第200話「一つの答え」
咲姫、雲母のコンビを相手取るのは圧倒的に俺の分が悪く、大分怒られてしまった。
別にやましい事などしていないのに、この二人はアリスさんを目の敵にしすぎている気がする。
特に咲姫が酷かった。
最近俺がアリスさんの家に入り浸っている事を知っていて、理由を話していない事が気に入らないらしく、その事について責められてしまったのだ。
やっている事が荒っぽいため心配を掛けたくなくて教えていないのだが、黙り込んでいる事で逆に心配しているのかもしれない。
挙句、アリスさんの『膝枕』という捨て台詞で完全にやらしい事をしていると思い込んでいるため、咲姫はかなり拗ねていた。
まぁ要は嫉妬してくれているわけなのだが、久しぶりに冷酷咲姫を見た気がする。
雲母に関しては――まだ、俺の隣で納得がいっていない顔をしていた。
咲姫も納得はしていなかったが、生徒会があるから教室に戻させたのだ。
今日も訓練があるから帰るのは遅くなるが、その後咲姫の事はなだめるしかないだろう。
多分、エロゲーを一緒にやってあげれば機嫌は直ると思う。
咲姫は見た目の割に、甘やかしたらすぐ機嫌が直る子だからな。
それよりも雲母だ。
今回頑張ってくれたわけだし、お礼を言っておきたい。
しかしこのままふてられていれば、お礼を言えるはずもなかった。
「まだ怒っているのか?」
ムスッとしているから怒っている事には変わりないのだが、一応聞いてみる。
すると、雲母がチラッと俺の顔を見上げてきた。
「どうした?」
「……別に」
「何を怒っているんだよ?」
「怒ってないよ」
「じゃあその頬は何?」
「別に、空気を入れてるだけ」
空気を入れてる――つまり、頬を膨らませているわけだが、怒っているから膨らませている以外に何があるのだろうか。
「何が気に入らないのか言えよ。今更隠し事をする仲でもないだろ」
咲姫ほどではないが、雲母も遠慮なしに怒りをぶつけてくるタイプだ。
今までその姿を見せてきたくせに、何を今更取り繕うとしているのか。
「…………海斗ってさ……よく、咲姫の頭を撫でてるんだってね?」
「――っ!?」
不機嫌そうに切り出されたのは、予想だにしない言葉だった。
「それに、桜の頭もよく撫でてるし、アリスには膝枕ばかりされてるんだって?」
「あっ、いや、それは……」
否定は出来ない。
やましい気持ちなどないが、している事は事実だ。
「私、何もしてもらえてないのに……。私だけ、蚊帳の外って感じがした」
「拗ねてるのか……?」
「…………」
コクン――。
小さくではあるが、黙って雲母は頷いた。
多分咲姫が全て教えてしまったのだろう。
それを聞いて、自分だけ何もしてもらえないのがショックだったようだ。
雲母がその気持ちを抱えるのはわかる。
自分で言うのもなんだが、彼女が俺の事を好いてくれているのは知っているからだ。
とはいえ、ここまであからさまな態度を取るとは思わなかった。
こんな態度を取るのは咲姫くらいだと思っていたのに。
「……そういえば、今回頑張ってくれたんだってな。ありがとう、おかげで凄く楽になったよ」
「えっ……?」
俺が急に話を変えたため、雲母は戸惑った表情をする。
しかし、『私の話は流されたんだ』って感じで、ふてくされたように頷いた。
――アリスさんには確認を取らなかった事で一つ、雲母が二位になった事で得た大きな効果がある。
いや、正確には雲母が二位になり、アリアの目論見を破ったからこその大きな効果があった。
確認を取らなかったのは憶測の域を出なかったからだが、おそらくアリスさんはそれも狙ってやっている。
その効果は、クラスに戻ればすぐに確認出来るだろう。
今一つ言える事は、雲母が頑張ってくれたおかげで俺がしたかった事が着実に進んでいるという事だ。
そのためのお礼はしなければいけない。
「お礼として、一つだけ雲母が望む事を聞くよ。あぁもちろん、デートに行きたいっていう前のお願いは覚えているから、それ以外で大丈夫だよ」
俺が言った言葉が予想外だったのか、雲母がパチパチと目を瞬かせてこちらを見てくる。
そして言われた事を理解すると、黙って考え始めた。
彼女がどんな事をお願いしてくるかはなんとなく想像がついている。
咲姫の事を好きだと自覚した以上、下手に期待を持たせる事は雲母と咲姫、両方に対して失礼な事なのだろう。
でも……このお願いを最後に、もう雲母のこういったお願いは聞かない。
そして、デートの日に……俺の咲姫に対する気持ちを雲母には伝える。
彼女にとっては最悪なデートになるだろう。
それで、俺の事を嫌いになってくれればいい。
雲母の会社に入る約束はあるが、雲母と一緒に働かない環境にしてほしいと西条社長に頼めば問題ないはずだ。
そもそも、いずれ社長になる雲母と作業員の俺では一緒に働く事はないと思うしな。
もちろん、嫌われたとしても雲母のために尽力する事は変わらない。
ただ……ここで雲母に咲姫の事が好きだと伝えるとはいっても、咲姫と向き合うと決めたわけではない。
いくら香苗さんに言われたとはいっても、そう簡単には割り切れないのだ。
だからとりあえず、これ以上俺の優柔不断に巻き込みたくなくて、雲母には想いを伝えるだけだ。
彼女なら、俺よりもいい男なんて山のようにいる。
当然大金持ちから引っ切りなしにお見合いの話がくるだろう。
このまま俺が迷っていれば、その間雲母はそのお見合いすらも断りかねない。
例え雲母に恨まれる事になろうとも、彼女が幸せになるチャンスを俺が奪うわけにはいかないんだ。
「――だったら……膝枕、してほしい……」
「…………わかった」
求められても頭を撫でてほしいくらいかと思っていたら、膝枕をお願いされてしまった。
しかしここで断る事も出来ないため、俺たち二人は他の生徒がこない二人だけの場所へと身を移すのだった。
今回で200話になりました!
ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございます(*´▽`*)
『ボチオタ』を連載し始めて一年以上たちますのに、本当に感謝感激です!
もうこの話を書き始めた頃が懐かしく感じ、少し切なくもなってきます(笑)
これからも最後まで、『ボチオタ』をよろしくお願い致します(^^)
また、二巻のほうは4月1日頃に発売して頂けるため、もう一ヵ月を切りました。
しかし、発売されてからでは書店さんで入手しづらくなっていると思いますので、ご予約して頂けると幸いです(>_<)
一巻の時は書店さんを渡り歩いて探して頂けたりして、本当に嬉しかったです!
最後になりますが、これからも『ボチオタ』ともどもよろしくお願いいたします(#^^#)