様子はどうでした?」


 数分後、雲母との事があったためアリアの様子を確認出来なかった俺は、その場にいたであろうアリスさんに聞いてみた。


「物凄く……機嫌が悪かったね……。わざわざ……金髪ギャルの勝負を……賭けなしで引き受けて……勝ったのに……思い通りにいかなかった……からだろうね……」


 やはりアリアの機嫌は悪くなっていたか。

 これこそが、俺が求めていた事だ。


 おそらくアリアは雲母に勝つ事で、クラスメイトたちに自分の凄さを思い知らせる予定だったんだ。

 あいつの事だから雲母の成績は事前に調べていただろうが、元々勉強が出来ていた事は知っているし、わざわざ勝負を挑んできたという事は、雲母は勝つ見込みがあって挑んできていると捉えたはずだ。

 そんな雲母をテスト勝負で負かせば、クラス内でのアリアの株は一気にあがる予定だった。

 なんせクラスにもっとも影響力がある人間を、自ら挑んできた勝負で直接叩き潰す事が出来るのだから。


 クラスメイトたちだって馬鹿ではない。

 雲母が何か勝算があってアリアに挑んで、それで勝つ事が出来なかった。

 全員そう捉えるからこそ、アリアは自分の株が上がると思っていたのだ。


 しかし結果は、アリアに僅差で負けた雲母の株が更に上がっただけ。

 理由はおそらく、ほぼ最下位だったのにもかかわらずトップ争いが出来るほどの成長を見せたからだろう。

 ただ……それだけではない。

 あのクラスで、雲母に一定以上の人気があったからだ。


 これがアリアに誤算を生ませた。

 多分アリアは、実力や脅しであのクラスを雲母が制していると思っていたはずだ。

 なんせ一年以上一緒のクラスだった俺でさえ、そう思っていたのだからな。

 転向する前に外部から調べていたアリアならより勘違いしたものだろう。


 だが実際は、人柄による人気があった上での脅しによる制圧だった。

 脅しだけならより強いほうにクラスメイトたちも流れただろう。


 だけどそこに、雲母の元からの人気が加わってしまえば流れない人間が出てくる。

 何より、色々な事を経験して変わった雲母は、もうクラスメイトたちを脅しでなど制していなかった。

 ただの人気だけで、彼女はクラスメイトたちを従えているのだ。


 ――いや、もう雲母にはクラスメイトたちを従えているという考えもなくなっているだろう。

 アリアはそこを読み切れなかった。

 だから勝ったのにもかかわらず雲母から人気を奪えなかったのだ。


 しかしその事実にアリアが気付く事はないだろう。

 人は損得だけで動くという考え方を持つあいつでは、人柄を好いて味方に付くという事なんて思いもよらないはずだからな。

 多分自分に付き添ってくれている子たちも、自分に価値があるからこそついて来ていると思っているのだろう。

 本当はアリアという人柄に憧れてついてきてくれているのに、それをあいつは気付けていない。


 ……まぁそれに関しては今はいいか。

 それよりも、俺たちの勝負の事が優先だ。


 今回思い通りにいかずにストレスを溜めたアリアに、更にストレスを溜めさせればあいつは絶対にあの(・・)手段を選んでしまうはずだ。

 あいつの動きは読めなくてもそれだけは確信していた。

 だから俺は、あえてあいつにストレスを掛けたかったのだ。

 あの(・・)手段を使ったが最後、あいつは完全にクラスメイトたちに見限られるからな。


「それにしても、よくアリアが賭けなしで勝負を引き受けましたね? いくらあいつにメリットがあったとはいえ、そこからまた何かとろうとするのがあいつのやり方だと思いますが……」


 自分の予想通りに事が運んでくれている事に安心した俺は、一つだけ気になっていた事をアリスさんに聞く。

 この答えはいくら考えてもわからなかったのだ。


「それはね……クラスメイトたちに……自分の器の大きさを……見せつけるためだよ……。急な申し出にもかかわらず……何も賭けがない勝負を……引き受ける……。普通ならなんともない事でも……アリアを敵視していた生徒たちからは……それがギャップに映る……。アリアは意外と……話が分かる奴なんだって……。だからアリスは……金髪ギャルに……リスクを背負わせないために……クラスメイトたちの前で……勝負を挑ませた……」


 やはりこの人は絶対に敵に回してはならない。

 俺やアリアなんかよりも更にいろんな事を見越している。

 そしてそれは、俺たちがどう考えてどう動くかまでも想定されているため、この人の裏をかく事は不可能だと思ったほうがいい。


 ――俺はこの世で最も恐ろしい相手はアリスさんだと、この時再認識をするのだった。


いつも読んで頂きありがとうございます(*´▽`*)


もうすぐ『ボチオタ』2巻が発売されますので、是非ともお手にって頂けると幸いです(*^^*)

ただ、発売されてからでは書店さんで手に入らない可能性が十分に考えられますので、今のうちにご予約をして頂けると幸いです(>_<)

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